| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十六話 別れ2

倒れたアクセルにエックス達が駆け寄ったのは、それから間もなくであったが、命の灯火がもうじき尽きようとしているアクセルにとっては随分長い時間だと感じられた。

エックス「アクセル…」

呼び掛ける声の優しさに、アクセルは涙が出そうになる。
身体は言うことを利かなかった。
全身の力が抜けてしまっている。
丁度寝起きの怠さに似ているが、現実は正反対であった。
これは眠りにつく倦怠感。
眠りとはすなわち、“死”を意味している。
もう1人の自分は、まだ存在している。

アクセル「は、は……まだまだだね、エックス…」

口をつく言葉が皮肉にしかならない。
本来の自分は自分より遥かに残酷で皮肉屋であった。
彼の影響がまだアクセルに残っていた。

アクセル「あんたなんか、殺す価値もないよ…こんな…イレギュラーに、躊躇っちゃってさ…」

ルイン「……アクセル、喋らないで」

ルインが悲しみを湛えた声で言う。
アクセルは微笑む。
最期の最期なのに、名前を呼ばれて嬉しかった。
彼を呼ぶ者はもう1人いた。
彼を撃ち抜いたルナである。

ルナ「アクセル…ごめん…ごめんなさい…」

アクセル「ルナ…」

謝り続ける彼女にアクセルは、穏やかな眼差しで見つめる。

アクセル「やっと思い出した…。あの時、皆を忘れて…あんなに傷つけた。あんなに酷いことをした…ごめんね…皆、ごめん…」

アクセルの謝罪に首を振る、ルナに、アクセルは遠い目をする。
星がとても綺麗で冴え冴えとしていた。
氷のように冷たかった。
自分の身体が氷のように冷たくなっていくのを感じる。
目が霞み出す。
アイセンサーにノイズが生じて、砂嵐を広げていく。
遠ざかっていく目の前に、震えながら手を伸ばした。
手は、ルナの前に差し出された。
アクセルは笑いながら最期の言葉を紡ぐ。
もし再び目覚めることがあったら、その時はルナの名前を呼ぶ。
覚えている。
忘れたりなんかしない。
絶対に覚えている。
そう誓って。

アクセル「今度は忘れないよ…きっと……」

アクセルの手が、ぱたりと落ちた。

ルナ「アクセル!!」

ルイン「嘘…」

ゼロ「…………」

エックス「くそ…っ!!」

エックスが拳を地面に叩きつけた。
仲間を救えなかった己の無力さに腹が立った。
その時、エックス達の聴覚器に何故か酷く懐かしく感じられる声が届いた。

アイリス『エックス!!ルイン!!ゼロ!!ルナ!!状況は…アクセルは…?』

通信機越しに尋ねてくるアイリスに、ゼロは少しの間を置いて静かに答えた。

ゼロ「こちらゼロ…………アクセルは………俺達が処分した。」

アイリス『っ…そう』

一瞬息が詰まったような音がした後、アイリスは悲しみを堪えたように声を絞り出した。

アイリス『お疲れ様…皆』

ゼロ「アイリス、俺を含めた全員が負傷している。特にルインのダメージが酷い。ゲイトを含めたライフセーバーの手配をしていてくれ……」

淡々とアイリスに指示を出していくゼロだが、付き合いの長い自分達には分かる。
ゼロもまたアクセルを救うことが出来なかったことの自身の無力さに打ちひしがれていた。
無表情の中に押し込められた悲しみがシンクロシステムを使わずとも自分達に伝わってくるのが分かった。

アイリス『ええ、分かったわ。地上に着いたら直ぐに転送するから。地上に着いたら通信を入れて』

ハンターベースへ帰還するには、地上のある最下層まで降りなくてはならない。
地上に着いたら直ちに通信を入れるように伝えたアイリスは、転送の準備をして待っていると通信を切った。
アクセルを抱えて立ち上がったエックスとその隣のゼロ達は、どちらからともなく歩き出し、地上に戻る。








































エレベーターが、果てなくそびえる建造物を下っていく。
腕を組み壁に背を預けて立つゼロは、微かに漏れる機械音を聞いていた。

ゼロ「(紅の破壊神だの武神だの言われていても、俺には仲間を救う力すらない)」

アクセルと出会ってからの思い出が走馬灯のように過ぎていく。
“本当の自分”。
かつてゼロも自分が本来の自分に飲まれそうになったことがあり、最後のアクセルの恐怖が痛い程に分かった。
同時にそんなアクセルを救えなかった自分に腹が立つ。

ゼロ「(肝心な時に俺は無力だ)」

カーネルの時もそうだった。
あの時、自分が何かしら行動していたらカーネルは死なずに済んだかもしれないのに。

ルイン「(アクセル…)」

エックスの隣で、エックスに抱えられたアクセルを見つめる。
アクセルの死顔はとても穏やかでまるで眠っているように見えた。
しかしアクセルが目を覚ますことは…。

ルイン「…っ」

そこまで考えてルインは思わず唇を噛み締めた。
諦めては駄目だ。
昔、大破した自分とゼロだって助かったのだ。
アクセルもきっと助かる。
助かって欲しいと、ルインは心の底から祈った。

エックス「(また俺は仲間を守れなかった。)」

エックスも抱えていたアクセルに視線を遣り、悲しげな表情をする。
脳裏に最初のシグマの反乱の戦いで、大破したルインとゼロの姿が過ぎった。
いくら英雄だの何だの言われているが、大切な仲間を守ることも救うことも出来ない。
エックスはチラリと、ルナの方を見遣ると、隅の方で膝を抱えながら座っていた。
翡翠色の瞳から大粒の涙を流しながら息を殺しながら泣いていた。
普段の勇ましい彼女からは想像出来ないくらい痛々しい姿にエックス達は視線を逸らした。

ルイン「(お願い、アクセルを助けて…)」

ルインは祈るように瞳を閉じながら胸中で呟いた。























遠い世界。
白い光に埋め尽くされた世界にアクセルは佇んでいた。
彼は待っていた。
自分が慕ってやまない人を。
自分を拾い、育ててくれた…最初に名前を呼んでくれた人を。
人影がようやくアクセルを迎えにきた。

アクセル『レッド!!』

会いたいと願っていた願いは、最期に報われた。
レッドは笑いながらアクセルに手を伸ばし、アクセルはその手をしっかりと握り締めた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧