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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十一話 生粋のトラキチその三

 阪神グッズに全身を包んでいる留美さんがその虎のメガホンを右手に持って大きく振りながらそのうえでこう言った。
「今日も勝つのだ。しかし」
「しかし?どうしたの?」
「小林殿、いや小夜子さんの姿が見えないが」
「あっ、あの人は広島生まれだから」
 僕は留美さんに小夜子さんのことをこのことから話した。
「だからね」
「そうか、今日は広島戦だったな」
「うん、だからね」
「三塁側にいるのか」
 つまり広島側の席にだ。
「そうなのか」
「うん、あそこにね」
 丁渡三塁側に赤い着物の人が見えたので指し示した、その赤いカープの色で僕もすぐにわかった。それで。
 その般若の面を見てだ、顔に被っているそれを見て。
 僕は引きながらだ、留美さんに言った。
「ええと、あの仮面の人がね」
「般若の面か」
「うん、あの人恥ずかしい時はね」
「いつも能面を被るのか」
「能面ばかりじゃないけれどね」
「ううむ、異様だ」
 留美さんは唸る様にして言った。
「球場の中に般若がいるとな」
「異様っていうかね」
 美沙さんも腕を組みながら引いた顔になっている、そのうえでの言葉だ。
「変よね」
「意味はあまり変わらないと思うが」
「そうかもね。けれどね」
「うむ、かなり目立つな」
「周りも引いてるしね」
 さしもの阪神ファンも広島ファンもだ、その熱狂性と小さなことにこだわらないことでは定評のあるどちらのファンもだ。
 誰もがドン引きしている、それでだ。
 小夜子さんから距離を引いている、それで僕は言った。
「凄い光景だね」
「誰も声かけようしてないわよ」
 ダエさんも額から汗を流して引いた顔になっている、そのうえでの言葉だ。
「ダエから見ても凄いから」
「ううん、こっちに呼ばない?」
 詩織さんが僕に提案してきた。
「ここはね」
「一塁側に?」
「そう、私達のところにね」
 今ここにというのだ。
「呼ばない?」
「広島ファンだけれど、小夜子さん」
「阪神ファンって巨人ファン以外には優しいわよね」
「かなりね」 
 このことは本当のことだ、阪神ファンは巨人とそのファンに対してはまさに鬼の如き顔になる。けれど他のチームのファン達にはだ。
「優しいよ」
「そうよね、だったらね」
「広島ファンでも大丈夫かな」
「そうでしょ、巨人ファンなら只じゃ済まないけれど」
 何でも東京ドームですら阪神側、あちらの球場では三塁側で巨人を応援することもかなり勇気がいることらしい。まさに命懸けなレベルで。
 けれどな、それでもだ。
「広島ならね」
「優しいわよね」
「本当に巨人以外にはね」
 優しいのが阪神ファンだ、例えノーヒットノーランで負けようが目の前で日本一の胴上げを甲子園で見せられようが。
 巨人以外は他球団には怒らない、僕もそう言われて答えた。
「そうだね、それじゃあね」
「小夜子さん呼びましょう」
「その方がいいね」
 僕も頷いてだ、そのうえで。
 小夜子さんに連絡を入れて一塁側まで来てもらった、携帯は本当に便利だ。
 ただ、一塁側に来た小夜子さんはまだ仮面を被っていた。そうして。
 僕達のところに来た時だ、モーゼの十戒が起こった。その小夜子さんが僕達のところに来たところで何とかだ。
 僕は小夜子さんにだ、こう声をかけることが出来た。 
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