| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十一話 生粋のトラキチその二

「そうあるな」
「うむ、残念だがな」
「やっぱりそうあるか」
「しかもここぞという時に敗れる」
 それもまた阪神だ、とにかくこのチームに絶対はない。絶対に大丈夫だ優勝出来ると思っていたら後半まさかの大失速なんて常だ。
「涙を飲むことも常だ」
「何かややこしいチームあるな」
「しかしだからこそ魅力があるのだ」
 留美さんもまた阪神のことを話す、それも熱い声で。
「勝つだけではないのだからな」
「そういうことあるな」
「それは観ればわかる」
 阪神を実際に、というのだ。
「このチームは他のチームとは違うのだ」
「そのことはこれから観せてもらうけれどネ」
 ジューンさんはこんなことを言った。
「七回になるとあれだよネ」
「風船よね」
 詩織さんがジューンさんにこう返す。
「それ飛ばすのよね。ジューン持って来たのね」
「風船!?」
 だが、だった。ジューンさんは詩織さんの笑顔での言葉にきょとんとした顔になってこう返した。
「何だイ、それっテ」
「だから阪神はね、七回になったらファン皆で風船飛ばすのよ」
「歌わないノ?」
「六甲おろしならいつも歌うわよ」
「いや、そうじゃなくてネ」
「?何なの?」
「私を野球に連れてって」
 日本語でだ、ジューンさんは言って来た。
「こっちの言葉じゃこうなるネ」
「私を野球に連れてって?」
「野球の歌だヨ、アメリカのネ」
 つまり野球発祥の国の歌だというのだ。
「その歌は歌わないノ?」
「そういう歌あるのね」
「そうだヨ、日本じゃ歌わないノ」
「ええ、少なくとも阪神ファンはね」 
 そうだとだ、詩織さんはジューンさんに答えた。
「そうした歌は歌わないわよ」
「ううン、文化の相違だネ」
「日本でも野球は人気があるけれどね」
 それでもだと答える詩織さんだった。
「その歌は歌わないよ」
「それは少し残念だネ」 
 アメリカ人のジューンさんの言葉だ。
「あの歌がないト」
「あの歌でしたら」
 早百合先輩がジューンさんに言う。
「私が演奏出来ます」
「先輩ガ?」
「はい」
 そうだとだ、ジューンさんに答えるのだった。
「私を野球に連れてってですよね」
「そうそう、あの曲だヨ」
「それでしたら」
「へえ、演奏出来るんダ」
「あまり演奏したことはないですが」
「じゃあ今度聴かせてネ」
 ジューンさんは先輩の言葉に顔を一気に明るくさせて言った。
「あの曲大好きなのヨ、ワタシ」
「アメリカでは特別な曲ですね」
「そうだヨ、野球といえばあの曲だヨ」
 殆どテーマソングらしい、ベースボールの。アメリカなのであえてベースボールと言った。野球ではなくだ。
「七回にはかかるヨ」
「今日は無理ですが」
「今ここではネ」
「はい、ピアノや他の楽器がないので」
 エレクトーンなり何なりがというのだ。
「ですから」
「けれどだネ」
「ピアノがあれば」
「じゃあ頼むヨ」
「そうさせて頂きます」
 こう笑顔で言う先輩だった、そして。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧