FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
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第198話 紺色の妖精と紫の妖精
前書き
紺碧の海です☆
更新遅れてスミマセンでした!ようやくテスト地獄が終わったので今日から更新を再開したいと思います。
今回も前回と似たような内容で、10頭の悪魔の紹介みたいなお話です。これを後3話も書くのか・・・はぁ。
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第198話・・・スタート☆
―クロッカスの街 北側―
昼間は大勢の人達の歓喜に満ちた歓声と、街の至る所に咲き誇っていた色とりどりのクロッカスの花々が大魔闘演舞を華やかにしていた―――――が、今となってはどうだ。月明かりが妖しく照らす夜のクロッカスの街は、瓦礫の山化としていた。
この街には今、突如どこからともなく姿を現した10頭の悪魔達が、街の至る所で大暴れをし、街を無残な姿へと変えていく。建物が崩壊する度に砂煙が立ち込め、視界を妨げる。
夜のクロッカスの街に響くのは、建物が無残に崩れ行く音と、
悪魔3「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
悪魔の咆哮だけだ。
リオ「アイスメイク、白竜ッ!!」
シェ「天神の・・・北風ッ!!」
蛇姫の鱗の魔道士、リオンが薄緑色をした氷の竜を造形し、シェリアが黒い風を纏った両腕を大きく振るい、悪魔の背中に向かって同時に攻撃を放った。
サク「爆炎の御魂よ、敵を焼き尽くせ・・・!」
それに続いて『御魂の桜扇』を開いた幸福の花の魔道士、サクラが、『御魂の桜扇』を扇いで繰り出した紅蓮の炎を悪魔の背中に向かって放った。
カイ「水竜の・・・荒波ッ!!」
それに続いて両腕に青く透き通る水を纏った月の涙の魔道士、カイが、両腕を薙ぎ払うように交差させながら大きく広げ、陸に荒波を起こし悪魔を呑み込む。
ノバ「や・・やったか・・・?」
イエ「あんだけ攻撃をまともに食らえば、さすがの悪魔でも・・・!」
ここまでの段階で、まだ一切何も活躍していない四つ首の猟犬の魔道士、ノバーリとイエーガが砂煙の中を目を凝らして見つめながら呟く。
砂煙は徐々に晴れていき、完全に晴れた時には無傷の悪魔が大きく開けた口に魔力を溜めていた。
ノバ&イエ「全然効いてねェ!」
リオ「そんな事を言ってる場合かっ!攻撃してくるぞっ!」
リオンが言うが早いか、悪魔は口に溜めていた赤黒い魔力を放った。赤黒い魔力は、赤黒い一直線の閃光となってリオン達に襲い掛かってくる。間一髪のところで、リオン、シェリア、サクラ、カイ、ノバーリ、イエーガは左右に散らばってそれを回避した。悪魔の口から放たれた赤黒い閃光は、石造りの建物を7~8軒ほど貫いた。
サク「たったの一撃で・・・何て威力!?」
サクラは崩れ落ちる建物を目にやりながら驚嘆の声を上げた。
リオン達が驚いている間にも、悪魔は再び口に魔力を溜め始めた。
シェ「また来るよぉ!」
シェリアが叫んだのと同時に、悪魔は赤黒い魔力を放った。しかもさっきよりも速い!
ノバ「かわし切れねェ!」
イエ「うわぁああっ!」
有名な画家、ムンクが描いた“叫び”のような顔をして、ノバーリとイエーガが悲鳴に近い声を上げた。
絶体絶命の危機に陥っている中、カイが1人前に飛び出した。
リオ「カイ!?」
サク「何を・・・!?」
カイ「俺は水の滅竜魔道士だ。」
そう短く呟くと、カイは深く息を吸い込み、両頬を大きく膨らますと、
カイ「水竜の・・・咆哮ッ!!」
口から水の息を噴出した。赤黒い閃光が、水の中に呑まれる―――が、赤黒い閃光の方が勢いがあるせいか、カイの両足がズズズと後ろに動いている。
シェ「天神の・・・怒号ッ!!」
シェリアが駆け出したかと思うと、カイの横に並び息を深く吸い込み、両頬を大きく膨らますと、口から黒い風の息を噴出した。黒い風が水と共に赤黒い閃光を呑み込み応戦する。
カイとシェリア。お互い別々のギルドに所属している魔道士で、今年の大魔闘演舞で初めて顔を鉢合わせしただけの、ほぼ初対面に等しい真柄だというのに、滅竜魔道士と滅神魔道士という似た関係のせいか、息がピッタリと合っている。
サク「雷の御魂よ、敵に天罰を・・・!」
リオ「アイスメイク、鷲ッ!!」
サクラとリオンも駆け出したかと思うと、サクラはカイの横に並び、『御魂の桜扇』から雷を繰り出し、リオンはシェリアの横に並び、無数の氷の鷲を造形し同時に放った。雷と氷の鷲が水と黒い風と共に赤黒い閃光を呑み込み応戦する。
ノバ「お・・俺達も、応戦してェんだけど・・・」
イエ「あの状況に合った魔法が、俺達には使えねェんだよな・・・」
何の役にも立つ事が出来ないこの2人は、瓦礫の陰に隠れて見守る事しか出来ないでいる、何とも可哀想な連中である。
悪魔3「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
悪魔の咆哮が轟いた。その迫力に圧倒され、リオン達は思わず顔を顰めてしまう。
シェ「(うぅ・・ま、魔力がぁ・・・)」
カイ「(この悪魔は、魔力が無限・・なのか・・・!?もう・・限界寸前、だ・・・!)」
サク「(かと言って、今この場を離れて・・あの2人と交代しても・・・あの2人は、この状況に合った魔法を・・使う事は、不可能・・・!)」
リオ「(このままだと、全員全滅する・・・!せめて、誰か来てくれれば・・・!)」
ズズ、ズズズと4人の両足が後ろに動く。赤黒い閃光は今にも4人の体を貫く事が出来る距離まで迫っていた。4人は攻撃を止めないが、シェリアとサクラは目を伏せ、カイは両手の拳を固く握り締めた。
リオ「(ここまでかっ・・・!)」
4人が死を覚悟した、その時だった。
悪魔3「グオオォオアアアッ!」
悪魔が悲鳴を上げたのと同時に、閃光が消えた。何が起こったのか、状況を理解していない4人は悪魔を見て目を見開いた。
悪魔の右目に、氷の矢が1本突き刺さっていたのだ。
サク「リ、リオン様・・・いつの間に、あんな矢を・・・・?」
リオ「・・・いや、あの矢は、俺が造形した物じゃない。」
そう。リオンは氷の造形魔道士であるが、得意とするのは“生物の造形”―――――つまりは“動のアイスメイク”。矢は生物ではなく、“物質”だ。リオンは“物質”を造形する事を苦手としている。
それに、リオンの氷は薄緑色をしている。悪魔の右目に突き刺さっている氷の矢は、淡い水色をした氷で出来ている。
リオンの知識上、“物質の造形”を得意とする氷の造形魔道士は2人いるが、淡い水色をした氷の造形魔道士は1人しかいなかった。
口元に薄く笑みを浮かべているリオンと、未だに呆気に取られているシェリア、カイ、サクラの目の前に、シュタッ!と下り立った、上半身裸の妖精が1人―――――。
グ「お前らしくねェなァ、リオン。ボロボロじゃねェか。」
こちらを見向きもしないで、肩越しで呟くグレイの瞳は、目の前に佇む悪魔を真っ直ぐ捉えていた。
グ「お前等全員下がってろ。コイツは俺が殺る。」
シェ「「殺る」って、1人でぇ!?」
カイ「いくらフィオーレ一のギルドの魔道士でも、こんな化け物相手に1人で挑むのは自殺行為だ。」
サク「私達も援護させていただきます!」
グ「魔力が限界なのに無理して戦う方が自殺行為だと俺は思うぜ?いいからここは大人しく引き下がって、他の場所で戦ってるギルドの奴等や、兵士達を避難させてやってくれよ。」
グレイはシェリア、カイ、サクラの言葉を否定しながら、構えた両手に冷気を溜め始めた。
シェ「もぉ!リオンも言ってやんなよっ!」
ぷくぅと右頬を膨らませたシェリアがグレイの背中を指差しながらリオンに言う。リオンはしばらくグレイの背中を見つめていたが、
リオ「・・・行くぞ。」
シェ「よーっし!頑張っちゃうぞ~・・・って、えぇ!?」
当然のように、リオンが服を脱いでグレイの横に並び、同じように構えた両手に冷気を溜め始めると思い込んでいたシェリアは、踵を返して反対方向に歩き出したリオンを見て驚嘆の声を上げた。カイ、サクラ、ノバーリ、イエーガも同じ事を思っていたのか、黙って横を通り過ぎるリオンの事を見開いた目で追っていた。
シェ「えっ、ちょ、ちょっとリオン!待ってよ~!」
ハッ!と我に返ったシェリアは、慌ててリオンの後を追いかけた。それに続いて、不思議そうに顔を見合わせながらもカイ、サクラ、ノバーリ、イエーガも2人の後を追いかけた。
瓦礫の山に囲まれた悪魔との戦場には、グレイだけが残された―――――。
悪魔3「ひゃひゃっ、ドサクサに紛れて仲間を逃がすなんて面しれェじゃねェかっ!お前良い頭してんだなァ、ひゃひゃっ。」
グ「ほぉ、めちゃくちゃ乱暴な喋り方だが、人間の言葉を話せるとは好都合だぜ。」
人間の言葉を話せる悪魔に感心しながらも、グレイは巨大な氷の鎌を造形すると、
グ「アイスメイク、大鎌ッ!!」
その場で高く跳躍し氷の鎌を振り下ろした―――が、悪魔は氷の鎌を指1本で防いでしまった。尚且つ、パキィン!と音を立てて氷の鎌は粉々に砕け散ってしまった。
グ「チッ。」
一度舌打ちをしてから、グレイは悪魔との距離を取った。
悪魔3「ひゃひゃっ、良い頭をしてるっつー事は素直に認めてやるぜ。だけどな、人間如きがたった1人で悪魔相手にまともに戦えるのかよ?ひゃひゃっ。」
グ「俺と、他の悪魔と戦っている奴等はただの人間じゃねェんだ。身も心もタフで、世間を騒がしている自由気ままな妖精さ。」
悪魔3「ひゃひゃっ、面しれェ。」
悪魔は興味深そうに、闇に染まった不気味な瞳でグレイを見つめる。
悪魔3「ひゃひゃっ、俺の知らねェ世界ではまだまだ変わり者の生物がいるんだなァ。ひゃひゃっ、お前気に入ったぞ。名前、教えろよ?」
特長的な笑い方をする悪魔に、グレイは氷の大砲の砲口を向けると、
グ「俺の名前はグレイ・フルバスター。妖精の尻尾の、魔道士だアアアアアアアアアアアアアッ!」
声を荒げたのと同時に、氷の大砲の砲口から砲丸が勢いよく放たれ、悪魔の首元に直撃した。砲丸が悪魔の首元に直撃したのと同時に、壮絶な爆発音が響き、辺りが冷気に包まれ大気中の水蒸気が小さな氷の結晶となってグレイの頭上に降り落ちて来た。
悪魔3「ひゃひゃっ、グレイ・フルバスター・・・ますます気に入ったぞっ!」
グ「!グァアアッ!」
冷気の中から赤黒い閃光が放たれた。反応に遅れてしまったグレイの左肩を容赦なく貫いた。
グ「~~~~~っ!」
貫かれた左肩を右手で押さえ、グレイはその場に膝を着き蹲る。冷気の中から聞こえてくる、「ひゃひゃっ」という悪魔の不気味な笑いが耳障りだ。
クル「俺は“残酷の悪魔”クルエルってんだっ!」
冷気が晴れ、無傷の“残酷の悪魔”クルエルは耳まで裂けてしまうほど不気味に微笑んだ。
クル「グレイ・フルバスター・・・お前に、この世で一番無残で儚い、“残酷”をお見舞いさせてやんよ。地獄に堕ちても脳裏に焼き付いて忘れられない、素晴らしい“残酷”をなァ・・・!ひゃひゃっ。」
今、熱き心を持った、傷だらけの紺色の妖精が、“残酷の悪魔”に立ち向かう―――――。
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―クロッカスの街 西側―
悪魔4「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
漆黒の翼で空を飛ぶ悪魔は、巨大な腕と足を闇雲に振り回し、クロッカスの街を無残な姿へと変えていく。石造りの建物やレンガ造りの建物は力なく崩れ落ち、色とりどりのペンキで塗られた瓦屋根は粉々に砕け、青白く光る街灯は圧し折られ、街の至る所に咲き誇っている色とりどりなクロッカスの花々は引き千切られ儚く花弁を落とす。
もはやクロッカスの街は、原形すら残る事無く崩壊寸前の危機だった。
兵1「討てーーーーーっ!」
1人の兵士の合図と共に、盾で身を隠しながら大勢の軍隊や王国軍の兵士達が魔法弾を悪魔目掛けて放つ―――が、放たれた魔法弾のほとんどは、空を飛んでいる悪魔に命中する前に速度が落ち、力なく地面に落ちる。運良く悪魔の体に命中した数少ない魔法弾は、悪魔の感覚神経には反応しないみたいで全く動じなかった。
兵2「魔法弾が効いていない!?」
兵3「そ、そんな・・バカなっ・・・!?」
兵士達は驚きを隠せずにいる。そんな兵士達を見向きもしないで、空を悠々と飛び続ける悪魔は次々と街を破壊していく。
兵4「怖気づくなっ!まだ“負け”と決まった訳じゃないんだーっ!」
兵5「全員弓を構えろーっ!」
今度は盾で身を隠しながら弓を構えた。思いっきり弦をギリギリまで引き、準備完了!
兵6「射てーーーーーっ!」
1人の兵士の合図と共に、ヒュン、ヒュンヒュンと音を立てながら無数の矢が放たれた。魔法弾とは逆に、放たれた矢のほとんどが空を飛んでいる悪魔の腕や胴体に突き刺さった―――が、
悪魔4「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
兵7「無意味だーーーーーっ!」
兵8「逆に刺激を与えてるだけだーーーーーっ!」
怒り狂った悪魔は、兵士達の真上に聳え立っていた7階建てのマンションを蹴り飛ばした。マンションは呆気なく崩壊し、瓦礫が兵士達の頭上に降り注ぐ。
兵9「うわぁぁああぁあああっ!」
兵10「逃げろーーーーーっ!」
兵11「当たったらペシャンコだぞーーーーーっ!」
口々に叫びながら、兵士達は一目散にその場から逃げ出した。
兵12「うわっ!」
1人の兵士が、落ちて来た瓦礫に躓いて転倒した。起き上がって逃げても、瓦礫はすぐ頭上にまで迫って来ていた。兵士は仰向けに倒れたまま目をギュッ!と固く閉じ死を覚悟した―――が、
兵12「・・・・あ、あれ・・・?」
いつまで経っても瓦礫は落ちて来ない。恐る恐る目を開け後ろを振り返ると、
赤鬼「大丈夫かぁ?」
頭に生えた1本の角、真っ赤な体に口の端から覗いている鋭い牙、腰には黄色と黒のパンツに、左手には無数の棘が付いた黒光りする金棒―――――瓦礫を右手で支えている赤鬼が兵士の顔を心配そうに見つめていた。
兵12「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」
兵士は赤鬼の顔を見るなり、四つん這い状態のままその場を這って去った。その兵士の他にも逃げ遅れた兵士が多数おり、皆青鬼や黒鬼、緑鬼や黄色鬼に助けてもらっていた。が、やはり鬼の顔を見たら全員這って去って行った。
兵13「な・・ななな、何だコイツ等はァ!?」
兵14「悪魔の次は鬼かよっ!?」
兵15「勘弁してくれェーーーっ!」
背後には悪魔、前方には鬼という、絶体絶命の危機に立たされた兵士達はその場で頭を抱えて蹲ってしまった。中には半ベソをかいている兵士もいる。
そんな絶望的な場面で、鬼の背後からひょこっと顔を出した妖精が1人―――――。
ト「み、みみみ、皆さん!落ち着いて下さい!大丈夫です!ここにいる鬼達は皆、僕と契約してる鬼達なのでっ!」
兵全「・・・・へっ・・・?」
顔を上げた兵士達に、トーヤはニコッと笑いかけた。
ト「鬼達ありがとう。お陰で誰も死なずに済んだよ。」
トーヤは自分の身長の倍はある鬼達に向かってペコッと可愛らしく頭を下げた。それに対して鬼達は、嬉しそうに笑う者もいれば、恥ずかしそうに照れる者も、「当然」と言いたげな顔をしている者がいる。
ト「本当にありがとう。でも、もう一仕事頑張ってくれるかな?」
トーヤの問いに、鬼達は全員「おおーっ!」と腕を突き上げたり、金棒を振り回したりして応えた。
それを見たトーヤは、自分の胸に左手を置くと呪文のような言葉を紡いだ。
ト「我と、心を通わせ、姿を現せ!出て来い!全ての怪物達よっ!!」
トーヤが叫んだのと同時に、地面や空中やら至る所に紫色の魔法陣が浮かび上がり、そこからミイラや透明人間、ドラキュラや死神、ろくろっ首や一つ目小僧、化け猫や座敷わらし、ユウとレイ、魔女やゾンビ、雪女や河童、狼男やてんぐなど、トーヤと契約しているお化け達が集結した。
兵16「ト、トーヤさん・・これは、いったい・・・?」
1人の兵士が恐る恐るトーヤに問い掛ける。
ト「ここにいたら、皆さんとても危険ですので、お化け達に手伝ってもらって安全な場所に避難させてもらうんです。あ、お化け達にお願いして、自分達の魔力で地上に来ているから僕の事は大丈夫ですよ。」
兵16「いや・・えっと・・・」
ト「あ、出来れば他の悪魔さんと戦っている、他のギルドの皆さんや王国軍と軍隊の皆さんも、魔法部隊の皆さんも連れて避難して頂ければ光栄です。」
にこやかな笑顔を浮かべて淡々と語っていくトーヤに、兵士はそれ以上聞く事が出来なかった。
て「トーヤ。」
ト「どうしたの、てんぐ?」
トーヤが初めて契約して友達になったてんぐがトーヤに歩み寄る。
て「・・本当に、お前1人で大丈夫なのか?戦力になる、俺や死神、鬼達や狼男を残していった方が良」
ト「大丈夫だよ、てんぐ。」
「良いんじゃ・・・?」と言いかけたてんぐの言葉を遮るように、トーヤが口を開いた。
ト「君達は僕の大切な友達なんだ。そんな大切な友達を、僕はもう、傷つけたくない。それに、僕は妖精の尻尾の魔道士なんだよ?悪魔1頭くらい1人で倒せなきゃ、妖精の尻尾の名が廃っちゃうよ。」
て「・・・で、でも」
ト「大丈夫。」
トーヤが優しく、てんぐの両肩に両手を置いた。
ト「・・・必ず、必ず帰って来るから。だからてんぐ、僕が帰って来るまで、皆の事をよろしく頼んだよ?」
て「・・・・あぁ。」
どこか寂しげで、悲しそうで、小さくて儚い笑みを浮かべるトーヤの穏やかな紫色の瞳から思わずてんぐは目を逸らして頷く事しか出来なかった。
てんぐの肩からトーヤの両手が離れると、トーヤは羽織っている黒いローブの裾をひるがえしながら言葉を紡いだ。
ト「我と契約し全ての怪物達に告ぐ!ここからの経緯を全ててんぐに話したっ!ここからは、僕と皆は別行動だっ!皆はてんぐの指示に従って動いてくれっ!ドムス・フラウの前で再会しよう!」
運良く誰にも気づかれなかったが、トーヤの右頬を一筋の涙が伝った。
その後、兵士達はお化け達と共にその場を後にした。最後に取り残された者がいない事を確認したてんぐが、トーヤの横を通って去り際に小さく呟いた。
て「必ず、必ず帰って来い・・・!それだけを、俺は祈っている・・・」
ト「・・・うん、約束する。」
お互い顔を伏せており、笑っているのか、泣いているのか、怒っているのかさえも分からなかった。
ト「(てんぐ、最後の最後まで・・迷惑を掛けてゴメンね・・・約束、守れなかった時は・・・皆の事を、よろしく頼んだよ・・・・)」
一度止まったはずの涙が、再び溢れ出してきた。
最後に短く言葉を交わした後、トーヤはてんぐの気配が完全に消えてから、首に着けている幽封玉を外した。すると、トーヤの体が紫色の光に包まれ、トーヤが羽織っている黒いローブの裾がボロボロになり、こめかみの辺りからくるんと渦を巻いた角が生え、足が透け、トーヤの紫色の瞳が赤色に変わった。
これが、人間と幽霊の間で生まれた者―――――半幽人の真の姿だ。
ト「ふんっ!」
トーヤは助走をつけて小さく地を蹴った後悪魔と同じくらいの高さまで飛んだ。半幽人の姿になると、空を飛ぶ事も出来るのだ。銀髪と、ボロボロの黒いローブの裾が風になびく。
トーヤは悪魔の背後に周り込むと、固く握り締めた右手の拳に黒に近い色をした紫色の邪気を纏うと、
ト「邪気拳斬ッ!」
悪魔4「ぐはァ!」
拳を悪魔の背中に向かって振り下ろした。
トーヤの攻撃をまともに食らった悪魔は、体をUの字に反りながら墜落した。ドドドドドスゥゥゥン!と砂煙が舞い上がる。
トーヤは一度悪魔から距離を取ると、右手に黒い炎、左手に青い炎を纏うと、
ト「紅蓮地獄ッ!」
纏っていた炎を砂煙の中にいる悪魔に向かって投げ放った。だが、紅蓮地獄はそれで終わりではない。
ト「らあああああああああああああああああああっ!」
投げるとまたすぐに炎を纏い投げ、またすぐに炎を纏い投げ―――――。
トーヤと悪魔の周りは黒と青の炎が燃え盛り、辺りは地獄の炎と熱気で包まれた。
ト「(この炎は、妖霊王様から授かった“魂の炎”と“妖かしの炎”・・・それをあれだけまともに食らえば、いくら悪魔さんでも・・・・!)」
戦闘体勢を保ったまま呼吸を整え、砂煙の中に目を凝らしたその時、
悪魔4「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
砂煙の中で巨大な黒い影が動き出したかと思うと、勇ましい咆哮を咆えながら悪魔が飛び出して来た。あまりにも咄嗟すぎてトーヤは悪魔をかわす事を忘れてしまい、悪魔の広げた巨大な掌で地面に押し潰されてしまった。
ト「うあああああああああああああああっ!」
口から血を吐き出す。
悪魔4「ほぉ、これはこれは。こんな所で世にも珍しい種族の者に出会えるとは―――。人間と幽霊の間に生まれし者―――――お主、半幽人じゃな?」
ト「こ・・これは、これは・・・こんな、所で・・世に、も、珍しい・・・人間の言葉を話せる悪魔さんに・・出会える、とは・・・・」
トーヤは痛みに顔を歪ませながら、悪魔の口調を真似て辛そうに言う。
悪魔4「これはこれは、今宵わしは何てついておるのじゃろう。人間界で盛大に暴れる事が出来、半幽人と出会えたんじゃからな。お主、名は何と申す?」
「これはこれは」が口癖らしい、古風な喋り方をする悪魔を真っ直ぐ捉えると、
ト「魔道士ギルド、妖精の尻尾に所属している半幽人、トーヤ・ファインと申します。以後お見知りおきを。」
そう名乗ってから、トーヤは目付きを鋭くし、体から黒に近い色をした紫色の邪気を放出すると、
ト「邪気・放浪ッ!」
邪気を体から手放した。
トーヤの体から放たれた邪気は、人魂のような形になり悪魔に襲い掛かる。
悪魔4「ぬァアッ!」
悪魔は邪気を追い払う為両手をぶんぶん振り回す。そのお陰で逃れる事が出来たトーヤはその場で立ち上がる―――――が、ガクンと崩れ落ちるように膝を着いてしまった。
ト「あ・・あれ・・・?」
そんなトーヤを見て、邪気を握り潰した悪魔は口角を上げてニィッと不敵に笑った。
悪魔4「わしは相手の魔力、妖力を吸い取る事が出来るんじゃ。お前を押し潰している間に、お前の魔力を3分の1ほど吸い取ってやったんじゃ。」
ト「そんな・・・!」
トーヤは絶句する。
ディ「そういや、まだわしは名乗っておらんかったのぉ。わしは“絶望の悪魔”ディスペアじゃ。」
ト「(・・・絶望・・・・)」
ドクンと、心臓の音が耳元で聞こえるような感じがしたのは気のせいだろう。
ディ「お主の体が塵のようになるまで、お主の“絶望”とやらを、じっくり味わおうとするかのぉ。これはこれは、とても楽しみじゃわい。」
今、さまざまな感情が巡る、傷だらけの紫の妖精が、“絶望の悪魔”に立ち向かう―――――。
後書き
第198話終了です☆
・・・長い。悪魔の紹介だけでこんなに長い話になってしまうとは、思いもしませんでした。読者の皆様、もうしばらくお付き合いして頂くようお願い致します。
次回もやっぱり、悪魔の紹介みたいなお話です。ホントにスミマセン・・・
それではまた次回まで、アディオス!
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