FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
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第197話 緑の妖精と緋色の妖精
前書き
更新遅れてスミマセン!紺碧の海です!
今回は突如クロッカスの街に姿を現した10頭の悪魔を倒すべくナツ達が立ち上がる!果たして、ナツ達は街を、仲間を、世界を守る事が出来るのか―――――!?
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第197話・・・スタート!
ガジ「!」
リリ「どうしたガジル?」
ジュ「何か見つけたの?」
天高く聳え立つ、辺りが霧に覆われた崖の頂上。
ここで元Bチーム+リリーが闇ギルド最大勢力、ビゲスト同盟の1角である西の真空のギルドを捜索していた。
そんな時、ガジルが空を見て目を見開いた。何事かと思い、傍にいたリリーとジュビアも空を見上げ、ガジル同様目を見開いた。
ミラ「リリー?ジュビア?」
カナ「なーに揃いも揃って固まってるんだい。」
ラク「空がどうかし―――――!?」
不思議に思ったミラ、カナ、ラクサスも空を見上げて目を見開いてその場に固まってしまった。
ガジル達が目にしたものは、紫、ピンク、オレンジという禍々しい色合いをしたグラデーションに染まった空だった。
カナ「ちょっ・・な、何だよコレ・・・!?」
ジュ「さ、さっきまで・・普通の青空だったのに・・・」
カナとジュビアが息を呑み驚嘆の声を呟いた。
ラク「!ミラ、滝に異常はあるか!?」
ラクサスがミラを振り返りながら言う。
言うが早いか、ミラはポケットから魔水晶を取り出し、魔水晶越しに滝を見つめる。この魔水晶は、映して見たものの異常変化などを一目で見抜く事が出来る優れものなのだ。ここに来る前に、マスターから渡されたものだ。
ミラはしばらく魔水晶に滝を映して見つめていたが、やがて首を左右に振った。
ミラ「滝には何の変化も無いわ。この空は、滝が原因じゃないみたいね。」
ガジ「じゃあいったい何なんだよ・・・!?」
?「『極悪十祭』・・・」
?以外「!!?」
突如背後から聞こえてきた聞き慣れない声に、ガジル達は振り返るのと同時に身構えた。
背後にいたのは木に寄りかかって立っている長い青い髪の少女だった。
ジュ「あ・・あなたは・・・?」
?「この空は、クロッカスの街で起こっている『極悪十祭』が原因なのよ。」
ジュビアの問いが聞こえていないのか、少女は木から離れ『極悪十祭』の事、クロッカスの街に10頭の悪魔がいる事、ナツ達が10頭の悪魔と戦っている事をガジル達に順を追って話した。
リリ「そ・・そんな事が・・・」
最初に沈黙を破ったのはリリーだった。
ミラ「だったら、私達も今すぐクロッカスに」
?「不可能よ。」
ミラ「!」
ミラの言葉を遮るように少女が淡々と言葉を紡いだ。
?「あなた達が今からクロッカスの街に行ったとしても、あなた達の仲間が10頭の悪魔を倒しているか、あなた達の仲間が10頭の悪魔にやられているかのどちらかよ。」
カナ「そんな・・・!」
?「もし間に合ったとしても、今クロッカスの街全域には他の街に被害が及ばないように屈折壁が張り巡らされているから、あなた達はクロッカスの街に足1歩踏み入る事が出来ないわ。」
少女の言葉にそれ以上反論する者はいなかった。
?「それに、悪魔と戦っているのはあなた達の仲間だけじゃないわ。大魔闘演舞に出場した他のギルドの魔道士達もいるし、王国軍や軍隊、魔法部隊も戦っている。まっ、一番戦力になるのは魔道士達だけど。」
少女は口元に薄く笑みを浮かべ、肩を竦めながら呟いた。
?「あなた達の仲間が、悪魔如きにやられる訳ないじゃない。」
少女はそう言った後、口元に不敵な笑みを浮かべ心の中で呟いた。
?「(アイツ等を倒すのは悪魔じゃない。この私よ・・・!)」
ほんの一瞬だったせいか、少女が不敵な笑みを浮かべた事にガジル達は気づかなかった。
?「だから、あなた達はここで西の真空のギルドを探してれば良いのよ。あなた達だって、妖精の尻尾の魔道士でしょ?自分の仲間を信じる事も出来ないのかしら?」
少女の言葉にガジル達は顔を見合わせると、困ったように笑みを浮かべ肩を竦めた。
ジュ「あなたの言うとおりですね。」
ガジ「クソ炎等が悪魔に負けるだと?へっ、笑わせてくれるじゃねーか。」
リリ「逆に、ナツ達が悪魔に負けるところを見てみたいくらいだな。」
ミラ「少しでもヤバいと思った私達がバカみたいね。」
カナ「これで安心した酒が飲めるよ♪」
ラク「おい、それは違うと思うぞ・・・」
ジュビアが納得したように頷き、ガジル、リリー、ミラが笑いながら言い、手に持った酒瓶を高々と掲げるカナにラクサスがツッコム。
?「それじゃ、私はこれで。」
ジュ「あ、待って下さい!あの・・あなたはいったい・・・?」
片手を上げて立ち去ろうとする少女をジュビアが呼び止めた。
少女は顔に掛かった前髪を手で掃いながらゆっくり振向くと呟いた。
?「“地獄の案内人”・・・とでも名乗っておくわ。」
その時、どこからともなく強い風が吹き荒れ、ガジル達は目を瞑ったり顔を逸らしたりした。
風が収まり目を開けると、その場から少女の姿は影も形も消え失せていた。
ガ「・・・におうな。」
リリ「あぁ。」
ミラ「私達は一言も、あの子に西の真空の事を言っていないのに・・・何で知ってるのかしら?」
ガジル、リリー、ミラが少女が立っていた場所を睨みながら呟いた。
カナ「ジュビアも無闇に怪しい奴の名前を聞こうとしないの。」
ジュ「あたっ!」
カナがジュビアの額にでこピンをお見舞いする。
ラク「“地獄の案内人”・・・」
ラクサスは1人冷静に、少女の名を繰り返していた。
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―クロッカスの街 西側―
悪魔1「ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
悪魔の雄叫びが轟く。
10頭の悪魔は通常の人間の5倍ほどもある巨体で、鋭く尖る爪や牙、頭に生えている曲がった角があり、巨大な腕を振り上げ、建物を次々と破壊していく。背中に生えている、棘の付いた漆黒の翼を広げ空を飛び、口から赤黒い閃光を放ったり、目から青白い閃光を出したりして建物を破壊していく。中には赤黒い巨大な槍、鎖の付いた赤黒い巨大な鉄球、赤黒い巨大な鎌、赤黒い巨大な剣、赤黒い巨大な斧などの武器を持っている悪魔もいて、それらを振り回し建物を破壊していく。
悪魔の手によってクロッカスの街は無残な姿へと変わり行く。
軍1「ひェエ!」
軍2「な・・何だこの破壊力はァ!?」
軍3「こ、こんなのに・・俺達人間が、敵う訳ねェ!」
王国軍、軍隊の兵士達はすでに怖気づいてしまっている。
そんな兵士達の間を駆け抜ける、両手に聖剣を握り締め、口に聖剣を銜えた妖精が1人―――――。
リョ「怯むんじゃねェエエエエエエエエエエッ!」
リョウは悪魔から5mほど離れたところで高く跳躍し、両手に持った『銀覇剣』と『天力剣』を悪魔の背中に向かって振り下ろした―――が、『銀覇剣』と『天力剣』の白銀の刀身は悪魔の背中に傷一つ付けない。
リョ「か・・硬ェ・・・!」
『銀覇剣』と『天力剣』の柄を持つ両手に力を込めるが、悪魔の背中は一向に無傷のまま。それどころか、悪魔は痛みを感じもしないのか、リョウが攻撃をしている事にも気づいていないらしい。その証拠に、悪魔は巨大な腕を振り上げ建物を破壊し続けている。
リョ「クソッ!」
リョウは口に銜えていた『嵐真剣』を右手に握り、両手が両手が塞がっているのにも拘らず、器用に鞘から『花錦剣』を抜くと左手に握った。
リョ「これで・・・!どうだァアァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
4本の聖剣振りかざし、悪魔の背中を切りつけた―――が、やはり悪魔の背中には傷一つ付かない。
リョ「クッソォオ!」
だが、悪魔の背中に傷は付かず痛みは感じなかったが、リョウが攻撃したという事には気づいたようで悪魔が振り返った。
悪魔2「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
リョ「ぐァアア!」
軍4「リョウ様ァ!」
悪魔は腕を大きく振るい、リョウの身体を建物に叩きつけた。
悪魔2「ガハハハハハハハハッ!ワイの鋼鉄のように硬い皮膚で覆われたこの身体に、人間如きが傷一つ付けられる訳あらへんのやァ!ガハハハハハハハハッ!」
どうやらこの悪魔、関西弁で喋る事が出来るらしい。そんな悪魔を見て兵士達は呆気に取られている。
ミゼ「ワイの名は“悲惨の悪魔”ミゼリー様や。奈落に行く前に教えとくわ。といっても、後数秒後には「ほなさいなら~」って奈落行く事になるんやけどなっ!ガハハハハハハハハッ!」
“悲惨の悪魔”ミゼリーは声を上げて豪快に笑う。その姿はまるで人間そのものだ。
リョ「・・これはこれは・・・随分・・と、口数の多い・・悪魔様、だな・・・」
ミゼ「ア?」
声がした方にミゼリーは視線を移す。そこには、先程自分が建物に叩きつけた人間―――リョウがいた。
リョウは『嵐真剣』を支えにしながらよろよろとその場に立ち上がる。リョウの身体はすでに傷だらけでボロボロであり、左足を引き摺っている。
ミゼ「誰や、おメェ?」
鋭く尖った爪の先で指差しながらミゼリーが問う。
リョウは両手に持った4本の聖剣を持ち直しその場で身構えると、
リョ「リョウ・ジェノロ。妖精の尻尾の、魔道士だァアアアアアアアアアアアアアアッ!」
小さく地を蹴り、数m走った後、その場で高く跳躍し、銀色の光を纏った『銀覇剣』を、青白い光を纏った『天力剣』を、吹き荒れる風を纏った『嵐真剣』を、風に舞う花弁を纏った『花錦剣』を、再びミゼリーに向かって振り下ろした―――が、
ミゼ「リュウか。憶えとくわ、といっても、おメェが奈落に行くまでの短い間だけな。」
リョ「リョウだっ!」
ミゼリーはリョウの名前を間違える故に身体には傷一つ付かない。
ミゼ「魔道士・・・聞いた事あるで。魔法を自由自在に操って、人助けや商売、討伐なんかして金を稼いでる人間の事やろ?でもなァ―――――」
そう言うと、ミゼリーは指先でリョウの身体を掴み握り潰す。
リョ「うがあああああああああああああああああああああああっ!」
ミゼ「悪魔の前では魔法は無意味や、痛くも痒くもないんよ。特に、鋼鉄のように硬い皮膚で覆われた身体をしている、ワイにはなァ!」
リョ「うがあああああああああああああああああああああああっ!」
カラン、カララン、と音を立ててリョウの手から4本の聖剣が落ちた。
ミゼ「オラァア!」
リョ「ぐはァ!」
ミゼリーは今度はリョウの身体を地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられたリョウは、身体全身に走る痛みに呻き声を上げ―――ニィッと口角を上げて笑った。
リョ「・・・何のような・・皮膚、だって・・・・?」
ミゼ「!!?」
リョウが言ったのと同時に、パキッ!パキッ!と音を立ててミゼリーの鋼鉄のように硬い皮膚で覆われた腹部と背中が割れ、青紫色をした血が流れ出た。
軍全「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
軍5「流石リョウ様だっ!」
軍6「よっ!聖十大魔道!」
兵士達が歓声を上げ、自分達の手柄のようにリョウを褒め称える。
ミゼ「な・・何でや・・・!?何でワイの鋼鉄のように硬い皮膚が割れるんやっ!?おいそこのヒュウって奴ゥ!いったい何したんやっ!はよ理由答えんかい!」
リョ「だからリョウってゆーとるやないかっ!いい加減憶えろやっ!」
軍7「関西弁、うつってますよ・・・」
ミゼリーは何が何だか分からなくなってきており、ミゼリーに再び名前を間違えられて怒り狂うリョウに、兵士の1人が関西弁になっているリョウにツッコミを入れる。
リョ「理由?そんなモンねェよ。」
ミゼ「んなっ!?な訳ねーやろォ!理由がなけりゃ、ワイの鋼鉄のように硬い皮膚が割れるはずあらへんのやっ!」
リョ「だったら、元々錆びた鉄のように脆い皮膚だったんじゃねェのか?」
ミゼ「!」
リョウの言葉にかなりのショックを受けたのか、ミゼリーの背後の景色が硝子のようにガラガラガラと砕けていった。
リョ「それか―――――」
リョウは地面に落ちている4本の聖剣を拾い上げた。
リョ「この剣が、聖剣だからかもしれねェな。」
ミゼ「・・・エクレア?何や、ソレ?」
リョ「聖剣だっ!何勝手に食べ物に変えてんだよっ!?つーかよりによってスイーツって・・・」
ミゼリーは4本の聖剣をマジマジと見つめては首を傾げる。
気を取り直したリョウはミゼリーの顔の前に『銀覇剣』を掲げて見せた。
リョ「お前は悪魔、俺が契約しているこの剣達は聖なる剣だ。“聖なる剣は悪を滅する”・・・っていうお約束って事じゃねェのか?」
口元の血を拭いながら笑うリョウは再び聖剣を構えた。
ミゼ「つまり、おメェが持っとるエクセルレバーっちゅう名前のその剣を破壊すればえぇって事やな?」
リョ「聖剣だ、聖剣!さっきよりはマシになったけど、2度も間違えんじゃねェ!」
吊り目気味の茶色い目を更に吊り上げて、リョウは両手に持っている4本の聖剣を上下左右にぶんぶん振り回す。
今度こそ!気を取り直したリョウは肩を竦めながら口を開いた。
リョ「破壊しようとしてる剣に、もう2回も傷つけられてるお前にそれを言う意味があるのかよ?それに、俺はまだ鞘から抜いていない聖剣が2本ある。」
リョウの右腰には鞘に差したままの『妖魔剣』、左腰には鞘に差したままの『竜風剣』が出番を待ち遠しそうに携えられている。
リョ「お前が6本の聖剣を全て破壊する前に、お前の身体から血が噴出しバラバラになるのが先だ。」
ミゼ「調子こいていられるのも今の内やで?ワイがおメェの剣を全て破壊して、おメェを倒すのが先か、おメェがワイをバラバラにして倒すのが先か―――――どっちが早いか勝負でもしよーか?」
リョ「面白ェ!その勝負、受けて立つぜっ!」
ミゼリーとリョウの目からバチバチと火花が散る。
軍8「な・・何か、すげー戦いになりそうだな・・・」
軍9「あ、あぁ。とにかく、安全な所に非難しようぜ。何せすっげー破壊力を持つ悪魔と、聖剣を使う聖十大魔道なんだからな。」
軍10「つーか、これって俺達の出番あるのか?」
兵士達も数人首を傾げている者がいるが、崩壊した建物の瓦礫の陰などに隠れてリョウの事を固唾を呑んで見守っている。
リョウは4本の聖剣を握る両手に力を込め、残り僅かな魔力を剣先に集中させる。
リョ「(もう魔力が少ねェとか、恐らく骨が折れてる左足が痛ェとか、また傷口が開いちまった腹がめちゃくちゃ痛ェとか、目が霞んで前がよく見えねェとか、今は一切関係ねェ!)」
霞んだ視界で目の前にいる悪魔を見据える。
リョ「(今の俺に出来る事は、コイツを倒す事だけだ。残りの9頭の悪魔は、必ず他の奴等が倒してくれるはずだっ!)」
地を踏み締め、4本の聖剣を構え小さく地を蹴り駆け出した。
リョ「(俺は自分と、仲間を信じるっ!)」
今、聖なる剣を持ち、傷だらけの緑の妖精が、“悲惨の悪魔”に立ち向かう―――――。
*************************************************************************************************************
―クロッカスの街 南側―
悪魔2「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
悪魔の雄叫びが轟く。
南側にいる悪魔は西側にいる“悲惨の悪魔”ミゼリーとは違って、右手に赤黒い巨大な槍を持っており、その槍を闇雲に振り回し建物を次々と破壊していく。
ハル「雷拘束、大硬雷!」
海中の洞穴のハルトが雷の槍の先端をドスッ!と地面に突き刺したのと同時に、悪魔の足元に巨大な黄色い魔法陣が浮かび上がり、悪魔の動きを封じた。
ハル「俺が動きを封じている間に一斉攻撃だァア!」
ヒビ「任せたよ、ハルト君!」
青い天馬のヒビキが誰よりも早く古文書を起動させ、悪魔の弱点を探る。
その間に青い天馬のレン、イヴ、銀河の旋律のカオリ、ルチーア、アンナ、海中の洞穴のイレーネ、白い柳のシェナ、チルチル、気楽な禿鷹のリート、ラム、ジェニックが一斉に総攻撃をする―――が、
悪魔3「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
シェ「全然効いてないじゃない!」
ジェ「むしろ刺激を与えているだけじゃねーかよォ!」
シェナが悲鳴に近い声を上げ、ジェニックが頭を抱えながら言う。
レン「ヒビキ!アイツの弱点まだ分かんねェのかよっ!?」
レンが圧縮させた空気の球をぶつけながら肩越しに声を荒げる。
ヒビ「・・・それが、見つからないんだ。弱点はもちろん、あの悪魔の情報さえ、手掛かり一つ掴めなくて・・・それどころか、『極悪十祭』の情報さえ、何一つ見つからないんだ。」
ヒビキの手と目の動きが徐々に速くなっていく。
カオ「頭と情報での戦闘は不可能、という訳ね。」
ラム「魔法のみの戦闘か。」
リー「魔法が一切効いてないこのデカ物を、どうやって倒すんだよっ!?」
カオリとラムが冷静に呟き、リートが悪魔を指差しながら声を荒げた。
ヒビキ達が困っている中で、悪魔は身動きが出来ない為、その場で巨大な槍を振り回し次々と建物を破壊していく。街灯も破壊され辺りは真っ暗闇に包まれる。
ハル「うっ・・くぅ~・・・!」
イレ「ハルト!」
イヴ「無茶しちゃダメだっ!」
ずっと悪魔の動きを封じ続けているハルトの魔力は限界だった。瞬時にイレーネとイヴが駆け寄り地面から雷の槍を抜いた。それと同時に悪魔は自由になり、盛大に暴れ出す。
シェ「チルチル!」
チル「りょーかいっ!」
シェナに言われてチルチルは両手から太くて長い白い糸を伸ばし悪魔の右肩、左腕、両足を絡め取った―――が、
悪魔3「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
チル「えっ?う、うわわぁああぁああああっ!」
糸はいとも簡単に千切れてしまい(←シャレじゃないよっ!)、チルチルは遥か彼方まで飛ばされて行った。シェナが慌てて追いかけて行ったのは余談だ。
悪魔3「人間如きに、アタイ等悪魔は止められないよ。」
目の前にいる悪魔が口を開いた。ヒビキ達はしばらく呆然とその場に立ち尽くしたまま。
アン「悪魔が喋ったーーーーーっ!!?」
アンナが驚嘆の声を上げた。
ラム「喋れる悪魔・・・ねぇ。」
ルチ「は・・初めて、お目にかかったよ。」
ラムが眠そうな目を擦りながら呟き、ルチーアが額に手を当てて呆れたように呟いた。
そして声色的に、この悪魔はどうやら女(メス?)らしい。そして近所に住むオバさん口調である。
悪魔3「ここにおる者達は皆、弱者だけなのかい?アタイをもっと楽しませてくれる人間はいな―――ん?」
「いないのかい?」と言いかけた悪魔が首を傾げた。悪魔の視線が後ろにあるので、ヒビキ達も後ろを振り返った。
そこにいたのは、妖刀・紅桜を持ち、晒しと炎が描かれた赤い袴に身を包んだ妖精が1人―――――。
ヒビ「エルザさん!」
エルザの瞳は真っ直ぐ、目の前にいる悪魔だけを捕らえていた。傷だらけの足で、1歩1歩ゆっくりと悪魔に近づいていく。ヒビキ達は後ずさりし、固唾を呑んでエルザの事を見守っている。
悪魔3「アンタ、見るからに強そうな人間じゃないか。名はなんて言うんだい?」
悪魔がニヤッと口角を上げながら問う。
エ「妖精の尻尾の魔道士、エルザ・スカーレットだ。」
表情を一切変えずに、エルザは淡々と答える。
アンファ「エルザ・スカーレット、良い名前じゃないか。アタイは“極悪の悪魔”アンファミーって言うんだ。奈落に行くまでの間だけ、憶えといてくれりゃあありがたいねぇ。」
悪魔と人間の会話とは思えないくらい、エルザと親しげに会話を交わす“極悪の悪魔”アンファミー。アンファミーが構えた赤黒い巨大な槍の先端がエルザの顔スレスレの位置で止まった。ヒビキ達は思わず息を呑んだ。
アンファ「ハッハッハーッ!強そうなのは外観だけっ!アタイ等悪魔の前ではどんなに強い人間でも皆無力なのさっ!今すぐに奈落の果てに突き落としてやるからねっ!」
アンファミーは再び槍を掲げ、躊躇無くエルザの首元を狙って振り下ろした。
カオ&アン「エルザさん!」
レン&ジェ「避けろォオオオオオオッ!」
イレ「いやァアアァアアアアア!」
カオリとアンナが同時に叫び、レンとジェニックが同時に叫びながら手を伸ばし、イレーネが両手で顔を覆った。
アンファミーが振り下ろした槍の先端がエルザに直撃する!と誰もがそう思ったその時だった。
エ「ふん!」
アンファ「なっ・・!?」
首元に刺さる直前で、エルザは身を屈め腰を低くし槍を上手くかわした。槍はエルザの左足のすぐ傍に突き刺さった。
アンファミーが槍をかわした自分に気を取られている一瞬の隙に、エルザは自分の後ろ側に両手を着き、右足を高々と上げ槍の柄を思いっきり蹴り飛ばした。
アンファミーの手から外れた槍はくるくると弧を描き、半壊した時計台の三角屋根に突き刺さった。通常の人間の5倍ほどもある巨体の悪魔が手を伸ばしても届かない距離だった。
エ「悪魔の前で人間は・・・何だ?」
槍を蹴り飛ばした姿勢で、今度はエルザが問うた。その問いにアンファミーは答えず、ただ見開いた目でエルザを見つめているだけだった。
リー「す・・すっげー・・・」
ヒビ「さすが一夜さんの彼女さんだ。」
ルチ「こんな時に、場違いなボケをかますの止めようよ・・・」
リートがため息と共に感嘆な声を漏らし、ヒビキの場違いなボケにルチーアがツッコミを入れた。
アンファ「くくくっ・・!フハハハハハハハっ!」
エ「!?」
エルザが立ち上がったのと同時に、アンファミーが豪快に笑い出した。
アンファ「ヒヒヒ、どうやらアタイ・・ハハッ、人間を・・・プッ!甘く、見すぎてたのかも・・くくくっ・・・しれない、ねっ。アハハハハッ!」
必死に笑いを堪えようとしているが、口から笑い声が洩れてしまっているアンファミーが目に青白い涙を溜めながら言った。
ようやく笑いが収まったアンファミーが「ふぅ~」と一息つくとエルザは妖刀・紅桜を構えその場で戦闘態勢を取った。
アンファ「世界はまだまだ広いんだね、悪魔をこんなにも楽しませてくれる生物がいるんだからさっ。エルザ・スカーレット・・・だっけ?アンタ、マジで強いんだねぇ。アタイも少し本気出しちゃおうかねぇ?」
アンファミーは右肩に左手を添え、右腕と共に右肩をぐるぐると回す。気合十分、という事だろう。
エ「貴様は確か、“極悪の悪魔”アンファミーと言ったな?私の嫌いなものは“悪”なんだ。嫌いなものを自分で薙ぎ払う事が出来るとは、光栄だな。」
アンファ「悪魔と人間、どっちが強いかこの戦いで明らかになるねぇ。」
エ「最初から飛ばして行くぞっ!」
アンファミーとエルザの目からバチバチと火花が散る。
ハル「エ・・エルザさん、本気・・なんですか・・・?」
ヒビ「心配は要らないよ。相手が悪魔だろうが何だろうが、妖精の尻尾最強の女魔道士の前では歯が立たないよ。」
心底不安そうに呟くハルトに、前書きのような言葉を紡いだ後、ヒビキは確信を持った笑みを浮かべて新たな言葉を紡いだ。
ヒビ「妖精女王は、地に堕ちても舞い続けるからね。」
エルザはゆっくりと目を閉じる。
エ「(魔力も体力も、気力までもがもう限界を優に超している。ではなぜ、私は今、ここに立っているんだ―――――?)」
心の中で自分に問い掛けながら、地を踏み締め妖刀・紅桜を構えた。
エ「(それは・・・仲間の熱い想いが、私に届いているからだ。仲間の想いに答えるべく、仲間を助けるべく、私は、コイツを倒すっ!)」
閉じていた目をカッ!と見開き、地を小さく蹴り駆け出した。
エ「(私は、仲間を助けるっ!)」
今、仲間の想いに答えるべく、傷だらけの緋色の妖精が、“極悪の悪魔”に立ち向かう―――――。
後書き
第197話終了です!
本当は、10頭の悪魔全て書きたかったんですが、あまりにも文字数と時間ばかり長くなってしまいまして2頭だけにしました。次回も今回と同じくらいの文字数と時間だったら、恐らく2頭だけになる可能性アリなので、予めご了承下さい。
“悪魔”と言いながら、あまり怖そうなイメージの無い悪魔にしてみました。それにしても、関西弁で喋ったり近所に住むオバさん風の口調の悪魔って・・・
次回も今回と似たような内容だと思います。
それでは皆さん、オ・ルボワール!
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