劇場版・少年少女の戦極時代
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サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!
闘争の仕掛け人
その「戦争」は、夜明けを合図に始まった。
沢芽の街を闊歩する、二つの大規模軍団。
凰蓮と城乃内が率いる傭兵部隊に加え、何十体ものスイカアームズの戦士。
貴虎が率いる、大量の地上のトルーパー部隊と、ダンデライナーに乗って滞空する量産型黒影。
――戦いは、両者を率いる三者が変身したことで、火蓋を切って落とした。
乱戦――否。もはや地上は、小規模の戦争をしているような有様だった。
生身の傭兵が量産型黒影に向けてマシンガンを連射し、量産型黒影は生身の傭兵に槍を揮う。
ナパーム砲でビルが爆発し、黒煙を上げる。
黒煙の数は何秒と数えない内に増えていった。
咲とラピスは、夜を明かしたビルの屋上から、地上で争う人々とアーマードライダーを見下ろしていた。
「どうして……命を奪い合わなくてもいい戦い方を、人間は持っているのに……どうしてこんな!」
ラピスは悲しげに、あるいは悔しげに、金網を叩いた。そして、ずるずるとその場に膝を突いて、項垂れた。
いつもなら何かしらスキンシップを図って相手を慰める咲も、ラピス相手にそれはできなかった。
ラピスの「顔」が、「彼」と同じ「顔」が、ラピスに触れることを咲に恐れさせた。
どのくらいの時間、ただ動かず見つめていただろうか。
やがて、ラピスがぽつりと口にした。
「サキ。ボクをあそこに連れて行って」
「……いいよ」
咲は戦極ドライバーに開錠したヒマワリの錠前をセットし、カッティングブレードを叩き落とした。
《 カモン ヒマワリアームズ Take off 》
月花へ変身し、ヒマワリフェザーを広げた。ん、と両腕をラピスに差し出すと、ラピスは月花に体を預けた。
月花はラピスを担いで飛び立った。
現場は小康状態に入っていたものの、酷い有様だった。あちこちのビルから煙が上がり、街路には足の踏み場もないほど転がる傭兵と量産型黒影。
月花はラピスと共に、被害がなかった天井付き階段に降りた。
ラピスは死屍累々とした光景を見下ろし、苦しげに顔を歪めた。咲はとっさにラピスの顔から目を逸らした。
(そんな顔されたら思い出しちゃう。あたしがいじめてたあの子のこと)
「ようやく見つけた」
咲ははっと顔を上げた。見上げれば、階段の最上段に光実が立っていた。
「光実くん」
「久しぶり、でいいのかな、ここは。それとも初めまして?」
「光実くん、あたしが分かるの?」
「そう言うってことは、咲ちゃんも、僕の知ってる咲ちゃんなんだね」
光実はブドウの錠前を構えたまま、階段を降りてくる。
「あそこで戦ってたのはキミの兄さんだろ? 見殺しにしたのか?」
「それより重要なことがあるからね」
階段を降りきった光実は、ラピスを鋭く睨んだ。
「戦極凌馬の研究を調べた。お前が全ての元凶だな」
「え!?」
光実は語った。――戦極凌馬は、オーバーロードの遺物から、黄金の果実を造り出す研究の痕跡を見つけ出した。凌馬が「黄金の果実を造る研究」を再現しようとして、現れたのがラピス――シャムビシェだった。
「何が目的か、どんな手段を使ったかは分からない。けど僕たちをこの偽りの沢芽市に閉じ込め、アーマードライダーを消していった犯人はお前だ。違うか?」
「ま、待ってっ。光実くん、待って」
咲はラピスと光実の間に立った。
「ラピスにそんなことするメリットなんてないよ。だってラピスは平和な世界がスキなんだもん」
「その平和な世界に、力の象徴たるアーマードライダーが邪魔だと判断して、こんな手に出たとも考えられるよ」
「そんなっ」
「現に! 碧沙はこの世界では、笑うことも泣くこともできず、ただ眠り続けてる!」
今までずっと欲しかったヘキサの情報なのに、素直に喜べない内容だった。
「……え?」
「碧沙はヘルヘイム抗体保持者。ヘルヘイムが世界に手を加えたせいで、碧沙の中の抗体がヘルヘイムを拒んで、小さな碧沙はあのザマだ。この世界で真っ先に、ヘルヘイムに抗いうる抗体保持者の碧沙を封殺した。それが証拠だ」
ヘキサは病院にいた。光実、それに貴虎の、眠り姫として。
「――確かにキミたちをこの世界に巻き込んだのはボクだ」
「ラピス!?」
真実であっても、この状況で告げるのは、自分が犯人だと認めるようなものだ。
「なら帰してもらうよ。僕には本物の兄さんと碧沙を守る役目があるんだ。こうしてる間にも、僕らの本当の世界はオーバーロードに壊されていってるんだから」
いざ光実がブドウの錠前を開錠しようとし――
『早とちりするなよ』
咲たちは驚いて階段の上を見上げた。そこに立っていたのは、民族衣装姿のサガラの、ホログラムらしきものだった。
「サガラ? どうして」
「――蛇か」
『そいつを倒されちゃ困るんだ。「この」沢芽市を創ったのは確かにそいつのしわざだが、それとアーマードライダーの消滅は別の話だ』
「どういうことだ」
『この事態の真犯人を封じていた“楔”、それこそがそいつの役目だった。だが、戦極凌馬は“楔”を抜いて“果実”を覚醒させちまった』
「真犯人ってだれ!?」
サガラはにやっと笑った。
『黄金の果実そのものだよ』
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