劇場版・少年少女の戦極時代
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サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!
アーマードライダーの消失
咲は紘汰と裕也と共にシャルモンの玄関を潜った。
(前はあの人、アマチュアだのなんだの言うから、キラって近よらなかったから、そういえば来るの初めてになるんだっけ)
ヘキサが好きになるくらいのケーキだから、きっとおいしいのだろう。そう考えるとワクワクしてきた。
先頭に立った裕也が店のドアを開けようとした時だった。
すぐ横の店の窓が、窓枠ごと割れ、人が転がり出た。
「城乃内!?」
紘汰が駆け寄るより早く、割れた窓からさらに人が飛び出した。その人物を見て、咲は棒立ちになった。
「初瀬、くん」
ヘルヘイムの果実を食べてインベスとなり、死んだはずの初瀬が、目の前にいる。
ここが別世界であることを差し引いても、幼い頭では処理が追いつかなかった。
初瀬は倒れた城乃内に馬乗りになり、城乃内を殴りつけている。
「俺が何したっていうんだよ!」
「うるせえ! お前が本当は俺のこと馬鹿にしてんのは分かってんだ!」
ドアが内側から激しく開け放たれ、凰蓮が足並み荒く初瀬と城乃内に歩み寄った。
「もう! いい加減にしなさい! お客様の前で!」
凰蓮はあっさりと初瀬を掴み上げ、庭に転がした。
「こ、紘汰くん……」
つい上げてしまった情けない声。だが紘汰は応じ、咲を彼自身の背中に隠してくれた。
「力だ。力さえあればもう誰にも馬鹿にはさせねえ」
起き上がった初瀬は、戦極ドライバーを装着し、マツボックリのロックシードを開錠した。
「変身!」
《 ソイヤッ マツボックリアームズ 一撃・イン・ザ・シャドウ 》
黒影は影松を凰蓮に向けて突き出した。生身の凰蓮に対して、本気で。
だが、そこは凰蓮も戦闘のプロ。単調な攻撃を紙一重で上手く躱し、黒影に足払いをかけて転ばせた。
「まだオシオキが必要かしら?」
『このヤロ……ぐあ!?』
再び特攻しようとした黒影が、なぜか苦しげに胸を押さえて膝を突いた。
蔓、だ。金色の葉を茂らせた蔓が、寄生生物のように黒影の全身の至る所に広がっていく。
そして蔓が黒影を覆い尽くした瞬間、黒い粒子と散って、消えた。
黒影はどこにもいなかった。黒い葉の蔓が巻きついた鎧の一部さえ、すぐ分解してロックシードに吸い込まれて消えた。
「初瀬、ちゃん――?」
訳の分からない事態が立て続けに起き、咲は息ができなくなりそうだった。
「! ラピスっ?」
「えっ」
紘汰が走ってシャルモンの玄関から出て行った。
咲は裕也をふり返り、謝罪の気持ちで頭を下げてから紘汰を追いかけた。
ようやく咲たちがラピスに追いついた時、ラピスは戒斗とザックの間で、戒斗に胸倉を掴み上げられた状態だった。
「さあ。知ってることを全て話せ」
「おい! 落ち着け、戒斗」
紘汰が割って入り、戒斗の手をラピスから引き剥がした。
「ラピス、だいじょうぶ?」
「うん……」
「邪魔すんな、葛葉紘汰。こいつはペコの仇かもしれねえんだ」
「……どういうこと?」
「ペコが消えた時、こいつは近くで俺たちの様子を窺っていた。何か知ってる」
咲は思い出す。シャルモンで、枯葉となって消えた黒影――初瀬。
(まさかペコくんも? で、でもペコくん、ドライバー持ってないはずなのに。それとも『この世界』ではペコくんもアーマードライダーだったの?)
「ラピス。どういうことなんだ」
ラピスは俯き、唇を噛むばかり。
「おねがい、ラピス、おしえてっ。ラピスがそんなことするわけないよね? ね?」
「こいつじゃなけりゃ他に誰がやったっつうんだよ!」
「わかんないよ! それでもラピスじゃない!!」
「~~っああもうめんどくせぇ!」
ザックが頭を掻き毟った。その目には、まぎれもない憎悪が。
「いいからやっちまおうぜ、戒斗!! こいつのせいでペコは……絶対許さねえ! 変身!!」
《 クルミアームズ Mister Knuckle-man 》
ザックはいつの間にか装着していたドライバーに、クルミの錠前を嵌め、ナックルへと変身した。
止めようと両脇から紘汰と戒斗がナックルに掴みかかった。しかしナックルは紘汰と、彼のリーダーであるはずの戒斗さえ突き飛ばし、ラピスに迫った。
「やめて、ザックくん!」
ナックルがラピスへとクルミボンバーを振り上げた直後――金の蔓がナックルを覆った。
『あ、ぅあ、あああッ!』
ナックルは痛みに悶えるように道に転がり、黒い粒子を散らして――消えた。
落ちた鎧の残骸は砕け散り、黒い枯葉を残して、クルミのロックシードに吸収された。
「そんな……ザックまで」
「ザック……ッ、貴様ぁ!」
戒斗の怒りの矛先はラピスに向いた。
(たしかに、ジョウキョウだけ見たらラピスがなにかしたみたいに見える。けど、けど!)
咲は迷いに迷った末に、戦極ドライバーを装着し、ヒマワリの錠前をセットした。
「ごめん……!」
《 カモン ヒマワリアームズ Take off 》
ヒマワリアームズをまとって月花に変身するや、月花はラピスに抱きつき、ラピスを抱えて空へ飛び立った。
「ジュグロンデョ!?」
『ごめん! あの場にいたらまずいと思って。少しガマンして!』
しばらく飛び、二人は現場から遠く離れたビルの屋上へ着地した。
咲はロックシードを閉じて変身を解いた。
ラピスは咲の前を離れ、屋上の落下防止用の金網まで歩いて行った。見下ろす街の景色は、ラピスの目にはどのように映っているのだろうか。
「どうしてみんな憎み合うんだ。せっかく誰も傷つけなくていい戦い方があるのに」
がしゃん!
ラピスは金網を強く掴んで項垂れた。
「こんなはずじゃ、なかったのに」
咲は何も言えず、できず、ただラピスの背中を見つめていた。
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