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劇場版・少年少女の戦極時代

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サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!
  サッカーを応援しよう

(男の子にここまで話したの、はじめて。今まで相談した相手、ヘキサにお母さんにセンセー……ぜんぶ女の人相手だったから。なんか新鮮)

 もっとも話すために「色々」思い出したから、胸の裡はひどく重いのだが。

「ねえ。サキもボクの世界に来ない?」
「シャムビシェの、世界?」
「ボク、さっき会った人間のおにいさんに、サッカーっていうものを教えてもらったんだ」

 くるん。手品のようにどこからともなくサッカーボールが現れた。
 シャムビシェはボールを宝物のように、大切に両手で掴んだ。

「同じ戦いでも、サッカーなら、憎み合うことなく戦える。ボクはそんな世界を創って、そこでサキやあのおにいさんみたいな人間と一緒に過ごしてみたい」
「いいよ」

 罠かもしれない。だが、「彼」と同じ「顔」をしたシャムビシェによるものなら、それは室井咲への正当な罰のような気がした。

「手を出して。目を閉じて」

 咲は言われた通りにシャムビシェの手に手を載せ、目を閉じた。
 視界が閉ざされた中、小さくだが、何かが聞こえ始めた。これは、歓声だ。

「目を開けて」

 瞬間、わっ、と歓声が体全体を揺さぶった。




「ここ……サッカースタジアム? あ!」

 咲がシャムビシェと共に座っていたのは、スタジアムの真ん中の応援席の最前列。

 両サイドのゴール後ろの応援席は、それぞれ赤と青のサポーターで溢れ返っている。

『鎧武! 鎧武!』
『バロン! バロン!』

「鎧武とバロン、って……ええ!?」

 電光掲示板を見やって咲はつい立ち上がった。試合をするチーム名が「鎧武」と「バロン」と表示されている。しかも、選手枠の下のほうだが、紘汰と戒斗の名前がばっちり載っていた。

「ザックくんとペコくんまでいるし! 何で!? てゆーかザックくん、キーパー似合うなあ!」

 試合開始のホイッスルが鳴った。

 チームはユニフォームのカラーで分かるが、どれが紘汰や戒斗なのかは、忙しなく入れ替わり立ち代わりする選手たちの中では分からなかった。

(ああん、もう、じれったい!)

 咲は立ち上がり、鉄柵にくっつくほどに前に出て、叫んだ。

「鎧武、バロン、ふぁいっとー!」
「何してるの?」
「オーエンするの。がんばれ、ってだれかが言ってくれたら、やる気出るじゃん」
「応援……」

 幸いにして咲たちがいるのは、観客席のちょうど境界。チーム鎧武もチームバロンも、どちらを応援してもおかしくないポジションだ。

「紘汰くん、戒斗くん、ふぁいっとー!」
「ふぁ、ふぁいとー!」

 咲の真似をして慣れない激励を叫ぶシャムビシェはかわいい――と思いかけ、咲は大きく首を振った。

(シャムビシェは男の子なんだから。男の子に「かわいい」なんて思っちゃだめなんだから)

 咲は改めてグラウンドに集中した。

 第一ラウンドが後半に入ってから、紘汰も鎧武に変身した。

 鎧武とバロンが同時に高くジャンプする。果たしてボールを蹴るのはどちらか。咲は両手を組み、息を凝らして見つめた。
 ボールを蹴ったのは鎧武のほうだった。
 鎧武はオーバーヘッドシュートでバロン側のゴールにボールを蹴り込んだ。さすがのナックルも受け止めきれなかったらしい。ゴールが決まって、チーム鎧武に1点が入った。

「やったあ!」

 わあっ、と歓声を上げる、チーム鎧武側のサポーター。

 ――その後も鎧武はアーマードライダーとしてのスペックを遺憾なく発揮し、チーム鎧武の点数を勝ち越したままで試合終了となった。





「おにいさん、すごい。あんなにサッカー上手なんだ」

 シャムビシェは未だ熱冷めやらぬ様子で呟いた。

「え? てことは、シャムビシェにサッカー教えた人って、紘汰くんなの!?」
「名前は知らない。けど、あの人だよ」

 シャムビシェは立ち上がった。その顔は抑えきれない興奮に熱している。
 咲は慌てて、シャムビシェのパーカーを引っ張った。シャムビシェが紘汰に会いに行きたいと思っているのが伝わったからだ。

「サキ?」
「あたしたちね、元の世界でオーバーロード……フェムシンムの生き残りと戦ってるの。だから、シャムビシェって名乗ったら、紘汰くん、ヘンにケイカイしちゃうかも。だから、そのぅ」
「名乗りを変えればいいんだね」
「う、うん。“シャムビシェ”って、フェムシンムのコトバだとどういう意味?」
「――紺色とか瑠璃色とか、そういう感じだったと思う」

(コン、だとキツネっぽいし。ルリ……は、女の子の名前っぽいから、だめだ。男の子につけちゃダメな名前だ。英語だと紺色って……あー、思い出せないっ。瑠璃ならラピスラズリって宝石あるから分かるんだけど……お?)

「ラピスラズリってどうかなっ? ルリ色の宝石の名前」
「呼びにくくない?」
「あぅ」
「でも響きは好きだな。そうだっ。縮めて『ラピス』でどうだろう。これなら人間の発音でも呼びやすい?」
「よびやすい! じゃあ今から、シャムビシェあらためラピスでっ」
「うんっ」

 ラピス、ラピス、と彼は何度も口にした。喜んでもらえたようで、咲も嬉しくなった。 
 

 
後書き
 公式では触れられなかったのをいいことに、ラピスの命名は咲がしちゃったことにしてしまいました。 
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