劇場版・少年少女の戦極時代
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サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!
咲とシャムビシェ
空を飛んでいた月花は、壊れて屋根がない教会を見つけた。月花は降り立ってヒマワリフェザーを畳んだ。
フェイスマスクの中で零れるのは、溜息。
(紘汰くんは今ごろどっかでインベスと戦ってるのかな)
――二人で共に戦うより、互いの無事と戦果を信じて別々に街を守ろうと、二人で決めた。以来、紘汰とは会っていない。
(ヘキサ、どこにいるの?)
そもそも紘汰と別行動を取ることにしたのは、レデュエに囚われた兄たちに会いに行く、と出て行ったヘキサを探すためだ。
だが、手がかりもなく、人のいない沢芽市で聞き込みもできず。ただインベスとエンカウントしてはそれらを撃退する日々。小学6年生女子の精神を摩耗させるには充分に過ぎた。
(ヘキサに会いたい。会いたいよ、ヘキサ)
月花はそれだけを想って、瓦礫の上に腰を下ろし、膝を抱えた。
じゃり。割れて散らばったステンドグラスを踏む音。インベスにしては軽い。月花は気だるく顔を上げた。
そして、仮面の下で両目を見開いた。
月花の前に立つのは少年だった。だが、少女と言っても通りそうな中性的な顔立ちをしている。
その、顔立ちこそが、室井咲の人生最悪の思い出を想起させた。
「ジュグロンデョ……王の選定に降り立った天空神。本当にいたんだ!」
少年は表情を輝かせ、月花に対して一歩を大きく踏み出した。月花に、近寄った。
あ、あ、と言葉にならない声を上げて後ずさる。
「? ジュグ……」
彼が月花に向けて手を伸ばした瞬間が、限界だった。
『――なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
「ちょ、え? ジュグロンデョ?」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
瓦礫から転がり落ちた拍子に変身が解けた。だが、そんなものは咲には関係ない。
咲は近くの長椅子に背中をぶつけてなお、少年から逃げようとした。
「もうしない、もうしないからゆるしてぇ! やだぁ、スプレーやめてぇ! 撮らないでぇ!」
「ジュグロンデョ! しっかりして、ジュグロンデョ!」
少年が咲の両の二の腕を掴んで揺さぶった。外界からのショックで、咲の目はようやく現実に焦点を結んだ。
「あ……」
「――ボクが、怖いの?」
咲の頬に付いた何かを、少年の人差し指が掬った。目を射る、刺々しいデザインの銀の腕輪。
「泣いてる」
咲も自分で自分の頬を触り、愕然とした。もう泣かないと、ずっと前に決めたのに。今日まで涙など流したことはなかったのに。
「う、ん。こわい――こわいの。あなた、が、あなたの、顔、あたしがいじめてた子と、おなじ」
「いじめ? それは何?」
「なに、って……、……悪いこと、だよ。人をキズつけて、泣かせて、それを楽しがる、サイテーなこと」
「ジュグロンデョは他者を貶めて楽しむ種なの?」
「ち、がうよ! あれは……あたしが、あたしだけ、ヒドイ子だったから」
咲は少年を見上げた。少年はヒマワリフェザーを見て「ジュグロンデョ」と呼んだ。おそらく少年はオーバーロードだ。
けれども、彼が咲にジュグロンデョを見出したように、咲も彼の顔立ちに遠くない日の「彼」を重ねた。
壊れた教会の汚れた長椅子に、少年と並んで座り、咲は自身の過去をつまびらかにした。
――室井咲は昔、他人を「いじめ」に遭わせたことがある。
同じダンススクールの男子生徒をターゲットにした。男とも女ともつかない造作で、今思えば、この少年のように中性的で神秘的な顔立ちだった。
それを咲は「女顔」と嘲り笑い、男子にとっては屈辱的な「女扱い」をいくつもけしかけた。謝っても謝っても雪げない罪だ。
「教会でこんなこと言ってるって、なんか、懺悔みたいね」
「ザンゲ?」
「神さまに罪を告白して、ゆるしてもらうこと。あたしもしばらくはおせわになった」
「彼」がダンススクールを辞めてから、いじめのターゲットは咲に変わった。
いじめられる側になって初めて、咲は自分がどれだけひどいことを「彼」にしたかを理解し、その重さに潰れそうになった。
そんな時に、ヘキサが教会での懺悔を勧めてくれた。
「あ。ってことは、今聴いてくれてるあなたは、あたしにとっては神さまね」
「神、様? ボクが?」
「うん。おかしい?」
「おかしいよ。キミのほうこそ神様なのに」
大真面目に言う少年に対して、咲は苦笑しかできなかった。
「あたしはジュグロンデョかもだけど、人間だよ。咲ってゆーの。む・ろ・い・さ・き」
「サキ……ボクはシャムビシェ」
「よろしく、シャムビシェ」
「よろしく、ジュグ……サ、キ」
ちゃんと名を呼んでくれたシャムビシェ。咲は今度、ちゃんと笑うことができた。
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