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この世で一つだけのメリー=クリスマス

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第三章


第三章

 クリスマスになった。本当に時間は待たないもので何をしてもクリスマスもやって来るのだ。彼は夜になるとアパートを出て待ち合わせ場所に向かった。当然今できる限りで最もいい服を着ている。そうして待ち合わせ場所のデパートの前まで来るともう普段より三割化粧を決めて着飾っている未来がいたのであった。
「待った?」
「いいえ」
 未来はにこりと笑って光男に答えてきた。それは本当のことのようで彼女の笑みは余裕のあるものであった。
「今来たところよ」
「そう、よかった」
 光男はそれを聞いてまずは安心したのだった。
「それじゃあその予約取っている」
「レストランよ」
 未来はそう答えた。
「ドイツ料理の。それでいいわよね」
「ドイツ料理なんだ」
「何かおかしいかしら」
 光男の言葉の調子が少し微妙なので彼に尋ね返した。
「ドイツで」
「いや、イタリアじゃないんだなって思って」
 光男が思ったのはそこであった。実は未来は無類のパスタ好きであり一週間に一回は食べているのだ。その彼女がイタリア料理でないのが少し変わっていると思ったのだ。
「私だっていつもイタリアじゃないわよ」
 それが未来のコメントであった。特に思い入れはないようである。
「たまにはね。ドイツもいいじゃない」
「ドイツねえ」
 光男は彼女のドイツという言葉にふと考えたのであった。イタリア料理は結構色々と考えつくのだがドイツ料理となると。思いつくものがあまりにも限られていた。
「ハンバーグとか?」
「嫌いじゃないわよね」
 光男に問い返してきた。もう二人は歩き出している。見れば光男が黒いコートとスーツで未来が白いコートに赤い上着と白のロングスカートだ。実に対比的である。
「いつも食べてるし」
「うん」
 未来のその問いに頷いた。実際に彼はハンバーグが好きである。
「じゃあいいじゃない」
「後はジャガイモにソーセージかな」
「ええ、それよ」
 それしかないとも思った。ドイツ料理といえば本当にジャガイモとソーセージだ。まずこれは外せない。あまりにも予想通りであった。
「あとザワークラフトと」
「クリスマスかなあ、それって」
「ローストチキンばかりじゃあれじゃない」
 未来はまた言う。
「だから趣向を変えてね。何なら鶏だって」
「頼めるか」
「そういうこと。それに何より」
 ここで未来の顔が満面の笑みになった。それには充分な理由があった。それは。
「ケーキとワインが」
「あっ、そうか」
 ここで光男はやっとわかった。何故彼女が今回に限り趣向を変えたのか。そうした理由があったのだ。素晴らしい理由が。
「その二つで決めたんだ」
「そうよ。やっとわかったわね」
 やっとわかった光男の顔を見て笑っているような、それでいて困っているような、苦笑いとはまた違った複雑な顔を見せてきたのであった。
「どうしてドイツにしたのか」
「うん、それなら」
「やっぱりケーキとワインよ」
 どちらも大好きな未来らしい言葉であった。
「特にクリスマスなんだしね」
「クリスマスだからなんだ」
「そうよ。それで」
 ここで彼女は話を本題に向けるのであった。目の色が一変した。
「持って来たわよね」
「勿論」
 光男ははっきりと答えたのであった。
「とびきりのをね」
「私もよ」
 未来は自分の鞄を見ながら笑うのであった。どうやらそこには彼女の自慢のプレゼントがあるらしい。その笑みでそれがわかる。
「期待しておいてね」
「君もね」
 光男は光男で自分の鞄を見る。黒い大きな鞄であった。
「僕のも期待していいから」
「随分強気なのね」
 未来は光男のその言葉に面白そうに笑った。
「いつもよりもずっと」
「それだけのものだと思うから」
 本当に自信に満ちた笑みを見せるのだった。
「苦労したし」
「私だって苦労したわよ」
 未来も同じ言葉で彼に返すのだった。
「それもかなりね」
「何かお互い苦労したみたいだね」
 光男は彼女の言葉も聞いて何かそうした気持ちになった。別に苦労しなくてもいいのにあえて苦労をした、そうしたプレゼントなのだなとも思った。
「けれどそれがね」
「ええ。プレゼントのしがいがあるわ」
 未来は言う。
「私もね。光男君もでしょ」
「そうかも。多分未来ちゃんと同じ気持ち」
 光男もそれを認めるのだった。
「それじゃあその同じ気持ちで」
「楽しい時間を過ごしましょう」
「クリスマスのね」
 そう話をしてそのドイツ料理の店に行く。まずは簡単なサラダとジャガイモのコンソメスープが出る。サラダはともかくスープにジャガイモが入っているのはまたドイツらしかった。
 
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