| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十二話 覚醒

ハンターベースの医務室ではゲイトがエックスとゼロの容態を見ていた。

エイリア「ゲイト…」

ゲイト「やあ、エイリア。お疲れ。」

エイリア「ええ、これ…差し入れよ」

エイリアがゲイトに手渡したのは、紙コップに入れられたコーヒーである。
甘い物は嫌いではないために疲れている彼には砂糖とミルクをいつもより少し多めに入れておいた。

ゲイト「すまないね…」

ゲイトは礼を言うとコーヒーを一口啜る。

エイリア「ごめんなさい…私も何か手伝えたらいいんだけど……」

ゲイト「構わないさ。君は僕とは比較にならないくらい多忙なんだから。多忙の君に手伝わせたら僕がエックスに殺されるよ」

エイリア「ふふ…」

ゲイトの冗談にエイリアも笑みを浮かべた。
こうしていると昔に戻ったような錯覚を覚えた。

ゲイト「それにしても…厄介なウィルスだったよ。最新型のシグマウィルス…自己進化、自己増殖、自己再生の能力を持つシグマウィルスのワクチンの作成には流石の僕も骨が折れたよ…」

エイリア「また…シグマの仕業なのかしら」

ゲイト「そうなんじゃないか?ご多分に漏れず、さ」

過去の戦いは全てシグマが元凶であった。
人類に反旗を翻した最初の大戦から全てが…エックス達の長い戦いが始まった。
今では世界を破壊するために蘇る邪悪なる覇王にして死神。
彼は人もレプリロイドも関係なく、全てを滅ぼそうとしている。

ゲイト「それよりももっと気になることが分かったんだ」

エイリア「え?」

ゲイト「今回改めてエックスとゼロを解析したんだけど…彼らの出生が遂に分かったんだよね。まあ、大体予想は着いてたけど」

不敵な表情を崩さぬ彼には珍しく、真剣な表情を浮かべていた。
自然にエイリアも気を引き締めた。

ゲイト「エックスとゼロは…彼らは100年前の天才科学者、Dr.ライトとDr.ワイリーの最後の作品なのさ」

エイリア「…………」

ゲイト「君はエックスからある程度は聞いていただろうけど。彼らのメモリーを調べていたら、僅かに残っていたんだ。制作者の情報がね。エックスにはDRN(Doctor Right Numbers)。ゼロにはDWN(Doctor Wily Numbers)と刻まれていた」

西暦20XX年に生きた科学者の名前だ。
化学技術が発展した現在でも、2人の名前はレプリロイド工学史に存在する。
2人が開発した技術は未だに解明出来ない部分が多い技術であった。
レプリロイド研究員だったエイリアも、2人の天才の存在を耳にしている。
それどころか、彼女は“禁断の地”に侵入したイレギュラーを処分したことがある。

Dr.ライトとDr.ワイリー。

2人はレプリロイド工学を究める者達にとって、遥か高みであり、また越えられぬ壁でもあった。
エックスとゼロは、その2人の最後にして、最高の作品であった。
2人は生まれながらに相争う宿命を課せられた。

ゲイト「思えば不思議な話だ…。本来なら殺し合うべき2人が、親友として互いを支え合っている……。2人の出生を考えれば…本来なら絶対に有り得ないことだ。」

ワイリーは世界を征服せんとした狂科学者だった。
ライトは友人であり、ライバルだった彼を止めるために、自らの息子、家庭用ロボット、“ロック”を戦闘用ロボットに改造した。
ゼロはロックマンを倒すために、最後のワイリーナンバーズとして造られた。
正義のロボット、“ロックマン”の称号はエックスに受け継がれている。
つまり、本来なら2人は戦う運命にあった。
しかし運命の悪戯か…2人は命を共にする親友となった。

エイリア「きっと…2人は宿命を乗り越えたのよ」

ゲイト「そうだね…それからエイリア。アクセルのことなんだが…」

エイリア「アクセルがどうしたの…?」

ゲイト「…新世代と旧世代の差はあれど、アクセルの内部機構とゼロの内部機構が酷似していたんだ…」

エイリア「え?」

ゲイト「これは、あくまでも推測なんだが……アクセルもワイリーナンバーズ……正真正銘、Dr.ワイリーの最後の作品ではないかと僕は考えている。」

エイリア「どういうこと?」

ゲイト「確信を持つようになったのはゼロとアクセルの内部機関と自己強化能力の共通点だよ」

エイリア「自己強化?」

ゲイト「エイリア、ゼロは戦う度に能力を強化することが出来る。その理由は何だい?」

エイリア「ラーニングシステムよね?DNAデータ等を解析することで自身の能力を強化する……」

ゲイト「アクセルのコピー能力も正にそれなんだ。アクセルはプロトタイプ故にコピーするためには倒したレプリロイドのDNAデータをコピーしなければならない。しかしそれを繰り返していくごとにアクセルの能力は強化されていく。こればかりは完全な新世代型にも同じプロトタイプのルナにもないアクセル固有の能力…。」









































月のシグマパレスの一室で室内に満ちていた光が消え、シグマは口を開く。

シグマ「かつて、世界を二分する2人の天才科学者がいた。1人はその頭脳を平和のために使い、もう1人は己の欲のために用いた……。奇しくも2人は最後に己の最高を自負するロボットをそれぞれ造り上げた……。」

詩を吟ずるように語ったのは、今から約100年も昔の伝説である。
2人の科学者が生きていた“過去の大戦”によって滅びた世界の話。
西暦20XX年の記録は過失か意図的にか、存在を闇に葬られた。
現時点でアクセルにもハッキリと分かっているのは、かつてのスペースコロニー・ユーラシアを破壊するのに使われたギガ粒子砲・エニグマがその100年前の大戦で造り出されたことくらいだ。
シグマはケイン博士の元で働いていた頃、朧げに伝説を聞いていた。
その後、カウンターハンターのサーゲスやスペースコロニー・ユーラシアの事件を進言した男によって伝説と英雄の秘密を知った。
善なる科学者に造られた蒼き英雄と、悪しき科学者によって生み出された紅き破壊神。

シグマ「そしてお前は、悪しき科学者の手によって、エックスと裏切り者のゼロを凌駕するために造られたのだ。2人を倒し、最強のレプリロイドとなるためにな」

アクセル「嘘だ!!」

悲鳴に似た叫びが、宮殿の壁を打ち、反響する。
アクセルの翡翠色の瞳が、悲痛な色に染まっていた。

アクセル「僕はエックスやゼロ達に憧れてハンターになったんだ!!2人を倒すために生まれたなんて、そんなの嘘だ!!」

シグマ「事実なのだよ、アクセル」

哀れみと愉悦が混じった面持ちで言う。

シグマ「お前の記憶が教えただろう。お前は2人を超えるために造られた。新世代型のレプリロイドなのだよ。」

アクセル「嘘だあああああああああ!!!!」

絶叫が、酷薄な空気を震わせたかのように思える。
だが冷たい空も、漆黒の闇も、決して晴れることはない。
アクセルの胸に芽生えた絶望は、彼の全身を暗く侵していく。

シグマ「お前はプロトタイプ…。だが、潜在能力は新世代型をも上回るのだ。新たに造られた者が、古くに造られた者に勝るとは限らん…。エックスやゼロ、ルインやルナという小娘、我が配下の四天王、VAVAもそうだ。お前は強い……。お前はエックスとゼロを倒し、DNAを手に入れるのだ。そうすれば最強のレプリロイドとなれる」

アクセル「嫌だ!!そんなことするもんか!!僕は…僕は……」

シグマ「お前がエックス達に憧れるのも、お前に課せられた使命のためなのだよ、アクセル。深い闇に覆われたメモリー領域……。その中に、確かに存在するだろう?創造主の望みが…」

アクセル「僕は僕だ!!そんな奴のことなんか知らない!!」

もし両腕が自由ならば、耳を塞いでいただろうが、拘束されていたためにそれも出来ずに、声を張り上げて否定するしか出来ない。
シグマは自身の使命に悩み苦しみアクセルを嘲笑うように口を開いた。

シグマ「聞き分けのない子供だ…流石はアルバート・W・ワイリーの最後の作品だ…頑固さは奴と似ている」

そう言ってアクセルの頭を鷲掴む。
シグマの手に宿る光が、青白い月の光を思わせた。
熱はなく、代わりに寒気がアクセルを襲う。

シグマ「本来のお前に戻してやろう…。感じるだろう?封印された力を、圧倒的な力の奔流を…」

アクセル「…あ……う………」

頭部を掴まれた痛みはない。
彼を苛むのは、光によって、秘められた圧倒的な力が急激に解放されていくことによる苦痛。
否…苦痛と呼べるかどうかも怪しい。
全身を駆け巡る力が、高揚感を与える。
全身が疼き、突き抜けるような気持ちになると同時に封じられていたもう1人の自分が目覚めようとしている。

アクセル「が…ああ……」

内なる自分が目覚めようとしている。
冷酷で残虐な人格が。
自身が忌み嫌う“イレギュラー”が目覚めようとしている。

『やっとだ…』

アクセル「(誰…?)」

頭に響いてきた声にアクセルが反応する。

『誰だって…?おかしなことを言うね…僕は…君だよ。ようやく“異物”の君から僕を取り戻すことが出来る…』

アクセル「(止めろ…止めて…)」

『元々君は最初から不要だった。よくも今まで異物の癖に僕の身体を使ってくれたね…とっとと消えなよ』

電子頭脳に響く声に反応するかのように視界が一気にぼやけていく。
すると力の奔流が急速に力を増していく。

シグマ「目覚めるがいい、アクセル…」

アクセル「嫌だ…」

“自分”が消えていく。
エックス達との記憶が消えていく。
レッドアラートとの記憶が引く波のように消えていき、レッドの頼もしい笑顔が消えていく。
脳裏に走馬灯のような映像。
血に塗れた陰惨な記憶。
口汚く罵る科学者。
施設を脱走する自分。
もっと昔、カプセルに収められ、悪しき科学者の呪詛の如き野望を語られる自分。
おもむろに開いた瞳は血を思わせるような色をしていた。
自分が消え、別の自分になる。
2人を殺すために生まれた自分に。
アクセルの意識が途切れた。 
 

 
後書き
アクセル覚醒。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧