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聖魔弾の銃剣龍神皇帝と戦姫

作者:黒鐡
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第2巻
  タトラ山での攻防

翌日。早朝のブルコリネ平原はぼんやりとした霧に覆われていた。まあこの世界の人間なら、霧という存在が太陽のエネルギーを冷気に残る草原に浴びせたのだろう。

「エレン、お前らは後退しろ。俺がこの先を見てくる」

俺がライトメリッツ軍を後退させた理由はこの霧の所為だ、この世界の人間達は霧の中は人の感覚を狂わせると考えるから。なので三ベルスタまで後退したが、俺はそのまま真っ直ぐ歩いて行った。オルミュッツ軍がいるとされているところに到着すると、撤退済みのようでまだ兵達がいた。俺をライトメリッツ軍の者と勘違いして襲ってきたので、後で蘇生させてやると言ってから剣で一太刀。撤退中の最後尾だったらしいと上空にいる偵察機からの情報だった。俺は霧払いをしてから、残った残党部隊を剣のみで殺したのだった。

エレンの考えと俺の考えは違う。数歩先に白い靄に包まれて見えないという状態が、目に頼る人間に錯覚を起こさせる。この天候を利用して戦いを優位に進める事は不可能ではない、俺達の部隊ならばこの霧を利用して見えない敵を狙撃する事も可能。ここはリュドミラの庭でもあるからか彼女より地形を熟知していると考えてエレンは慎重にならざる得なかった。霧が急激に晴れた事で、驚くべき事態が起きた時には俺が残った兵達を抹殺していた時だった。予想通り、リュドミラの軍達はオルミュッツで籠城する気なのだろうと俺は思った。エレン達が到着した時に、俺は斥候という無人偵察機の報告をそのまま言った。

「タトラ山に、黒竜旗とリュドミラの軍旗があったそうだ。山道にいくつか防壁を設置しての籠城する満々だそうだ。俺ならそうしているな、霧を利用してそのままオルミュッツまで戻って籠城すると」

「ティグル様は最初から分かっていて、我々を下がらせたのですか?」

「お前らでは霧の中にいては、無防備になるだけの木偶の坊になるからな。お前らを下がらせて、俺は撤収中の最後尾を潰しただけだ」

「確かにティグルの言う通りだ、敵は昨日の戦をこちらの状態を探るためだったのだろう。もし霧の中進んでいたら味方殺しをしてしまうところだった」

ライトメリッツ軍は陣地を引き払い、タトラ山へ急いだ。ヴォージュ山脈ほどではないが、高さは結構あるが俺の部隊ならこの道はスノーモービルの出番だ。生憎持っているのは俺だけだから今使う訳にはいかない。山肌を隠す黒々とした木々や、所々に露出している岩肌、そしてそれらに降り積もっている雪がより一層の険しさを感じる。ライトメリッツ軍は山へ偵察を出すと同時に麓の村へも兵を放ち、村人に銀貨を与えてタトラ山の正確な情報収集をした。ま、俺は上空にいる偵察機からの情報でタトラ山を正確に把握している。

「タトラ山の城砦は山頂にあり、左右と背後を険しい岸壁に囲まれているようです」

集めた情報を纏めたリムが、幕舎の中でエレンに報告をする。

「山はやはり全体的に険しく、地元の村人達が山菜採りや狩りに行く時も、山道からあまり離れないようにしているとの事です。山道は何本かありますが、城砦のある所へ通じているのは、彼らの知る限り一本だけだと」

「山奥から川が流れていただろう。あれをさかのぼるのは?」

それが城砦の水源だろうと睨むエレン、俺は椅子に座りタブレットで操作をしていた。偵察機で集めた情報と本来のストーリーとなる場所にリュドミラが現れるポイントを入れると・・・・・。

「中腹の辺りで滝になっているようで・・・・・」

リムの報告を終わると、俺はそれさえも読んでいたようにタブレット操作を終えてしまった。そんでエレンはリムに待機命令を下し、俺と共に馬でタトラ山へと向かう。タトラ山の山道は、リュドミラの指示だろうと思う重厚な防御陣地が行く手を塞いでいた。広い壕を掘り、柵を設置し、木材や石、土を固めた壁を築いて、更にその後ろに高台を設置して弓矢部隊を配置するという堅固さだろう。俺らの部隊なら、防御陣地ごと破壊してから地上と上空で一気に攻め込むのが俺らのやり方だがここは俺がいた世界ではない。防御陣地は一つではなく、山道にいくつも設置されている。山道を遠く見ながら、エレンは俺に話しかけた。

「ティグルだったらどう攻める?」

「俺だったら神国にいる部隊で地上と上空から一気に城門を破壊してから、城内に入り殲滅する。それが俺らのやり方だが、ここは俺らの部隊はいないし呼べる事もあるがこの戦は公国同士のもんだ。それに俺らがここにいたとしても、そう簡単にテナルディエ軍が神国を殲滅する事は不可能に近い。あれは要所要所をリュドミラがラヴィアスの力で凍らせているから、下手な城門よりも硬いと推測できるな」

「なるほど、だが私達だとそれは出来るようで出来ない攻め方だ。第一空を飛びながらの攻撃何て方法はないに等しい、城門に関しては正解だ。高台の弓兵に、ティグルの精密狙撃は出来るか?」

「答えは出来る、ただこの高さからは無理だ。狙撃するなら高台があるくらいの高さがないと無理だな、高台に爆弾を投げれれば何とかなるかもしれないがそれも無理だ。それにエレンが持つアリファールの『竜技(ヴェーダ)』でも城門を破壊する事は出来ないし、俺だったらもっと上手く出来るけどな」

『大気ごと薙ぎ払え(レイ・アドモス)』は、周囲の風の力を全て集める。撃った瞬間は風の守りが一切ないので、その時に矢で射られたら防げないだろう。ま、創った本人が使うと本来の力よりも高度なテクニックで使えるが今はエレンが主だからな。それにアリファールと同じくらいの風の力は俺にも使える、エレメンツ使いとしてどこかの外史で使った事がある。

「あの陣地はリュドミラの祖母が考えたと聞いているが、本当か?」

「まあな、アリファール対策として計算して造られている。先代もあれには随分と苦しめられたそうだ」

翌日から、ライトメリッツ軍は雪のちらつく山道に幾度となく攻めよせた。敵の矢は俺の風の力によって防いでいるから問題ないとして、こちらも矢や(アーバレスト)を用意して空を覆うぐらいの矢を敵陣のみ浴びせたが、期待するほどの効果はなかった。柵を破壊してもすぐに新たな柵を設置され、壕を埋めるようにも山の上の冷気によって凍っている。オルミュッツ軍は陣地を出て戦うのではなく、籠城しながら土や石を運んできて壁強化をし、投石器まで投入されたのでライトメリッツ軍は後退を余儀なくされた。そういう状態が何日か続き、エレンの顔に焦りが浮かび始める。

次の日も攻撃失敗をし、戦は長引いていた。籠城する側の士気は高いがこちらは低い状態だ、投石器で石が飛んでくるが逆に大型のバットで撃ち返している俺だった。撃ち返した石は時限爆弾付きとして、城内に返したらスイッチオンで爆発させていく。こちらもあちらもなぜ爆発しているかは分かっていないようだったが、俺がやっている間に後退をしていた。そんで労いの言葉を兵達に送った後に指揮官用の幕舎へ行くとエレンが、爆発寸前状態になっていた。

「ならば、他にどんな手があるというのだ!?」

エレンの怒声が幕舎の中まで響き渡るので、見るとエレンが紅の瞳に激しい感情を宿してリムを睨みつけていた。金髪の副官はやや気圧され気味ながらも、毅然とした態度で戦姫の視線を受け止めていた。俺はやれやれと言いながらハリセンを持ってエレンに向かって一発はたいた。

「エレン、お前落ち着けよ。指揮官だろうが外まで聞こえているぞ!リム、何かあったのか簡潔に答えろ」

「ティグル様申し訳ありません。本来なら止めるのも副官の私なのですが『とりあえずエレンはしばらく頭押さえているから、何があったのか簡潔に伝えてくれ』あ、はい。エレオノーラ様が単独であの防御陣地を攻めると仰るの一点張りでして。代案を出せと仰ってもダメなものはダメだと言っておりましたら・・・・・」

「なるほどな、状況は理解した。エレン、お前は一軍の総指揮官だ、アリファールの力で空を飛び防御陣地の背後を周り込んで、オルミュッツ兵を尽く斬り捨てるとでも言いたいのだろう?」

そう言ったらエレンは頭を押さえながら頷いていた、全く、だから子供は困る事を言う。リュドミラの祖母が考えたのだから、多数の兵を配置しているのもおかしくはないと言える。他に手がないというエレン、この状況から何日か経っているし剣の技量(うで)を信じないのか?と言われたが、剣の技量は俺の方が上だとハッキリ言った。あの時の戦での一騎打ちを忘れたのか?と問いただすと頭を冷やせと静かに言う俺だった。

「たく、だから総指揮官は冷静にとあれほど教え込んだのにな。それに俺は誰の物でもない、俺は俺だ。お前を信じたとしても剣術や軍師はお前よりも上、それじゃあ冷静になったところで作戦を考えようか。ま、俺に策有りとでも言っておこうか」 
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