ソードアート・オンライン ~白の剣士~
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死の魔弾
鉄橋からおよそ3kmのところに位置するフィールドの中心にあたる《都市廃墟》、シオンたちが到着した頃には死銃の姿はなかった。
「まさか、追い抜いちゃった・・・?」
「いや、それはないよ。走りながら水中をチェックしてたから」
「となると、既に都市廃墟に潜伏している可能性が高い」
シオンは時計を確認する。現在は午後8時57分、次のサテライトスキャンは9時なので・・・
「サテライトスキャンまで後3分、ここから二手に別れる。キリト、お前はシノンと一緒にスタジアム方面に、俺はアリアと高層ビル方面に向かう」
「分かった。気を付けろよ」
「ああ」
シオンはキリトと別れるとアリアと共に高層ビルの半分辺りまで来て待機した。ここからならキリトたちのいるスタジアムもよく見える。
シオンは端末を取りだし、現在の敵の位置を確認する。
「スタジアムに《銃士X》、そんでもってやや西のビルに《リココ》。リココはビル出口に移動を開始、銃士Xはそのまま待機っと・・・。アリア」
「わかってる、私はここで様子を見てるから。シオンはキリトたちのところに」
「すまない、それともう一つ。シノンはそこから見えるか?」
「ううん、キリトは今さっきスタジアムに入っていったけど、シノンはスナイパーなだけあって姿は見えない」
「分かった、続けて監視を頼む。動きがあったらぶっぱなしてもらって構わない」
「りょーかい♪」
シオンはビルから出ようとしたその時、アリアが急に叫んだ。
「シオン!まずいよ、シノンが撃たれた!!腕には」
「ッ!電磁スタン弾か!?」
シオンは弾かれるようにして走り出した。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「・・・キリト。お前が、本物か、偽者か、これではっきりする」
ぼろマントはキリトがスタジアムにいることを知っており、私ではなく彼に話しているようだった。
「あの時、猛り狂ったお前の姿を、覚えているぞ。この女を・・・、仲間を殺されて、同じように狂えば、お前は本物だ、キリト」
私はホルスターに安全装置を外した状態のMP7に手をかける。
『動け、動け!』
今にも取り落としそうなMP7を必死に押さえる。
『MP7を早く握り直して銃口を敵に向けて、トリガーを引く、それだけよ。大丈夫・・・』
そう自分に言い聞かせた直後、ぼろマントかが引き抜いた右手、その手に握られた銃を見た瞬間、私の身体は凍りついた。
『なん、で。なんで、いま、ここに、あの銃が・・・!?』
グリップに刻まれた小さな刻印。それを見せつけるようにして死銃は私に見せた。
円の中に、黒い星。
黒星五四式。───あの銃。
五年前、私の人生全てが変わったしまったあの銃がなんでここに・・・!?
手からこぼれ落ちるMP7、しかし私はその音すら聞こえなかった。
感覚がどんどん闇へと落ちていく、残っているのは二つの紅い目と一つの銃口だけだった。
死銃が引き金を振り絞ろうとした時、私の中には五年前の事件とは別の光景が浮かんだ。それは同じく五年前、私が虐められていた時に助けてくれたあの人の背中───
私はその人に憧れて強くあろうと思った。
しかし、それはできなかった。
その様がこれである、本当になさけない───
『どうせ来ないのは分かってる、でも・・・』
でも、あえて願いたい。私をもう一度救ってほしい!
『だから、助けて!!』
「さあ・・・キリト、見せてみろ。お前の怒りを、殺意を狂気の剣を、もう一度、見せてみろ」
死銃がシノンの心臓に照準をあわせる。そしてその引き金を───
「・・・させるかよ!!」
「ッ!」
「おらぁッ!!」
しかしそれは空から降ってきた一閃の光によって阻まれた。死銃はそれを身を反るようにしてかわすと、後方にステップした。
『一体、なにが・・・?』
私が我に帰ると同時に、目の前に一人のプレイヤーが舞い降りた。
身に纏った灰色のコート、両手に握られたコルトガバメントとM945の銃、そしてその人物を象徴するかのような白い髪。
地面に刺さった光剣を抜くとその人は私に呟いた。
「無事か、シノン?」
「シ、オン?」
「貴様、また・・・」
「よう死銃、もといSteven。いや、こう呼ぶべきか?」
シオンは銃口を死銃に向けて言った。
「Sterben・・・。それがお前の今大会での名前だ」
「なぜ、分かった」
「おかしいと思ったんだ。シノンが言っていた知らない三人の中でお前の《Sterben》にだけ違和感があった。スティーブンにしたいなら普通は《Steven》だからな」
「・・・・・」
「まあ、ここまでは“妄想”、“推測”、“仮定”、どれをとっても構わん。問題はその《Sterben》という単語の意味なんだからな」
「意味?」
私はシオンの言っていることが理解できなかった。
シオンは更に続ける。
「シノン、お前はドイツ語に関してはどのくらい知っている?」
「あいさつ程度なら・・・」
「《Sterben》、これはドイツ語で《死》を意味する単語なんだ」
「死・・・」
「そして、それをごく一般人のプレイヤーがそんな縁起でもない言葉を選ぶわけがない、必然的に・・・」
「あいつが、死銃になる・・・」
ここまで頭がキレる人にあったのは始めてだった。そんな風に感心する中、シオンの言葉は止まることがなかった。
「ついでにあんたの正体、およびこれまでの殺人方法も分かったよ」
「えっ・・・」
「シオン!!」
私が尋ねようとしたその時、スタジアムの方からキリトが走ってきた。
「キリト、お前はシノンを連れて退避しろ。時間は俺たちが稼ぐ」
「“俺たち”?」
次の瞬間、死銃の目の前を一発の銃弾が通過した。
「ッ・・・!」
「言ったろ?俺たちが相手するって」
死銃のいる位置から数100mのビルの中、アリアは次弾を既に装填していた。
「へぇー、あれをかわすか・・・」
アリアはポイントを変えるべく、移動を開始する。彼女の頭の中には死銃の動きが焼き付いていた。
『あの動き、相当な手練れだってことは明らか。少なくとも、二発目は当たる気がしない・・・。あんな化け物にどう立ち回るつもりなの、シオン?』
アリアが別のポイントにつくために移動中の中、死銃とシオンは睨み合いが続いていた。
「行け、キリト。正直長くはもたない・・・」
「ッ、分かった・・・」
キリトはシノンを抱えたまま走り出した。死銃もその後を追おうとするが目の前にシオンが立ちはだかる。
「行かせるかよ、お前とは色々話さなきゃならねーからな・・・」
「・・・・・」
「話の続きをしようか?あんたの正体は追々話すとして、まずはその摩訶不思議な殺人方法についてあばいていこうか・・・」
シオンは死銃を睨みながら続けた。
「お前が以前殺した《ゼクシード》、《薄塩たらこ》の死因は心不全だった。被害者が装着していたのはアミュスフィア、脳には出血や血栓といった異常は見つからなかった。ならどうやってシステムの外にいる生身の人間の心臓を止めるか・・・?答えは簡単だ。外部からもう一人の協力者に銃撃と同時に薬品を注射した。おそらく注射針のない無針高圧注射器辺りで殺ったんだろう」
「そんなの、妄想、だ」
「そうだな、確かに俺の言っていることは妄想、仮説の一つにすぎない。俺もそう思ってたよ、“お前がペイルライダーを殺すまでな”・・・」
「何・・・」
「ペイルライダーを撃った位置が心臓だったら完璧だったよ。だが、お前が撃ったのは、“撃たされたのは”横っ腹だ。そんなところ当たっても人間死にはしない、お前は、“殺すように見せかけることはできても”、“直接的に殺すことはできないのさ”。SAOとは違ってな・・・」
死銃の鈍く光る紅い目とシオンの紅と蒼の目が交錯する。二人の間の空気が不気味なまでに静かになる。
「では、二つ目、お前の正体について話そう。お前の手首に刻まれた小さなタトゥー、あれは《笑う棺桶》のものだ。そして、お前ほどの実力者となれば幹部クラスと見受けられる。次に二人目だ、これだけ緻密な計画を立てるんだ、少なくとも信頼における人物を当てているはずだ。そして医療知識もあり、薬物を簡単に手に入れられる境遇にある者、そして何かしらの野望がある者と見受けられる。友人、いや家族だな、たぶん弟だ。その弟に薬の調達を依頼、そしてもう一人の死銃を演じさせた。今回はお前だが、交互に入れ替わりながら死銃を演出し、そしてもう一人の方は標的であるプレイヤーの自宅に侵入、薬物を注射した。標的は現実世界の家で玄関に初期型の電子錠を取り扱っているプレイヤー、事実《ゼクシード》も《薄塩たらこ》も家は古いアパートだ。ダイブ中は完全に無意識状態だから多少手間取っても問題はない。事前に注射する時刻を決めてそれよりも前に侵入すればこの計画は成立。時間の帳尻を合わせるためにカモフラージュとして胸の前で十字を切った、現在の時刻を確認することも含めてな。違うか・・・?」
「・・・・・」
「《コールドリーディング》・・・。これは以前、いや、ずいぶん昔にお前にやられたものだ。生憎、俺はやられたら根にもつタイプでね・・・」
「お前、やはり・・・」
シオンは口角を引き上げると死銃に言った。
「お前に選択肢をやる。1、ここから大人しく手を引く。2、今すぐここで俺を殺すか。どっちがいい?」
シオンは表情を崩さず平常を保つ。数秒の沈黙の後、死銃は仮面の中の口を開いた。
「次は、無いと、思え・・・」
そう言い残して死銃はその場から光学迷彩で姿を消した。気配が遠ざかるのを感じた後、シオンは銃をしまった。
『次は無い、か・・・』
シオンはあの金属製の仮面から発せられる紅い目から死銃の殺気を感じ取っていた。あの殺気は間違いなく俺を殺そうとした殺気だった。
「シオン!」
アリアと合流するとキリトたちを追うべく近くのバギーに乗った。
「ねぇ、シオン。死銃が仕掛けてこないってこと分かってたの?」
「いや、正直引いてほしかったのが本心だ。いくらお前が控えていたとしてもあいつを倒すのは正直骨が折れる」
「やっぱり、死銃は・・・」
「ああ、ヤツは・・・」
シオンはスピードを上げ、都市廃墟を一気に抜けていき砂漠地帯へと向かうのであった───
後書き
はい!最近家にこたつを出した作者です!!
今回は戦闘描写ほとんどの無しの心理的駆け引き(?)みたいな感じになりました!!
事件の真相に近づいていくにつれて今後どうなるのか、お楽しみに!!
お気に入り登録、コメント待ってます!!
ではでは~♪三( ゜∀゜)ノシ
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