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石榴の種

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3部分:第三章


第三章

 それで断ろうとする。しかしハーデスはここで言うのだった。
「そして」
「そして?」
「私の傍にずっといてくれ」
「貴方の傍に」
「そうだ、私の傍にだ」
 こう言うのである。
「共にだ。いてくれ」
「それは何故でしょうか」 
 ペルセポネーの言葉が今の彼の言葉と顔に僅かだが頑ななものが消えた。そうしてその顔で彼に対して尋ねたのである。
「一体どうして」
「私は今まで一人だった」
「この世界にですか」
「だからこそだ。共にいてくれ」
 こう話すのである。
「それが私の願いだ」
「そうなのですか」
「そうだ。いいか」
 ハーデスの目を見た。今の目は違っていた。彼女を見てだ。そのうえでの目であったのだ。
 そしてその目でだ。また言うハーデスだった。
「ここにいてくれるか」
「はい」
 その目を見てはペルセポネーは頷くしかなかった。そこに彼の心を見たからである。それで彼女は今彼の言葉に対して頷いたのであった。
「それでは今から」
「宜しく頼む」
 こうしてペルセポネーはハーデスの妻となり冥界の王妃となった。しかしデメテルはこのことを知らない。それで彼女は世界を彷徨い娘を探していた。 
 これは思いも寄らぬ災厄を引き起こしてしまった。彼女は季節と豊穣の女神である。その彼女が己の責務をせずに彷徨うとなるとだ。大地は枯れ恵みは消え去った。そして冷たい嵐が吹き荒れる。世界は滅びようとさえしていた。
 それを見たゼウスは流石に捨て置くことができなくなった。それでデメテルに対して真実を話したのである。
「実はだ」
「はい、娘は一体何処に」
「冥界にいる」
 そのペルセポネーがそのまま豊穣になったかの様な美しい女神への言葉だった。
「あの世界にだ」
「冥界に!?では娘は」
「死んではいない」
 それは保障した。それに神は死なないのだ。
「それは安心せよ。神ではないか」
「そうですね。ですがどうして冥界に」
「ハーデスの妻になったのだ」
 ここでも真実を話した。
「それで冥界にいるのだ」
「それでなのですか」
「あの娘はそこにいる」
 ゼウスは己の姉妹でもある女神にそのことを話し続ける。ここに至っては真実を話さなければ全てが終わるとわかっていたからだ。
「そこにだ」
「すぐに返して下さい」
 デメテルは切実な言葉で懇願した。
「すぐに。あの娘を」
「わかった。このままではだな」
「娘がいなくては何もする気が起きません」
 その切実な声での言葉である。
「私にはあの娘が全てなのですから」
「そうだな。それはな」
 デメテルの娘への愛は尋常なものではない。殆ど常に傍にいる程だ。そしてその娘がいなくなって今がある。それでもう明らかなことだった。
「では。ハーデスにそう伝えよう」
「御願いです、すぐにです」
 また言うデメテルだった。
「すぐに娘を私の下へ」
「わかった。仕方ないな」
 兄弟との約束を反故にすることには内心舌打ちしていた。しかしそれでもこのままでは世界に何もかもがなくなってしまう。デメテルの力がどうしても必要なのだ。これでは仕方のないことであった。 
 こうしてペルセポネーはデメテルの下に返されることになった。ハーデスも世界の実りがなくなるとあっては頷くしかなかった。どうしてもだ。
「仕方ない。それではな」
「はい、それでは」
「このまま」
「デメテルの下に返す」
 ハーデスは無念の声でヒュプノスとタナトスに応えた。
 
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