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石榴の種

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2部分:第二章


第二章

「あの娘か」
「どうだ、あの娘で」
 こうハーデスに言うのだった。
「悪くないと思うが」
「そうだな。あの娘ならばな」
「その通りだな。ではだ」
 ハーデスもそれで決めた。なおゼウスはここで兄弟に対してこうも言った。
「ただしだ」
「どうした?」
「このことはデメテルには言わぬ」
 そうするというのだ。
「よいな、わしは言わぬ」
「それはまたどうしてだ?」
「あれは娘から離れることはない」
 デメテルのことを話すのである。
「それも決してだ。離れることはない」
「だからか」
「だからだ。ペルセポネーが嫁ぐと聞いてもだ。それではいそうですかと頷くようなことはないからな」
「しかしそれでは」
 ハーデスは兄弟の言葉を聞いてだ。腕を組んで難しい顔になった。そうしてそのうえで話すのだった。
「デメテルに悪いのではないのか?」
「何、気にすることはない」
 しかしゼウスは至って平気である。こうしたことには自分自身のことが慣れているからであろう。それについても話すのであった。
「全くな」
「そうか。わかった」
 それで頷くハーデスだった。こうして話は決まった。
 その時ペルセポネーは一人だった。
 淡い栗色の豊かな髪に緑の澄んだ瞳を持つ楚々とした少女である。その彼女が野原で一人花を摘みにこやかに笑っている。
 彼女は小唄さえ口ずさみながら花畑の中で白い花々に囲まれている。白い服もその花達も日の光に照らされ眩いまでに輝いている。その彼女のところにだ。
 突如としてハーデスが現われてだ。彼女を小脇に抱えてしまったのだ。
「えっ!?一体」
「ペルセポネーだな」
 ハーデスはその小脇に抱えた彼女に対して問うた。
「そうだな」
「は、はい」
 戸惑いながら応える彼女だった。
「その通りですけれど」
「わかった。ならそなただ」
「私とは」
「そなたは私の妻となる者だ」
 こう言うのだった。
「わかったなら来るのだ」
「貴方は」
「我が名はハーデス」
 彼もまた名乗った。
「そなたの夫になる者だ」
「何故、私はまだ」
「話は後でする。さあ来るのだ」
「お母様、ですがお母様が」
「デメテルに対しても後で言う」
 今は言おうとはしない。ゼウスとの話の結果だ。それはもう決まっていることなのである。
「それではだ」
「そんな、お母様!」
 小脇に抱えられながらも何とか抵抗し助けを呼ぼうとする。
「ここにいらして。早くここに」
「無駄だ、デメテルはここには来ない」
 ハーデスの言葉はここでは無慈悲なものに聞こえた。
 そうしてだ。彼女をそのまま地下の奥に連れて行く。冥界の玉座に連れて行きだ。彼女を正式に妻に迎えたのである。
 その時だ。ハーデスはそのペルセポネーに対して語った。
「そなたは永遠にここにいるのだ」
「この世界に」
「そうだ、この世界にだ」
 こう話すのである。
「わしの妻としてだ」
「私は」
 彼女は今まで晴れやかな世界にいた。だがここは暗く冷たい場所だ。それでこの世界が気に入るかというと到底無理な話であった。
 
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