【短編集】現実だってファンタジー
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シェアワールド
【神為る土地で】神話伝承相続権
前書き
シェアワールドってどんなものだろうと思って、イメージが全く固まらなかったので取り敢えず書いてみました。合ってんのかな、これ。
何年前にあったのかも忘れたが、とにかく少しばかり前に全世界に奇妙奇天烈な声明が発表された。
《全世界の老若男女の諸君、ご機嫌麗しゅう。我々はしがない科学者の集団だ。少し際物の研究成果を上げたために、今回諸君らに『体感』していただこうという次第である。名称は敢えて与えていない。強いて言うのなら我々の崇敬の系譜であり、諸君らの憧憬の結晶だ。それを踏まえて、我々はこの技術をこれから恒久的に世界に提供しよう。人類全てに大いなる力を与えよう。
我々は神には為れない――だからこそ。諸君らを神格に。あるいは英雄に、祀り上げよう》
小難しい言葉だったので自分なりに咀嚼するのが大変だった。
曰く、研究成果を上げたからみんなにやる。
曰く、それはおそらく人類の憧れの一つである。
曰く、これからも世界中に成果をばらまく。
凡そはそんな具合の発表内容だったと記憶している。
余りにも一方的で、その……こう言っては何だがちょっとばかしイッちゃってるのかな?と聞きたくなる内容だったために世間は何事かと首を傾げた。
が、それから間もなくして世界中が事態を把握する。
伝承者という超人の誕生である。
色々と調べた結果、これはあの謎の宣伝を行った組織、「神為らぬ者(ヘレティック)」の仕業であること、伝承者はテキトーに選ばれている事、そして伝承者は神格や英雄といった架空存在の逸話や伝承通りの権能を得るという事。
そして、方法に関しては一切不明であること。
この伝承者が世界中のあちこちからポコポコ湧いて出るものだから世界は大混乱に見舞われた。
残りの情報はどれも確実性に欠けるので割愛させてもらう。
まぁ簡単に言えばアレなのです。
つまりはこの俺っち――武智臣和もまた、その伝承者とやらになってしまったのです。
= =
『火産霊』という名前に聞き覚えはないだろうか。
……知らない?じゃあ『迦具土』は?……あ、そっちはゲームとかで聞いたことがあると。
カグツチと言えば日本神話でイザナギとイザナミの間に生まれた火の神である。
その炎たるや、なんと母親のイザナミを焼いてしまい、怒ったイザナギに殺されるほどだったという。
うむ、この時点でありがたみがほぼゼロだ。死んでるし。
まぁ一応無意味な死だったわけではなく、カグツチの死体や血からはわんさか神様が生まれ、カグツチを斬った剣である天之尾羽張からもタケミカヅチなどの神様が生まれたりしている。
とりあえずその事実を謎の組織より通達された素直な感想は以下のとおりである。
つまり死ねってか。俺っちに死ねってか。
「絶望だぜぇ……絶望が俺っちの命運を取り巻くぜぇ……」
既に世界各地で伝承者は暴れ始めている。基本的に好戦的なのが多いらしく、その力を存分に振るって色んなものをぶち壊しまくり、決闘しまくり、そして世界一決定戦みたいなノリで力試しをしている奴も少なくないという。
イコール世紀末の予感。わが命、風前の灯なり。
このまま一人で戦っては、この先生きのこれない気がする。
なので取り敢えずネットで仲間を集った。迎撃のために戦力を整えなければ。
そうして数日間家に籠ってダラダラしながら某掲示板で粘った結果、なんと似たような不安を抱えているという人が3人も集まった!やったぜ!これで死亡フラグ回避だ!
とまあそんな訳で現在、集まったメンバーは居酒屋で身の上話を始めていた。
店主が懇意にしていた人なので、伝承者お断りみたいなことはなかった。但し、俺っちはまだギリギリ未成年なのでソフトドリンクだが。
「武智さんは炎が出せるんですね?実は私も多少は炎の心得があるんですよ」
「へー!そりゃ奇縁だなぁ!」
取り敢えず主催者が自己紹介を終えると、集合メンバーの1人である古畑麗壬さんがそんなことを言いだした。30歳くらいの落ち着いた男性だ。
「あ、ちなみに私はプロメテウスの力なんですよー……ははは」
がつがつ鶏肉を食べながら語る古畑さん。
プロメテウスと言えば、人類に火を齎したとされるギリシャ神話の不死の神だ。ヘパイストスの炉から勝手に火種を持ち出した、火事場泥棒ならぬ炎泥棒である。
ただ、そのせいで人間が戦争を始めたと最高神ゼウスの怒りを受け、彼は生きながら鳥にはらわたを食べられ続けるというとんでもない苦行を強いられたりしている。
「ええ、ええ。最近妙にカラスとかの視線が怖くてですね。幸い肉になってしまえば平気ですが……」
「うわー、死亡フラグではないけどなかなかエグイ……」
「そうなんです。正直、生き地獄を受ける気がしてなりません」
無言で握手を交わす俺っちと古畑さん。来年にはいい酒が飲めそうである。
「それで、荒音ちゃんは何の力を?」
モデルかと聞きたくなるほどのすらりとした体型の美人、荒音るみさん。
年齢は分からないが、多分同い年くらいだろう。さっきから冷奴をちまちま食べている彼女は、俺っちの質問に透き通った小声で答える。
「……北欧神話、ユミル」
「おお……神話三連続だね」
伝承者には英雄とかも含まれているとは言うが、3人連続となると驚くべきことなのかもしれない。
しかし、ユミルと言えば……
「オーディン、ヴィリ、ヴェーの三神に殺されて……解体されて……世界にされた。死んでからタイプ」
「これはまた盛大な死んでからタイプですね……」
「嫌な系統もあったもんだ……」
しかもユミルの解体は徹底的であり、脳みそや脊髄、果てはその死体に沸いた蛆虫までもが三神によって世界の一部に変えられている。最早それは鯨かマグロの解体の如く。死ぬために生まれた様なものである。
恐らく巨人としては強い筈だが、なんだか強いイメージがない。
「貴方たちは、私を見捨てないでいてくれる……?」
「見捨てませんとも。仲間として強く生きましょう、共に」
「寧ろ俺っちを見捨てないで欲しいところだぜ!」
「……仲間。良い響き」
か細い声でそう言った荒音さんは、小さく微笑んだ。
美人で綺麗なのだが、どこか幸薄そうに見えるのは気のせいだと思いたい。
そして最後の一人。これまた女性だ。荒音さんとそう歳は離れていないと思うが、この飲み会の場にジャージでやってきてビールをごくごく煽っている辺りに残念感が漂っている。
「ぷっはー!やっぱりビールは美味い!すいませーん!生おかわり!!」
「おいおいちょっとおねいさんよー、飛ばし過ぎじゃないのー?」
「既にジョッキで5杯。なかなかの大酒飲のようですね」
「ちょっと……沙菜ちゃん……」
「んー?何ー?」
「沙菜ちゃんの番……」
「…………ああ!ごめんごめん!割り勘だと思うとついついお酒が進んじゃって!ほら、今月ピンチだからさ!……げーっぷ!」
「うわ汚っ!!」
訂正、全面的に残念感が漂っている。あと親父臭とビール臭も。古畑さんもこれには苦笑いだ。
赤馬沙菜。どうやら荒音さんは最初から友達だったらしいが、二人の性格は見事に対照的に見える。
「えっとえっと、私が何の力を貰ってるかって話だっけ?」
「そうそう。実際、何の力なの?」
「あのね……ヨハネ黙示録、第二の騎士なのだ!!」
「というと……なんだよ?」
ヨハネ黙示録など読んだこともない俺はピンとこない。
困っていると、荒音さんが注釈してくれた。
「ヨハネ黙示録に登場する……人の世に終末を告げる四騎士の一人。四騎士は……それぞれ、人の世界の四分の一を支配する権利を得て……それぞれが、人間を殺す権利を……持つ」
「最後に凄い怖い子来たぁぁぁーーー!?」
このメンバー内で唯一妙に明るいと思ったら、まさかのものすごく物騒なお方だった。
さらに古畑さんが追撃。
「第二の騎士と言えば……確か戦争を司り、一説によれば内乱を引き起こすとか……」
「そーなんだよねー。騒乱の騎士なんだよねー……いやマジで一人は不安だったからこういう集まりがあって助かるわー!」
「すげえ縁起悪い!!この女この上なく縁起悪いよ!!」
喧嘩を『吹っ掛ける側』としてはこの上なく適任な上に、よりにもよってチームで動くのに内乱を司るというあり得ないレベルの疫病神加減だ。早速この集まり崩壊の危機である。
「世の中そう上手くはいかないかー……」
「え、なになにこのお葬式ムード?ここっていつからお葬式会場になっちゃった訳?」
「前途多難ですねぇ……とりあえず、私も飲みますか。荒音さんは?」
「お酒……苦手なので。武智くんと同じ」
「仲間っすね。お近づきのしるしに揚げ出し豆腐半分あげます」
「……ありがと」
「あ、枝豆なくなっちった。次のツマミ何にするー?」
「俺、アサリの酒蒸し食いたいぜ」
「私はもずく酢で」
「………しめサバ」
「じゃー私は豚キムチにしよっと!すいませーん!」
そんなこんなで夜は更け、宴もたけなわ。
取り敢えず4人全員のメアドを交換することに成功したので、いざとなると助けを求められるかもしれない。……無駄かもしんないけど。
まぁその時は”神為らぬ身”に宿るこの力に働いてもらえばいいか。
= =
4人の伝承者による会合――と言えるかも怪しい駄弁り合い。
そんな一般人の集まりにしか見えない光景を、その男は一般客に紛れて観察していた。
彼は、ずっと追い求めている。
過去の伝説を掘り起し、一般市民に一方的に押し付ける犯罪組織ヘレティック。
人知を超えた力をどこから取り出し、どのように与え、それを以て何を為すのか。
伝承者は余りにも空疎な存在だ。
力を得たことで争いに身を投じているが、実の所そこに信念が介在することは殆ど無い。あやふやな意思の下に、過去の誰かや何かの威光と力だけを借りて我が物顔でふんぞり返る。
実体のない神格、英雄。
栄誉も雄々しさもない。
神の威厳もない。
あるのは唯の力でしかなく、振るうのは人間でしかない。
彼等の持ち出す研究成果とやらは、その憧憬を抱いているかどうかも知れない人間に一方的に分け与えられる。
生産性のない、単なる娯楽のように続く人の覚醒。
いや、それを覚醒と言えるのかも疑わしい。
もしも彼らの研究成果とやらがいずれ全人類に及ぶのだとしたら、それで人類が何を得るというのだろうか。
そも、憧憬とは手が届かないからこそ意味がある。
届かないものを掴もうとするから人は成長する。
神話も武勇譚も、到達してしまえばその神秘と憧憬は人の心から失われる。
人は神話の時代を終わらせ、自らの時代だと嘯くようになる。
例えば土着の神がより大きな神に貶められたように。
神への畏れを、科学信仰という人の知恵が塗り潰したように。
神の座に椅子取りゲームのように座る人間たちと、その座から弾き飛ばされる幻想。
人と神話が取って代わる。
そしてそこに待っている筈の大きなひずみと破壊は、精霊と呼ばれる存在が勝手に補填する。その都合のよい存在の出現によって、未だ世界はその事実に気付かないまま社会均衡を保っている。
都合の悪いことから目を逸らさせるように。
人は労力なく神話に立ち、そこにどうやって上ったのかを気にも留めない。
ただ、そういうものだと自信を納得させ、そこで思考は終了する。
物語のキャラクター気分で戦いに身を投じ、その末を見据えようとしない。
与えられた能力を基に、舞台上でスポーツのように競い合う。
この人間社会という盤上でルール付けされたような構造。
まるでこの星を舞台にしたボードゲーム。
何故そんなことをする必要がある?
そもそも、本当にこれは『技術』によるものなのか?
これはもっと歪で、不可解で、遺伝という言葉で片づける事の出来ない――そんなものではないのか?
湧き出る疑問は後を絶たないが、世界は一向にその答えを見つけ出せずにいる。
なら、調べるしかないだろう。
突き止めるしかないだろう。
最終目的という奴を。
「ヘレティックを追いかけるのに普通のやり方じゃ手詰まりになる。だったら奴等の生み出した伝承者を追えばいい。連中に何かしらの目的があるのなら、必ずどこかで伝承者に接触、若しくは干渉する筈だからな。そして可能性が高いのは、より特異な存在……」
彼等は実に面白い。
戦意がないわけではないし、全員が非常に厄介な性質を持っている。
神産み、不死、世界の内包、戦乱の支配。どれも伝承者同士の戦いでは役に立つだろう。
なのに彼らは神話と同化することを恐れ、集まった。
内包した憧憬とやらを心のどこかで拒否している。
彼等はいつか、この盤上の争いそのものを否定するかもしれない。
あるいは連中が望んでいるのは、それなのか。
停滞した世界を打破するための刺激によって生まれた更なる停滞の、打破。
「……いや、いま一人で考えても考えても詮無きことか……」
チェックしている伝承者は彼等だけではない。
自分の仕事を続けるため、男は静かにその居酒屋を去った。
後書き
名前メモ:
武智臣和……少々楽観的で認識が甘い。メンバーで一番年下。
古畑麗壬……実はフードファイター。まだアラサー。
荒音るみ……小声で喋る微天然。赤馬とは長い付き合い。
赤馬沙菜……オヤジ臭い。あと浪費癖で万年金欠。
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