ロックマンX~5つの希望~
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第三十七話 先輩後輩
前書き
ルインとアクセル
息抜き話その2
レッドアラートとの戦いを終えてから半年が過ぎた。
アクセル「あーあ。何で試験なんかあるのさー」
エックス「試験受けないとハンターランクも決められないだろ?」
ぼやく少年に苦笑しつつ、エックスが言う。
アクセル「そうだけど…」
ゼロ「文句を言うな。言ったとしてもどうにもならん。」
ルイン「とにかく明日の試験のためにゆっくり休んでね」
アクセル「うん」
レッドアラートの戦いから半年経っても、かつての仲間を忘れたわけではない。
しかし養い親の“突き進め”という言葉に従い、常に“自分らしく”振る舞わないといけない。
ルイン「アクセル、今は大丈夫?」
アクセル「ルイン?何?何か用?」
ルインはアクセルにとって憧れの先輩だ。
金色の髪を靡かせ、こちらに歩いてくるその姿は、容姿の愛らしさと身体のバランスの良さと相まって、好意を抱かなくても綺麗だと思う。
今日はいつもの朱いアーマーは装着しておらず、ブラウスとスカートと言った服装だ。
ルイン「この後一緒にご飯でも食べない?最近いいところが出来たんだよ。いつか一度行こうと思ってたんだ。」
アクセル「え?勿論いいけど、エックスは?」
ルイン「エックスから休むように言われてね。今までずっと仕事漬けだったし、半日休みがとれたんだ。その時くらいは息抜きしないと。」
アクセル「ふうん、いいよ。一緒に行こう」
ルイン「ありがとう、それじゃあ行こっか」
アクセルが着替えてくるの待って、2人は街に出た。
ハンターベースからさほど離れていない場所にある小さな喫茶店。
クラシックがかけられコーヒーの香りがするそこは何となく気遅れしてしまう。
ルイン「こっちだよアクセル。」
ここに入るのは初めてだといっていたがルインは全く動じた様子はない。
悔しいがルインは自分よりも遥かに大人なのだ。
勧められて席に着くと、すぐにウエイターがやってくる。
空腹というわけではなかったが、取り敢えずショートケーキとカフェオレを注文した。
ちなみにルインの前には、既に大きなフルーツパフェが置かれている。
アクセル「(見てるだけで胸焼けしそう…)」
ショートケーキを口に運び、カフェオレで流し込む。
ルインはフルーツパフェを美味しそうに食べている。
普段は頼りになるルインもこういう時は普通の女の子である。
ルイン「ねえ、アクセル。さっきから思ってたんだけどね」
アクセル「……何?」
ルイン「ちょっと、痩せたんじゃない?」
じっとこちらを見ていたルインが、不意に真面目な顔をして、そんなことを言ってきた。
アクセル「そうかな。自分じゃ分かんないけど」
ルイン「痩せたよ。……それに、何となく顔色もよくないみたい」
アクセル「えー?別に体調は悪くないし元気だよ?」
忙しくても睡眠はちゃんととるし、食事だって三食きっちり食べてる。
だから、体調を崩したりする理由はないはず。
そう言ったら、ルインは困ったような顔をする。
ルイン「うん、身体は元気なんだろうけど。……でも、あの、こんなこと言っちゃうの、傷口を刔っちゃうみたいだし、本当はよくないかもしれないけど」
ルインはいつも言いたいことははっきり言うタイプだ。
それなのに妙に躊躇しているから、らしくないなと思いながら、アクセルは首を傾げて次の言葉を待った。
しばらくして、ルインが意を決したように顔をあげる。
ルイン「……あのね、アクセル。……あれから……レッドアラートとの戦いが終わってから、1回でも、泣いた?」
アクセル「……は?」
ルイン「私、アクセルが泣いているところを見たことないよ?」
アクセル「…泣く理由がないじゃない」
ルイン「レッドのこと寂しくないの?」
そう、ルインが聞いてきたけれど、寂しくないわけじゃない。
寂しくないわけがない。
ルインの言葉がどこか責めるような響きに感じたのは、自分の心がどこかで泣かない自分を責めているからかもしれない。
アクセル「泣かないよ。……だって僕は、自分の心に従ってレッドアラートから抜けてイレギュラーハンターを目指すんだ。ただでさえ迷惑かけてるのに、これ以上我が儘言えないよ」
ルイン「そんなの……そんなの間違ってるよ、アクセル!!」
アクセル「え……?」
普段はエックスと同じくらい温厚で滅多に声を荒げないルインが、怒ったような顔でアクセルを見ていた。
ルイン「寂しい時に寂しいって泣くのと、我が儘を言うのは似ているようで全然違うよ。みんなのためって分かってたって、大好きな人に会えないのは寂しいんだから、泣いたっていいじゃない。……ううん、せっかく泣けるのに、泣かないなんて損だよ。それにこのまま我慢ばかりしてたら、アクセルが壊れちゃいそうだよ……」
アクセル「……我慢なんてしてない…」
まるで、自分のことみたいに真剣になってくれるルイン。
ああ、こんなに優しい人だから英雄に、そしてエックスと隣に立てたんだなって、今更ながらに思った。
ルイン「泣いても、いいんだよ。アクセル」
繰り返して言われて、心の奥底で閉じ込めてた気持ちが動き出す。
本当は泣きたかった。
しかしそれを無理矢理押さえ込んでただけで。
ルインの言葉が後押しになって溢れてきた涙は、こらえようと思っても、後から後から流れてくる。
アクセル「ルイン……」
ルイン「何、アクセル?」
アクセル「レッドに…会いたい……」
ルイン「うん…」
子供みたいに泣きじゃくるアクセルの頭を、ルインは撫でてやった。
やっぱりルインは年上で、母親というわけではないけれど、優しくて、暖かい。
もし自分に姉がいればこんな感じなのだろうか?
しばらくして泣き止んだアクセルはぬるくなったカフェオレを飲み干すと立ち上がった。
アクセル「ありがとう、少しすっきりした…」
ルイン「いいよ別に。エックスにしても君にしても、少しは甘えることを覚えないとね…明日の試験頑張って」
アクセル「うん」
そして試験当日。
エックス「準備はいいか?」
アクセル「うん」
試験官のエックスの言葉に笑顔で、アクセルは答えた。
エックス「状況判断も採点対象に入ってるから、設定内容は教えられないが…」
アクセル「大丈夫だよ。」
エックスの説明に、迷うことなく返事をする。
エックス「…行くぞ、準備はいいか?」
アクセルは、ほんの少し目を見開いた。
両手のバレットを握り直し、不敵に、無邪気に、幸せそうに笑う。
いつも“彼”に返していた“あの答え”を、今度はこの青年に返す。
アクセル「いつでもOKさ」
これからは此処が、自分の居場所なのだと。
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