八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第七話 アメリカからの入居者その十一
「小麦粉をキャベツとかと一緒に入れて混ぜてそうして色々なものを入れて焼ク、ソースとかマヨネーズをその上に乗ってね」
「いえ、キャベツは挟むのですが」
小夜子さんは笑って話すジューンさんにこう返した。
「そちらは」
「あれっ、それお好み焼き?」
「それがお好み焼きですが」
戸惑いながらもこのことははっきり言う小夜子さんだった、小夜子さんにしては珍しいことに強い感じの言葉で。
「キャベツは挟んで」
「あれっ、中に入れるんじゃないの?」
「お好み焼きはです」
小夜子さんは必死に話した、すると。
そのお好み焼きは広島のものだった、だがジューンさんはこう小夜子さんに返した。
「それお好み焼きなノ?」
「そうですが」
「ワタシお好み焼きも作るけれド」
何かアメリカにもお好み焼きは入っているみたいだ、ジューンさんの話を聞いてアメリカはやっぱり人種の坩堝だと思った。
そのアメリカから来たジューンさんもお好み焼きの焼き方を話した、けれどそのお好み焼きは何かというと。
大阪のものだった、そのうえで言うのだった。
「これじゃないノ?」
「それは大阪焼きでして」
「お好み焼きじゃないノ?」
「はい、大阪焼きです」
一歩も引かない小夜子さんだった、本当に小夜子さんにとっては珍しく。
「美味しいですが」
「お好み焼きじゃないんダ」
「私はそう思います」
「あれっ、ロスの山田さんのお店じゃこれがお好み焼きって言ってたけれド」
「その山田さんは広島の方ではないのですね」
「何かお好み焼きって場所によって違うノ?」
「ああ、そのことだけれど」
トーストにマーガリンをたっぷりと付けて食べようとしているジューンさんにだ、僕がお好み焼きの事情を話した。
「地域によって違うんだ」
「そうなんダ」
「大阪と広島でそれぞれお好み焼きと言って」
「それで大阪とか言うんだ、小夜子」
「広島の人から見れば大阪焼きでね」
「大阪から見れば違うんダ」
「広島焼きになるんだ」
大阪人は広島のお好み焼きをこう言う、けれどだ。
僕は関西人だ、関西人としてお好み焼きは大阪のそれだと思っている。けれど小夜子さんのことを考慮して今はそうしたことを言わなかった。
「そうなるんだ」
「そうなノ」
「どっちが正しいとかはね」
そのことはというと。
「まあ言わないってことで」
「曖昧よくないネ」
ジューンさんはアメリカ人らしく僕に突っ込みを入れた。
「はっきりさせないト」
「いや、この話はややこしいから」
「どっちがお好み焼きとか言わないノ」
「まあそういうことでね」
「ワタシそういうの好きじゃないけれド」
「そこは仕方ないから」
ここは日本だ、だから曖昧でもいいとジューンさんに話した。
「納得してくれとは言わないから」
「じゃあどう言うノ?大家さん」
「置いておいてくれたらいいから」
「こうしたはっきりしないことは」
「うん、そういうものだと思ってね」
「わかっタ、じゃあワタシ置いて置くかラ」
お好み焼きのことを、というのだ。
「気になるけれどネ」
「そうして頂ければ何よりです」
畑中さんもジューンさんに話した。
「それにどちらも美味しいですから」
「大阪のも広島のも」
「何でしたら今宵は小野さんにお願いしてお好み焼きとしましょう」
それを夕食にしようというのだ。
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