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第二章
第二章
「また野球部の早川とソフト部の宮坂が勝負したってよ」
「またかよ」
「あいつ等も何かずっとああして勝負してるよな」
「全くだぜ」
学校の中で二人に対してこう話される。
「好きだよな、あいつ等も」
「それ以外にすることねえのかな」
「付き合ってるんじゃないのか?あいつ等」
よくそう話題になる。
「実際のところは」
「どうかな」
だがそれはいつも疑問符を打たれる。
「あいつ等馬鹿だしな」
二人は学校の成績は今一つだがそれだけではないのだ。人間的にも一本調子で周りが見えない。言うならば似た者同士ではある。
「そんなこと考えているかね」
「考えてないのか」
「ガキだからな、あいつ等」
周りの方が二人をよくわかっていた。確かに二人はまだ子供だった。
「ああして素直になれないんじゃないのか」
「素直とかそういうんじゃねえだろ」
だがこれにも疑問符が打たれた。
「違うっていうのか?」
「ああ、何かな」
彼等は話を続ける。
「単にわかっていねえだけなんじゃねえのかな」
「そうかな」
「だからよ。一回試してみようぜ」
誰かが言った。
「二人だけにしてみたらよ。どうなるか」
「二人だけか」
「それだとすぐにわかるだろ」
「そうだな。それじゃあ」
何かが考えられはじめた。
「やってみるか?」
「ああ、面白くなりそうだな」
「それじゃあよ」
早速考えられだした。
「まずはな、あいつ等呼んで」
「ふん」
「それからこうして」
「ああ、それいいな」
「だろ?それでよ」
二人の周りで何かが考えられ実行に移されていく。知らぬは当の本人達ばかり。だがそれは確実に動きはじめようとしていたのであった。
暫くして野球部とソフト部の面々がまた昼休みのグラウンドで勝負をしていた二人のところにやって来た。どうやら今度は浩二が勝ったらしい。真里は渋い顔をしていた。
「なあ」
「あれ、どうしてここに?」
「ちょっと放課後のことでな」
浩二とバッテリーを組んでいる沖鮎隼人と本庄加奈が前に出て来た。そして二人に対して言ってきた。
「放課後?部活かよ」
「今日はないんじゃ?」
真里がふと言った。この日は学校の都合で全ての部活が休みなのである。何でも先生達の都合らしいが生徒は詳しいことは知らない。
「ああ、ないよ」
隼人がそれに答えた。
「それでね」
次に加奈が言う。
「ちょっと二人に頼みたいことがあるのよ」
「俺達!?」
「何を?」
「あのさ」
隼人はいぶかしがる二人に対して言う。
「御前等今日暇だよな」
「ああ、まあ」
「部活ないし」
「それでな、頼みがあるんだよ」
「聞いてもらえるかしら」
「別にいいけれど」
「何よ」
真里は事情がよく飲み込めず口を少し尖らせていぶかしんでいた。浩二も考える顔になって仲間達を見ていた。
「今日の放課後百貨店のスポーツ用品店にまで言ってくれないか」
「それで勝って来て欲しいものがあるのよ」
「野球部とソフト部両方でか」
「そうよ。左用のキャッチャーミット」
加奈が言った。
「それが欲しいんだよ、そこにしかなくてな」
「左用のキャッチャーミット!?」
真里はそれを聞いて浩二と同じように眉を顰めさせて考える顔になった。
「そんなのあるの!?」
「ええ、そこだけにね」
「俺達は俺達でちょっと買出しに行くから」
「貴女達はそっちをお願いできるかしら」
「左用のキャッチャーミットか」
浩二はそれを頭の中でも復唱してどうにも首を傾げさせていた。普通キャッチャーというのは右利きである。それで左用のミットとは実に不思議だ。ファーストミットの間違いではないかとさえ思った。
「あのよ」
あまりにも不自然なのでもう一度問うた。
「本当にそれか?」
隼人と加奈に対して問うた。
「ファーストミットじゃなくて」
「ああ、間違いないよ」
「それよ」
「わかったよ」
答えはしたがまたいぶかしんでいた。
「それで百貨店だよな」
「ああ」
隼人はまた答えた。
「いいよな」
「まあな。百貨店か」
百貨店は隣町だ。電車を使わないとちょっと行けない距離にある。駅のすぐ側にあるので行くのはかなり楽なのであるが少し面倒なのも事実だ。
「じゃあ行くか」
「ええ」
真里は浩二の言葉に頷いた。何はともあれその奇妙なミットを買う為に百貨店に向かうことになったのであった。
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