熱い手
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第四章
第四章
「小学生なのにね」
「そうだね。確かに僕達まだ小学生だよね」
「ええ」
顔は俯いたままだった。言葉だけで応える。
「まだね子供よね」
「それでも。好きだよね」
「・・・・・・うん」
またこくりと頷く。やはりその気持ちはどうしても否定できないのだった。
「好き。本当よ」
「僕も。好きだよ」
「だから手だって握って欲しい」
もうその手は真っ赤になっていた。顔と同じ色であった。
「今は。それ以上はとても怖いけれど」
「・・・・・・キスとかだよね」
それ以上が何なのか。もう二人はわかっていた。学校の授業でも習ったしそれに本や漫画、友達同士の話でも出て来る。だから知らない筈がないのだ。二人の年頃になると。
「その他にも」
「それ以上は怖くて。まだ無理だけれど」
このことをまた直樹に告げる。
「・・・・・・手を握る位なら」
「僕も。その位なら」
「だから御願い」
まだ手は握られてはいない。握られなかったのだ。お互いに。
「握って。私の手」
「僕の手も握ってくれるよね」
「ええ」
こくりと頷くだけでも精一杯だった。どうしてここまで緊張しているのか、ここまで辛い気持ちなのか。それは自分でも不思議だったが心の何処かで納得しているのも事実だった。どうしてこうなっているのか。
「お互いに。握り合いましょう」
「それじゃあ」
直樹の方から手を差し出してきた。
「握ろう。今から」
「・・・・・・うん」
直樹が手を差し出してきたのを見て。郁美も手を動かした。けれどその手の動きはとても遅く震えてさえいた。それが彼女にとっては非常にもどかしかった。
「・・・・・・動かない」
真っ赤なままの顔で言った。
「どうしても。どうして」
「僕もだよ」
見れば直樹の手の動きも遅かった。それに彼の顔もやはり真っ赤なままであった。
「何か。動かないや。どうしてかな」
「動いて欲しいのに」
心ではこうであった。
「それでも。動かないなんて」
「けれど。少しずつ」
直樹はここで言った。
「動いているじゃない。ほら」
「少しずつなのね」
「そうだよ。少しずつだけれどね」
見ればその通りだった。かじかんで震えているように動けない二人の手は少しずつではあっても互いに近付いていた。そして遂に。その先と先が触れた。
「あっ」
「どうしたの?」
「温かい」
まず郁美はこう言ったのだった。
「直樹君の手。温かいよ」
「郁美ちゃんの手もね」
直樹もまた郁美に言った。彼は微笑んでいた。
「温かいよ。とても」
「熱い位」
郁美は次にこう言った。
「直樹君の手って。こんなに」
「郁美ちゃんの手もだよ。温かいなんてものじゃないよ」
「熱いのね」
「真っ赤だしね」
そうだったのだ。二人の手は相変わらず真っ赤なままだ。その真っ赤な手同士が触れ合って。それで熱いものと熱いものが触れ合ったのである。
「熱いのも当然ね」
「そうね」
「じゃあ。握ろう」
直樹の方から言ってきた。
「いや、握ってくれる?」
「言われなくても握るわ」
郁美の顔は真っ赤だが微笑んでいた。
「だって。私が言ったんだし」
「そういえばそうだったかな」
「言った本人が握らないと」
駄目だというのである。その真っ赤な顔で語っていた。
「駄目じゃない。そうでしょ?」
「いや、こういうは」
珍しいことに直樹が郁美に言い返すのだった。
「男の子が女の子にやるんじゃなかったっけ」
「そうだったかしら」
「そうだったと思うよ。だから」
「握ってくれるのね」
「うん」
にこりとした笑みのまままた郁美に告げた。
「それで。いいよね」
「嫌なんてとても」
また顔を俯かさせての言葉だった。
「言う筈ないじゃない。だから」
「握るよ」
「ええ」
またこくりと頷く。
「御願い。じゃあ」
「うん。いくよ」
握った。そうして握ると郁美の真っ赤な手は。やはり温かいどころではなく熱いものだった。その熱さが彼に手にも直接伝わってきた。
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