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リトルマーメイド

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5部分:第五章


第五章

「引き分けね」
「そうだね」
「勝てる自信あったのよ」
 摩耶はこう明信に話す。その二つを見ながらだ。
「実はね」
「そうだったんだ」
「けれど引き分けなんてね」
「僕だって負けるつもりなかったし」
「それでなの」
「そうよ、それでよ」
 また話す彼女だった。
「残念だわ」
「こっちだってだよ」
「引き分けだったことが残念なのね」
「こっちだって勝つ自信あったからね」
「言うわね」
「だって自信あったから」
 だからだと言うのだった。明信も本気である。
「折角だったのに」
「じゃあ勝負はね」
「勝負は?」
「次ね」
 摩耶はくすりと笑って述べた。
「次に決めましょう」
「次になんだ」
「そうよ、次にね」
 また言う彼女だった。
「決めましょう。それでいいわね」
「うん、それじゃあね」
 こう話してだった。二人は約束したのだった。
 それからだ。明信はこう言った。
「それじゃあ」
「今度は何?」
「家に帰らないとね」
 現実を話すのだった。
「これからね」
「ああ、お家ね」
「帰らないとね。もう夕方だしね」
「そうね。じゃあ私もね」
「今度会ったその時にね」
「ええ、いいわよ」
 摩耶はくすりと笑ってだ。明信に言ってきた。
「その時こそね」
「決着をつけよう」
 夕焼けの中で顔を見合わせて約束する二人だった。しかしだ。
 明信はそれからも毎日この海で泳いだ。だが摩耶には一度も会わなかった。そしてそのまま夏休みが終わってしまったのだった。
「何処に行ったのかな」
 このことに寂しさを感じていた。やはり急に会えなくなったからだ。そのことを残念に思いながら学校に向かう。二学期であった。
 そしてその最初の朝のホームルームでだ。教壇に立つ先生が言ったのである。
「転校生を紹介するぞ」
「えっ、転校生って?」
「いたんだ」
「夏休みにはもう来ていたが学校は今日からだからな」
 先生は若い男の人だ。引き締まり逞しい身体つきをしている。その先生が行ってきたのである。
「だからな。いいか」
「はい、わかりました」
「それで先生」
「その転校生ってどんな子なんですか?」
 生徒達の質問はすぐにそこに至った。
「男の子ですか?女の子ですか?」
「どっちなんですか?」
「女の子だ」
 先生はまずは性別について答えた。
「これで喜ぶ奴が絶対にいるな」
「まあそれは」
「女の子ならね」
「よかったわよね」
 女の子の間からの言葉だった。この時期は男の子は男の子、女の子は女の子で集まる傾向がある。それで女の子から言葉が出たのだ。
「それでどんな娘なんですか?」
「頭がいいんですか?」
「それともスポーツが得意なんですか?」
「それは会ってからわかることだな」
 先生は笑って話すのだった。
 
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