ロックマンX~5つの希望~
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第十三話 エックスSIDE6
前書き
エックスSIDE5の続き。
タイトルを付けるなら“あなたと歩む未来”
エックス…あなたと私がシグマ隊長の部屋で出会ったあの日から長い長い年月が過ぎました…。
あなたと共に与えられた任務をこなしていくうちに、私はいつの間にかあなたの背中を無意識に追っていた…。
前世の記憶をある程度残していた当時の私からすればあなたは憧れの人でした…。
どれだけ悩み、苦しみ、傷ついて、挫けそうになっても最後には必ず立ち上がってくれる強い人…。
エックス…私はいつも、あなたのそんな強さに憧れていました。
そしてレプリフォース大戦の時、あなたから想いを告げられ、それに応えたあの日から、私はずっとあなたを支えてきた…そう、思っていました…。
この事件で私はあなたを支えられてないことを思い知らされました…。
戦えない辛さを噛み締めるあなたを見ていることしか出来ませんでした…。
私は…あなたを支えるどころか、ずっとあなたに支えられ、守られていたのだということに気付かされました。
ディザイアの時も、イレギュラー化の再発を恐れていた時も、あなたに甘えっぱなしで…。
私はあなたが1人で苦しみ続けていたことにさえ気付けなかった…。
だから…私は…今度こそ…。
緊急手術室のライトが消え、重苦しい沈黙が解かれたのは数時間後。
ゼロは静かに部屋に入る。
室内に足を踏み入れるとナノマシンの溶液の匂いがした。
銀色のトレーには物々しい手術道具が並べられていた。
これらはエックスの処置に使われた物ではなく、万が一手術が長引く場合の時に予備として置かれた物。
この準備万端な手術セットがエックスの重傷を物語っていた。
ゼロは冷静に、ライフセーバーに問い掛けた。
ゼロ「エックスの容態は?」
「ええ、命に別状はありません」
柔らかい笑みを浮かべるライフセーバー。
普段ならライフセーバーの笑みは信用ならない。
ハンターベースではライフセーバーが笑ったら注意しろという掟がある程である。
しかしこのライフセーバーは信用出来る。
「不思議ですよ。通常なら死んでいてもおかしくないというのに生きている。恐らくエックスの心が生かしているのでしょう」
ゼロ「お前がそんなことを言うなんてな」
他のライフセーバーはそのようなことは言わない。
しかしこのライフセーバーは柔和な笑みを浮かべながら言う。
「あなた方のせいですよ。あなた方は私の常識をいとも簡単に突き破ってしまう。だからこそこう思うんですよ」
そのような会話をしていると、エックスが目を覚ました。
ぼんやりとした瞳をゼロに向ける。
ゼロ「気がついたか?」
エックス「ここは…」
「動かないで下さい。あなたの傷は深い。今日1日、動かないで下さい」
エックス「1日?」
不満そうな声にライフセーバーは優しくも強い口調で言う。
「たった1日です。本当なら1週間は大人しくしてもらいたいのですから」
エックス「…分かった」
拗ねるエックス。
英雄やら救世主やら言われているエックスが、僅かに見せた年相応の姿。
ゼロ「ここは俺達が何とかするからお前はゆっくり休め」
エックス「ああ…」
「さあ、スリープモードに切り替えて下さい、よい眠りを」
エックスがスリープモードに入る。
しかし眠る間際、ジリジリと太陽が照り付けるような焦燥感が沸き上がるのだった。
目が覚めたのは翌日の、太陽が頂を極めた頃だ。
エックスが大急ぎで現場に行くと、既にビートブードとルインが指示を出していた。
ビートブード「隊長、瓦礫の撤去はまだ完了していませんが、この調子ならこの地域は何とかなるでしょう」
エックス「分かった」
辺りを見回しながらエックスは思う。
これが戦いの結果。
悲しみしか生まない。
今まで何度も同じことを繰り返してきた。
エックス「(一体いつになったら…)」
そう思った時、甲高い声が聞こえた。
「いつになったら戦いは終わるの!!」
人間の女性の声。
服はボロボロで傷だらけだ。
戦いの悲惨さを雄弁に語る。
「いつになったら普通の生活が戻るの!!あんた達イレギュラーハンターがしっかりしていないから!!私達はただ静かに暮らしたいだけなのに!!」
女性を宥めているのはルインである。
同性だからと、フォロー役を買って出たのだが、女性は収まる気配を見せない。
エックスは頭を金づちで殴られたようなショックを受け、逃げるようにこの場を去った。
ルインはそれを見た。
他のレプリロイドは作業に忙殺され、気にする余裕がない。
女性をメンタルサポートも出来るライフセーバーに任せ、ルインはエックスを追い掛けた。
他のハンターがエックスがいなくなったのを通信で伝えたのは数時間後であった。
ルインはエックスが向かった場所に心当たりがある。
恐らく今のエックスが行く場所。
全ての始まりの場所。
自分達の戦いが始まったあそこに向かったのだろう。
最近は過去を思い出すことが多かった気がする。
エックスのバスターの故障、新たなる戦いの幕開け、アクセルとの出会い。
短い間に色々なことが起きた。
そしてそれらが自身の非力さに嘆いていたエックスをあの場所に向かわせたのだろう。
行き先はメガ・スコルピオが荒らし回ったハイウェイである。
既に日が落ち、辺りは真っ暗である。
道が途切れて出来た穴が底知れぬ闇に見えた。
暗い絶望の闇。
顔を覗かせれば、吸い込まれてしまいそうな錯覚すら覚える。
この世に絶望した者は自ら飛び降りそうな…そんな場所である。
そこにエックスはいた。
ルイン「エックス…」
彼女の声にエックスは振り向かなかった。
今にも消えそうな声で呟く。
エックス「昔と同じ…」
ルイン「え?」
今のエックスには彼女を顧みる余裕がなく、淡々と独り言のように呟く。
エックス「ここは…全然変わってない…俺が最初に戦った時と…復興も終わっていなくて…いや、何度元通りにしてもすぐ壊れるんだ。平和もすぐに無くなってしまう…俺がどれだけ戦っても、どれだけ多くのイレギュラーを倒してきても、平和はこの手からすり抜けてしまう…」
ルイン「エックス…」
エックス「ルイン…」
ルインはこちらに振り向いたエックスの表情を見る。
今まで見てきた毅然とした表情ではなく設定年齢の年相応の幼い表情。
それは昔の…。
ルイン「(昔のエックスだ…)」
泣きそうな表情なのに、静かな声がルインの耳に響く。
エックス「教えてくれ…いつになったら戦いは終わるんだ?いつになったら戦わなくて済むんだ…?みんな消える…穏やかな日常も何もかも…俺がやって来たことは無駄だったんじゃないのか…?」
ルイン「エックス…手を出して」
エックス「え…?」
ルインはエックスの手に触れ、1つずつエックスの指を折る。
ルイン「エックスは最初の反乱でシグマを止められず、シティ・アーベルはミサイルの直撃を受けました」
エックス「っ…」
ルイン「次にエックスは私とゼロがやられた後も頑張ってシグマを倒しましたが、シグマは蘇り、また戦いが始まりました。」
カウンターハンター事件…。
ルイン「次はシグマに操られたドップラー博士が起こした反乱で、シグマは倒せたものの、ドップラー博士を救うことは叶いませんでした…」
ドップラー博士の反乱…。
ルイン「レプリフォースとの戦いではシグマに利用され、多くのレプリフォースを撃ち、イレギュラー化したディザイアを倒しました。」
レプリフォース大戦…。
ルイン「コロニー落下事件ではシグマの策略により、地球に大きな被害を与えるきっかけを作ってしまいました。」
スペースコロニー・ユーラシア落下事件…。
エックス「…………」
ルインから聞かされるかつての過ちにエックスの表情が暗くなる。
ルイン「だけど、エックスはカウンターハンター事件でシグマに利用されていたゼロを助けました。ドップラー博士の反乱では、エックスは数多くの敵を救い、ドップラー博士の名誉を守りました。レプリフォース大戦でもエックスはディザイアの心を助けて、終わった後はレプリフォースの誇りを守りました。コロニー事件ではコロニーを破壊して、地球への被害を最小限まで抑えました。ナイトメアウィルス事件でも、ヤンマーク達を助けて、ゲイトもエイリアも助けてくれました。そしてレッドアラートから逃げ出したアクセルを受け入れました。そして自我を失う恐怖に怯えていたデボニオンを救ってあげました。ほら、エックスはこんなにいいことをしたんだよ?」
エックス「ルイン…」
ルイン「エックスのしてきたことを全て否定しちゃ駄目だよ……。私もエックスに…あなたに救われたんだよ?あなたがいなかったら私、どうなっていたか分からないんだよ。」
エックスは胸の中で何かが溶けていくような感じがした。
ルイン「あなたはどんな時も諦めなかった。諦めなかったから地球は、人類は、レプリロイドはまだ存在している。あなたの今までやってきたことは全て心の強さとなって、エックスの中に積み重ねられていくんだよ?苦しかったことも、辛かったことも、そして…嬉しかったこともエックスの糧になるの。」
ルインは優しくエックスの背中に腕を回し、抱き締めた。
ルイン「何も消えない。私はここにいるよ。私はもうあなたの側から消えない、いなくならない。絶対に」
エックスの胸に顔を埋めていたルインは顔を上げて、優しく微笑んだ。
まるで春の暖かい日差しのような笑顔だった。
ルイン「エックスは少しずつ前に進んでる。今は少し前に足を踏み出すのが怖くて立ち止まっているのかもしれないけど、少しずつ確実に進んでる。自分を信じてエックス」
エックス「自分を信じる…」
エックスは壊れた腕に視線を遣る。
ルインもエックスから少し離れ、腕を掌で包み込んだ。
ルイン「まだまだやれることは一杯あるよ。いつか振り返った時に今よりも“よかった”って思えることが沢山あるように…頑張ろう?一緒に…」
エックス「ルイン…」
ルイン「エックス…今は泣いてもいいよ。私が受け止めてあげる。エックスの辛い気持ちを全部」
エックス「でも…」
ルイン「いいの、辛い気持ちを全部吐き出しちゃおう。」
ルインがエックスを再び抱きしめるとエックスの瞳から涙が流れ始めた。
エックス「……っ、止まらない…っ…もう泣かないって決めたはずなのに…!!」
ルイン「泣いていいんだよ。涙が流せるのって…とても素敵なことだよ。」
エックスは涙を流し、大きく泣いた。
今まで堪えていた全てを吐き出すように。
しばらくして、泣き止んだエックスは彼方を見つめていた。
破壊され、散らされたコンクリートは夜の闇に溶け込んでいる。
エックスは考える。
己の過去を。
戦いの日々を。
このハイウェイを進んだ時は、強大な敵に立ち向かう恐怖で押し潰されてしまいそうだった。
VAVAとの戦いに負けて、ゼロとルインに助けられ、非力さを噛み締めた。
再びこの道をチェバルで通った時、2人を失った張り裂けんばかりの悲しみがあった。
それでもこの道を駆けた。
避けえぬ戦いもあった。
カウンターハンター事件。
ドップラー博士の反乱。
レプリフォース大戦。
スペースコロニー・ユーラシア落下事件。
ナイトメアウィルス事件。
辛く悲しい戦いの日々だった。
しかし自分を支えてくれる仲間達がいた。
自分と共に歩んでくれる人がいる。
共に戦ってくれる親友がいる。
だから戦ってこれた。
エックスとルインはハンターベースには戻らなかった。
空は白んできて、雲は黄金に染まる。
柔らかい光が2人を照らしている。
エックス「ルイン…」
ルイン「何?」
エックスの声にかつての悲痛な響きはない。
エックス「ここはあの時のままだな。俺がシグマと戦おうと誓った時と同じ。俺はこの道を真っすぐに進んでいった。迷ってばかりの意気地無しだった俺が初めて決めたことだ。」
淡々とした声に悲しさはない。
はっきりと、力のこもった声。
エックス「あの時…俺は人々を守ろうと戦ってきた。今もそれは変わらない。なのに戦えなかったのは、きっと取り戻した平和が壊れるのを恐れていたから。戦いが始まる度に“また”、“いつになったら”と考えていた。その心がバスターを封じていたんだ。」
ルイン「………」
エックス「…だけど」
過去との決着をつける時が来たのだ。
エックス「俺はその気持ちを越えていかなきゃいけない。このままじゃ駄目なんだ。だって俺は自分を信じたい。ここで誓った想いを失いたくない。この始まりの場所で、もう一度信じて進んでいきたい。この想いを…俺と俺を信じて支えてくれたみんなのために!!」
バスターを構え、今までとは比較にならないほどの光が収束していく。
今までよりも遥かに出力が増大したフルチャージショットが天へと昇っていく。
あれだけ痛みをもたらした封印がエックスの心によって解き放たれたのだ。
エックス「ルイン」
振り返る顔は強く、自信に満ち溢れ、どこまでも透き通っていた。
エックス「俺はもう大丈夫だ。もう迷わないよ。失った物を取り戻すための強さを手に入れたから。」
エックスの身体が光り輝き、純白のアーマーを身に纏う。
ゼロとルインが入手したエックスの新たなアーマー、グライドアーマーである。
ルイン「…お帰りなさいエックス」
エックス「ありがとう…ルイン。」
はにかむようにエックスは笑った。
しばらくしてハンターベースに戻ったエックスは仲間からもみくちゃにされ、それでも幸せそうに笑っていた。
グライドアーマー
グライドアーマーはX7の時点ではノーマルエックスもエアダッシュが出来るために、グライド飛行やアイテム回収、ギガクラッシュを除けば基本能力の強化に留まっている感がある。
そのため歴代最弱の性能と言われているが、X4以降の何らかの能力に特化させた特化型アーマーとは違い、X4以前のバランス重視型アーマーに戻ったとも言える。
何らかの能力に特化させたためにどこか弱体化してしまう特化型アーマーよりは優れていると作者は思う。
セイバーを重視し過ぎて、使い勝手が悪いブレードアーマーとかがいい例では?
後書き
エックス復活。
次回は…。
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