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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第十話 エックスSIDE5

 
前書き
エックスSIDE4の続き 

 
戦いを終えたエックスは直ぐさま司令部に戻った。
デボニオンから採取したDNAデータを渡す。
エイリアとアイリスは持ち前の情報処理能力であっという間にデータを解析していく。

エイリア「思った通りだわ…」

エイリアとアイリスがモニターを睨みながら呟いた。

アイリス「DNAデータを使って、レプリロイドの能力を強化していたようね。知っての通り、DNAデータはレプリロイドの精製情報が記録されているコアのこと、このコアからレプリロイドの技を習得するの。エックスならウェポンチェンジシステムで特殊武器、ゼロならラーニングシステムで必殺技、ルインならキャプチャリングシステムで武器に対応した武器と技を入手出来る。」

エイリア「けどそれは危険な技術だわ。DNAデータにはレプリロイドの人格プログラムもインプットされているの。武器取得くらいなら大丈夫だけど、DNAデータをパワーアップに使用するとなるとかなりの量が必要になる。過度に行うと下手をすれば人格が崩壊してしまい、廃人同然の状態になってしまうわ」

エックス「そんな…」

それを聞いたエックスが愕然となる。
DNAデータを用いてレプリロイドをパワーアップさせる禁断の方法。
DNAデータにそのようなことがあるのを知ったエックスは思わず顔を顰めた。

エイリア「でもおかしいわ。DNAデータを使ってパワーアップする方法を知っているのはゲイトのような極一部のレプリロイド工学員のはずなのに…」

エックス「どういうことなんだ…まさか…シグマか…!!?」

エックスはいよいよ、事件の裏に暗躍する邪悪なる者の存在を確信した。



































かつてのナイトメアウィルス事件での最終決戦。

シグマ『ぐはっ…今度もまた…お前達に敗れたが…私は死なん…何度でも蘇る』

死に際にシグマが発した言葉が脳裏を過ぎる。



































エックスは疑念を確信に高めつつ、再びレスキュー部隊として活動を開始した。
突然、通信が入る。

エックス「…?」

何かあったのだろうかと、すぐに回線を開く。

エックス「こちらエックス」

シグナスかエイリアかアイリスだろうと繋いだ相手は、余りにも意外過ぎる人物だった。

レッド『本当に繋がりやがった。流石だなじいさんは』

一度しか聞いたことのない、けれど印象が強く、覚えていた声。
信じられない心境で、その名を口にする。

エックス「レッド!!?」

レッド『ほう、俺のことを覚えていたか』

エックス「何故俺に通信を繋げられる?」

送信側は相手の受信コードを入力しない限り繋がらないはずだ。

レッド『こっちにはスペシャリストがいてね。お前と話がしたいと思ってな。一対一、サシでだ』

エックス「……そんなことに俺が乗ると思うか?」

レッド『だろうな、だが、レスキュー部隊の奴らの命がどうなるか分からねえぞ』

エックス「貴様…」

レッド『誰にも言わずに、これから指定する場所へ1人で来い。無線の電源と発信機は切っておけよ。さもねえと……ここにいる奴らの首が飛ぶぜ?文字通り』

エックス「……分かった」

ハッタリの可能性もあるが、そんな危ない賭けに出る訳にはいかない。
従うより他、無かった。
本来なら決して乗るべきではない話だが、多数の罪無き命が懸かっている。



































エックスが来たのは、かつてストーム・イーグリードが占拠したエアポート跡である。
周囲を、特に障害物などを警戒し、ゆっくりと進む。

エックス「っ!!」

殺気を感じ、急いで回避すると先程までエックスがいた場所に衝撃波が叩き込まれた。

レッド「あれを避けるとは流石だなエックス」

エックス「レッド…」

レッド「ゼロやアクセル達が出て来てるのにてめえだけ出て来ないから逃げ出したんじゃないかと思ったが、デボニオンとの戦いを見る限りそうではなかったようだから来てもらったぜ」

エックス「…俺に何の用だ?」

一体、どんな目的があって、自分との接触を望んだのか。

レッド「何、ちょいと交渉をと思ってな」

エックス「交渉だと?」

訝るエックスの顔が、次の瞬間驚愕に染まる。

レッド「この戦いを、止めねえか?」

エックス「は?」

驚きで何も言えなくなるエックスに、レッドは畳み掛ける。

レッド「簡単に止められるぜ、この戦いは。お前ら次第でな」

エックス「……お前達の方から仕掛けておいて、どういうつもりだ?」

どうにか言語能力を取り戻し、疑問を投げ掛ける。嫌な予感が走った。

レッド「大人しくアクセルを返せばいい」

エックス「……何だと?」

レッド「アクセルが戻ってくれば、俺達は何の文句もねえ…戦う理由がなくなる。第一、あいつがいたところで、お前らに何の得がある?返してくれるってんなら、今後の俺達の活動は控えめにしてやってもいいぜ。一般レプリロイドを巻き込まねえようにな」

エックス「…………」

レッド「さあ、どうする?」

エックスは暫く黙孝した後、口を開いた。

エックス「確かにアクセルをお前達に返せば戦いは終わる。」

レッド「だろう?」

エックス「だが、断る」

片方しかない目を見開いた。

レッド「……“断る”と、そう言ったか?」

エックス「ああ」

レッド「…理由を聞かせてもらおうじゃねえか」

鎌は肩に掛けたまま、しかし微かに殺気を放ちながらエックスを睨む。

エックス「確かに俺達にはお前達と戦う理由も、アクセルを守る理由もない。だが…俺は彼を助けたい。だからアクセルの意志を無視するようなやり方は許さない」

鋭い目つきでレッドを見据えるエックス。
その眼光はゼロにもひけを取らない。

レッド「……交渉決裂、だな」

決意に満ちた瞳を前に、何を言っても無駄だと判断する。
肩に担いでいた鎌をヒュッと振り、構え、エックスに斬り掛かる。

エックス「くっ!!」

辛うじてかわしたエックスだが、レッドは鎌を何度もエックスに向けて振るう。

レッド「アクセルは取り戻す。力付くでもな」

エックス「させない…子供に殺戮を強いるような組織に彼を返す訳にはいかない!!」

レッド「偉そうに…だからハンターは嫌いなんだよ!!」

衝撃波がエックスの頬に掠る。

エックス「っ…」

レッド「お前に俺達の何が分かる?」

エックス「…少なくともアクセルに殺戮を強いた挙げ句、無意味な戦いを起こしたことだけは分かる。」

レッド「お前にとっては無意味でも俺にとっては大事な死合いだ」

ワープし、エックスの背後に移動すると同時に斬り掛かるがエックスは屈んでかわすと、落ちていた鉄パイプでレッドに振るう。

レッド「おっと!!」

鎌の柄で鉄パイプを受けると弾き飛ばす。
エックスはこのままでは完全に分が悪いと分かってはいるが、バスターが使えない今、殴り掛かるしかない。

レッド「どうした?バスターは使わないのか?」

バスターを使おうとしないエックスにレッドが挑発する。
エックスは一か八かでバスターに変形させようとするが…。

エックス「ぐあああああっ!!」

前の時と同じように激痛に襲われた。

レッド「成る程、バスターが壊れてやがるのか。今まで出て来なかった理由が分かったぜ。戦えない身体で俺の相手をしようってのか?」

エックス「…っ、戦えなくても守ることは出来る。この命にかえても…!!」

レッド「“死んで花実は咲かない”って言うぜ?」

鉄パイプを左手で握り締めるエックスはレッドの攻撃を必死に受け流していく。

エックス「(前にも似たようなことがあった…死んだら何もならないと…どうして戦えない?今までだって、どんな時だって戦ってきたのに…どうして…)」

思考が命取りだった。
何度も繰り出された衝撃波を、遂に避けられずに喰らってしまった。
左肩から右脇腹にかけて長い裂傷が走る。
蒼いボディが深々と裂かれ、鮮血を噴き上がらせた。

レッド「他愛ねえな」

薄笑いしながらエックスに向かうレッド。
仰向けに倒れたエックスの双眸は閉じられている。
顔には苦痛の色が微かに浮かぶだけで、戦いで倒れた割には穏やかだった。

レッド「お前に怨みはねえが仕方ねえんだよ。俺達の仲間を元に戻すためにはな」

言い訳めいた言葉を口にしながら、レッドは大鎌の刃をもたげた瞬間。

ルナ「ホーミングショット、コネクションレーザー!!」

ゼロ「飛影刃!!」

レーザーと鎌鼬がレッドに襲い掛かる。
レッドはそれをかわすとレーザーと光の矢が放たれた方向を見遣る。

レッド「この攻撃は…!!?」

ルナ「エックスはやらせねえ!!」

ゼロ「お前の好きにはさせん」

イレギュラーハンターが誇る特A級の2人はそれぞれの武器を構えて敵を見据える。

レッド「チッ、ここは一先ず退くか」

不利を悟り、レッドはシュンと姿を消す。

ルナ「…ふう、ゼロ、エックスは?」

ゼロ「大丈夫だ。命に別状はない。ルナ、レスキュー隊を呼んでくれ、ライフセーバーに治療の手配をするように」

ルナ「おう」

2人はチラリとエックスの方を見遣ると、友は戦いで倒れたとは思えない程に穏やかな表情で眠っていた。





































~おまけ~

陶器のバターケースがコトリという音を立てて置かれる。
続くは真っ白な卵。
小麦粉、砂糖。
薄い微笑は曇ることもなく、ただうきうきと指を動かし沢山の物を並べてゆく。
アーマーを解除し、いつもはヘッドパーツで纏められる銀髪をお気に入りの水色のリボンで纏める。
三角巾もエプロンも装備完了し、臨戦態勢。

ルナ「よっし、何のケーキを作ろうかね?」

アクセル「チョコレートケーキ!!上に粉砂糖かける奴!!」

零れた彼女の呟きに対し、待ってましたとばかりに答えたのはもちろん彼。
キッチンに立つルナのすぐ側にある椅子に、腰掛けながら力いっぱい、身を乗り出して、言いたくて言いたくてたまらなかったのか、片手を限界まで伸ばしてびしりと挙手までして。
勢いあまってそのまま椅子を倒してしまいそうな態勢で。
珍しく、彼女を早く早くと急かすようにその応えを待っている。
それだけアクセルの口にした物はアクセルにとってかなり食べたいものなのかもしれない。
瞳からはワクワクが溢れ出してしまいそうで、まるで、子供そのもの。
普段ならルナも快諾したに違いない。

ルナ「……何でガトーショコラなんだよ?」

アクセル「……何だよその見るからに嫌そうな顔は?」

振り返った彼女の表情は、明らかに嫌そうだった。
眉間に皴を寄せて、目に見えて不平の意を表している。
けれど当然のことながら、この反応に彼が賛成を表明するわけもない。
こちらも軽くむくれた様子で反論を示す。
せっかく楽しみにしていたのに、さらりとかわされてしまったのだから。
しかも反撃つき。
ブーイングのように恨みがましげな視線を送ってみても、ちっとも彼女はこたえた風ではない。

ルナ「他のケーキはどうなんだ?ケーキ?他にも沢山あるぜ?」

アクセル「チョコレートケーキがいい」

ルナ「だから、他にも種類いっぱいあるだろが!!ロールケーキに、パウンドケーキに、シフォンケーキ」

アクセル「レアチーズ。ホットケーキもあるし、バターケーキもあるね」

ルナ「そうそう。ショートケーキ、フルーツケーキとか」

アクセル「バウムクーヘンも忘れないでね。ええと、それから…」

ルナ「ティラミス、ブラウニーとかな。ケーキは沢山あるぜ、さあ、何がいい?」

アクセル「粉砂糖がかかったチョコレートケーキ!!」

ルナ「どうしてそう頑ななんだよ!!」

アクセル「そっちこそ何でそんなに嫌がるのさ!!」

この後もしばらく、2人で口論を繰り広げて、結局アクセルが手伝いをするということで渋々彼女が折れた。
少しふくれたルナは嫌々ながらもしっかりチョコレートとバターを湯せんにかけている後ろで、希望の通ったアクセルが満面の笑みでにこにこしている。
しかしこのまま負けっぱなしでいるほど彼女は甘くはない。

ルナ「ほい、アクセル。これ頼む」

アクセル「卵白?ああ、メレンゲね」

渡されたボウルの中には卵白。
一緒に泡だて器もあるから、何をしろというのかは、言われなくても見るだけで予想はつく。
とてもご機嫌な彼はそのお手伝い要請を断るわけもなく、快く引き受けると、かき混ぜ始める。
小気味良い音を聞きながらルナはアクセルにくるりと背を向け、別の作業に取り掛かる。



































アクセル「…ねえ、ルナ?」

ルナ「ん?」

アクセル「まだ泡立てるの?」

ルナ「どれどれえ?」

彼女がアクセルの差し出したボウルを見る。

ルナ「ああ、まだまだだな」

アクセル「…腕が痛くなってきたよ…」

ルナ「ハンドミキサーはただいま修理中でーす」

アクセル「…僕が悪かったです……」

ルナ「よろしい♪」

いくら体力のある彼でも、長時間の慣れない動きで、すっかり手首の感覚がなくなってしまったらしい。
ルナは手慣れた手つきで卵白を泡立てる。
アクセルは椅子に座りながらルナを見遣る。
普段は男勝りで男口調だから気づきにくいが、こうしている時は…。

アクセル「(女の子…なんだよねえ…)」



































念願のガトーショコラは見事な焼き上がりで、待望な上に疲労もあったのだから、ひたすらに美味しかった。
でもあれだけ苦労して作ったにも関わらず、食べれば本当にあっという間である。
おやつの時間に精も根も使い果たしてしまったらしいアクセルは、どうにも物足りなげだった。
行儀悪く、口にフォークくわえたまんまぷらぷらさせているアクセルに、ルナは吹き出す。
けれど今度はからかいや意地悪を含んだものではなくて、深い優しさを含んだものだった。
ルナはフォークで自分の分のケーキを一切れ、アクセルの皿に置いた。 
 

 
後書き
次はアクセル編。 
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