ソードアート・オンライン ~白の剣士~
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仕事の依頼
前書き
今回は説明回です!
雪羅が詩乃を助ける数日前、彼は和人と共にある人物に呼ばれて銀座のとある喫茶店に来ていた。
「おーいキリトくん、シオンくん、こっちこっち!」
その二人を呼ぶスーツ姿の男、菊岡誠二郎は無遠慮な大声でブンブンと手を振っていた。
和人と雪羅は大きなため息をつきながらそちらに向かった。今日は雪羅は車椅子ではなく、アクアを装着している。あれから改良し、アクアを服の中に仕込ませ、外からは目立たないようにしている。
二人は席につくと、向かい側の席から陽気な声が飛ぶ。
「ここは僕が持つから、何でも好きに頼んでよ」
「言われなくてもそのつもりだ」
メニューを開くと、流石は銀座なだけありそれなりの値段があった。
「ええと、パルフェ・オ・ショコラ・・・と、フランボワズのミルフィーユ・・・に、ヘーデルナッツ・カフェ」
「俺はロイヤルミルクティーとチーズケーキで」
「かしこまりました」
ウェイターは注文を聞くと退場していき、雪羅は菊岡の方を向く。
「で、一体何のようだ?わざわざ銀座に呼び出すくらいだ、まさか本当にケーキを奢るだけなんて言わせないぞ」
「さしずめバーチャル犯罪がらみのリサーチだろ?」
「さすが、話が早くて助かるね」
そう言って菊岡はタブレットを取り出す。画面には見知らぬ男の顔写真、住所等のプロフィールが並ぶ。
「こいつは?」
「ええと、先月・・・11月14日だな。東京都中野区某のアパートで掃除をしていた大家が異臭に気づき、発生源の部屋でこの男、茂村保26歳が死んでいるのを発見。死後五日半だったらしい。部屋は散らかっていたが荒らされた形跡はなく、遺体はベッドに横になっていた。頭には・・・」
「アミュスフィア、ねぇ・・・」
「その通り、変死ということで司法解剖が行われて死因は急性心不全となっている」
菊岡は画面の茂村保の状況を簡単に説明した。
「心不全?ってのは心臓が止まったってことだろ?なんで止まったんだ?」
「解らない」
「やはり、犯罪性は薄いか?」
「そうだね、死亡してから時間が経ちすぎていたのもありあまり精密な解剖は行われなかった。ただ、彼はほぼ二日に渡って何も食べないで、ログインしっぱなしだったらしい」
正直、そんな話はよくあることだった。廃人並みのゲーマーならよくあることで、二日に一食というのはザラである。それ故に栄養失調で倒れ、独り暮らしならそのまま死亡するパターンもある。
「それで、その男がその時にプレイしていたのは?」
「彼がアミュスフィアにインストールしていたのは一タイトルのみ。《ガンゲイル・オンライン》、知ってるかい?」
「そりゃあ、もちろん。日本で唯一《プロ》がいるMMOだからな」
「彼はGGO内ではトップに位置するプレイヤーだったらしい。10月に行われた、最強者決定イベント《BOB 》で優勝したそうだ。キャラクター名は《ゼクシード》」
そこから先は雪羅が記事で見た通りだった。彼は《MMOストリーム》に出演し、その時に落ちたと。しかし───
「おそらくその時に心臓発作を起こし、そのまま・・・」
「ああ、ログでそれは秒に到るまで時間が判っている。で、ここからは未確認なんだが・・・丁度、その時刻にGGOの中で妙なことが有ったってブログに書いているユーザーがいるんだ」
「妙?」
「なんでも、テレビに映っているゼクシード氏に向かって裁きを受けろ等と叫んで銃を発射したということだ。それを見ていたプレイヤーの一人が偶然音声ログを取っていて、それを動画サイトにアップしたそれによるとテレビへの銃撃があったのが、11月9日午後11時30分2秒。茂村君が番組出演中に突如消滅したのが、11時30分15秒」
「偶然だろう?」
注文したケーキを口に運ぶ。雪羅はロイヤルミルクティーを飲みながらタブレットを眺める。
菊岡は話を更に続ける。
「実はもう一件あってね。今度は約十日前、11月28日だな埼玉県さいたま市大宮区某所、二階建てアパートの一室で死体が発見された。新聞の勧誘員が、電気は点いているのに応答がないんで居留守を使われたと思い腹を立て、ドアノブを回したら鍵が掛かっていなかった。中を覗くと、布団の上にアミュスフィアを被った人間が横たわっていて、同じく異臭が・・・」
「菊岡、そのへんにしとけ。周りからの視線が痛い・・・」
雪羅の言葉に和人と菊岡は辺りを見回す。そこには、マダムたちの怪訝な視線があった。菊岡は軽く会釈だけをし、続けた。
「・・・まあ、詳しい状況は省くとして、今度もやはり死因は心不全。男性の31歳、彼もGGOの有力プレイヤーだった。キャラネームは《薄塩たらこ》・・・」
その《薄塩たらこ》を撃ったのも、《ゼクシード》を撃ったのもどうやら同じプレイヤーらしく、裁き、力、といった言葉の後にキャラネームを名乗っていた。その名前というのが───。
「死銃・・・」
「菊岡、1つ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「その死亡した二人の脳には損傷は無かったのか?」
和人の質問に菊岡はニヤリと笑った。
「僕もそれが気になってね。司法解剖を担当した医師に問い合わせたが、脳には出血や血栓といった異常は見つからなかったそうだ」
「まぁ、そうだよな・・・。その二人が被っていたのがナーヴギアなら別だが今回はアミュスフィアだ。ナーヴギアは信号素子を焼き切るほどの高出力マイクロウェーブを発して脳の一部を破壊するが、アミュスフィアにはそれだけのパワーはない」
「その通り、シオンくんの言う通りアミュスフィアにはそんなパワーはない。あの機械にできるのは、視覚や聴覚といった五感の情報を、ごく穏やかなレベルで送り込むことだけだと、開発者たちは断言したよ」
「随分と手回しがいいな、こんな偶然と噂だけで出来上がってるようなネタに?」
「飛ばされた身としては暇でね。で、本題なんだが・・・」
そう言って本題に切り出そうとした菊岡を雪羅は手で制した。
「待て、お前の言うことはこの状況の中で一つしかない。“GGOに行って、《死銃》と接触、あわよくば撃たれてこい”だろ?」
「いや、まあ、鋭いね君は、ハハハ」
菊岡は笑ってごまかすが和人は立ち上がる。
「やだよ!何かあったらどうするんだよ!アンタが撃たれてこい!!」
「安心しろ、葬儀には参加してやるから存分に死んでこい」
そう言って去ろうとする二人を菊岡は袖をつかむことで止めた。
「待ってくれ!この《死銃》氏はターゲットに厳密なこだわりがあるようなんだ」
「・・・こだわり?」
やむなく再び椅子に腰を下ろす二人、そして菊岡は続けた。
「ああ、ゲーム内で《死銃》が撃った二人、《ゼクシード》と《薄塩たらこ》はどちらも名の通ったトッププレイヤーだった。つまり、強くないと撃ってくれないんだよ、多分。僕じゃあ出来ないが、かの茅場氏が認めた君達なら・・・」
「買い被りすぎだ、相手はプロがゴロゴロいるところだぞ」
「そのプロっていうのはどういうことだい?さっきも言ったが」
その事に関しては和人が間に入った。
「ガンゲイル・オンラインは、全VRMMOの中で唯一、《ゲームコイン現実還元システム》を採用しているんだ」
《ゲームコイン現実還元システム》、これを簡単に説明すると、ゲームで稼いだお金を現実の金として還元することができるシステムのことだ。正しくは電子マネーではあるが今はあれで払えないものはないので現実の金と同じである。
つまり、プロはそれを利用し月に大体20~30万を稼いでいる。そこまで多くはないが、生活するには十分な額だ。
「それで、本当のことを聞かせてくれないか?菊岡さん?只の私利、私欲の好奇心だけでこんな依頼をするわけがない。どういうつもりだ?」
雪羅は鋭い眼差しを菊岡に送る、菊岡はやれやれと思いながら答えた。
「まったく、君には恐れ入るよ。じつはね、上のほうが気にしてるんだよね」
「やはりか・・・」
「フルダイブ技術が現実に及ぼす影響というのは、いまや各分野で最も注目されている。仮想世界が、はたして人間の有り方をどう変えていくのか。この一件が規制推進派に利用される前に事実を把握しておきたい、単なるデマならそれでいい。その確信がほしいんだ、これならどうかね?」
『なるほどな、そこまで本気で気にしているなら普通は直接運営に当たるべきだと思う。だが、このGGOを開発・運営している《ザスカー》はアメリカにサーバーを置いている』
その後の説明だと、現実の会社の所在地、電話番号、メールアドレスが全て未公開だということを二人は聞いた。
「もちろん、最大限の安全措置は取る。君たちには、こちらが用意する部屋からダイブしてもらって、モニターしているアミュスフィアの出力に何らかの異常があればすぐに切断する。銃撃されろとは言わない、君たちの眼から見た印象で判断してくれればそれでいい。───行ってくれるね?」
雪羅と和人は顔を見合せ、深く息を吐いてから答えた。
「解ったよ、まんまと乗せられるのはシャクだが、行くだけは行ってやる」
「遭遇するかはわからんが、実在するのは確かだ。現に動画サイトにアップされているんだからな」
「これが《死銃》氏の声だ、君たちに渡しておくよ」
「そりゃどーも」
二人はイヤホンを耳にはめ、《死銃》なる人物の声を聞いた。
『これが本当の力、本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖とともに刻め!俺と、この銃の名は《死銃》だ!』
そこには機械的な響きを帯びた声が流れていた。
後書き
はい、今回は菊岡の仕事依頼でした!
GGOにダイブするのはもう少し先になるので少々お待ちください!
コメント待ってます!!
ではでは~三( ゜∀゜)ノシ
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