魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos39奇跡の邂逅/古き王の血族~Lyrical Vivid~
マテリアル達が復活して数時間後、日も暮れたことで海鳴の街は夜天に包まれている。暗き夜天に煌く星々と月の明かり、そして地上に乱立している建造物群が放つ人工的な明かりが交差する中空に、突如として人影が2つと現れた。と思えば2人はひゅーんと落下を始めた。
「ふぇ?・・・へ? え? え、ええええええーーーーっ!!??」
ひとりは10歳ほどの少女。金色のロングヘアで、頭部両サイドに小さなテールを作ったツーサイドアップ。瞳は紅と翠の虹彩異色。服装はどこかの学校の制服らしきものだ。そんな彼女の側にはウサギのぬいぐるみが寄り添っている。
「こ、ここは・・・上空ですか・・・!?」
もうひとりは金髪の少女より僅かに年上のような少女。碧銀の長髪をツインテールにしていて、左側のみ大きなリボンを付けている。瞳は紺と蒼の虹彩異色。そして彼女もまたどこかの学校の制服らしきもの着用しており、そんな彼女の側には仔虎とも捉えることが出来る、仔猫のぬいぐるみが、必死に彼女の肩に捕まっていた。
「うっそぉー!? なにこれ!? 夢!? 空から落っこちる夢の意味は、えっと・・・」
「ヴィヴィオさん! おそらくこれは夢ではなく現実です・・・!」
「アインハルトさん!? わわ、クリス! 浮遊制御! わたしとアインハルトさんに落下防止ぃぃーーーっ!」
「ティオ、クリスさんの手伝いを!」
金髪の少女の名はヴィヴィオ、碧銀の髪の少女の名はアインハルトというらしい。そしてヴィヴィオに、クリス、と呼ばれたウサギのぬいぐるみはビシッと敬礼をし、アインハルトに、ティオ、と呼ばれた仔猫が「にゃっ!」と力強く一鳴きすると、彼女たちの落下が止まった。
「は、はぁぁぁ~~~、止まったぁ・・・」
「これは一体、どういうことなのでしょう・・・? ヴィヴィオさん、何か心当たりありますか?」
安堵の息を深く吐き出していたヴィヴィオ。そんな彼女にそう訊ねたアインハルトに対し、「いえ、全く持って判らないです」と首をフルフルと横に小さく振って答えたヴィヴィオ。アインハルトは「とにかく状況の整理ですね」と、混乱しているヴィヴィオに優しく語りかけた。
「は、はい。えっと、わたしとアインハルトさんはついさっき学校が終わって・・・」
「はい。リオさんとコロナさんと一度お別れし、そしていつもの練習場へと向かおうとした時・・・」
「いきなり空がピカッて光ったと思ったら・・・」
「突然このような場所に転移されてしまって・・・」
「アインハルトさんと一緒にふわふわと空に浮いてる・・・と」
そこまで話し合ったあと、「整理してもやっぱり意味が解らないですぅぅーーーっ!」ヴィヴィオは文字通り頭を抱えて叫んだ。おそらく誰とてそうだろう。学校終わりに次の目的地へ向かう中、気が付けばどことも知らぬ空の上に飛ばされたのだから。混乱するのもおかしくはない。
「ま、まずは落ち着いて、冷静になりましょう。まずは、ここがどの辺りなのかを知りましょう。状況整理です。ここに飛ばされる前の時間帯は昼間でした」
「あぅぅ、アインハルトさんが一緒に居てくれて助かりましたぁぁ・・・。確かに午前で授業が終わったので、お昼過ぎでした。でもここは・・・夜、ですよね」
「街並みからしてミッド中央区――クラナガンではありませんね。郊外には似たような街並みが有ったような気もしますが、ですが少し違うような・・・。別世界なのでしょうか・・・?」
「別世界・・・。あれ? ちょっと待って。この風景、うそ、まさかそんな・・・」
アインハルトの別世界という発言を聞いたヴィヴィオがハッとする。そんな彼女を見て「何か心当たりがありましたか? ヴィヴィオさん」アインハルトは希望が見えたと僅かに安堵する。ヴィヴィオの側に浮遊するクリスがわたわたと両手を振る。クリスにもここがどこか判ったようだ。
「うん、間違いないです。ここ、なのはママやアリサさん、すずかさん、はやてさんの生まれ故郷、海鳴市!!」
ここがどこなのかを理解したヴィヴィオが驚愕に叫ぶ。そんな彼女のフルネームは、高町ヴィヴィオ。将来、高町なのはの義理の娘となる少女だった。
「確か、管理外世界の97番、地球の島国に有る地名でしたね。ですが何故、こんな遠くにまで飛ばされたのでしょう? 対象に気付かれずに一瞬でミッドから地球まで転送できるような魔法や技術などあるとは思えませんが・・・」
「そうですね。でも、もう大丈夫ですよ、アインハルトさん! 海鳴市なら知り合いも居ますし、何よりママのお友達のお家には、ミッド直通のゲートがありますからすぐに帰れます!」
「そうですか。それは良かったです。それではまずは、人目の付かないところで地上へ降りないといけませんね」
帰宅方法の目途が立ったヴィヴィオとアインハルトはようやく完全に気を緩めることが出来、僅かなりに笑みを零した。しかしその気の緩みもすぐに止まることとなる。クリスが急にわたわたと何かを報せるように腕を振り、ティオもまた「にゃあ、にゃあ!」と緊急を報せるかのように鳴き始めた。
「大きな魔力反応の接近警告・・・!」
「え、そんなはずは・・・! 今の海鳴市に、魔導師は常駐していないはずですよ。一体誰が・・・!?」
クリスとティオが報せたのは、強大な魔力を有した魔導師の接近を捉えたというものだった。その正体は不明。ゆえにアインハルトは「ヴィヴィオさん。念のために」と何かを行うような発言し、ヴィヴィオはそれに「はいっ!」と強く頷き返した。
「セイクリッド・ハート!」
「アスティオン!」
クリス――セイクリッド・ハートという正式名称を呼んだヴィヴィオと、ティオ――アスティオンと呼んだアインハルトの2人が「セーットアーップ!」変身のキーワードを告げた。光に包まれてその姿を一瞬消した2人が次にその姿を見せた時、外見がガラリと変わっていた。
共に10代後半ほどにまで背が高くなり、服装も動き易さを重点に置いたような防護服姿へと変わっていた。クリスとティオは自律型のデバイスであり、ヴィヴィオとアインハルトそれぞれの大切なパートナーだった。
「準備完了ですっ♪」
「それではヴィヴィオさん。気を付けて参りましょう」
「はいっ! アインハルトさんもお気を付けて!」
正体不明の魔導師と下手をすれば戦闘になると判断したヴィヴィオとアインハルトは変身をし、そして二手に分かれて離脱することを選択した。
†††Sideなのは†††
フェイトちゃんやアルフさんと一緒に、アリサちゃんやシャルちゃん、ユーノ君を誘って本局のレストラン街でお昼ご飯を一緒に食べようとしていた時、海鳴市のアリシアちゃんから緊急通信が入った。一体何事かと思えば、なんと“闇の書”の闇の欠片――マテリアルが復活したっていうとんでもないお話だった。
はやてちゃんとリインフォースさん、アミティエ・フローリアンさんとキリエ・フリーリアンさんっていう異世界からの渡航者さんと、そしてマテリアル達のやり取りを映像で見せてもらった。キリエさんやマテリアル達が追い求める“砕け得ぬ闇・システムU-D”というのがなんなのか判らないけど、放っておけるようなレベルじゃないから、私たちは分担して捜索することにした。
「――ここに、アミティエさんの反応があるって話だったけど・・・」
「うん。でもまさか未だに海鳴市に居るなんてね」
「アミティエさん、今度はちゃんとお話を聞かせてもらわないと」
私とシャルちゃんとすずかちゃんは、アミティエ・フローリアンさんの捜索チームとして、鋭意捜索中。ちなみにキリエさん捜索チームはアリサちゃん、フェイトちゃん、アルフさんで、マテリアル捜索チームははやてちゃんとリインフォースさん、あとでルシル君が合流予定。
「シャルちゃん、大丈夫?」
「もっとゆっくり飛ぼうか・・・?」
「なんとか大丈夫だから。ルビーン・フリューゲルの扱いも慣れてきたし、気にしないで」
シャルちゃんの背中からはルビーン・フリューゲルっていう魔力で出来た真紅の翼が展開されている。これまでに見た物とは違ってサイズが一回りほど小さい。最近教えてもらった弧とだと、ナハトヴァールやルミナさんとの戦いの時にルビーン・フリューゲルを発動させたのは、シャルちゃんのご先祖であり、なんと前世だっていうシャルロッテさん本人とのこと。つまり、シャルちゃんの心の中に、シャルロッテさんの人格がある。最初は驚いたけど、でもなんか納得も出来た。直感的に、シャルちゃんとシャルロッテさんの雰囲気が違うことに気付いていたからかも知れない。
「ん?・・・転移反応・・・?」
「でもこれ、普通の反応じゃない・・・!」
「海鳴の街のど真ん中で一体何をしようっていうの!?」
突如捉えることが出来た妙な転移反応。私たちはその反応が発生した地点へ向かって進路を変更。とその途中で、「新たな反応! これもまた妙な・・・!」シャルちゃんの言う通りまた別の地点から転移反応が生まれた。う~ん、2か所同時はちょっと無理かも。
「どうしようか・・・?」
「わたしが行くよ。なのはとすずかはそのまま進んで。2人ともわたしより速いから、わたしが居るとやっぱどうしても飛行速度が緩くなるでしょ?」
「そんなことないよ、シャルちゃん」
「ううん、すずか。いいんだよ。・・・行って、なのは、すずか。こっちはわたしに任せなさい♪」
シャルちゃんがニコッて笑みを浮かべた。私とすずかちゃんを顔を見合わせて頷いた。私は「シャルちゃん、お願い!」ってシャルちゃんと拳を突き合わせて、すずかちゃんも「気を付けてね」シャルちゃんと拳を突き合わせた。
「ん、了解! なのはとすずかも気を付けて。前回以上に厄介事になるだろうから」
そう言ってシャルちゃんは、私とすずかちゃんの飛行ルートから外れて別の転移反応の発信点へと飛び去って行った。大丈夫、シャルちゃんは強い。だから安心して先へ進める。すずかちゃんと一緒に速度を上げて、海鳴の街の上空をひたすらに翔ける。
「あ、二手に分かれた・・・!」
転移反応のあった地点には魔力反応が2つ残っていたんだけど、それらが二手に分かれて別々の方へ進んで行くのを察知できた。これはまた「こっちも分かれないとダメ・・・?」かな。
「うん、みたい。・・・それじゃあ、なのはちゃんはそっちをお願い。私はこっちの反応を追うから」
「すずかちゃん。気を付けてね」
「ありがとう。なのはちゃんも気を付けてね。シャルちゃんも言っていたけど、この前の闇の書の欠片事件以上に複雑な状況みたいだから」
すずかちゃんとも拳をコツンと突き合わせてから一度分かれる。すずかちゃんは大きく分ければ補助型の魔導師。相手が戦闘魔導師や騎士だった場合はちょっと不安だったりもする。でも「今の時間は・・・20時57分」時間がすずかちゃんの味方をしてくれているのが判って、その不安も消えた。
「よし。私たちも急いで向かおう、レイジングハート!」
≪はい、マスター≫
私も離れて行く反応を追って飛行速度を上げる。そしてようやく「あの、止まってください!」反応を示していた人を視界に収めた。後ろ姿で見て判っていたけど、その人は女性だった。歳は10代後半くらいかな。とても綺麗な髪と、ルシル君と同じで左右で色の違う瞳をしていた。
†††Sideなのは⇒????†††
どういう理由かなどは一切判りませんが、ミッドからヴィヴィオさんのお母様やそのご友人方の生まれ故郷である第97管理外世界・地球は日本、海鳴市へと気付く間もなく転移していました。
ここがどこか、というのを知り得ていたヴィヴィオさんと一緒に転移されたことがせめてもの幸運で救いでした。ヴィヴィオさんが居らず、私ひとりだけがこの事故?に見舞われていたと思うと、途方に暮れるのはまず間違いなかったでしょうから。
(しかし、その安心も束の間でした)
ヴィヴィオさんのお話しでは現在、海鳴市には魔導師は常駐していないとのこと。それなのに私とヴィヴィオさんの元へと強大な魔力反応が接近しつつある。警戒するために私たちは変身をし、分散して接近を試みている魔導師から退くことにしましたが・・・。
(速い!・・・私の速度では逃げ切れない・・・!)
よほどの空戦魔導師なのか、飛行魔法においては素人とも言える私の速度では逃げ切るのは不可能。ゆえに「「あの、止まってください!」追いつかれてしまった。ですがあまりに予想外な幼い女の子の声に、私は僅かばかり気を緩めてしまったのですが・・・
「っ!!? ヴィヴィオさんのお母様・・・!?」
振り向いて、私を追翔してきたのがなんとヴィヴィオさんのお母様――高町なのはさんだったこともあって、その緩みはすぐさま緊張へと変化。あと、どういう理由なのかは解りません、子供の姿をお取りになっていらっしゃるヴィヴィオさんのお母様は、「???」きょろきょろと辺りを見回すばかり。
(あの反応、他に誰かいるのかな?というような・・・。ご自分のことだとは微塵とも思っていらっしゃらない・・・!)
ヴィヴィオさんのお母様のお体をよく見れば、あの子供の姿は変身魔法によるものではない、正真正銘外見通りの子供のお体であることがなんとなく感じることが出来る。では、他人の空似・・・にしては防護服や手にしていらっしゃるデバイス――“レイジングハート”は正にヴィヴィオさんのお母様のもの。
「こちら時空管理局、高町なのはです。少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
「は、はい、構いません・・・(やはりご本人! これは一体どういう・・・!?)」
いよいよ混乱極まって来ました。いえ、これはもしかしてサプライズ、ドッキリというものなのでしょうか。私とヴィヴィオさんを驚かせようという。でも何故。その理由がサッパリ判らない。
「あの、地元の方ではありませんよね? 管理世界の方でしょうか・・・?」
「その、はい、ミッドチルダから、です」
「そうですか。ここは管理外世界となっています。渡航許可証はお持ちですか?」
管理外世界に入るためには管理局から入界の許可証が必要になってくる。これが無くては違法渡航として重い罪に課せられてしまう。ですが残念なことに「持っていません。どうしてこの世界に来て、どうやって来たのかも判らない状態なのです」そもそも普段から持ち歩くような代物ではない許可証ですから、仕方のないことなのですが。
「それは、お困りですよね。では、あちらで詳しいお話をお聞かせください。なんらかのトラブルでの転移なら、事情さえ分かれば罪には問われないですから、安心してください」
ヴィヴィオさんのお母様の笑顔は私の知っている、あの優しく温かなもの。ドッキリではないようです。本当にこちらの身を案じてくれているのがその笑顔で判るのですから。
『あの、アインハルトさん! 大変です、すっごいトラブルに巻き込まれちゃってます、わたし達!』
ヴィヴィオさんのお母様の誘導に素直に従うべきか時間を稼ぐべきかと悩んでいた所に、ヴィヴィオさんから思念通話が。私も『実は私もです。今、ヴィヴィオさんのお母様とお会いして! でも様子が変でして!』ありのままを伝えようとはしますが、少し混乱もしているようで・・・。
『えええ!? なのはママとですか!? あの、こっちはすずかさんとなんですが、おかしな事に子供なんです!』
『わ、私もそうです! ヴィヴィオさんのお母様は、ヴィヴィオさんより年下と思えるような背格好で!』
サプライズでもなくドッキリでもない、それなのに子供の姿でいらっしゃるヴィヴィオさんのお母様とすずか技術主任。これはもしや、とある推測が生まれた。そしてその推測は正しい物だとすぐに判ることに。
『どうやら今わたし達が居るのは、新暦66年の3月! 13年前の海鳴市らしいんです!』
(やはり時間移動! それこそ破格の技術! 数ある技術者が挑んでは敗れ去った・・・!)
ヴィヴィオさん達とお付き合いすることで、それまで何の興味もなかった知識を得る機会が増えた。その中で得た時間移動という技術。ですがそれはやはり夢物語という結論が出たモノ。それなのにまさか実際に起こり得るなんて思いもしなかった。しかも体験者が私やヴィヴィオさんなんて。
『あの、ですから未来から来たわたし達が、過去に何かしらの影響を起こしちゃうと未来が変わるとかなんとかって危険がありますから、ここは出来るだけ過去に関わらないようにしないといけないので・・・だから逃げましょう・・・!』
『はい、判りました! まずは逃げることを最優先。あとで合流しましょう!』
『はい! あのアインハルトさん、お気を付けて! この時代のなのはママ、すでにエース級だったらしいですから!』
『ヴィヴィオさんもお気を付けて!』
思念通話が切れる。相手は最高位の砲撃魔導師、高町なのはさん。子供だからという甘い考えは捨てましょう。ヴィヴィオさんのお母様の「あのー、よろしいですか・・・?」少し困っているようなお声。困らせたくはないのですが、それはお互いに良いお話し。ですから・・・
「申し訳ありません。事情がありまして、その、失礼させていただきます!」
「あの、ダメですよ! お話ししてくれないと、本当に罪になっちゃいますよ!」
全力で逃げる。背後からはそんな恐ろしいことを仰るヴィヴィオさんのお母様のお声が。この時代で犯した罪は未来ではどうなるのか、それが不安で堪らない。と、目の前を通り過ぎる美しい色をした魔力弾。思わず急停止。
「すみません、威嚇射撃をさせていただきました」
あまりに正確無比。私の飛行軌道と速度を考え、尚且つ当たらないように目前で交差させる技術。その才能が恐ろしいです、ヴィヴィオさんのお母様。
「あの、本当に申し訳ないのですが、こちらの事情をお話しするわけには参りません!」
「えっと、このままだと公務執行妨害になっちゃいますよ?」
「っ! そ、それでも無理なんですぅーー!」
公務執行妨害というハッキリとした罪状を叩きつけられて心が折れそうになる。それでも耐えて再び撤退を・・と思ってもすでに「お願いですから逃げないでくださーい」魔力弾数基が私を包囲して逃げ道を封鎖していた。
(こうなれば仕方がありません、ね)
撤退の意志を見せるように動いて見せると、私を包囲していた魔力弾が放たれてきた。それを「旋衝破!」射撃魔法を反射・吸収放射もせず、弾殻を壊さずに受け止めて投げ返す、覇王流の技を繰り出す。
「ふええ!?」
――ラウンドシールド――
可愛らしいお声で驚愕なさるヴィヴィオさんのお母様はそれでも障壁を張ってしっかりと防御。続けて「空破断!」手の平から押し出すように衝撃波を放つ。すかさず接近を試みる。この時代のヴィヴィオさんのお母様なら、体格差で私の覇王流も通用するはず。
空破断を躱したヴィヴィオさんのお母様の「もう、ちゃんと言うことを聞いてください!」砲撃を横移動することで紙一重で回避。そのまま接近し、「申し訳ありません!」と謝罪。足元から練り上げた力を検束に乗せて打ち出す、覇王流の断空と呼ばれる技術を利用した一撃・・・・
「覇王・・・断っ、空っ、拳ッ!!」
を繰り出す。威力は抑えてありますからヴィヴィオさんのお母様も墜落するようなことにはならないはず。ヴィヴィオさんのお母様が「プロテクション!」新たに展開した障壁に私の拳が拒まれ・・・ることはありません。障壁を破壊・突破。あと僅かで当たる、というところで「っ!?」横から4基の魔力弾が連続で私の腕に直撃。その衝撃に腕が逸らされた。
「ですが、まだ・・・!」
逸らされた勢いを乗せた左の拳打をすかさず繰り出す。ヴィヴィオさんのお母様が「レイジングハート!」と呼び、新たに障壁を展開。その障壁に拳打が当たると同時。
――捕縛盾――
「これは・・・!」
左腕に絡みついてくる鎖状の捕縛魔法。初めてヴィヴィオさんのお母様と試合った時に受けた近接封じのトラップ。ですが、「はぁぁぁっ!」すでに破る術を心得ています。繋がれぬ拳、アンチェインナックル。静止状態から加速と炸裂点を調整する打ち方。
「わわっ!? こんなアッサリ!?」
――アクセルフィン――
高速移動の魔法で私から距離を取るヴィヴィオのお母様。トラップは確かに厄介ですが、距離を離されて砲撃の雨に晒されるのはさらに厄介ですから、距離を開けないように詰め寄る。
「でも、ごめんなさい」
「え?・・・ぅぐっ!?」
後頭部、そして背中に連続で襲ってくる衝撃。チラッと見えたのは魔力弾。いつの間に発射していたのかが判らない。その思いが顔に出てしまっていたのか、「最初の威嚇射撃の時にはすでに待機させてました」と、本当に恐ろしい発言をなさったヴィヴィオさんのお母様。
「ちょっと痛いですけど、罪が重くなるよりはマシですよね・・・?」
――ディバインバスター――
強力な砲撃。直撃は撃墜確実。あれから成長した私でも容易く耐えられるような魔力量じゃない。必死に体を動かして躱す。その直後、「ショートバスター!」先ほどの砲撃よりかは幾分威力の低い砲撃が「きゃあああ!」私に直撃した。
「っ、はぁはぁはぁ・・・! (慣れない空中の所為もありますが、先読みの鋭さに置いて行かれてしまいます・・・!)」
幸運なことに何とか耐えきれた。ヴィヴィオさんのお母様が「ごめんなさい。でも、すごい格闘技ですよね。流派とお名前、聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」過去に影響を与える真似はいけない。判ってはいましたが・・・
「ベルカ古流・覇王流。ハイディ・E・S・イングヴァルトと申し・・・はっ!」
ついうっかり名前も流派も話してしまいました。慌てて口を噤みますがすでに手遅れ。ヴィヴィオさんのお母様は「やっぱりベルカの! 本当にすごいですよね、ベルカの人たちは♪」と弾んだ声でそう仰り、「ではでは、改めまして、時空管理局・嘱託の高町なのです」と頭を下げて、私から目を逸らしたその一瞬こそが好機。
「ティオ、離脱します!」
全速力でその場から離脱した。
†††アインハルト⇒????†††
気が付けば、なのはママの生まれ故郷・海鳴市に飛ばされていたわたしとアインハルトさんは、常駐しているはずのない魔導師の接近に警戒して分散して逃げに回った・・・んだけど、「すいません、少しお時間を頂けますか?」すぐに追いつかれちゃった。
(小さな女の子の声・・・? それにどっかで聞いたような・・・)
背中に掛けられた声はどこか聞き覚えのある女の子のものだった。ゆっくりと振り返って、その声の持ち主を見たわたしは「えええええっ!?」本当にびっくりしちゃった。だって「え? ええ? ちょっ、すずかさん!? ちっさ! なんで!?」なのはママの親友で同僚のすずかさんだったから。
「あ、変身魔法ですか? でもどうしてこんな場所で、しかもそんな姿? 童心に帰ってみたかったとか・・・?」
「え? あの、どこかでお会いしましたか? ごめんなさい、記憶にないんですけど・・・。私、記憶には自信あるんだけどな・・・」
「ふえ?(どうゆうこと? すずかさん、だよね、どう見ても)」
わたしの知ってるバリアジャケットにデバイス――“スノーホワイト”。声も幼いけど確かに本人のものだし、雰囲気もそうだし。もしかしてドッキリだったりするのかな。キョロキョロ辺りを見回すけど、よく判らない。
「あの、月村すずかさん、ですよね?」
「え? あ、はい、確かに、月村すずかですけど・・・」
「時空管理局・本局の、第零技術部主任の・・・?」
「へ? い、いいえ。まだ研修生の身ですけど・・・?」
「「んん??」」
すずかさん?と小首を傾げ合う。すずかさん?が本気で驚いてる。ドッキリじゃないとしたら・・・。もし変身なんかじゃなくて、本当に小っちゃい頃のすずかさんだとすれば。ふと今のこの状況に、ある推測が生まれた。もしかして・・・
「すみません、今日は新暦何年の、何月でしょうかっ?」
「え、えっと・・・えっと、あ、新暦66年の3月ですよ」
大当たりだった。だってわたしの知る今日は、新暦79年の6月。推測通りの時間移動だった。よくフィクションで目にすることがあるけど、まさかわたし自身が実体験するなんて思いもしなかった。とここでハッとする。未来人が過去に遡った場合、しちゃいけない事がたくさんあるってことを思い出した。
(未来の情報を教えたり、過去の物を壊したりするのはダメだとか・・・!)
急いでアインハルトさんに念話を通すと、なんとアインハルトさんはこの時代のなのはママと遭遇しちゃってるとか。タイムパラドックスを起こさないようするために、ここは逃げの一手を、と提案。アインハルトさんも承諾してくれて、わたし達は過去のなのはママとすずかさんから逃げることに。
「あの、とりあえず詳しいお話を聞きたいので、・・・そのバリアジャケットを解除しましょうか。近くに局施設――あ、管理局のお友達が住んでるお家がありますから、そこでお話ししましょう」
この時代で言うと、フェイトママやリンディさんのハラオウン家かな。だからと言って素直に応じてついて行ったら、それこそタイムパラドックスが起きる可能性もあるわけで。だから「すみません! それは出来ません!」反転して全力逃走。
「え!? まっ、待ってぇーーー!」
わたしの知ってるすずかさんは確か、総合AAA+ランクの補助タイプの魔導師。13年前だと幾つって言っていたかな。憶えてないけど、飛行慣れしていないわたしでもきっとこの時代のすずかさんになら後れを取らないはず。なんてとっても甘々な考えはすぐに粉砕されちゃうわけで。
――アイシクルアイヴィ――
氷の茨が8本、わたしを捕まえようと背後から伸びて来た。アイシクルアイヴィだ。捕まえた箇所を凍らせるっていう。空戦なんてほとんど素人なわたしだけど、わたしが捕まったら未来が変わっちゃうかもしれないから必至に避ける。
「えっと、あなたのしている事は公務執行妨害に抵触するかもしれないから、出来れば逃げないでください!」
「あうう、それでも捕まるのだけはダメなんですぅぅーーーっ!!」
――ソニックシューター・アサルトシフト――
誘導操作の魔力弾で迎撃する。未来のすずかさんのモノは簡単にはいかないだろうけど、過去のすずかさんのモノならきっと「やった・・・!」破壊することに成功。安心したのも束の間、「あう!」目の前に展開されている弾幕。氷結変換じゃないただの魔力弾・・・と油断すると痛い目に遭うのは未来も過去もきっと同じ。
「(すずかさんには本当ぉ~にごめんなさいだけど、こっちも大変ですから・・・)ちょこっと気絶をしていただきます!」
――バインドバレット――
――ソニックシューター・アサルトシフト――
同数の魔力弾で迎撃してすぐすずかさんの元へ突進する。わたしが急に逃げから攻めに転じた所為か「わわ!」すずかさんが少し慌てた。もしこれが演技だったら受賞ものだと思う。
「せぇぇーーいっ!」
――リボルバー・スパイク――
打ち下ろしの蹴りを繰り出す。すずかさんは防御を取るかなって思ったけど、「うん、まだ大丈夫」落ち着いた声で、紙一重で躱した。わたし続けざまに「アクセルスマッシュ!」魔力を乗せた拳を繰り出す。それすらもすずかさんは半歩分、体を横移動させるだけで躱した。完璧に見切られてる。
「あ・・!(忘れてた・・・!)」
普段のすずかさんの技術者然とした様子からすっかり忘れてた。すずかさんの運動神経・身体能力は、この時代じゃなのはママ達の誰よりも上だったって頃を。
――バスターラッシュ――
「あぅ・・・!」
半ばとっ組み合いになるかどうかって距離で、至近砲撃の直撃を受けちゃった。大きく吹き飛ばされる中、ゾワッと背筋に悪寒が奔った。すぐさま体勢を立て直してその場から急速離脱。その直後、猛烈な冷気が球状に吹雪いた。リフリジレイト・エアだ。
「バインドバレット・サークルシフト!」
わたしの全方位に魔力弾13発が展開された。まず避けきれない。だったら「レストリクトロック!」こっちもバインドで対抗する。直後、わたしに着弾した魔力弾がリングバインドとなってわたしを拘束。そして「この魔法、なのはちゃんの・・・!?」すずかさんもわたしのバインドを受けて拘束された。
「(あとは、どっちが早くバインドブレイク出来るか)クリス!」
わたしの内に居るセイクリッド・ハート――“クリス”に呼びかける。すずかさん。未来のあなたからの贈り物です。すずかさんのバインドはその数もあってか構築式が若干弱いから、「よしっ!」それほど時間を掛けずに破壊することが出来た。
「こっちもだよ!」
ガシャァン!と音を立てて壊されるわたしのレストリクトロック。直後、すずかさんの前面に魔法陣が展開された。砲撃が来る。
「バスターラッシュ!」
「ディバイン・・・バスタァァーーーッ!」
同時に砲撃を発射。すずかさんの顔が今度こそ驚愕に染まって、わたしの砲撃への対処が僅かに遅れた。わたしのディバインバスターは拳の打ち込みで起動して、高速砲でもあるからすずかさんのように撃ったらすぐに動ける。
でもすずかさんのは魔法陣の展開に発射、放射が切れるまで動けないっていうラグがある。さらになのはママと同じ砲撃の名前を使ってビックリさせることで隙を作ってみた。それらが合わさって対処が遅れたすずかさん。シールドは“スノーホワイト”が張ってくれたようだけど、ほぼギリギリだったからその衝撃は強いと思う。
(逃げるなら今、だよね・・・!)
反転して離脱再開と思ったその時。
「スノーホワイト。ナイツ・ルナレガリア、上昇値10%限定で起動」
≪ナイツ・ルナレガリア。起動いたしますわ≫
嫌な単語が耳に届いた。ナイツ・ルナレガリア。それって“スノーホワイト”の持つ機能の1つで、午後9時から午前3時までの間、魔力量やデバイスの機能、身体能力を底上げするっていう・・・。
「ひゃあ!?」
ドンッと強烈な魔力波がわたしを襲った。すずかさんを覆っていた黒煙が晴れて、その姿を見せた。わたしが思うことがただひとつ、もうダメだ、だ。下手に動いてトンデモ魔法を使われて撃墜されるのだけは嫌だから大人しくする。
「やっと大人しくしてくれた。スノーホワイト、レガリア停止。・・・コホン。えっと、あなたも異世界からの渡航者ですよね?」
「あぅ、はい。ミッドチルダ出身です」
「そうですか。今夜は異世界からの渡航者さんが多いみたいなんですけど、何かありましたか?」
「い、いえ。むしろわたしが知りたいんです」
「??・・・自分の意志で来たわけじゃないんですか?」
「はい。気が付いたらここに飛ばされてました」
「転送事故?・・・やっぱり私ひとりじゃダメかな。あの、先ほど言ったように局施設で――」
すずかさんがそこまで言いかけた時、『すずかちゃん』通信が入った。モニターに映ったのは「なのはママ!」だった。すずかさんとモニターに映るなのはママが「え?」ってわたしを見たからハッとして口を両手で押さえた。
「『なのはママ・・・って?』」
そしてすずかさんの目がわたしからモニターに移った。たぶんこれが最後のチャンス。そう思い立ったら何を考える間もなく「クリス、ジェットステップ! GO!」一足飛びでその場から離脱した。
後書き
アーユポーワン。
はい、というわけで今話は未来からの渡航者、その第二弾であるヴィヴィオとアインハルトを登場させました。そしてヴィヴィオから語られるすずかの未来像。さらにちょい出でしたが、フレイムアイズと同じ時間制限のブースト、ナイツ・ルナレガリアも登場。ちゃんとした活躍はあるのだろうか・・・
り
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