魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Epos38再臨/砕け得ぬ闇の使徒~THE DARK MATERIALS~
前書き
今のうちに謝っておこう。ごめんな、ユーノ・・・。ん? なんかデジャヴ・・・?
†††Sideリインフォース†††
妙な事態になってしまったものだ。突如として現れた未知の魔力運用技術を有したキリエ・フローリアンという少女から“闇の書”に眠る“システムU-D”などという知らない物を寄越せと脅迫を受け、さらには3ヵ月前に全滅させたはずのマテリアルの1基、闇統べる王が復活してしまうとは。
「ふはははは、漲るこの力ぁぁッ! 溢れる魔力ぅぅッ! 震えるほど闇黒ぅぅッ!!」
「なんや、この前とは違ってはっちゃけてるなぁ~」
「あ、あれが闇統べる王、ロード・ディア―チェ・・・? なんていうかお馬鹿さんぽ~い・・・」
「む? なんだ、子鴉ではないか。それにその・・・融合騎。あとはなんだ、その頭の悪そうな頭の色をしたのは?」
闇統べる王ロード・ディア―チェが私たちに気付き、そしてその視線をキリエへ向けて失礼なことを言い放った。いきなり貶されたことで「そ、それって、わたしのこと!? ていうか頭の悪そうな色って!」ショックを受けるキリエ。
「口の悪さはやっぱ相変わらずやったなぁ。アカンよ、そんな悪口なんか言うたら。メッ、やよ」
「王に説教とは、子鴉は相変わらず礼儀を弁えぬ。ふん、まあいい。・・・貴様らに問答無用で燃やされるなどという屈辱、ようやく晴らす時が来たようだな」
今度は私たちに視線を移し、漲る魔力と共に敵意を放ってきた。が、「あー、王さまにトドメ刺したんはわたしらやないんやけど」主はやてが受け流すかのように小さく挙手。ディアーチェは「トドメとかいうではない! っく。では誰だ? この我を焼き殺した不埒な輩は!?」よほど溜飲が下がらないのか、自身を撃破したテスタメント・ステア――その正体であるルシルの居所を探ろうとした。
「あー、それも無理やわ。ステアちゃんもまた王さま達みたく特別な欠片――マテリアルやったから」
「なに? では何か、我は同胞に焼き殺されたとでも言うのか?」
「まぁ、そうゆうことになるなぁ」
「・・・・ええい! すでに居らんのならばもうよい! ならば貴様らだけにでも味わわせてやろうぞ! 生まれ変わることで手に入れた、闇統べる王の名に相応しき無敵・無敗の力をなッ!!」
ショックを受けていたディアーチェは気を取り直し、発し続けていた邪悪な魔力をさらに増加させた。まずい、明らかに以前より強大な力を手に入れている。すぐさま主はやてをお護りするために動こうとした時・・・
「跪けぇぇいッ!」
――王の威光――
「えっ?」「なっ?」
主はやてと私を同時に拘束した捕縛魔法。発生から拘束までの時間があまりに早く、対応に遅れてしまった。しかもかなり強度があり、破壊するには時間がかかりそうだ。満足そうに頷いているディアーチェに「これが、先ほど言っていたお前の新たな力か・・・?」と話しかける。
「その通り! 以前までの我と思わぬことだ。いま貴様らを捕らえている王の威光などまだ序の口よ!」
(ということは、他にも以前までには無かった魔法を会得していると考えるべきか。厄介な)
機嫌が良くなったそんなディアーチェに、「あのー、ちょっといいです? 王様、はじめまして。わたしは――」この状況で私たちの話に割り込んでくるキリエだったのだが、それがディアーチェにとって不愉快だったのか、「頭が高いわっ、ピンク頭!」と彼女にも捕縛魔法――王の威光を掛けた。
「遠近自在の高速バインド!」
ディアーチェの言葉が事実であるとすれば、序の口という王の威光ですらこれほどまでに厄介なのだ、他に得たという魔法は一体どれだけの脅威になるのか計り知れない。
「ふっはっはっはっ! そのステアとかいう輩に我が闇の力での報復が出来ぬのは残念だが、それまでに我に与えた屈辱と苦痛を、今ここで百倍・・・いや、億倍、いやいや、千兆倍にして丸ごと返してくれるわぁぁぁーーーーッッ!」
――グラディウスレイン――
1人につき4本の剣がそれぞれの上空に展開された。拘束をされてはいるが魔力運用阻害の効果はないため、多少の無茶をすれば迎撃することが可能だろう。そしていざ迎撃を、と思ったところで「ちょぉーっと待ったぁぁーーッ!」どこからともなく少女の声が聞こえてきた。
「この声・・・!」
真っ先に反応したのはキリエ。そうして私たちの目の前に現れるのは声の持ち主である少女。服装や武装は色違いとは言え同じデザインである以上、キリエと何かしらの関係があると見ていい。
「なんだ、貴様は? 服装からしてそこのピンク頭の同類か何かか?」
「黒羽のお嬢さんと、銀髪の方! 不肖の妹が大変ご迷惑をおかけいたしました! 必ずや謝罪させますので、今はどうか私にこの場を任せて、下がっていてください!」
「うっそ! やっぱりアミタ! 手を出さないで――っていうか、なんでそんなピンピンしてるの!? ウィルスの効果は!?」
「ウィルス? そんなもの、この胸に宿る情熱に燃えるエンジンの誇る気合いパワーでどうとでもなります!!」
「どんだけぇーーっ! そんな馬鹿は風邪をひかないレベルの話じゃないんだけど!?」
姉妹ケンカとでも言うのか、アミタという少女とキリエが言い合いをしていると、「無視をするな! 妹も妹ながら姉もまた王に対して不敬だな!」ついにディアーチェが怒鳴り声を上げた。
「ああ、すいません!・・・貴方に恨みはありませんが、この世界の運命を護るため、エルトリアのギアーズ、アミティエ・フローリアン! 参ります!」
「話はサッパリと見えんが、良いんだろう、返り討ちにしてくれるわ!!」
――バルカンレイド――
――エルシニアダガー――
アミティエの2挺の銃より発射される光弾と、ディアーチェの前面に展開されたミッド魔法陣より放たれる魔力弾が衝突し、互いの攻撃を相殺していく。しかし今のディアーチェはかなり強力だ。アミティエ単独で戦いきるのは難しいだろう。一刻も早くこの王の威光を破壊して、彼女と共闘しなければ。
「ほう、やるではないか!」
――アンスラシスドルヒ――
血色の短剣型の高速射撃を20基と発射するが、アミタはその鋭い機動力を以って回避しながら「ロックオン!」捕縛魔法?を発動、ディアーチェを捕らえようとする。だがディアーチェも「王を捕縛しようとは、無礼者め!」ヒラヒラと舞って躱す。そういったお互いに決定打を与えられないジリ貧な戦いへと突入。
しかしそれも・・・終わる。ようやくディアーチェの王の威光を破壊することに成功。まずは「主はやて、もうしばらくのご辛抱を!」主はやてをお助けする前にディアーチェへと向けて、「ナイトメア!」砲撃を発射する。それでアミティエに接近を試みていたディアーチェの動きを潰す。
「チッ。ポンコツ融合騎め、水を差す出ない!」
「ポンコ――、こらぁっ、王さま! またリインフォースのことをそんな風に悪く言うて! 許さへんよ!」
「知ったことか! 事実であろうが!」
主はやてがまた私のことを貶すディアーチェに怒りをぶつけ、それを真っ向から受ける王。とそんな時、「チャンス・・・! ロックオン!」アミティエの捕縛魔法?がディアーチェを捕らえた。
「おのれ子鴉! 貴様が余計な口を挟んだ所為で!」
「えええ、わたしの所為ちゃうやろ? 明らかに王さまの油断やんか」
「ええい、口答えするでない!」
私は主はやてに掛けられた王の威光の破壊を、ディアーチェは自らアミティエの捕縛魔法を破壊しようとしたが、それよりも早く「アクセラレイター!」アミティエが瞬間移動というほどの速さで王の元へ最接近した。
「む!?」
「ヘヴィエッジ!」
アミティエの振るう片刃剣が降り上げられる。が、それより早くディアーチェは捕縛魔法を破壊、“エルシニアクロイツ”で斬撃を受け止め、間髪入れずに「インフェルノ!」と、私のハウリングスフィア並の大きさを誇る魔力弾複数をアミティエへ向かって降らせた。
「っく・・・!」
「ほう、今の一撃を耐え凌ぐか、やるではないか熱血女!」
やはり私の知る魔法ではない別の技術を扱うアミティエ。彼女の展開したシールドがディアーチェの攻撃を防ぎきった。しかし「はぁはぁはぁ・・・!」ダメージは入っていないはずにも拘らず、アミティエは肩で息を始めた。
「なによ、やっぱりウィルスの影響が思いっきり出て今にもぶっ倒れそうじゃない!」
「こ、こんなもの・・・どうってこと・・・ありません!」
――アクセラレイター――
「「「「っ!?」」」」
アミティエの姿が掻き消える。速い。オーディンの空戦形態コード・ヘルモーズ程ではないが、フェイトのソニックムーブ以上の速度は出ている。その最中での銃撃。さすがのディアーチェも半ば奇襲のような立ち回りに「うぐぅっ!」直撃を受けてしまう。
「E.O.D・・・行きます!!」
「ぬお!?」
さらに連続で斬撃を受けたディアーチェが苦悶の声を上げる。第三者として見るから判る、アミティエの速度と彼女が行おうとしている技。ディアーチェの周囲に光弾が無数に展開されていく。正に目にも留まらぬ速さでディアーチェを包囲していく。
「シュート・・・エンドォォッ!!」
――エクス・オービット・ディバージョン――
ディアーチェを包囲していた光弾十数発が一斉に射出され、王を全方位から襲撃。先に受けた銃撃や斬撃が堪えたのかディアーチェはまともに防御することもなく全弾をその身に受け、爆発に呑み込まれた。
「アミティエさん、すご・・・。王さまを独りで倒してもうた・・・」
「ええ。具合が優れない中でのあの技の冴え、驚嘆に値します」
とここでようやく主はやてを捕らえていたディアーチェの王の威光を破壊することが出来た。すると主はやては「油断はせえへんようにしよ。いつでもユニゾンできるようにな」と小声で仰った。私は「はい」と首肯し、晴れ始めた黒煙を真っ直ぐに見つめる。そしてアミティエとディアーチェの姿を視界に収めた。
「おのれ・・・! やはり目覚めたばかりでは、魔力が足りんのか・・・!? 以前なればこの程度の攻撃、難なく受け切れたであろうに・・・! しかもなんだ、先程から力が急激に何かに奪われていくかのような、この喪失感は・・・?」
まったくの無傷とはいかなかったようだがそれでも五体満足であるディアーチェ。対するアミティエはウィルス云々の影響か今にも墜落しそうな弱々しさだ。しかしディアーチェの様子があれならば、今の私たちでも確実に打ち倒せるはず。
「リインフォース、ユニゾンいけるな」
「もちろんです」
「んなっ!? 待て、貴様ら! 苦境に陥っている我を相手に、貴様らは融合し、容赦なく攻撃を仕掛けるというのかッ!?」
ディアーチェが怒鳴り声を上げて非難をしてくる。主はやては「えっと、ごめんな?」と両手を合わせ、小首を傾げながら謝る。そして私も「すまないね。まずは無力化をさせてもらうよ。話を聞くのはその後にしよう」とそう続ける。
「鬼か! 貴様らは鬼か!? 我よりよっぽど黒いではないか!」
若干涙目になっているようにも見えるディアーチェ。キリエが「ちょっと待って、倒されちゃ困るの!」そう言って制止を掛けてくるが、彼女の姉アミティエが「あなたは少し大人しくしてなさい!」とキリエに銃口を向けた。だが、ここで新たな問題が発生することとなった。それは・・・
「待ぁてぇぇぇーーーーいっ!」
「「「「ぅく・・・!?」」」」
強烈な魔力の衝撃波が私たちを襲った。崩された体勢を整えてすぐ、複数の人影が視界に収まる。ディアーチェの援軍――他のマテリアルが複数基、同時に再起動したのだ。ディアーチェの側に現れた4基のマテリアル達。なのは、フェイト、アリサ、すずかの姿と似通ったあの子たちが今この状況で現れたのは戦力的に見て最悪だ。
「わぁーっはっはっはっはっ! 王様だけが復活して、僕らが復活しないなんて道理はないッ!」
フェイトと似通った構築体――“力”のマテリアルが言い放つ。
「こうしてこの姿でお目に掛かるのは初めてですね、ロード・ディア―チェ」
なのはと似通った構築体――“理”のマテリアルがディアーチェへと挨拶をする。
「というよりは、私たちそれぞれがこのように邂逅するのも初めてですわね」
すずかと似通った構築体――“律”のマテリアルがそう言いつつ、他のマテリアルを見回す。
「陛下、お初であります!」
アリサに似通った構築体――“義”のマテリアルが、なんとディアーチェの足首に手を掛けてぶら下がりながら敬礼をした。ディアーチェはそんな“義”のマテリアルに向かって「貴様、何処を掴んでぶら下がっておるか! 離せ、無礼者!」怒鳴る。
「申し訳ないであります! 自分、空を飛べないので、手を離すと真っ逆さまに墜落するのであります!」
「知ったことか、たわけ! 重いわ!」
「うぅ、仕方がないのでありますな」
“義”のマテリアルは渋々と言った風に自らの足元に魔法陣の足場を創りだし、そこに着地した。初めからそうしていれば、ディアーチェに怒鳴られずに済んでいたのかもしれないのにね。
「ふん。・・・しかし壮観だな。よく我が下に集ってくれた! 理、力、律、義!!」
「・・・ああ、シュテルとは、そう言えば私の名でしたね。忘却していました」
「レヴィ! よく覚えてないけど、その名前すっごくカッコいいからいいや!」
「アイル・・・、我が名前ながら惚れ惚れするほどに美しい名前ですわね」
「フラム! 燃える私には相応しい名前でありますな!」
ディアーチェのみならず他のマテリアルにも個体名があったようだ。主はやてが「なんや一気に個性が出始めたな」と呟いた。するとディアーチェが「どうだ、見たか、子鴉、ポンコツ融合騎! 貴様らの鬼畜の所業など、もう恐るるに足りぬ!」と安堵したように大声で言い放ってきた。
「闇統べる王ロード・ディア―チェ! 星光の殲滅者シュテル・ザ・デストラクター! 雷刃の襲撃者レヴィ・ザ・スラッシャー! 氷災の征服者アイル・ザ・フィアブリンガー! 炎壊の報復者フラム・ザ・リヴェンジャー! 王と王下四騎士! ここに一堂に集結した事で、我の力も満ちて・・・満ちて・・・いや、待て」
先程までの興奮が急に冷めたディアーチェが少し考える仕草を取ったかと思えば、ジロリと他マテリアルを睨め付けた。
「どしたの、王様?」
「陛下、何か私たちに至らぬところがあったでありますか?」
「いま気付いたのだが・・・おい、貴様ら・・・実体化するにあたって、ここらの魔力やシステムの共有リソースを、ただ食うだけならまだしも意地汚く適当に食い荒しおったな・・・?」
「うんっ!」
「美味しく頂きました」
「ごちそうさまですわ」
「みんなで仲良く分けて頂いたであります」
順々に答えていくマテリアルの話を聞いたディアーチェは俯き加減で肩を震わせ「至らぬところがあったか?だと・・・、たわけ! それが先程、我が窮地に陥った理由であろう!?」くわっと険しい表情で怒鳴った。
「へ? そうなの? シュテル、アイル、フラム」
「そうなりますか」
「そうなりますわね」
「そういうことでありますな」
「阿呆か、貴様らぁぁぁぁーーーーッッ!! 復活するにしても時と場所と場合、TPOを弁えんかッ!! 貴様らの所為で危うく我は下種の極みの犠牲になるところだったのだぞ!!」
怒鳴りっぱなしのディアーチェに同情を抱いた事は胸の奥にしまい、「鬼畜の所業とか下種の極みとか、酷い言われようやなぁ・・・」主はやての呟きに「そうですね」と首肯しておく。先程まで抱いていた緊張感が失われていきつつある現状に僅かばかりの隙が生まれてしまった。
「そ、そんなことを言われても僕、知らないよー!」
「わざとではありませんわよ、王」
「そうであります。何かに呼ばれた気がしたのでありますよ」
「ええ。まるで無理矢理に、我々の時を早送りにされたかのように」
その気の緩みを生んでしまったことを後悔することになろうとは。まず「きゃあああっ!?」側にいる主はやての悲鳴が聞こえた。ハッとそちらへ顔を向け、主はやてが右腕を押さえていたのを見た瞬間、「っく・・・!」背中に走る痛み。さらに続けて私と主はやてを一纏めにするように、やはり魔法とは違う力で創られた捕縛輪が掛けられた。
「キリエ、あなた・・・なんてことを・・・!」
もうまともに動けないのか魔法陣のような足場の上にへたり込んでいるうえ、私たちと同じように拘束されたアミティエの非難の声に「ごめんなさいね、黒羽のお嬢ちゃんと管制プログラムのお姉さん。ちょこーっと斬らせてもらっちゃった」
私と主はやてに攻撃を加えたのはキリエだった。ペロッと舌を小さく出して軽い口調で謝るキリエに「ちょっとって、なんで斬るんですか!?」主はやても非難の声を上げ、私も視線を送った。しかしキリエの視界の中に私たちは映り込んでいない。彼女の意識はディアーチェを筆頭としたマテリアルへ向けられていた。
「ねえ、王様? ほんのちょっとだけでいいんだけどぉ、わたしのお話を聞いてみない? 耳よりの情報なんだけど」
「聞く耳など持たぬ。早々に我らが前より失せるがよい。下郎と言葉を交わす口は持ち合わせておらんからな」
「んふふ♪ じゃあそれがシステムU-D――王様たちが目指す砕け得ぬ闇の事だとしてもですか?」
「砕け得ぬ闇・・・」
「それって僕らがずっと探してた・・・」
「大いなる力のことでありますな・・・」
「何故あなたのような部外者が知っているのかしら?」
「ねえねえ! ひょっとしてキミ、砕け得ぬ闇の目覚めさせた方とか知ってたりするの!?」
「それは素晴らしいでありますな! 陛下、この者の話を聴きましょう!」
「よさぬかレヴィ、フラム! こんな得体の知れぬ下郎から聞く話など何もないわ!」
「お待ちを、ディアーチェ。話だけは聞きましょう」
「そうですわね。得体の知れないのは同感ですわ。ですが、聞くだけであれば無料ですわ」
「ほーら、他のみんなは聴きたそうにしてますけど? どうします?」
「・・・よかろう。臣下の声を聴くのも王の務めだ。許す、話すといい。しかし手短にな」
キリエとマテリアル達の会話の間に捕獲輪の破壊を試みるのだが、魔法とは別の運用技術ということもあってなかなか破壊プログラムを割り込ませることが出来ない。いや、それより「お怪我の方はどうですか? 主はやて」私が守るべきだった主の身に傷を付けられた。不覚を取るにも限度がある。
「わたしは平気やよ。確かにほんのちょっとしか斬られへんかったから。そやけど、まずいことになってしもたな」
「はい。異世界からの渡航者に加え、以前より強大な力を手に入れているディアーチェ。おそらく他のマテリアルも何かしらの進化をしているでしょう」
「これはもうわたしらだけや解決できひんなぁ・・・」
溜息を吐く主はやて。私が気に病まないようにフォローをしようとしたところで、「――では、場所を変えましょう。我々の本拠地とする場所の目星はつけてありますので」シュテルがこの場から去ろうという発言をした。
「おお! さっすがシュテるん!」
「やるでありますな、シュテるん!」
「やりますわね、さすが理を司るマテリアル・シュテるんですわ」
「えっへん。・・・・待ってください。ん、を付けるのは決定なのですか?」
「ふむ。褒めて遣わすぞ、シュテル。・・・さて場所を変える前に・・・。はぁーはっはっはっは! 我らがこうして復活したからには、子鴉、ポンコツ、貴様らはもう終わりよ! 我らの力が整い次第、忌々しい守護騎士や、チビ魔導師共もひとり残らず食らい尽くしてやるから、首を洗って待っておれ!!」
「待ってろー!」
「というわけで、近いうちに改めて、皆様にご挨拶にお伺いしますので。今日はこれにて失礼します」
「アリサという炎熱の魔導師に、前回の屈辱を必ず晴らす、と伝えてくださいな」
「守護騎士は、この炎壊の報復者――フラム・ザ・リヴェンジャーが討つであります! 特に紅の鉄騎を確実に、でありますから、言伝のほどよろしくであります!」
「あ、僕はね、オリジナルに伝言を頼もうっと! 次は絶対に僕が勝つ、って言っておいて!」
「そんじゃ、アミタもバイバーイ♪ もう追って来ないでね~❤」
そうしてマテリアル達とキリエはどこかへと飛び去って行ってしまった。残された私たちはそれをただ見送るしかなく。
「キリエ・・・! あの子は本当にもう! うちの妹が大変ご迷惑をおかけしました!」
キリエの捕獲輪をいち早く破壊したアミティエが私たちに深々と頭を下げた。そして「お2人を捕らえているソレはすぐに解けますから、今しばらくお待ちください」そう言ってマテリアル達を追おうとするアミティエに、「ちょう待ってください!」主はやてが呼び止める。
「必ずお2人に謝らせますので! では、私はこれで!」
「ちょっ、あー、アミティエさんも行ってしもた。あんなに辛そうやったのに、めっちゃ速い・・・」
しかし話を聞く暇すらなくアミティエもまた飛び去って行ってしまった。それとほぼ同時に捕獲輪が消滅し、私たちは拘束から解放された。
「はぁ。・・・アミティエさんとキリエさんのこともやけど、マテリアル達が復活したとなると、また対処せなアカンな」
「はい。ですが・・・」
「うん。クロノ君やシグナム達は結構遠い世界に出張中や。たぶん、この一件の助けになってくれるんはすずかちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、シャルちゃん・・・かな」
主はやてが挙げたメンバーの中に「ルシルはどうでしょう?」私たちという戦力の中で最強の二文字を有するに相応しい少年の名前を加える。ルシルはルシルで主はやての研修が休みの際、様々な研修を受けているようだが、これほどの緊急事態ならば戻って来てくれるはず。
「それは・・・」
『可能だよ、はやて!』
私たちの目の前に展開されたモニターに、フェイトの姉であるアリシアが映し出された。
『さっきまでのマテリアル達とのやり取りはこっちでもモニターしてたよ。緊急事態ってことで、出張中なクロノ達に連絡を取って戻って来てもらうことになったから。マテリアル達の反応を捉え次第、現場に向かってもらえるようにしたからもう大丈夫!』
「おお、仕事が早いなぁ、アリシアちゃん!」
『えっへん! わたしだってやれることがあるんだったらなんだってやるよ! とりあえずはやて達はハラオウン家に来て。怪我の程度とか見ておきたいし、今すずかを呼び寄せるから。待ってるからね』
「了解や。・・・さてと。治療の後は、リインフォースにはおうちでゆっくりしててもらいたいんやけど・・・」
まさかの留守番要員にされるとは。だが「いいえ、どうか、私も共に」と側に居られるようにお願いする。すると「・・・ん、判った。その代わり、わたしの側を離れんといてな」と思いの外簡単に許可をくれた。
「感謝します」
こうして私たちは復活したマテリアル達、そして異世界からの渡航者であるアミティエとキリエ、フローリアン姉妹の捜索へと乗り出すこととなった。
後書き
ナマステ。
前回のあとがきでは未来からの来訪者まで行く予定とお伝えしましたが、残念ながらマテリアル達の復活までとなってしまいました。
さて。今話ではアリサのそっくりさんである“義”のマテリアルと、すずかのそっくりさんである“律”のマテリアルの名前を明らかにしました。
フラム・ザ・リヴェンジャーとアイル・ザ・フィアブリンガー。
先ずフラムですが、フランス語で「炎」を意味します。そしてリヴェンジャー、「復讐者」ですね。ちょっと前はアヴェンジャーと名乗らせるつもりでしたが、それでは「ジ・アヴェンジャー」となって、シュテルやレヴィ、アイルのように「ザ・○○」ではなくなると思って断念。
次にアイルですが、ゲール語(インド・ヨーロッパ語族ケルト語派に属する言語)で「氷」を意味します。融合騎アイリとなんか被るなと思いましたが、他に良い名前も見つからずそのまま採用。
そしてフィアブリンガー。フィア(フィアー)は恐怖、ブリンガーは齎す者ということで「恐齎者/きょうさいしゃ」という風に決定。実は一番苦労した名づけでした。
パニッシャー断罪する者
スレイヤー/殺害する者
スウーパー/急襲する者
レイダー/襲撃する者
サブジュゲイター/征服する者
ジェノサイダー/殺戮する者
サプレッサー/鎮圧する者
リベレイター/解放する者
クリアランサー/一掃する者
ブロッケイダー/封鎖する者
エクスターミネーター/絶滅させる者
ドミネーター/支配する者
ブリンガー/齎送する者
という候補を挙げ、最終的に「デ」や「ス」で始まらず、「ター」や「シャー」で終わらない、それでいて「アイル・ザ」のリズムに合う物ということで、ブリンガーを採用。しかしそれだけでは何か足りない。そこで色々考えた末に「恐怖/フィア」を追加、といった感じです。
ページ上へ戻る