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早死に

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第五章

「新太郎も早死にするよ」
「じゃああれか、親父の家系が早死になのは」
「そんな生活してるからだよ」
 酒と煙草、極端なしかも健康に悪そうな偏食である。
「駄目に決まってるじゃないか」
「じゃあこれからな」
「そう、お野菜は嫌いでも」
 それでもというのだ。
「食べないとね」
「どうもな、キャベツとかな」
「美味しいよ、試しに今食べればいいじゃない」
 こう新太郎に言う。
「トマトだってあるし」
「そういうのを食えばか」
「うん、食生活を根本から変えたら」
「早死にしないんだな」
「それと朝からビールやコーラも」
「駄目なんだな」
「普通のものを食べて飲まないとね、お茶とか野菜ジュースとか牛乳とか」
「そういうのからか」
「そうだよ、じゃあ試しに」
 強い声だった、今の仁は。
「定食のキャベツね」
「食うのかよ」
「美味しいから」
 食べると、というのだ。
「食べたらいいよ」
「そうか、美味いのか」
「というか何で野菜食べないの?」
 新太郎個人に対する問いだ、代々の早死にのことは含めていない。
「それは」
「ああ、親父達が食ってなかったからな」
「食べる習慣がないんだ」
「そういえばお袋は食べてたな」
「だったらね」
 それなら、というのだ。
「食わず嫌いかな」
「そうなるか」
「それだったら一度食べたらいいよ」
 むしろそうしろという口調だった、仁の今の言葉は。
「本当にね」
「そうすればいいか」
「野菜食べないと」
「早死にするか」
「お酒の飲み過ぎと煙草の吸い過ぎも駄目だけれど」
「煙草は止めるべきか」
「それは絶対にだね」
 煙草についてはだ、仁は言うまでもないといった口調で答えた。
「身体にいいことは何もないから」
「だからか」
「お酒も。そんな一日一升とかはね」
「駄目か」
「絶対にね」
 こちらもだった。
「止めて。あと甘いものも今よりもずっと控えて」
「野菜食ってか」
「果物も甘いけれどね」
 こちらも、というのだ。
「とにかく野菜だよ、野菜を食べるんだよ」
「それか」
「そう、まずは試しにね」
「キャベツだよな」
「それ食べてね」
「そうか、じゃあ食ってみるな」
 こう言ってだ、そしてだった。
 新太郎はキャベツの千切りを箸に取って口の中に入れた。そうして数回噛んで飲み込んでから仁にこう言った。
「美味いな」
「そう、美味しいんだね」
「キャベツって美味いな」
「他のお野菜も美味しいから」
「野菜もどんどん食ってか」
「お魚もお豆腐もね」
 そうしたものも、というのだ。
「とにかく色々なものを食べるんだよ」
「そうすればいいんだな」
「長生きする為にはね」
「そうか、代々早死にの理由はそれだったんだな」
 新太郎はそのキャベツをさらに食べながら言った。
「これだったんだな」
「うん、間違いなくね」
 仁はそのキャベツを食べる新太郎に答えた。食生活を根本からあらため酒を飲む量をずっと減らし煙草を完全に止めた新太郎は米寿まで生きた、彼は死ぬその間際まで健康でいられた。


早死に   完


                                2014・4・30 
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