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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第114話 伝わるもの ②



『かはっ!!』

 月花はレデュエが操る植物に囚われ、柱に思いきり叩きつけられた。その衝撃とダメージで咲の変身は解けた。

 翠の杖槍が、柱にもたれて咳き込む咲の喉に突きつけられた。

「紘汰、くん、に、何、したのよ」
『オマエ、さっきからそればっかりだね。そんなにカズラバコウタが大事?』
「だい、じに、けほっ、決まってん、でしょ!」
『ふうん? ジュグロンデョにもそんな情緒あるんだ』

 レデュエは馬鹿にするような相槌を打ち――杖槍を引いた。

『ワタシが今コイツに見せているのは、ただの悪夢ではない。いずれコイツの身に降りかかる現実だ』
「紘汰くんに?」

 そこで夢うつつのように鎧武が言葉だけを発する。


『俺は、みんなを救う力が欲しくて――だからオーバーロードになるしかないって――』


 オーバーロードになる。
 そんな悲しい決意を、咲の知らないところで、紘汰はしていたというのか。
 そこまでして紘汰は人類を、世界を救おうとしていたのか。

『オマエは運命を覆す者として、世界の外側に立つしかなくなる。オマエはもう人間ではないのだ』
『でも俺はっ……誰も傷つけようとしてるわけじゃない……』
『関係ないよ。力を手に入れたことで、オマエはこの世界における法則を逸脱した。違反者であり侵略者。人々にとっては恐怖の対象でしかない』
『人を守るために戦おうとしてもか……』
『そんな言葉を誰が信じる。もうオマエの声に耳を貸す人間などいるものか。理解するより、憎むほうが遙かに容易いからね』

 咲は痛む体を押して、柱に縋りながら立ち上がった。腹にはまだ戦極ドライバーを着けている。戦う力を喪ってはいない。

「どきなさいよ」

 咲はヒマワリの錠前を取り出し、低い声でレデュエに告げた。

『オマエ……』
「どけってあたしが言ってんのよ!!」

 肺腑の底から、人生で一度もないほどの怒声を上げた。
 レデュエは少しの間を置き、鎧武から離れた。


「変身」
《 ヒマワリアームズ  Take off 》

 装着したライドウェアの紅い模様が碧に塗り替わり、三対の翼が装甲された。

 月花は鎧武の前までようよう歩いて行って、ふわりと浮き上がった。
 そして、鎧武を力一杯――抱き締めた。

「紘汰くん」

 呼びかける。ただそれだけ。深い気持ちは、言葉にすると陳腐になってしまうから。


(紘汰くんはまだ世界にいるよ。イツダツなんてしてないよ)


「紘汰くん」

 ヒマワリ色の翼を巻きつける。月花の腕の長さでは包みきれない鎧武を包むために。


(だれが、どんなに責めたって、あたしが紘汰くんの味方になるから)


「紘汰くん」

 月花は両手で鎧武の顔を包み、まっすぐ見つめて微笑んだ。


(そこまでしてあたしたちを救おうとしてくれてる紘汰くんを、憎んだりなんかしないから)


 そして月花は再び、鎧武に両腕を回して抱き締めた。 
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