八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三話 女難、当たった!その九
「人間味を求められるのでしたら」
「そうなりますか」
「はい、そうです」
こう言ってだ、すぐにだった。
畑中さんはそのお聖さんの源氏を出してくれた、文庫本で上中下三冊セットだった。
「こちらにありますので」
「それを読めばいいんですね」
「義和様が読まれたいのなら」
「わかりました、それじゃあ」
「どうぞ。実は私もです」
畑中さんはというと。
「田辺聖子さんの作品は好きです」
「あっ、そうなんですか」
「谷崎も好きですが」
それに加えてというのだ。
「この方の作品は人間味がありますので」
「いい感じですよね」
「まさに関西です」
本当に関西の味が濃い作家さんだと思う、うどんの様に。
「この方は関西がよくわかっておられます、いえ」
「いえ、ですね」
「関西、大阪の真髄を教えてくれます」
「あれっ、ひょっとして」
ここで僕は気付いた、畑中さんの言葉から。
そしてその気付いたことをだ、畑中さん自身に尋ねた。
「畑中さん生まれは」
「大阪です」
「あっ、やっぱりそうですか」
「おわかりになられましたか」
「大阪を推されているので」
お聖さんのことをお話してくれながら、そうだからわかった。
「それでと思ったんですけれど」
「大阪で生まれ育ちそして」
「八条グループにですね」
「執事として入りました、代々そうですが」
「ご実家は大阪ですか」
「左様です、ただ私は住み込みの執事なので」
「今は大阪には住んでおられないんですね」
僕は畑中さんにこのことも尋ねた。
「ずっと」
「左様です、執事になってからは」
「そうなんですね」
「神戸での生活も長いです」
「神戸でもですか」
「今は神戸もです」
僕達がいるこの街もというのだ。
「好きです」
「それでも大阪はですね」
「私の故郷ですので」
「特別な場所ですね」
「今でもよく行きます」
その大阪にもというのだ。
「そうして遊んでいます」
「畑中さんも遊ぶんですか」
「誰でも遊びますが」
「いえ、畑中さん真面目ですから」
だからだった、僕は畑中さんは遊ぶ感じには見えなかった。それで首を傾げさせてそのうえでこう言った。
「そうしたことは」
「いえ、私にも趣味はあり」
「そして遊ぶこともですか」
「します」
「そうなんですね」
「ちなみに趣味はジョギングにテニスに読書に」
何か結構あった。
「ワインの収集、そしてビリアードとポーカーです」
「多いですね、結構」
「人生を楽しむ主義ですので」
「そうなんですね」
「ちなみに妻もいます」
結婚もしているとのことだった。
「何十年と連れ添ってきている」
「奥さんも」
「妻とは今別居ですが」
それでもと言って来た。
「義和様さえ宜しければ」
「奥さんもここにですね」
「呼んで宜しいでしょうか」
「はい、別に」
いいとだ、僕は畑中さんに答えた。
「僕は構いませんけれど」
「有り難うございます、それでは」
「奥さんもこのお屋敷に来てくれるんですね」
「そうさせて頂きます」
僕に穏やかな声で答えてくれた。
「それでは」
「はい、それじゃあ」
この話も終わった、そして。
畑中さんは僕にだ、こうも言って来た。
「それで今度」
「今度?」
「また人が来られます」
「人っていいますと」
「実は入居希望者が来ていまして」
「あっ、そうなんですか」
アパートだから当然だ、何しろ八条荘はアパートである。洋館を改造した普通のタイプではないものにしても。
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