無欠の刃
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下忍編
似た者同士
「…似ている」
ぽつりと、お面を被った少年はそう言って、木陰に身をひそめながらも、赤い髪の子供を凝視した。大太刀を背負うその子供の表情は、彼が見る限り、他のどの子供とも違う色で、大人びているというよりは異形染みていて、けれども、確かに、その子供と少年は似ていた。
瓜二つではない。けれど本質的なものが、ねっこが、ひとつの絵を模範した絵のように、似ている。どちらも偽物で、本物ではなく、だからこそ似ている。
「…彼もまた、僕のように、大切な人の為なら死ねる子供…ということですかね?」
そう呟いた彼は、大太刀を振り回して、再不斬に殴りかかったカトナを厳しい眼で睨み付ける。
大切な人を傷つけさせない、彼が確実にいきるために、彼は己を殺し、道具としての役目を全うする。
その生き方は、カトナとよく似ている。
カトナは、自身とよく似たその視線に気が付かず、ただ、大太刀を愚直なまでにまっすぐに振り回した。再不斬の水分身がすぐさま同じように大太刀を背中から抜き、打ちあう。
しかし、すぐさま、その力量の差は明らかになる。
「おもい…!!」
「はっ、かりぃな」
そう、基本的な重さが違い過ぎるのだ。
カトナが振り回す大太刀は、基本、1メートル80センチほどであり、重さは2kg。現在はその刀を再不斬の刀に合わせて刀身を伸ばしているので、精々、2m50cmはあるだろうが、その硬さはいつもより脆い。
だが、再不斬が振り回す首切り包丁は長さ、約3メートル、重さは55kgにものぼるだろう。
単純な、けれど分かりやすい差。
重さ=速さ。だからこそ、重ければ重いほど、打ち込む速度は速くなる。
一つ一つの攻撃を受けるだけで、カトナの体は痺れ、振る腕の力がぬけていく。
「…流石に、軽くない、よね」
そういったカトナは、じりじりと後ろに押されながらも、持っている大太刀を先程よりも斜めに構え、言った。
「黄昏!」
カトナのその声に応えるように、びりびりと大太刀が震える。
それは、大太刀をあわせあった再不斬の体に走る。
電流が走ったかのような、そんな些細な違和感としびれを感じた再不斬の体が、僅かに留まった瞬間、サスケがカトナと再不斬の体を縫うように、地面から現れる。
意識をサスケからカトナにそらしていたとはいえ、そこは再不斬とはいえ上忍だ。
彼はいきなり出てきたサスケに驚かず、踏みつけようとした。が、カトナがその瞬間、更に力をこめ、再不斬の足をあげさせる隙を与えない。そうやって、再不斬を動けなくしたうえに、カトナは大太刀ごしにチャクラで首切り包丁と再不斬を吸引し、接着する。
「チャクラコントロールで負けるつもりは、ない」
そう言い切ったカトナは、ちらりと下を見る。
この前コピーした忍術。土遁であるため、長い間使えず、チャクラの消費量も多いが有用な技だ。やはり、あのカカシが愛用していた、もしくは写輪眼でコピーしていただけはあると、ひとりごちながら、サスケは自分の得意技を昇華させた新たな技を、上に向かって放つ。
「火遁、業火球の術!!」
豪火ではなく、業火。赤ではなく青。低温ではなく高温。
ごうごうと燃える、青い炎の球体。
練られたチャクラは相当なもので、それは近くにいるどころか、水の中にいるカカシにすら熱いと思わせるほどに、高熱の火。
それを一瞥した再不斬の水分身は、冷静に避けるかどうかの判断をしたあと、カトナを巻き込むことだけに専念することにする。
自らの体は水で作られているため、火遁は通用しにくい。損傷を受けても平気だろうと、そう考えた再不斬であったが…。しかし、その考えは甘いと言わざる終えなかった。
カトナがにやりと笑い、自分に向かってきた火の球体をチャクラで弾いた。
例えるとするなら、それはまるで壁に当たった毬のようにはねかえり、再不斬のもとへ向かう。
術の勢いをすべて殺さず、けれど的はずれな方向には飛ばさない。
…コントロールの繊細さは、並外れすぎているだろう。
「なっ、!?」
カトナはその驚きの瞬間を見逃さないように、大太刀を抱えた状態でありながらも、上に飛ぶ。
一方、避けるのが僅かにといえ遅れてしまった水分身は、そのまま、その術を受けきろうとした。
火が水に勝てないと、そう過信した。
…さて、ここで簡単に自然の摂理を振り返ってみよう。
火は水に弱いが、何故弱いかと言えば、水が空気を火から奪い、火が燃え続ける環境を無くしてしまうからである。
故に、燃え盛っている炎に水を垂らしても、その水が火を消せないことがある。
それはつまり、強い火ならば、水に勝つ可能性を秘めているということだ。
「おいおい、それは」
…さて、水でつくられた体に、マグマにも及びかねない高温の、強い、青い炎が叩きつけられた場合、どうなるか…?
「滅茶苦茶熱いぜ?」
答えは簡単、沸騰するのである。
触れた瞬間、煙が上がる。ががががが、と火が水を殺し、削る。
水分身の体が沸騰し、蒸発する。
カトナはそれを予想していたと言うように、くるりと上空で反転し、沸騰していながらも、未だ原型らしきものを留めている体に、大太刀を叩きつけた。
沸騰した水に温められた大太刀が。どろりと熱をもち、シューシューという音をたてる。
水分身の体が、影も形もなくなる。
「…とどめもらい」
「あれは、とどめじゃねぇだろ!?」
サスケのその声を無視し、彼女は言う。
「次!!」
一気に走りより、距離をつめる。カトナの挙動に、呆れたように息を吐いたサスケは、タズナのことを気にしながらも、カトナを追いかける。
カトナの高温に熱された刀が振りおろされた瞬間、再不斬は素手でその刀を受け止める。
じりじりと、肌を焼く音が体内に木霊する。
ぼそりと、少し感嘆したような色を浮かべた目で、カトナは言う。
「…あつそ」
「ハッ、よくわかってんじゃねぇか!!」
そうだ、熱い。だが、忍びがこんなことで動揺していられるわけない。
再不斬の嘲笑うような表情が、苛立ったような色がにじむ。
「忍びを、なめるなよ!!」
「なめてるのは、貴方のほうだ!」
怒鳴り付けられた声に負けられないくらいの大きさでそういいながら、カトナは大太刀を押し付け続ける。
けれど、いつもよりも脆くなっているその刀は、熱とカトナの力に耐えきれず、
ぼきりと、途中で折れた。
「なっ!!」
あんな無茶な扱いをしていたのだ。いつかは折れるだろうと思っていたが、しかし、今、ここでなくても…!!
カカシが驚愕をしめし、再不斬が笑う。
嘲笑うようなそんな笑みに、カトナは何も言わず、折れた刀を無視する。
まるで要らないものであるように、己の大切な武器の、折れた切っ先を蹴り飛ばし、大太刀を後ろに投げると、一歩踏み出す。
リーチ的には、再不斬の足の方が長い。けれど、この位置だと、カトナの手の方がカカシがはいっている水牢に近い。
必死に、触れようと手を伸ばす。
嫌な予感がした再不斬が印を結ぶよりも先に、
人差し指が、水の表面に、触れた。
「!!」
次の瞬間、再不斬は驚愕する。
触れられただけなのに、その球体が破裂し、意思をもったかのように、水が千本の形態をとり、辺りに飛ぶ。
「なっ!?」
そんな水の千本の一つが、再不斬の頬をかする。カカシが水牢から飛び出て、ごほっごほっと咳き込んだが、キレた再不斬の眼には、カトナしかうつらない。
「よくやってくれたなぁ!!」
そう怒鳴ると共に厳しい殺気をこめた再不斬の視線に、カトナの体が、無条件で震える。
水の千本を避けながらも、最初に組んだ印を片手で結び続けていた再不斬は、チャクラをこめ、千本が当たらない位置にいて、息を吐いていたカトナの腹に首切り包丁を叩き込む。
「っっ、あ!!」
咄嗟に、反射で受け身はとったが、しかし、その衝撃は、殺しきれない!!
カトナの体がなすがままに吹っ飛び、水に叩きつけられて、ごろごろと転がったかと思うと、カトナが触れていた水面にチャクラが生じ、渦巻きができる。
さながら、蟻地獄のように。
カトナを逃がさないようにと動き出す。
咄嗟に逃げようとしたカトナだが、その術の範囲は相当広く、足が捕獲されてしまう。
「くっ!!」
すぐさま、体がチャクラで生み出された水流にのまれ、海の中に沈められそうになる。
カトナの喉から、悲鳴が、もれる。
「やっ、くっ」
手のひらにチャクラを纏わせ、水面に触れて沈まないようにするが、引っ張られるのが生半可な力ではなく、カトナの体が徐々に沈み始める。
「さっ、す」
咄嗟に、こちらに駆け寄ってくるサスケの名前を呼び、起き上がろうとしたカトナは、次の瞬間、ずんっと、自分の体が重くなったのを感じた。
同時に気がつく。
大太刀から1m以上、離れてしまっていたという、事実に。
やば、い。かも。
カトナの口が、水の中に沈む。こぽりと、口から泡が漏れていき、更にどんどん体が沈んでいく。水流が、深く深く、沈めていく。抵抗するためのチャクラが足りず、変化が解けそうになるのを、気力で繋ぐ。
あかい髪が、花弁のように広がる。伸ばした手が、空に届かず、水面の向こうに見えた、サスケの焦った顔がぼやける。
だれか、たすっー!!
カトナのその声は、泡となって消えかけた瞬間、
『ねぇちゃん!!』
あのとき以来、呼ばせない少年の声が、耳を、つんざいた。
ナルトを、泣かせて、たまっ、るか!!
それは死よりも重い罪だ、それはカトナが自分自身に課した義務であり、罰であり、あの人たちの大切な願いだ。頼みだ。
こなさなければ、こなさなければー!!
力が、いる…今ここで立ち上がれる力、が。
そう思った瞬間、視界が、真っ赤に染まる。
カトナの体から、赤いチャクラが漏れ出す。
背中にやきつくような痛みが走る。髪が、よりあかあかしく、荒々しく、焔のように燃え上がる。
異変を黙視したサスケは目を見開き、驚く。彼は知っている、カトナに九尾は封じられておらず、封じられているのはナルトなのだと知っている。
なのに、これはどういうことだ? サスケの頭は、その答えが分からない。しかし、この状況で分かることはひとつだけある。
「カトナ!!」
その名前をよんで、カトナの体へと手を伸ばす。九尾のチャクラに押されるように、水流から解放され、浮かび出したカトナの体に触れたサスケの腕が焼かれる。
「かとっ、な」
「……?」
上を見上げたカトナは、痛みで顔をしかめながらも、必死に自分の手を掴もうとするサスケに、既視感を覚える。
『カトナ』
その切羽詰まったような表情が、あの人に似ていて、なんだかとても悲しくなって、カトナの思考が止まる。
次の瞬間、カトナから力がぬけ、九尾のチャクラが沈んでいく、静まっていく。
そして、カトナは最後の力を振り絞ってサスケに体を預けさせると、まるで眠るように、その意識を失わせた。
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