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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  罠、罠、罠

 苦無が当たった次の瞬間、ずるりとカカシの全身の力が抜け、その場に倒れ込む。
 びちゃりと、僅かにその衝撃で血が飛び、地面を赤く染める。
 カトナはそんなカカシを見ながら、いつの間にかすったらしい鈴を見せびらかすようにして鳴らす。
 ちりんちりん、ときらびやかなその音に、未だに全身を張り詰めて緊張していた、サクラ、サスケが共に安心し、カトナの方に寄ってくる。

「先生の、負け」
「俺達の勝ちだな」
「よっ、よかった…」

 そう言葉を吐いて、地面にへたり込んだサクラに「よしよし」と慣れた手つきで頭を撫でたカトナは、だらんと寝転がっているカカシを見て笑った。

「先生、苦無、痛かった?」
「…それはお前らがよく分かってることでしょ」

 カカシはその言葉に呆れたようにため息をつくと、自分の傍に落ちていた苦無を拾い上げ、彼女たちの眼前につきつけるように見せる。

 その苦無は、先端がかけていた。

 それに全く驚かず、してやったりという顔を浮かべた彼女は、ふふ、と小さく微笑む。

「流石に、殺すの、駄目。これは、演習。実戦、じゃ、ない」
「でも、カカシ先生の気を引くには、これが一番だって思っちゃったんで…」
「苦無が首に向かってくるんだ。上忍なら、せめて命を守ろうと苦無を凝視して、苦無に集中するよな」

 強い忍びであればあるほど、彼らは自分たちが生きるための生存戦略に駆り出す。彼らにとってそれは必然であり、生きるためには絶対必須の条件だった。
 首元に向かって苦無が投げられた瞬間、カカシが考えたのは、鈴を守る方法でもなく、彼らに対しての試験をそのまま遂行できるかどうかでもなく、どうやって生き残るかであった。
 これが中忍だったならば、彼らは里の仲間を信じ、自分は殺されないと思っただろう。だが、一時期は暗部に所属していたこともあるカカシにとって、仲間の裏切りは無視できない可能性であり、彼等、里の仲間を信用、信頼はしていても、あんな状況下におかれてまで信頼できる度胸はなかった。
 というか、そんな度胸があったのなら、今頃、寝首をかかれて殺されてしまっているところである。
 ゆえに、カカシは苦無に警戒してしまい、集中しきってしまった。鈴を忘れ、彼らを忘れ、生き残ることだけに集中した。そしてその隙を狙い、彼らはカカシから鈴を奪った。単純に、呆気なく、簡単に。
 カカシがプロの忍びゆえに、彼らを必要以上に警戒し、彼らは忍びであるがゆえに、裏の裏をかいた。
 まったく、対した奴らだと感嘆の息を吐き、カカシは尋ねる。

「…ちなみに聞くけど、この作戦考えたのって、カトナ?」
「私が、主体。目的、とか、流れ」
「どの術を使うかや、術を使ったりするタイミングが俺」
「先生の気を引くときの時間差や、インパクトの与え方は私が考えました」

 全員で考えたわけね…。そういえばこいつら、座学の成績がトップ3だったな、厄介な奴らばっか組ませちゃったわけか。
 カトナがこの作戦の目的「カカシを油断させる―殺されると思い込ませる」を思いつき、大体の流れを考えた。多分、苦無を全てぶつけさせるというあの荒唐無稽な策も、カトナが考えたのだろう。
 その荒唐無稽な策を受け入れたサスケが術を厳選し、常識人のサクラが、同じく常識人よりのカカシの衝撃具合を予測し、そのインパクトが薄れる瞬間に合わせて、インパクトをぶち込むようにしたのだろう。
 誰一人かけたら、多分、この策は出来なかった。
 荒唐無稽、前人未到なカトナが居て、天才肌で、忍びとしての努力を怠らないサスケが居て、常識人で、だからこそ、カカシが一番驚く瞬間を見極めれるサクラが居て、初めて成立する、なくてはならない、チームワークがある班。

 …先生、俺は随分、恵まれた生徒を持ったようですよ。俺が一番欲しかった、仲間を思う忍を。

 その場から起き上がったカカシは、ふと、自慢げに笑いあう三人を見て胡坐をかきながら言う。

 「忍者の世界でルールや掟を守らない奴は屑呼ばわりされる。けどな…仲間を大切にしない奴は、それ以上の屑だ。仲間を信じて大切にするお前等は、立派な忍びになれるよ」

 ぽかんと、その言葉に驚いたように目を見開いた三人は、次の瞬間顔を見合わせて、そして嬉しそうに破顔させると、カカシに向けて笑った。

「当然」
「当たり前だろう」
「がっ、頑張ります!」

 こうして、カカシ率いる七班が結成された。


・・・

 それから、約二週間後、カカシはこっそりと内心で涙ぐんだ。

 (…こんなところにチームワークを発揮しなくてもいいのになぁ)

 そう思うカカシに向かって一斉に飛んでくる苦無と手裏剣は、実に巧妙に、逃げれ無い様にと、避けた先に手裏剣が飛び、もし避けなかったとしても苦無が刺さる様になっている。しかも、もし避けたとしたらしたで、落とし穴などが仕掛けられているのだろう。一回、普通に避けて、痛い目にあった。
 一本釣りされる魚の気持ちがわかった忍など、自分しかいないだろう遠い過去に思いをはせつつ、気をつけながら、苦無を苦無で弾いたカカシは、それを黙視する。
 苦無の影に、もう一つ苦無。

 ―用意周到すぎるだろ?!

 カカシが咄嗟に上に飛ぶ。
 後ろに足を引いた状態であれば、避けれないわけではないが、カカシの目が僅かにその地面の土が他と違う事に気が付いてしまい、上に飛ぶことを余儀なくされる。
 しかし、空中では身動きが不可。
 カカシの腹部にめがけて、苦無がなげられる。とっさに苦無を構え、苦無に当てさせて弾いたカカシは、弾かれた苦無が、投げられた苦無にあたってもう一度弾かれ、カカシに向かう。
 しかも、

 「後ろからもか…!!」

 ぐっと、僅かに顔をそむけ、後ろを確認したカカシは、サクラがこちらに苦無を投げてくるのを見つけ、ちっ、と舌を打った。
 前を犠牲にするか、後ろを犠牲にするか。迷っている暇はなく、カカシは咄嗟に首を傾けて額当てをずらす。
 苦無の軌道が、読める。
 ばっと、片方の手で前から飛んできた苦無を掴み、もう片方の手が持つ苦無で苦無を弾いたカカシが地面に着地しようとしたとき、

 「罠は、作動しなきゃ意味ない」

 先程までカカシの様子を伺っていただけのカトナが動き、自ら、罠を踏む。
 カカシの逃走手段を潰すだけの目的しかないと思ったそれが、この場において、生きる。
 カトナが踏んだその場所から、何かが着火した音がし、カカシが先程踏まないようにした、あの、土の色が変わっていた場所から、一直線に土が上に噴射する。

 目くらまし…いや、違う!!
 
 カカシが上体をひねり、咄嗟に、足ではなく手で着地し、バク転をし、その場から離れる。
 噴射した土は雨あられのようにその場に降り注ぎ、そして、その土の中に潜まれていたらしい千本もまた、雨のようにその場に降り注いだ。
 数秒後、土の噴出が止まり、三人がふくれたような顔をしてカカシを見た。
 今日は、これで、流石に終わりだったらしい。
 任務のたびに、こんなに命を脅かせられなければいけないことに、最早慣れている自分が哀しいと思いながらも、カカシは千本を眺め、気が付く。
 彼らが殺傷性の低いそれを使ってくれたのは、別に優しさでもなんでもなく、其の千本の先に、紫色の粉…おそらく痺れ薬などが塗りやすく、尚且つ、ひとたび触れればいいからだったのだろう。
 いつもいつも、よくよくこんなものを見つけて来るものだと感心しながら、ちょっぴり、カカシは泣いた。

「ちぇっ、失敗」
「でも、前に比べたら、カカシ先生避ける回数減って、苦無を弾く回数が増えてるわよね」
「じゃあ今度は弾けないように、苦無に油でもぬっとくか?」
「けど、サスケ君。油なんて塗ったら、苦無が投げにくくならないかしら?」
「塗ってある苦無と塗ってない苦無の二つにバリエーションを分けて投げれば、逆に微妙なずれが出来て避けにくくなりそうじゃないか」
「一理、ある。それに、油、採用するなら、火遁の使い方、広がる」

 きゃいきゃいと、実に楽しそうに、けれど言っている内容は実に恐ろしい計画を立てながら、カカシを仕留める計画をたてていた。
 カカシは若干どころか、マジで泣きたくなったが、これは彼らの愛情表現なのである。チームワークを深め合い、自分たちの力量が格上の相手にも通じるかどうかを確認しつつ、彼らは尊敬する先生であるカカシを倒したい…らしい。あくまでも殺したいのではないので、毒薬は痺れ薬や、苦無は全て先端はそんなに尖らせないようにしているが、それでも結構なものだ。
 だが、これは知らない人に勘違いされやすいが、何も彼らはカカシの遅刻に怒ったことはない。というか、彼らはカカシの遅刻をあまり気には留めない。その間にトラップ仕掛け放題ととらえているのだろう。
 紅やアスマ、ヤマト達もこんな目に合ってるのかな…、今の教師って大変だなぁと思う。
 実際のところは、教師はそんなに大変ではない。というか、彼らが異常すぎるのだ。
 その証拠に、今、カカシに猛攻を与えていた三人のを存在を確認した忍たちは顔をひきつらせ、カカシに内心で敬礼をしていたのだが、当のカカシは全く気が付いていなかった。
 彼は生徒を受け持つこと自体が初めてなので、生徒の普通の観念がわからないのである。怨むならば、彼らを最初に請け負ってしまった彼自身の運である。
 閑話休題。
 同情の視線を集めてるとは全くしらずに、カカシはいつも通り、のんびりとした様子で彼らに任務を伝える。

「今回の任務、聞いて驚け。里の外だ」
「外!?」

 ぱちくりと目を見開き、驚いたように僅かに口を開かせたが、しばらく考え込んだ後、恐る恐ると言った様子で尋ねる。

「護衛任務?」
「ああ、そうだ」
「護衛…って、私達でもできるんですか?」

 不安そうに尋ねたサクラを安心させるように、カカシが笑う。

「安心しろ、サクラ。護衛と言っても、他国の忍者とは接しない。接したとしても、精々、町のごろつきどもだ」
「なんだぁ…じゃあ、サスケ君とカトナがいれば、十中八九安全ね」

 その言葉に、少しばかりものたりそうな、不満そうな顔をしたサスケは、先に歩くカカシの背中を見つめながら、黙り込んでしまったカトナを見る。
 この時、カトナのテンションはいつもより少し振りきれていた。何せ、初めて里外にでるのである。テンションが上がるどころの話ではないだろう。
 任務、どころか、門の近くに寄るだけでも厳重注意を受けて追い返されてしまうのだ。外の世界に僅かなりとも、憧れを持っていないわけではない。
 少しばかりときめく胸を感じながらも、こんこんっとドアを叩いた。
 がちゃりと扉が開かれ、その人物が目に飛び込んでくる。

 「なんだぁ? こんなちびっこいのが護衛かよぉ?」

 最悪の依頼が、その時、開始した。 
 

 
後書き
ちなみに六班こと、ナルト、湖面、サイは、このサバイバル演習を、
サイの、油をたっぷり染み込ませた墨で描いた鳥獣戯画を森中に放ち、ナルトがヤマトに攻撃して気を引きつける中、湖面は多重影分身で起爆札を設置し、風遁、大突破を使った後、火遁、豪火球の術を使い、森一個燃やす。
ヤマトの木遁を無効化した場で、サイが上からヤマトの居る場所を指示し、ナルトの義手に火を纏わせた状態で突貫させて、ナルトを攻撃して水遁を使った時に、湖面が高温の炎で逆に水分を蒸発させ、出来た隙にナルトが拳を叩き込み、捕獲しました。


 
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