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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  情報&戦い

 
前書き
明日更新できないので、増量版です 

 
 うずまきカトナは留年をしている。別にそれは彼女が忍びとしての才能が無かったからとかではなく、彼女に嫌がらせをした教師が原因であるのだが、彼女は間違いなく一年、留年した。
 そして同時に、彼女はアカデミーにいた人間全員の名前と顔を憶えている。もう卒業してしまった人間などは覚えていないが、しかし、自分と同期だった人間の顔くらいは忘れていない。だからこそ、彼女にとって、カカシがいった…脱落率66%の意味を理解できなかった。
 だって、彼女は知っていた。

 「去年、私と同じく留年した人間の数は、私を含めて八人」

 落第した人数が、先生の言う確率と一致しないことを、彼女は知っていた。

 「けど、私が知る限り、合格者は21人。先生が言った通りならば、残るのは、三分の一だから七人。けど、落ちてきたのは七人だけ」

 カトナの記憶力は、生半可なものではない。そして同時に、万が一を犯さないように、確認はしてきておいた。だからこそ、確信を持って言える。

「つまりこの試験には、一人だけが合格するのではなく、二人…そしてうまくいけば、三人とも合格する可能性を持つ裏道、本当の目的があるということ。
 もし、私の推理が正しいのなら、二つの鈴を三人で先生から奪いあう、この演習。鈴は必須だけど、それは正攻法の道で、本当の目的ではない。本当の目的にたどり着くには、鈴を奪い合うまでの過程。もしくは、鈴を奪ってからの行動がカギとなる。
 裏道、目的を見つけ熟した者だけ、三人で合格できる…でしょ? 先生」
「…ははっ、そこまで見抜かれてたか」

 煙の中、モロに爆風を浴びたはずなのに、無傷で現れたカカシに驚きもせず、だからといって、少しでもかすってくれたらよかったのにという思考を抱きつつ、カトナは大太刀を構えた。
 それを見ながら、カカシは内心で時間をかけすぎてしまったと思いつつ、相対するように苦無を構える。
 情報は忍びにとって命だ。不用意な時間を与えれば、その情報をもとに推理されて、自分の弱点や目的、新たな情報を晒してしまう事となる。
 昨日、カカシ達が解散したのはお昼時、午前十一時。そして今の時間は午前十一時。つまり、二十四時間。もろもろのことを熟したり、睡眠をとったりしても、それでも十分な時間がある。
 その間に、彼女は十分な情報を収集したのだろう。
 自分の考えが正しいかどうか、アカデミーの今年の、そして以前の名簿の比較。そして、他の班で同様の演習が行われるかどうかの確認。そして最後には、知り合いの合格者へ質問しにいく。
 地道なことだが、積み重ねれば、それは有益なものとなる。一人で行うには、少々時間がかかるかもしれないが、あの時間があれば、問題は無い筈だ。
 二人がカトナの言葉を聞いてすぐに、起爆札に気が付く前に避けたことから、起爆札を設置したのは、カカシが来る前だろう。協力してもらったのかもしれない。
 そして起爆札を設置したのは、スタートの合図でカカシが森に逃げ込まないようにした。いきなりの広範囲の爆発を避けるために、カカシは咄嗟に起爆札の範囲を受けない安全地帯に逃げ込んでしまった…のだが、これはわざと作っておいたのだろう。カカシが外に逃げないように、わざと内側に逃げ場を作った。
 そして爆発させた最大の理由は、忍術幻術体術、全てから逃げきれてしまう、変わり身の術に使えるものを排除したかったのだろう。カカシが来る前に大木を切っていたらしいが、それは別に八つ当たりでもなんでもなく、単純に爆発の範囲にある木に燃え移らない様にしたとみていい。
 自分に有利な戦場を作った…用意周到。

 (ある意味、ここまできたら、演習の、大体の目的はクリアしちゃってるんだけどねー)

 そう、ここまで情報を分析されてしまえば、演習をする意味はない。
 カカシから鈴を協力して奪う、というのが目的なのだが、これが一番重要なのは、協力する姿勢―仲間と一緒に戦おうとする姿勢だ。
 その点で言えば、もうカトナとサクラとサスケは、起爆札を設置するという協力をしあい、協調の姿勢を見せたのだが…。

 (まーだ、鈴が奪われてないからねぇ)

 そう、もう一つの目的である、鈴が、奪えていないのだ。
 だから、これはまだ演習を続けるべきだと判断し、カカシが苦無を構えた瞬間、カトナが突貫した。

 構えた大太刀を、何の策もなく、愚直なまでに一直線で、カカシに向かって振り下ろす。
 なめられたもんだと、カカシが振り下ろされた大太刀を避け、がらあきのカトナの懐に掌底を叩き込もうとし。


 ―苦無が、頬を掠める。


 思わず、カカシがその苦無から出た方向を探ろうと視線を向けた時、

 「なっ!?」

 カカシの目が、捉える。
 カトナの体で見え隠れしている森の中、こっそり身をひそめるようにしているサクラの姿と、そして、木陰から渾身の力でカトナとカカシに向かって、無造作に、適当に、滅茶苦茶に、苦無が投げられている光景を。
 それは見るものが見れば、ある光景を思い出しただろう。
 アカデミーの生徒が、的の中心に苦無を当てようとして、適当にたくさんの苦無を持って投げて、中心に当てようとするような、そんな無茶ぶり、無謀さを。
 大雑把な人間でも、数ありゃそのうち当たるという事だ。サクラの忍具を扱った成績はあまりよくない。だから、この戦法を採用したのだろうが、それは同時に、今、カカシと相対しているカトナに当たる確率も倍増しているという事である。

 (カトナを巻き込んででも、俺に攻撃するつもりか!! 冗談じゃないぞ!)

 そう思いながらも、カカシがカトナを蹴飛ばして避けさせようとした瞬間、カトナが笑った。

「苦無弾幕に恐れるなんて、先生もまだまだ、ってところ?」
「カトナ、お前を何を言って―!!」
「当たらなければいいんだよ、そんなもの」

 まさか、避けれるのか? 
 カカシの脳に、そんな疑問が走る。しかし、これがカトナの真正面から苦無が投げられたのならばまだしも、カカシの真正面、つまり、カトナの背後から苦無を投げているのである。
 避けれるはずが…ない。
 そう判断したカカシがカトナの腕を握り、投げ飛ばそうとし、

 「だって、この班には、天才がいる!!」

 逆につかみ返され、その場から動けなくなる。伊達に、彼女は大太刀を操っていないのである。だが、この行動は今この状況下においては自滅に等しい。百には及ばないが、相当な数の苦無を自分の背中で受け止めることになるのである。しかも、カトナが小柄とはいえ、この相対した状態では、カトナにほとんどの苦無が刺さるので、カカシに致命傷を負わせられる苦無はないとみていい。
 明らかな愚策。なのに、なぜ、カトナがその行動にふみったのか疑問に思った時、カカシは見た。
 まだ幼きうちはの忍びの目に、自分と同じ写輪眼が宿っていることを。
 同時に、彼の掌が、サクラが先程放った苦無と全く同等の数の忍器が握られていることを。

 (まさか…!!)

 無茶な想像が彼の頭をよぎる。
 しかし、サスケはまるでカカシをあざ笑うかのように、その無茶な想像を、実行して見せた。
 彼の手に握られた苦無や手裏剣がはなたれ、サクラの苦無に当たり、そして、弾かれる。
 無作為に、苦無や手裏剣が弾かれて、カトナの体には当たらず、そして弾かれた苦無や手裏剣にまた当たって弾かれて、カカシに向かう。

 ―当たらなければいい
 ―この班には天才がいる

 その言葉と、そして彼らの行動が指し示す意味はたった一つ。

 カトナは無謀で無茶な作戦に出たのだ。
 自分が上忍であるカカシをひきつけ、自分の体を盾として、サクラの苦無の軌道を読ませないようにして、そして読まれたところで、サスケの苦無でサクラの苦無を弾き、カカシにだけ当てるという、無茶だ、無謀だなんてレベルを、とうの昔にこえている作戦を。
 …こんな策、思いつく方がどうかしている。必死に片方の苦無でサクラの苦無を捌き、もう片方の手でカトナの体術を捌いたカカシは舌打ちをした。
 一度失敗してしまえば、カトナが死ぬ可能性だって低くはないのだ。
 なのに、そんな策を実行してしまっている。

 それほどまでに…仲間は仲間を、春野サクラとうずまきカトナはサスケを、うちはサスケは己を、信じているのか―!!

 跳ね返った苦無の一本がカトナの頬を掠める。たらりと、血が流れ出す。だが、彼女が振るう大太刀の軌道は乱れない。
 一度失敗すれば、カトナの体を苦無が貫くというのに、死にかけてしまうかもしれないというのに。
 恐ろしいまでに、その刀の動きは乱れず、信念は動かず、集中力は途切れない。
 カカシはちっと舌打ちをすると、カトナとサスケだけを視界に収め、サクラを無視する。
 サクラの攻撃は、全てサスケによって軌道がかえられる。つまり、重要なのはサクラの苦無ではなく、サスケの苦無がどう当たるか―!! そう把握し、早々にサクラの存在を視野から追い出したカカシは、僅かに額当てをずらし、写輪眼でカトナの動きを把握する。
 が、カトナのいつもの相手は、写輪眼のサスケと、白眼の日向ネジだ。今更、写輪眼でコピーしたとしても、カトナには何の支障もない。精々、避けられる攻撃が少し増える程度であった。
 どんどん、カカシの体を掠める苦無が数を増していき、カトナの攻撃が当たり始める。息をもつかせぬ猛攻、相手の息が終わる隙を狙うように出される苦無。
 カカシの捌ける数を、とうの昔に越している。
 忍術を使おうにも、印を結べる暇はなく、幻術を使おうにもこの状態ではチャクラコントロールすら難しい。体術にだけ専念したところで、二人で一人を相手にしているようなものだ。しかも、その二人は犬塚家のようなコンビ。
 ちっ、と舌を打ったカカシは、ここに来る前に用心として、密かに作っておいた影分身に合図をおくる。端で傍観していた影分身はその合図に従い、先程カカシが見ていたサクラの元に向かう。
 彼もまた、早々でサクラの存在を視野においだし、サスケとカトナの方を見ていた。
 はたから見る写輪眼と、間近で見る写輪眼を合わせたならば、コピーの制度はいつもの倍になる。そのため、カトナの言動を一つたりとも見落とさないように彼は見ていた。
 だからこそ、彼らは今のところ、一番明確な弱点を察する。
 それはサクラだ。
 苦無をただ投げる役目のサクラは、サスケが計算しながら苦無を跳ね飛ばさなければいけない以上、その場から合図もなく動けない。今のところ、カカシの影分身が観察した限りでは、合図は出ていないので、サクラは動いていない可能性が高い。
 まずはサクラを仕留め、苦無を出さなくする。そうすれば、カトナの体術にもまともに反応できるようになる。体術だけならば、大人と子供の差は明白になり、リーチの長さや攻撃一つ一つの重さから、直ぐに倒せる。カトナを仕留めた後は、サスケの番だ。如何にサスケが天才と謳われていても、上忍相手にそう長くはもたないだろう…。
 まぁ…及第点だ。弁当は全員で食べさせてやるかと、そう思ったカカシが、サクラがいたその木陰へと足を踏み入れた瞬間、長年の、忍びとしての警報が、頭を、鳴らした。
 踏み出した足を、後ろに引く。
 そこには、誰もいない。あったたのは、つまれた苦無とそれを投げる―湖面の姿。
 湖面は今頃ヤマトの試験を受けている最中だろう…なのに、なぜ、彼がここに居るのか。
 ―自分と同じ、影分身。
 それに気が付いたカカシが咄嗟に森から飛び出そうとしたが、

 「残念、遅いですよ!!」

 湖面とは全く逆の方向に身を潜めていたサクラが、木陰から飛び出し、ワイヤーを引っ張る。
 しゅるしゅると、すぐさま、仕掛けられていたトラップが発動し、カカシの影分身をワイヤーの中に閉じ込める。

 油たっぷりの、ワイヤーの中に。

 同時に、抜け道がないか辺りを見回したカカシは、ふと、それに気が付く。
 自分がいる今の地点から、巧妙に、いくつかの木が伐採されている…それはつまり、最初に予想した理由と、また、同じようなものだろう。つまり、森林に被害が出ないようにした…イコール、それは。


 ―今から、火遁の術を使うということでしかない!!


 「火遁、龍火の術」

 いつの間にか、近づいてきたらしいサスケが印を組み、そしてワイヤーに着火する。咄嗟にカカシが土遁、土中映魚の術を使い、土の中に潜る。
 間一髪で、カカシの肩を掠めた炎は、木に移り、カカシの体は土の中に沈み込む。
 だが、それを見逃すサスケではなく、彼は地面に苦無をつき刺し、そして苦無にチャクラを流した。
 苦無と言う、チャクラをあまり伝えない物質に流したため、サスケのチャクラが大量に消費されたが、しかし、微々たるものでしかない。

 「あめぇよ」

 サスケのチャクラが流れた苦無は、地中にそれを伝える。
 雷遁系のチャクラが流れる。
 土遁は雷遁に弱い。
 雷が、カカシの全身を貫いた。

 一方、本体たるカカシと言えば、こちらは先程の状況が一変したように、有利になっていた。
 当然だ。もともとは、サクラ、サスケの遠距離攻撃がカトナの体術を支えていたのだ。それがなくなった今、力は逆転したとみていい。

「ほら、さっきの威勢はどうしたんだ?」
「先生、こそ、生徒の手に踊らされてたくせに、よく、笑えるね」

 はぁはぁと息を荒げながらも、大太刀で一方的なカカシの攻撃を受け流すカトナ。その額からは大粒の汗が流れ、苦しそうだ。
 無理もない、とカカシは、大太刀に勢いよく拳を叩きつける。
 ガインッ、という衝撃に、腕がしびれて、大太刀を落としそうになる。が、気力で汗で滑り落ちそうになった柄をとらえて、一歩後ろに引く。

「そろそろ、降参してくれたら先生、嬉しいんだけどなー」
「降参なんて、忍じゃ、ない」
「でもねー、お前もう、限界でしょう? その大太刀、相当重いみたいだし、何よりチャクラもきついんでしょ?」
「…」

 図星だろうなー、と思いながら、カカシはカトナを見る。
 細いカトナが大太刀をふるうことが出来るのは、チャクラを腕にこめて筋力を活性化させているからだろう。だから、カトナの少ないチャクラはもう相当すり減っているだろう。
 そう判断し、カカシは両手を前に突き出す。
 カトナは咄嗟に大太刀でカカシの手を遮ろうとしたが、予期せぬ下からの攻撃―蹴り上げられ、大太刀が成す術もなく飛ばされ、手と手が組み合わされてしまう。
 しかし、これで抑え込めたわけではなく、カトナの足はその間にもげしげしと、カカシの脛を容赦なく蹴り上げ、もう片方の手で足の甲を踏みつける。
 全く容赦ない子供だよ、と内心でそんな言葉を吐いたカカシは、とりあえず、その攻撃を辞めさせようと、チャクラを掌にこめ、カトナを持ち上げようとした。
 カトナがチャクラでカトナの大太刀を持ち上げた再現を、カカシはカトナでしようとしたのである。
 あっさりと、カトナの体は持ち上がる。


 はずだった。


「なに!?」

 軽い筈のカトナの体が持ち上がらない。どころか、カカシの体が浮くような感覚すらある。
 チャクラが足りない筈のカトナが、カカシを持ち上げることなど、出来る筈がない!!
 驚き、目を見開いたカカシに、カトナは無表情のまま、冷静に言う。

 「先生、勘違いしてる」

 そう、カカシは、カトナが言った通り、勘違いをしていた。
 カトナは何も、この大太刀をふるうために筋力を活性化などさせていない。
 確かにカトナには、大太刀をふるうための根本的な筋力がないが、しかし、チャクラを無駄に消費するほど活性化したとは、一言も言っていない。
 まぁ、カカシがそう勘違いしたのは仕方ないだろう。チャクラコントロールは繊細で難しすぎる。例えば、今のカトナに必要な筋力活性化のチャクラを1とした時、普通の上忍なら10、医療忍者や封印術を使う忍者ならば、3使ってしまう。誤差の範囲とはいえ、どんなに鍛えられた忍でも、チャクラを無駄にしてしまう。だが、カトナはチャクラが1必要なら、1だけチャクラを送れる…チャクラを無駄にしないのである。
 何も、これはカトナがすごいというわけでも、才能があるというわけでもなく、ただ、カトナは、持っているチャクラが少なすぎるのである。
 十リットルの水が入った容器Aと一リットルの水が入った容器Bがあるとする。もし、容器AとBから一リットルずつ、相手より早く水を移そうとしたとして、どちらがより、水を淹れようとした時、繊細に力加減をコントロールするだろうという事である。
 これはもちろん、容器Bだろう。一リットルしかない水を一リットル分だけ移すのだ。しかも、出来る限り早く。その繊細さは、Aと比べるまでもないだろう。
 対してAは十リットルもあるのだ。よりはやくすればいいというのならば、容器をひっくり返し、九リットルを無駄にして出来る最短の手や、それでなくても、Bのように、それでいて繊細さはなく、一リットルを注ぐ方法もある。
 そんなAはBのように丁寧に時間をかけてまで、水を無駄にしないようにするか…答えは否だ。つまり、Aはどうやってもどこか粗野になってしまうし、Bはどうやっても繊細になってしまうのだ。
 この場合、普通の人はA、カトナはBだ。
 ゆえに、彼女のチャクラコントロールは卓越している。 
 カカシが予想したカトナAであり、実際のカトナはBであったという、些細な、けれど、莫大な情報のくいちがい。
 くっ、と動揺で声をもらしながらも、カカシは冷静に考える。

 (だが…この状態、俺が有利なのは変わらない事実…)

 そう、チャクラコントロールがいくら優れていても、結局、チャクラの総量はカカシの方が勝っている。このまま、持久戦に持ち込まされたら、間違いなく、カトナは負け、カカシが勝つ。

 …まだ、勝機はあるはっ。

 そこで、言葉が途切れる。嫌な予感。背中を、汗が伝う。
 突然、カカシは気配を感じ、その場でジャンプしようとしたが、先にカトナに足を踏まれ、失敗する。そして次の瞬間、ずぼりと、突如、地面から飛び出た手にカカシの両足が掴まれる。

「予想より、はやいね。サスケ」
「はっ、まぁな」

 ずぼっと、サスケの頭が飛び出て、カトナとたわいない会話をする。
 その目には、写輪眼。

 コピーしたのか!!

 カカシはその時知らなかったが、先程影分身が使った土遁の術をサスケはコピーしていたのだ。

 「このまま、ひきずりこんでやる!」

 そういいながら、サスケが地面にカカシを引きずり込もうとした瞬間、サスケの足を、誰かが掴む。
 だれが掴んだかなんて、考えなくてもわかるだろう。

 「あの影分身、仕留めそこなったか…」

 咄嗟にチャクラを流したらしく、体が僅かにしびれただけで済んだらしい、流石は上忍なだけあるという話である。ちっ、と、仕留めそこなったことに舌打ちしたサスケは、自分よりはるかに強い力で引っ張られながらも、カカシの足を掴み続ける。
 硬直状態。カカシとカトナが拮抗し、影分身のカカシとサスケが拮抗する。誰か一人が負ければ、直ぐにでも拮抗が崩れてしまう、この状況。
 負けないようにと、絶対に自分がこの拮抗を崩さないようにと、二人の彼は手に力を込めた。
 しかし、ここでカカシがあと一人のことを忘れていたのは、失態と言うかしない。
 彼女はずっと、その時を狙っていたのだから。






 「しゃん、なろーーーーーーー!!」






 木陰から、一人の人物が叫び、飛び出てくる。
 同時に、凄まじいスピードで苦無が投げられる。
 迫る苦無が映りこんで、そして耳に届くその声に、カカシは忘れていた最後の一人を思い出す。
 春野サクラ。この班の常識人たる彼女のことを、すっかりもう忘れていた。続く猛攻、拮抗する状態、次々と自分の予想を覆す二人に、彼の思考は、すっかり彼女を忘れていた。
 そして同時に、彼は思い出す。



 この拮抗を崩すことは、他者でもできるという事を。



 必死にその場から逃れようとしたカカシを逃がさないようにと、カトナが手に力を込める。

 「王を殺るのは、先陣切って戦うような人よりも、」

 サクラの投げた苦無が、カカシの首に、迫る。
 足はサスケ、腕はカトナに固定され、カカシは動けない。
 変わり身は不可能。今から術の行使も不可。体術を使おうにも、両手両足、あまつさえ、首さえも防がれている。
 ―避けきれない。
 それでもあがくカカシが、必死に足にチャクラを込めて動かそうとするが、サスケもまた掌にチャクラを集中させ、固める。同時に、自分の足に雷遁系のチャクラを流した。
 影分身のカカシが、ぼふんっと、今度こそ消える。
 状況は、完全に、絶望的になる。
 カカシが目を、見開く。
 カトナがほほえみ、サスケが笑い、そして、

 「…こういう、伏兵なんだよ」

 苦無が、カカシの首に、突き刺さった。
 
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