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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第四節 離脱 第三話 (通算第58話)

 レコアは合流予定宙域をカミーユとランバンを連れて哨戒していた。レコアの乗る《リックディアス》は、紺を基調としたグレーとブラウンに塗り分けられた一般機だ。アーガマ所属を意味する《AG》の文字がバインダーに描かれている。パーソナルエンブレムは《女王蜂》。タックネームは《クイーンビー》。あの女に肖ったものである。
 レコアはカミーユとランバンが編隊を崩さず付いてきていることを確認した。と、同時にアラームが鳴る。センサーの有効範囲ギリギリに移動する同型機と未確認機の反応が表示された。
「カミーユ!」
 咄嗟にカミーユの名前を呼んだのはレコアの注意がカミーユに向いていたからだ。ランバンはラフだが安定感のある操縦をする。それに対し、カミーユは時折ニュータイプかと思わせる動きを見せながら、集団に合わせるのが苦手なのか、詰まらぬ所でミスをするのだ。戦場ではミスをより多くした者が死ぬ。レコアは初めて持った部下を死なせたくなかった。
「未確認機接近!警戒体制!」
 カミーユよりも未確認機に近かったランバンがカミーユが返答する前に応答した。当のカミーユは左脚のスラスターを噴かしてサイドスリップしつつ銃口を未確認機に向けていた。
「未確認機……?」
 カミーユがビームライフルを下ろした。報告も何もあったものではない。ミノフスキー粒子撒布下では、僚機との連絡、報告は必須事項であるにもかかわらず、カミーユは独断専行したのである。レコアは「あとで、修正しなくちゃね」とひとりごちた。
「はっ?」
「状況知らせっ」
 ランバンがレコアの独白が聞こえたのか、間の抜けた声を出した。遮るように、大声で指示を出す。ランバンは指示通り警戒体制のままだ。《ジムII》のセンサー有効半径は《リックディアス》に及ばないが、ミノフスキー粒子撒布下ではさして変わらない。なのにレコアが認識している現状とカミーユが認識している現状に差が生じている。ランバンとの認識に差がない以上、カミーユに何かあるとしか考えられなかった。
「アポリー機とロベルト機です!」
 カミーユが断じた。レコアには訝しかったが、光学センサーがコンソールに情報を表示した。確かにカミーユの言う通りである。
「アポリー中尉!」
「カミーユ!待ちなさいっ」
 カミーユがアポリー機に呼び掛けながらスラスターを噴かして編隊を崩した。レコアの呼び掛けには応えなかった。義勇兵的性格のあるエゥーゴの特務部隊でなければ、赦される行為ではない。命令無視、上官反抗は重大な命令違反である。
 レコアはカミーユに小言を言おうとして、タイミングを逸してしまったことに溜め息をひとつ。仕方なしに、状況確認のためアポリー機とロベルト機の抱える機体を拡大した。
 未確認機の黒い顔が大写しになる。それは見覚えのある顔だった。双眼にV字の角、赤く突き出た顎――戦慄と恐怖を戦場に撒き散らす、連邦の《白い悪魔》と瓜二つの顔。《ガンダム》を強奪するという話はでていたが、あくまで『できれば』という話であり、レコアは現実に目の当たりにするとは思いもよらないかった。
「《ガンダム》……!!」
 レコアは絶句した。凍りついたように声がでない。
 衝撃とともに、一年戦争中に見たニュースの記憶が甦ってくる。
 直接戦った訳ではないが、歴戦の猛将モラード・コンスコン少将の指揮する第十八機動戦隊が、《ガンダム》一機相手にたった三分で十二機の《リックドム》を失い、乗艦もろとも爆死した様はサイド6のニュースで報道された。サイド3では報道管制され流されなかったが、グラナダの軍籍をもつ者は誰もが見た映像である。それは、まさに人を超えた――ニュータイプの神業だった。
「〈チャンピオン〉より〈クイーンビー〉へ。レコア中尉聞こえますか?」
 カミーユからのコールサインで我に返ったレコアは慌ててレーダーを確認して、追撃してくる敵の有無を確認する。敵がいれば既に攻撃を受けている筈だが、念には念を入れて置かねばならない。
 追撃してくる機体は確認できなかった。
 となれば、追撃機がいないことと、その場にシャアがいないことは容易に結び付く。シャアが囮となってアポリーたち――いや、滷獲した《ガンダム》の確保を優先したのだと解る。この辺りの勘は利くのがレコアという女であった。
「〈スペースシャーク〉から〈クイーンビー〉へ。レコア、こっちはいい。大尉のお出迎えをしろ。あっちはお客さんつきの上にお荷物を背負ってる」
「了解! 〈クイーンビー〉より各機へ。クワトロ大尉帰艦の周囲警戒にあたれ」
 そこで一旦言葉を切るり、口調を変えて「大尉のお客さんよ、援護は不要!荷物を受け取ったら防衛ラインを下げて艦の直掩につきなさい」と言い放った。まるでボーイスカウトの引率の気分だが、従うのは学生気分の抜けない正規パイロットである。頭を抱えたくなりもするが、シャアから任された以上、疎かにすることはできなかった。
「散開っ」
「了解」
 レコアを中心にトライアングルフォーメーションで三機は《アーガマ》の前方に進路を取り、第二合流ポイントへと急いだ。合流時刻まで既に十分を切っている。レコアの心は一足先に合流ポイントに翔んでいた。 
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