遊戯王GX~決闘者転生譚~
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プロローグ
TURN-00『新たな世界へ』(2015/05/07改稿)
【章刀side】
「‥‥ぅ‥‥ぅん‥‥‥‥」
体が重い。
途轍もない気怠さを抱えながら、俺──光凪章刀は上体を起こす。
いつの間にか眠りこけていたんだろうか?
「ふぅ‥‥ん?」
適当に肩や首を慣らしながら、ふと、目の前が真っ暗なことに気づく。
──なんだ? なんか顔に付いてんのか?
そう思い、右手を何ともなしに自分の顔へとやる。
しかし、手は普通に顔に触れるだけで、何も掴まない。
付着物によって視界が遮られている訳ではないようだ。
そこでハッとするが、自分の右手が見えている。
つまり、見えていないから真っ暗なんじゃなくて、元々真っ暗なんだ。
「っ!!」
俺はガバッと勢いよく立ち上がる。
次いで辺りを見回す。
「‥‥は?」
‥‥が、当然何も見えない。
気が付くと、俺は一面真っ暗な空間に茫然と突っ立っていた。
「‥‥‥‥は?」
状況が呑み込めない。
俺は再度辺りを見回す。
前も後ろも右も左も、全方位を隈なく、きょろきょろと見回す。
何度も、何度も‥‥。
しかし、いくら周囲に目を凝らしても、先述した〝真っ暗〟以外の情報は何1つ得られない。
全くもって状況がわからない。
どうすればいいのかわからない。
そもそも今が夢なのか現実なのかさえわからない。
「‥‥‥‥」
何も、わからない。
「‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
数分──いや、もっとだろうか‥‥。
ある程度時間が過ぎると、次第に思考がクリアになってきた。
夢にしては意識がハッキリし過ぎているし、恐らく今のこの状況は現実なんだろう。
わからないことだらけなのは相変わらずだが、そう思えるようになっただけ、随分と落ち着いてきたみたいだ。
落ち着いてきたところで、まずは考えてみよう。
俺は三度周囲へと目を遣る。
無論、視界に映るものは何1つとして無い。
次に俺は全身に目をやる。
辺りはさっきも言ったように、一面が〝闇〟だ。
しかし闇の中にいるにしては、俺の手も、足も、着ている服も、履いている靴も、鮮明に、ハッキリと視認できる。
辺りの景色が一切見えないのに、そんなことってあるのか?
夜目が利いてるならともかく──いやそもそも夜目が利いた状態なんてイマイチぴんとこないが──俺はついさっき目を覚ましたところだ。
そんなハズはない。
「どうなってるんだ?」
理由を考えるが、やっぱりわからない。
‥‥まあ、わからないものはどうしようもないな。
あっさりし過ぎかとも思ったが、本当にどうしようもないのだから仕方がない。
暗闇の件は一先ず置いておくとして、〝どうしてこんな場所にいるのか〟について考えることにしよう。
「えっと、俺は確か‥‥いつもどおりの時間に起きて、いつもどおりの時間に登校して──」
俺は腕組みをして、必死に記憶を辿る。
自分が思い出せる限り最新の──取りあえず今日の朝以降の記憶を漁る。
そうしているうちに段々と、今度は記憶が鮮明になったきた。
「いつもどおり授業が終わって、いつもどおり学校から帰ってて‥‥それで──‥‥っ!!」
瞬間、ほんの刹那、俺の体に激痛が走る。
あまりの激痛に気を失いそうになったが、なんとか持ち堪えたため、倒れることはなかった。
しかしその激痛をきっかけに、俺の記憶は完全となった。
「そうだ‥‥俺、学校帰りに‥‥車の前に飛び出した子供を見つけて‥‥」
──その子を助けるために、俺は車道に飛び出した。
その後、泣きじゃくってる子供が目に映ったから、たぶん子供は助かってる。
でも、俺は──
「俺は‥‥死んだって事か‥‥」
さっきの激痛は、たぶん車に激突した時の衝撃だろう‥‥。
かなりの速度だったし、生身でアレを受けたら‥‥まぁ、間違いなく死んでるだろうな。
「‥‥って事は、ここは天国──いや、まだ天国行けるって決まってる訳じゃないから三途の川か‥‥。いや、見たトコ川らしきものは無いから‥‥三途の広場‥‥とか?」
自分でもくだらないボケだと口にしてから後悔したが、まぁ、平たく言えば〝あの世〟ってことだろう。
そんなことを考えている俺は、自分でも驚くほど冷静だった。
死を完全に受け入れてる訳じゃない。
現世に未練だってあるし、たった17年の人生で満足なんてできる筈もない。
もっと友達とも遊びたかったし、彼女とかも作ってみたかった。
‥‥まあ、あんまりモテなかったけど。
結婚もしたかったし、子供も‥‥もっと言えば孫の顔だって見たかった。
そして家族に見守られながら、最後の瞬間を迎えたかった。
その上で俺が冷静なのは、事故に遭いそうだった子供を助けられたからかも知れない。
前に学校の先生に言われたことがある。
『お前らには無限の可能性と未来があるんだ』とか何とか。
今時にしては珍しい、とてもくさいセリフに思えた。
けど、不思議と胸に響いたことを覚えてる。
今でもこうして思い出せるくらいには、胸に留めているんだ。
そんな先生の言う〝可能性〟と〝未来〟は、俺が助けた子供にだって当てはまる事だ。
もしかしたら、俺なんかよりずっと素晴らしい道を歩いていくかも知れない。
──俺が代わりに死ぬ事で、その子がその〝無限〟へと歩いて行けるなら‥‥。
そう思うと、意外にも冷静でいられた。
端から見ればただの自己満足だろう。
どうしようもない馬鹿野郎だろう。
とんでもない親不孝者だろう。
生への未練はある。
親への罪悪感もある。
しかし不思議と、心は安らかだった。
「はぁ~‥‥短い人生だったなぁ~‥‥」
俺はその場で仰向けに倒れた。
ホントに短い人生だった。
俺の享年は17歳ってことになるんだろうけど、少し前に観たニュースによると日本人男性の平均寿命は確か80歳かそこいらだったハズだ。
ソレに比べれば、俺の人生の何と短いことか‥‥。
まあ死はいずれ、平等に、否応なく訪れるものだ。
俺の場合、それが少し早かったってことだろう。
意外とすんなり受け入れられるものだ。
ただ、やっぱり涙が零れそうになったことはオフレコにしておく‥‥。
さて、俺の〝生〟が終わったのなら、今考えるべきことは1つ。
無事に天国へと召してもらえるかどうかだ。
死後の問題としては由々しきモノだと思う。
けどまあ、大丈夫だとは思うがな‥‥。
生前に何か重大な悪行を働いていたなんてこともないし、寧ろ常識人だっただろうというのが自己評価だ。
授業中に居眠りしたり、学校をサボったことはあったが‥‥まさかそれだけで地獄になんて落とされないだろう。
うん、大丈夫だ、問題ない。
あと強いて考えるなら‥‥次に輪廻転生した時も、同じく人間──できればまた男──として生を受けられるように祈ることくらいだろうか。
これも確か生前の行いで決まるなんてことを聞いたことがあるな。
なら大丈夫だ、問題ない(2回目)
あ、転生と言えば──
「‥‥二次創作とかの展開だと、ここで神が登場して転生──ってトコだな」
俺はふと、生前読んでた二次創作サイトのネット小説を思い出していた。
よく自分の好きなジャンルの二次創作を漁っては、パソコンやスマホに齧り付いて読んだものだ。
「転生先は『遊戯王GX』か『リリカルなのは』ってのが相場だったっけ‥‥。『東方』なんてのも多いっけか? けどどうせならGXに転生したいかな」
これでも俺は遊戯王プレイヤー──デュエリストだ。
デュエルの腕もそこそこ強かったし、ショップの大会なんかにも参加してた‥‥。
なのはや東方みたいなリアルファイトは勘弁だが、GXならむしろ歓迎だ。
‥‥いや、近年は遊戯王もリアルファイト化しているが‥‥そこは、まあ‥‥ねえ?
閑話休題──
だからもしこの先に二次創作的展開が待っているのなら、是非ともGXの世界へと転生させてもらいたいものだ。
しかし──
「ま、そんな都合の良い話がある訳もな───」
「私は、神だ。お前を転生させてやろう」
──ないだろう、と言おうとした矢先に降って湧いた都合の良い話。
随分といきなりなことだ‥‥。
俺はモン○ターエ○ジンのネタ的割り込み方をした人物の方へと目を遣る。
視線の先には白いローブを纏った1人の女性が立っていた。
年齢は20代前半くらいだろうか。
ローブから覗く美しい黒髪、切れ長の双眸にスッと高い鼻、艶のある白い肌に程よく潤った唇。
割と細身だが胸部には中々に立派な2つの果実があり、容姿のドコを取っても魅力的な女性だと思わせるには十二分な効果があるだろう。
事実、俺も一目でそう感じた。
纏う雰囲気もとても優しそうで、正直、俺が今まで出会ってきた異性の中で最も魅力的なのではないかとさえ思う。
‥‥恋愛対象になるかはまた別の話だが。
けど、目の前の女性が綺麗だとか恋愛対象になるならないだとか‥‥そんなことは今はどうでもいい。
「えーと‥‥神様‥‥で、いいんですか?」
「はい、神様です。正確に言えば私は女性なので、女神です」
俺の問いに答える目の前の神様改め女神様。
口調が第一声と変わってる‥‥。
どうやらさっきのはキャラだったようだ。
というか‥‥これは本当ですか?
「ええ。正真正銘、マジですよ」
心を読まれた‥‥だと‥‥ッ!?
‥‥いや、相手は神様だ、それぐらいは可能なのだろう。
「もちろん、このくらい朝飯前です」
胸を張って女神が誇らしげに言う。
うん、この方は完全に心読んでいらっしゃる。
しかしそれがわかったところで、どうと言うことはない。
先程女神様の容姿やその他をベタ褒めしたことも読まれたかと思うと少し気恥ずかしいが、むしろそんな事は今はとても瑣末な問題だ。
「あの~‥‥」
「はい?」
「俺って、その‥‥転生させてもらえるんですか?」
「そのつもりじゃなかったんですか?」
「いや‥‥転生とかって、理由が無いと無理なんじゃないかな、と思って‥‥。あ、手違いで死んだとか? それとも子供を助けたから?」
「極端に言えば両方ですね。アナタが子供を助けた事によって、死ぬはずだったあの子は助かり、死ぬはずではなかったアナタが死んでしまった」
なるほど、そういうパターンか。
二次創作でもテンプレ的な展開だ。
しかし生前も思っていたけど、よくよく考えて、神様の仕事に手違いなんてあるのかね?
〝運命の悪戯〟なんて言葉はよく聞いたりするが、悪戯にしては〝死〟というのは重過ぎると思うが‥‥。
その辺りはどうなんだろうか?
「まあまあそれはそうとして‥‥」
俺の疑問は軽くはぶらかされた。
触れてはいけない大人の事情的な何かがあるのだろうか‥‥?
まあ女神様は答える気が無さそうだし、俺も──殺されておいてなんだが──とやかく言うつもりは無い。
結果的にはその〝死〟を受けたことで転生させてもらえるようだし。
なんてことを考えていると、女神様がローブの袖口から何やら筒状に巻かれた紙を取り出した。
そしてそれを広げ──
「光凪章刀殿。アナタは自分の未来を擲ってまで人助けをしました。それも神が定めた命の運命を捻じ曲げてまで‥‥。しかもそれで死んだ事を後悔せず、むしろ助けた子供の未来のためとまでの心境に至りました。もはやアナタが神です、仏様です。よってそれを称え、ここに転生を許可します」
なんだか突然表彰式チックなコントが始まった。
そんなノリでいいのか神様。
心の中でツッコむが、口には出さない。
‥‥いや心を読まれてるんだから口に出そうが出すまいが変わりは無いか。
「それじゃあ早速転生させましょう。Aコース『遊戯王GX』、Bコース『リリカルなのは』、Cコース『東方』‥‥どの世界を選択されますか?」
女神は俺が考えていた3つの選択肢を、まるでマッサージのコースを説明するかのように提示する。
まあ〝神様転生〟の代表的な作品だから、誰しもが予想し得ることだが──
「色んな世界がありますけど、大体の二次創作ってこの3択が鉄板ですよね?」
女神の発言にズッコケそうになる。
『女神なのに二次創作とか知ってるんですか?』とも思ったけど、まぁスルーしておこう。
こういう女神様もいるんだ、と半ば強引に納得することにした。
それはさて置き‥‥。
『遊戯王GX』、『リリカルなのは』、『東方』の3択。
〝なのは〟はシリーズによってキャラたちとの関わり方が変わってくる。
選択する場合はどの時間軸かを訊いておく必要があるだろう。
〝東方〟は正直キャラクターの名前と能力名以外の情報をほとんど持っていない。
弾幕勝負やスペルカードのこともよくわかっていない。
選択する場合、かなりの不安がある。
しかし、俺には時間軸を訊く必要も選択に不安を感じる必要も無い。
さっきも言ったとおり、もう決まってる。
「『遊戯王GX』の世界でお願いします」
『遊戯王GX』を選択。
プレイしてたし、そこそこ強かったし‥‥。
もう1つは、やはり他2作品の情報不足が理由だ。
『東方』は先述したとおりだし、『リリカルなのは』の方も知らないことやわからないことが多い。
キャラクターや大まかなストーリー、ある程度の設定は知っているが、それだけだ。
興味自体もそこまで無い。
あ、ただ『フェイト・テスタロッサ』は個人的に好きだな。
断トツで可愛い。
「わかりました。ではカードはどうしますか? あなたの望むカードを与えますが」
「う~ん‥‥とりあえず、一色もらっとこうかな」
カードはあればあるだけいいだろう。
生前ではサイフポイントの事情で手が出せなかったデッキも作ってみたいし、十代たちといろんなデッキでデュエルしてみたいっていうのも理由の1つだ。
「シンクロやエクシーズなどは?」
それは‥‥どうしようか。
無い方が無難だけど、いざという時にあれば便利だろうか?
少し考える。
そして悩んだ末──
「それもお願いします」
もらっておくことにする。
念には念を、だ。
「ペンデュラムカードはいかがですか?」
‥‥ペンデュラムか。
発売されてから結構経つんだが、自分ではあまり使ったことのない召喚法なんだよな‥‥。
それ故に少し魅力的だったりもする。
この機会にペンデュラムデビューするのもいいかも知れないな。
「じゃあ‥‥お願いします」
これもまたもらっておくことにする。
まあデビューしようにも、使うのはだいぶ先になるとは思うが。
「では次に‥‥色々とマズイカードはどうしますか?」
「マズイカード?」
単語だけではどのカードか想像できず、その旨を訊ねる。
「そうですね‥‥。具体例を挙げるなら『三幻魔』や『D・HERO』、『宝玉獣』などでしょうか?」
なるほど、物語に深く関連するカード群か。
それは本当にどうしようか‥‥。
隠しておけば大丈夫だとは思うが、万が一見つかるとどうなるかわかったモンじゃない。
「う~ん‥‥そういうのはパスで‥‥」
これは断っておく。
なんだかんだで厄介事はごめんだ‥‥。
「他に何か必要な物はありますか? 特殊能力とか‥‥」
先程から感じていたが、随分とサービス精神旺盛な女神様だ。
自己満足な行動で勝手に死んだ俺を転生させてくれる上、大量のカードまで用意してくれる。
ありがたいことだが、少し申し訳ない気がしてならない。
「いや‥‥別にいいです」
俺は基本的に〝もらえるモンはもらう主義〟だ。
道で配られるチラシもティッシュもすべて受け取る。
しかしこの女神の申し出は断る。
『リリカルなのは』のように本格的なバトルストーリー物や、『東方』のように妖怪や神が登場するならば、何かしらの能力が必要かも知れない。
しかし、遊戯王の世界ではカードさえあれば取りあえずは十分だろう。
──あ、でも‥‥。
「えっと、〝精霊〟が見える能力はつけてもらってもいいですか?」
この能力は比較的必要だろう。
十代と絡むには打って付けだし、〝精霊界編〟なんかでは役に立つかも知れない。
「了解です。本当に他にはいいんですか?」
「はい、それだけでいいです」
「わかりました。では‥‥」
不意に女神様が俺の顔に右手を翳す。
「此の者に新たな生命を与え、彼の世界へ‥‥!!」
女神様が何やら口上を唱える。
「いってらっしゃい」
口上を唱え終わった女神様が、笑顔を向けながら俺に言う。
「っ!?」
その瞬間、目の前の景色が揺らいだ。
意識が混濁し、強烈な睡魔に襲われる。
「──────」
そして、女神様の微かな呟きを聞きながら、俺の意識は闇へと落ちていった。
─ To Be Continued ─
後書き
初めましての方もお久しぶりの方も、どうもBlueと申します。
にじファン、ハーメルンを経て、この暁様で執筆活動を行っております。
‥‥と言ってもですね、実はこのサイトに小説の投稿をするのは今回が初めてで、この作品の投稿自体も約2年ぶりなんですよ(汗)
色々とありまして‥‥(-_-;)
まあそれはさておき、にじファン時代から投稿していた作品の再投稿となります。
ここで再投稿する経緯は‥‥まああらすじの部分に目を通していただくとして‥‥。
文章や設定に拙い部分も多々あるかとは思いますが、何とか頑張って読者の皆様を楽しませられる作品にしていきたいという所存です。
叶うことならば、これから是非ご贔屓くださいm(_ _)m
次いで1話目を投稿しますので、よろしくお願いします。
同時投稿いたします『魔法少女リリカルなのはStrikerS~破滅大戦~』もよければご覧ください。
※2015/05/07改稿
当初はPモンスターが登場して間もなくの設定でしたが、転生の時点でPモンスターの登場からある程度の時間経過がある設定に変更し、本文中の描写を少々変更いたしました。
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