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木枯らしに抱かれて

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第一章


第一章

                      木枯らしに抱かれて
「辛い?」
「うん・・・・・・」
 私は親友の彼女に答えた。涙を流しながら。
「凄く。本当に」
「そうよね。けれどもう」
「忘れるべきよね」
「無理?今は」
「御免なさい」
 自然に謝っていた。泣きながら小さく頷いて。
「とても。忘れられない」
「そうよね。けれどね」
「わかってるの」
 目が見えなくなっていた。涙が自然に溢れ出てきていて。
 その涙を止められないまま。私は答える。
「わかっているけれどそれでも」
「あの人、やっぱり」
「好きな人いたのね」
「付き合ってるの。見たわよね」
「ええ・・・・・・」
 見てしまった。あの人がとても奇麗な人と一緒に下校しているのを。何時か言おう言おうと思っていたのにそれでもだった。あの人には。
 私は彼女に。こう言った。
「最初見た時からずっと」
「知ってるわ。好きだったのよね」
「入学式の時に見て」
 それがはじまりだった。春に。
 あの人を見て心がときめいて。胸が熱くなった。その時の感じは今でも覚えている。
「それでいつも見ていて」
「本当に好きで」
「本当にね。言いたかったのよ」
 私は泣きながら言っていく。
「けれど勇気がなくて」
「言えなくて」
「見たの」
 見たその時に心が引き裂かれそうになった。あの人が本当に奇麗な、私達の通っている学校とは違った制服の人と仲良く笑っていて。
 アイスを食べてそしてキスをするのを。最後まで見てしまった。
 町の中のデートだった。一瞬だったけれど私は何もかも見てしまった。その瞬間に心が。まるで鏡が割れたみたいになってしまった。
 その時私は彼女と。今私の前にいてくれている彼女と待ち合わせをしていた。それで一緒に仲良く遊ぼうと思っていたら。見てしまった。
 それを見て止まっているところに彼女が来て。そっと私を今私達がいる喫茶店に連れて来てくれて。私の話を聞いてくれている。それが今だった。
 私は彼女が頼んでくれたコーヒーに口をつけず。話していた。
「見たくなかった」
「そうよね。そういうことはね」
「噂は聞いてたけれどそれでも」
「実際に見たから」
「辛い・・・・・・」
 私はまたこの言葉を出した。
「もう、辛くて」
「死にそう?」
「心が死にそう」
 そうした意味で。私は本当に辛くなっていた。
 それで彼女にも言っていく。辛い気持ちを抑えられないまま。
 その私に。彼女は優しく言ってくれた。
「ねえ」
「何?」
「まずはコーヒー飲んで」
 穏やかに笑ってさえくれて。私に言ってくれた。
「コーヒーをね。飲んで」
「コーヒーを?」
「そう、コーヒーを」
 まずはそれだと言ってくれた。
「それを飲んで」
「うん、じゃあ」
 その言葉を聞いて。そうしてだった。
 私はそのコーヒーを手に取って飲んでみた。
 もう冷えていたけれど苦くてその中に少しだけ甘さがあって。その二つの味を味わってからだった。
 私は彼女に自分から言った。
「飲んで。それからよね」
「少し歩かない?」
 また優しい声で私に言ってくれた。
 
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