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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  ファーストキス

 新しい下忍の班が紹介されるまでの間、待たされている、いつものアカデミーの教室で、カトナは若干うつむきがちになりそうな顔を上げながら、横にいるサスケの顔色を窺った。
 サスケはむすりと頬を膨らませ、カトナに全く視線を合わせようとしない。その様子に内心で困り果てながらも、カトナは必死にはなしかける。

「サスケ、あの、ね…」
「俺はお前のことはもう知らねぇ」

 が、サスケのつれない態度は崩れることはなく…、平行線をたどる会話にどうしてこうなったと、カトナは頭を抱えた。
 事の始まりは、昨日にさかのぼる。
 昨夜、寝ずの看病…と言うわけではないが、殆どつきっきりで看病していてくれたサスケが、トイレに行くと言って、目を少し離した瞬間、カトナは脱走した。
 ナルトが巻物を盗んで何処かに行ったという情報を、暗部の人間が囁いているのを、優れた聴覚でとらえてしまい、彼女はいてもたってもいられなくてその場から逃げた。
 すぐに帰ってくつもりだったので書置きも何もしなかった。そんなことしなくても、サスケならば自分の意思を分かってくれるだろう―なんて、そんな自分勝手な思いに従って脱走したのだ。
 当然、サスケは心配して、カトナが知らないところで、一晩中里の中を駆け回っていてくれたらしい。それこそ、里の端から端まで。カトナ達とすれ違いで森にまで行ってくれたらしいので、そこまでしてくれたことには、頭が下がる思いである。
 が、その時のカトナは全くそのことに気が付かず、呑気にもナルトと一緒に一楽のラーメンをイルカ先生におごってもらい、食しての帰り道に、彼と遭遇し、怒鳴られた。

 「なんで、勝手に出ていくんだよ、このバカが―!!」

 いつもの数倍血相を変えて、激怒した顔で、サスケはそう怒鳴りつけた。見慣れないそのサスケに、カトナはぽかんと呆気にとられてしまって、慌てて謝罪したけれど、サスケの機嫌は直らなかった。
 むしろ、治らなくて当然だと思う。
 いきなり、何の書置きもなく病人が外に飛び出せば、心配するだろうし、心配した相手が呑気にもラーメンを教師におごってもらっていたとなれば、その怒りは当然なものだ。
 何よりも…彼のトラウマを思い出させてしまったのだ。
 その怒りは相当なものだったのだろう。

 「兄さんみたいに、いなくなったって、思っただろうが!!」

 小さくそうやって声を漏らしたのが、耳に届いてしまった分、余計に彼が怒ってるのがわかってしまって、カトナは何もいえなくなってしまった。
 サスケの兄であるイタチは、突然消えたわけではない。一応、サスケと会って別れを告げて里を抜けていった。
 けれど、カトナが勝手に抜け出した状況は、イタチのことを思い出しても仕方ないような状況であったわけで…。

 なんで、あんな馬鹿なことをしたんだ自分、と内心で昨日の自分を罵ったカトナは、ちらりとサスケを伺う。
 サスケは相変わらずこちらを見ず、前しか見ていない。この分では本当に彼に嫌われてしまったかもしれない、どうしよう。
 サスケに嫌われたくないのに。
 うるっと、少しだけ涙が滲みそうになったが、耐えて下を向いたカトナを、実は視界の端で確認していたサスケは、こちらもまた、カトナ同様にどうしようかと頭を抱えた。
 彼だって、なにもカトナを泣かせたくて、こんな行為をしているわけではないのである。
 ―ただ、自分を大事にしない彼女に、どうしようもなく苛立ってしまったわけで。
 自分がすねて無視して、それで昨日の行いを反省してくれれば、それでいいかと思って始めた演技(いや、最初の頃はそれこそまじで怒っていて、絶交の事すら視野に収めていたのだが。さすがに、一夜も立てば、怒りも収まる)をどうやって終わらせればいいのか分からないのである。
 もともと、二人の間に喧嘩は少ない。サスケとナルトの間ならば、喧嘩はそこそこあるからこそ、どちらともなく、謝るタイミングと言うのがつかめるのだが、サスケとカトナの間の喧嘩は、これが初めてかもしれない。それくらい、したことがないのである。ゆえに、完全に、謝るタイミングを見失ってしまっていた。

 「カトナ」

 だが、このままではいけないと、カトナを泣かせたくないサスケが、なんとか謝ろうとカトナの名前を呼んだ時。

 タイミングが悪いことに、サクラがサスケの横に座り、サスケの背中を叩いたのであった。
 いつもならば視野が広く、サクラの存在にも気が付けるサスケであったが、流石に今の状況ではカトナのことしか考えられておらず、予期せぬ方向からの衝撃に、なすすべもなく倒れ込む。
 そして、カトナと言えば、サスケから話しかけてくれたという嬉しさで、ぱぁっと顔を輝かせ、丁度上を見上げた時であった。
 近づいてくるサスケの顔に、一瞬思考が停止し、そしてカトナの体が固まる。
 彼女の、予期せぬ事態に弱いという習性が、ここにおいて迷いなく発揮される。
 そして、二人の体が重なった。
 より具体的に言うならば、彼ら二人の間の距離が零になり、カトナとサスケの唇と唇が重なった。端的に言うならば、キスである。
 ぴたりと、重なり合ったそのぬくもりに、二人の思考が停止した。

 「いやあああああああああ!!」

 まっさきに声を上げたのは、サスケの背中を押してしまった、このキスの原因であるサクラであった。
 そして、サクラの悲鳴に反応し全員が振り返り、彼ら二人のキスの現場を目撃する。一瞬の沈黙、そして次の瞬間、サスケのことが好きな女子の悲鳴が教室内に響き渡った。
 なお、この間に本人たちは一切会話しておらず、キスした状態で固まっている。どれほどの衝撃を感じてしまっているのかは、この一文だけで十分だろう。
 そんななかで、真っ先に動いたのは、ナルトだった。

 「サスケエエエエエエエ!! てめぇ、カトナに何、キスしてるんだってばぁ!!」

 ばっと、カトナの斜め後ろの席に座り、シカマル達とだべっていたナルトは、すぐさま姉とサスケを引き離すと、勢いよくサスケの襟首を掴み、怒鳴り付ける。
 はっ、と、その怒鳴り声で事態に気が付いたサスケは、ナルトに必死に手を振って反論する。

「違う! 誤解だ!! 春野が俺の背中をいきなり押して、反応できなかったんだ!!」
「へぇ…遺言はそれでいいってば?」
「だから誤解だって、いってんだろ!!」

 サスケは必死にそう言って、カトナを見て、お前も何か言えよと言おうとして、それを目にする。
 かぁー、と頬どころか耳まで真っ赤にし、恥ずかしそうに目を伏せて下を見ているカトナの姿を、目撃する。
 ぼっと、そのカトナの姿を目撃して、サスケもまた同じく自分が大好きな野菜であるトマトのように顔を赤くさせ、ナルトの逆鱗に触れた。

 「死刑だってばよおおおおお!!!!!」

 どかーん! という音が教室内に響き渡った。

・・・

 「うーん、まぁねぇ、お前らの気持ちだってわからないわけじゃないんだよねぇ、先生。そりゃあ、実の家族が自分の友達とキスしてる光景なんて、見たくないよねぇ。けどさぁ、」

 そう言いながら、銀髪の男―はたけカカシは辺りを見回した。

「普通さ、教室を破壊しちゃう?」
「…すみませんってば」
「すまない」
「…ごめん、なさい」

 しょぼんと落ち込んで(というか、怒り狂いそうな気持を押し殺して)正座させられているナルトとサスケを見比べて、カカシははぁと溜め息をついた。
 いったい全体誰がおもうだろうか。自分が担当する子供が暴れてアカデミーの教室を半壊させるなど…しかもよりにもよって自分が初めて担当する日に。
 そのせいで6班を担当するあの後輩が、木遁を使って修理しているかと思うと、何故だかとても悲しく感じられた。
 ある意味、巧妙な嫌がらせかと思いながら、魂がぬけて気絶しかけているサクラの横で、小さくなるカトナにフォローをいれる。

「いやまぁ、カトナは謝らなくてもいいよ。二人は反省してなさいね」
「でも、原因、…みたい、だし」

 そう言った後、ちらりとサスケを見てから申し訳なさそうに目を伏せたカトナに、カカシはなんというべきかなと戸惑っていると。

「カカシ先輩。すみません、遅れました」
「おお、ヤマト。終わったか」
「はい、それに、二人、連れてきましたよ」

 そういうとともに、ヤマトは自分の後ろでカカシを伺っていた少年二人を押し出す。
 一人はナルトの友であり監視であるサイ。そしてもう一人は。

「じろじろみてんなよ」

 アカデミーでの成績はダントツのドベだが、それは授業をサボッているからであり、決して忍者としてのセンスがないわけではなく、むしろ誰よりも卓越しているといっても過言ではない、暗部が使う狐の面と似たような面をつけた、一匹狼の少年ー湖面はそういって、ヤマトの傍から離れ、近くの席に座る。
 普通、班の編成とは成績で決まる。のだが、この第六、七班には色々と厄介な事情がある。
 普通の成績順に従うならば、サスケ、湖面、サクラの三人と、カトナ、サイ、ナルトの三人で組まされる。
 しかし、カトナの監視であるカカシは、里で唯一の写輪眼もちのため、サスケが写輪眼を使えるようになるためにも、彼の担当教師でいたい。
 が、ナルトとカトナはある封印式でお互いを縛りあっているため、一定以上の距離を離れたら、ナルトの中の九尾が暴走する可能性が高くなるので、二人は引き離せない。
 しかし、ヤマトとサイはナルトの監視のため、同じ班のほうが効率がいい。
 とまぁ、色々面倒くさい思惑と思惑が絡み合い…仕方なく、七班と六班は常に一緒に行動する、表向きとして、八人態勢の班の有効活用性を模索するための、特殊な班として結成されたわけである。
 巻き込まれただけのサクラがあまりに気の毒で、内心、ほろりと涙を流しながら、カカシは六人を見つめる。
 見事にまぁ、問題児らしき問題児が集まったものだと思いながら、カカシはいう。

「とりあえず、自己紹介してもらおうか」
「やだってば!」
「めんどくせぇ」
「知らない人に個人情報を教えるのは…」
「別にしなくていいんじゃないですか?」
「する、必要、ある?」
「不審者に教えるプロフィールはねぇ」

 ちなみに上から順で、ナルト、サスケ、サクラ、サイ、カトナ、湖面である。
 ぐさぐさと刺さる容赦のない言葉に、ぐすんと泣き真似をしたカカシを見て、慌ててヤマトがフォローにはいる。

 「小隊としてこれから動くことになるんだ。お互いを知っておくべきだろう。僕から順に右回りで自己紹介していこう」

 その言葉で、八人の自己紹介が始まった。

「僕の名前はヤマト。六班の小隊長こと教師をさせていただく。趣味は木造建築の本を読むことかな。…ほら、先輩」
「…ああ、うん。俺の名前は、はたけカカシ。七班担当だ。好きなものは色々。次、ナルト」
「俺の名前はうずまきナルトだってば! 好きなものは一楽のラーメンとカトナの手料理!! 苦手なものは勉強と野菜!! んでもって、趣味はガーデニング!! 夢は里のみんなに俺のことを認めさせるんだってば」
「あっ、この順番だと僕ですね。名前はサイです、趣味は絵を描くこと。夢は特にありません」
「…ちっ、俺かよ。名前は湖面。夢は…なんかすっげーことをする、以上」
「名前は春野サクラです! 好きなもの…っていうか好きな人は、うちはサッ「うずまきカトナ。夢は大切な人を守れるくらい強くなること、以上」って、私の台詞、遮らないでよね、カトナ!!「次」」
「最後は俺か。うちはサスケ。夢は、ある男をぶん殴ること。それだけだ」

 サスケのその自己紹介が終了した頃を見図るように、カカシは、さてと…と言って立ち上がり、六人に向けていった。

 「これから、お前らにお互いを蹴落としあってもらおうと思う」

 その言葉に、空気がはりつめた。 
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