原石とダイア
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五章
第五章
「成り行きでできるものだな」
「だからそれじゃあ」
「できる奴はできるしできる奴はできない」
しかし彼の言葉は変わらない。
「そういうものなんだよ」
「できる奴はできるの」
「そのかわり。まあ今の言葉だけれどな」
「うん」
「できない奴は何をしてもできないぜ」
かなり残酷な言葉だった。少なくともその努力をしようとしている彼にとっては。
「どうしようもねえ屑でも結婚してたりするだろ?」
「それはね」
この場合人間としてという意味であった。そうした人間が子供を作って虐待等の問題を起こすことは昔からある。今その話も為された。
「それと逆に凄くいい人でもずっと独身だったりな」
「そういうのはまちまちなんだ」
「本当にわかったもんじゃねえさ。まちまちだよ」
彼もまたまちまちという言葉を出す。
「だから俺はどうこう言えないんだよ」
「そうなんだ」
「悪いな。まあなってくるもんさ」
彼はこうも光臣に話した。その時はこれまで少しばかり眉を歪めさせ眉間に皺を作った顔になっていたが穏やかなものにその顔を変えていた。
「そういうのもな」
「なってくるものね」
「自分が動かなくても相手が動いてくれるしな」
「相手も」
「だから。まあなるようにしかならねえからな」
彼は言う。
「焦らないで色々やるべきだと俺は思うぜ」
「わかったよ」
今は彼の言葉に頷いた。なってくるものだと言われたが自分にそれが当てはまってくれるかというと懐疑的だった。そのままとりあえずそうした恋愛の本も読んだりしていた。どうなるかわからないが自分なりに頑張ってみていたそんな中のある日。学校に来て下駄箱を開けると。
「えっ!?」
思わず声をあげてしまった。そこにあったのは何と。
一通の手紙だった。それが何かわからない程彼も無知ではなかった。そう、それだったのだ。
「嘘だろ!?」
思わず叫びそうになった。そんなことあればいいかな、とか夢みたいなことを考えていた矢先にこれである。最初これは悪戯ではないかと思った。
「けれど」
しかし考えなおしてその手紙を読んでみることにした。とりあえず封を外からチェックしてカミソリやそういった類のものが入っていないことを確認してだ。彼も用心していた。
まずカミソリ等は大丈夫だった。そのことに安心してから誰もいない屋上に行ってそのうえで封を開いた。するとそこにあったのは本物だった。
「まさか・・・・・・」
読んでみてさらに信じられなかった。手紙には今日の放課後体育館裏で待っているとある。お決まりと言えばお決まりの展開であった。
だがまだ疑っていた。今度も悪戯かと思ったのだ。それでまずは誰にも言わずそのうえで放課後に体育館裏の辺りがよく見える校舎の屋上のあるポイントからそこを見下ろした。自分をからかう為に誰かいればそこから見えるだろうと思ってそこから見下ろしたのだ。
しかしそういった人間はいなかった。仕掛けもない。そこには女の子が一人立っているだけだった。その娘がどうしてそこいいるのかはもう考えるまでもなかった。
「本当みたいだな」
ここに至ってやっとその考えになった。そうしてようやくそこから下りて校舎裏に向かった。そこにいたのは小柄で可愛い女の子だった。
「あっ・・・・・・」
「ひょっとしてあの下駄箱の手紙の?」
光臣は自分の顔を見て驚いた顔になったその女の子に対して問うた。見れば顔は少しばかりふっくらとしているがそれでもかなり可愛い。髪の色は黒でロングヘアにしている。その娘がそこにいて彼を見て顔をあげたのである。
「あれはまさか」
「はい」
女の子は戸惑いを残したまま彼の言葉にこくりと頷いた。
「そうです。私です」
「そうだったんだ。君が」
「先輩」
実は彼は二年である。今の言葉からこの女の子が一年であることがわかる。
「私、前から先輩のことが」
「僕のことが」
「ずっと前からでした」
これは彼にとっては思いも寄らない言葉であった。
「ずっと前からでしたけれど最近余計に格好よくなられて」
「ずっと前って!?」
まずこの言葉について女の子に問うた。
「あの、それって」
「はい、ずっと前からです」
顔を真っ赤にさせてまた俯いてしまってから彼に話す。
「ずっと前から先輩が好きでした」
「嘘・・・・・・」
「嘘じゃありません」
女の子は今の光臣の言葉を全力で否定した。
「本当にずっと前からです。見てました」
「そうだったんだ」
以前のあまりにも地味な自分を見ていた。そのことに唖然としていた。しかしそれでも女の子の話は聞いてそれに応じていた。
ページ上へ戻る