少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第102話 あなたに会いたい
外の騒ぎを目撃した全員が、凌馬をガレージに入れるのを嫌がったが、結局は凌馬をガレージに招き入れていた。
というのも、提案の内容というのが、ユグドラシル・タワーへの入り方に関することだと言われたからだ。
「キミたちの状況は分かっている。オーバーロードに捕まった人たちを助けたい、でもユグドラシル・タワーに潜入する手段が見つからない。現状は私にとっても好ましくない。そこで」
凌馬はパイプ椅子を立ち、ガレージの壁際、一番の注目を集める場所に立ってふり返った。
「ここはひとつ、助け合おうじゃないか。私がキミたちをユグドラシル・タワーへ連れてってあげよう」
誰もが驚きを呈した。湊の案内で、ある限りの秘密通路は全て見た。どこからも入れなかったのに。
「本当なのかっ?」
「話にならないわ。タワーへの入口は全て塞がれている。あなたにそんなことができるわけ」
凌馬は湊の言葉を制するように、彼女の肩に手を置いた。
「内緒で作った秘密通路があるんだ。それを使う」
入口は沢芽市の外にあるが、車を使えばすぐに着く。凌馬はそう言い足した。
「俺たちがあんたを信用するとでも?」
「そう言われると思ったよ。でも現実問題、他に手はない」
「――――」
「ま、別に私は慌てる必要はない。でもキミたちはどうかな。捕まった人々は――いつまで無事かな?」
思い出す。インベスに攫われたトモ。レデュエは「エサ集め」と言った。トモが今も五体満足である保証はどこにもない。
想像すると、震えが込み上げてきた。トモ。リトルスターマインの大事な仲間。
「また来るよ」
そんな咲を知ってか知らずか、凌馬は悠然とガレージを出て行った。
戦極凌馬がガレージから去ってから、彼らは協議した。凌馬の話に乗るべきか否か。
乗るべきという意見は紘汰。それ以外は、凌馬の過去の行いが行いなので、誘いを受けるべきでないという意見。途中で戒斗が乗る側に立ったが、結局、話は平行線のまま解散となった。
紘汰と戒斗がガレージを出て行った。しばらくして舞が彼らを追って出た。
「でも、本当にどうするの。このままじゃ……」
チャッキーが上げた声に答えられる者はいなかった。
「あーっ。よりによってあいつが持ってきた情報でなけりゃ、まだ信用の仕様もあるってのに」
ザックがカウンターチェアにもたれて頭を掻いた。
ソファーにいた咲は、靴を脱いでソファーの上で体育座りをした。
「シンヨーできるできないじゃなくて、あたし、あいつキライ。ヘキサの体、いじろうとしたから」
「ええ!?」
ペコががたっと立ち上がった。ペコほどではないが、他のメンバーも唖然としている。
例のヘキサが被験体にされた件を言ったのだが。そういえばちゃんと話していなかったことに咲は思い至った。
湊が淀みなく説明した。
「一度、あの子を検体に、インベス化した人間を戻せないか、検証実験をするプロジェクトが持ち上がったのよ。結局タワーがあの有り様で、戦極凌馬も逃亡したから、プロジェクトは凍結したけど」
「そういえばヘキサは? ここんとこ見ねえな」
咲は顔を伏せた。呉島邸にも、野外劇場にも、ダンススクールにも行った。だが、ヘキサはいなかった。
今は糸ほど細い可能性にかけて、兄弟の決闘があったと思しき広場に通う日々だ。
(光実くんにせよ貴虎お兄さんにせよ、無事なら絶対ヘキサを守ってるはずだから、だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、あたし)
そう言い聞かせては、ヘキサだけのために飛び出したい気持ちを、幾度となく宥めた。今の自分はリトルスターマインのリーダーではなく、この対ヘルヘイム連合チームの一員なのだから、と。
後書き
人質は光実が解放したという情報を知らないメンバーと、おそらく知ってるけどあえて誤認させたままにする凌馬。だからこそ生まれた原作と同じ状況。
みんなはまだタワーに人がいると思い込んでるんですよ。
その誤解を解かない凌馬マジ下郎。
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