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Ball Driver

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第四十四話 ヒヨッコ達

第四十四話



秋季大会はブロック予選から。
出来たてのチームが、ヒヨッコなりの気概を持って大会に臨んでくる。
秋季大会はもう一つの甲子園への道、春の選抜への道なのだ。

バシィーン!
「ストライクアウトォ!」
「よーーしっ!調子出てきた!」

南十字学園も、ヒヨッコなりに、よちよちと甲子園への道を歩き始めたチームだった。先発ピッチャーの拓人が喝采を上げながらベンチに戻る。

「さぁ、ピンチ切り抜けたよ!みんな、こっからリズム乗ってこうぜ!」

ピッチャーの拓人自らが、ベンチで周りを鼓舞する。この明るく裏表ない性格は、姿とはまた違った魅力に溢れ、学園の一年生を虜にしているのだとか。

「そのピンチとやらは誰が作ってんだよ。一体どんだけフォアボール出したら気が済むんだい」

権城はしかし、拓人のテンションに冷静に突っ込んだ。権城の言葉通り、まだまだ拓人は荒削りで、勢いはかなりのものがあるが、イマイチ信頼には値しないかもしれない。

「シモーヌ、準備できてるか?次の回から行くぞ。」
「はい、分かりました」
「えぇーっ!?まだ6回ですよー!?」
「六回でフォアボール7つ出しゃあ交代して当たり前だろ!この回の打席はお前にやるから、とっととバッターボックス行ってこい!」

権城に言われた拓人は、これまた瞬時に気持ちを切り替えて「よーし、じゃあ一発打ってくるかー!」と意気込んで打席の準備を始める。この気持ちの切り替えの速さ、ポジティブ思考を見ると、かえって「そんなだからお前はいつまでもノーコンが治らねぇんだよ」とボヤきたくなってくる。

「……ま、ドタバタしながらでも、勝ててるから良いけどね。」

権城はつぶやいた。
スコアボードには、南十字学園の5点リードが刻まれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー

カン!
「サード!」
「はいはいお任せ!」

平凡なサードゴロをキッチリと捌く松山。ファーストの神奈子のミットにボールが収まり、ゲームセットとなる。
残りの回はシモーヌが、サイドスローからの軟投でキッチリとしのいだ。こちらは拓人と違って勢いは無いが、コントロールがしっかりしており、安定感がある。
その安定感の差が、背番号1と10の違いである。

「よし、整列だ」

姿がベンチに居る同級生に声をかける。
その背中には、ベンチの中で最も大きい番号、20が付いていた。



ーーーーーーーーーーーーーーー


「権城くん、今日はナイスバッティング。見事な3安打だったねぇ。」
「ありがとうございます。ブロック予選から大利さんがいらっしゃると思わなかったので、緊張しましたけど」

試合後、久しぶりに権城はスポーツライターの大利と話をしていた。大利は夏の大会前にも南十字学園を記事にしてくれた、ご贔屓にしてくれるライターだ。権城は中学の頃からの付き合いである。

「三年生が抜けても、強いねぇ。一番の楊茉莉乃は三拍子揃ってるし、権城くんが三番で頑張ってるし。ピッチャーも、品田が居なくなっても背番号10の子のスリークォーターからの140近い球は威力があるし、エースのサイドスローからのコントロールは良いし……」
「いやいやいや、そんな連中より、大利さんが気になってるのはあいつでしょ?」

権城が指差した先には、姿。姿は今日の試合、全く出番が無かった。ブロック予選ではまだ一球も投げていない。

「……ま、そうなんだけどな」

大利も権城の言葉を否定しない。一年生でいきなり150キロを連発し、帝東打線を一瞬で黙らせた姿の投球のインパクトは見る者の目にしっかりと焼きついたようである。

「しかし彼、試合前のアップもしてないじゃないか。キャッチボールすらしていない。背番号も20だし、何かあったのか?」

権城は、露骨に困った顔を見せた。

「そーなんですよー。ちょっと、怪我しちゃいまして。いやー、あの実力ですから、秋からはエースとしてバリバリやって欲しかったんですけどねー。」
「そうか。それは残念だな。復帰はいつ?」
「いやー、それが全然目処も立たなくて……」

権城の痛恨の表情に、大利は心底同情した。

「まぁまぁ、今は残った戦力で何とか勝って、甲子園で新道くんに復活の機会を与えるというのもまたアリだろう。これからも頑張ってくれよ、俺は二試合目を見てくるからな。」
「はい、頑張ります。ありがとうございました。」

去って行く大利の背中に、権城は深々と礼をした。礼をして下を向いているその顔には、ニタァーっとした笑みが張り付いていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


カァーン!
「よーしナイバッチミセスー!」
「ナイスー!」

2塁ベース上で、やたらとエロく髪をなびかせる神奈子。その様子をスタンドから見ている者たちが居た。

「……うっわ……何あれ……サザンクロスまたヤバくない?あの背番号3、めちゃくちゃエロいじゃん。付き合ってくんねぇかな。いや、付き合わなくて良いから一度ヤリたい」

帝東高校野球部の新主将に就任した佐武星矢が、鼻息を荒くして神奈子のナイスバディに釘付けになっていた。確かに、神奈子の体つきでショートフィットスタイルのユニフォームは反則級ではある。

「サザンクロスは羨ましいよなぁ。夏もさぁ、遠藤だっけ?相手のキャプテンが2塁に来たらめちゃくちゃ良い匂いしてさぁ、俺ずっと2塁ベースついていたかったもん。」

佐武の言葉に頷いているのは、夏の大会ではセカンドを守った飯島。夏の甲子園でもベスト8まで進んだ、二年生二遊間はこの秋からチームの柱を担う事となる。

「何言ってんのよ、アホらしい。せっかくの練習を休んでまでサザンクロスの試合見に来てんのに……」
「あぁ、そうだな。せっかくの練習を休めた上に、可愛い女を眺めてられるんだから有難い事この上ないぜ」

飛鳥はいつまでも鼻の下を伸ばしている佐武の頭をはたいた。これだから男は……とため息をつく。

「でもさぁ、試合見るったって、新道投げてねぇじゃん。怪我したって噂だぜ?新道が投げねぇんだったら、サザンクロスなんて敵じゃねぇだろ。先発のノーコンPもリリーフのサイドスローも、ボコボコにしてやんよ」
「あのねぇ、監督が見てこいって言ったんだから、それなりに監督も警戒してるって事でしょ?あんた自分の見立てと監督どっちを信用すんの?それにねぇ、サザンクロスは今日で三試合連続二桁安打で、強打は健在……」
「ヒットは出てても、長打は随分減ってるけどな。打線はお前がキッチリ抑えりゃ済む話として、やっぱりわざわざ見に来るほどのもんではないわ。」

三人の中で唯一、真面目に試合を見ている飛鳥の生真面目っぷりに佐武はすっかり辟易し、飯島は退屈そうに大きくあくびをかいていた。

(もう!何リラックスしてやがんのよこいつら!夏のベスト8が悔しくないわけ!?)

飛鳥はカッカしながら、グランドに目を戻した。金属バットの高い音が、秋晴れの中に響いていた。










 
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