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機神呼嵐デモンベイン

作者:ハイド
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第一部『I AM PROVIDENCE~機神爆誕!魔を断つオバカ伝説の始まりだゾ~』
  第1話「始まりってのはいつも唐突に起きるもの」

 
前書き
どうもハイドです。
第一話を投稿するに当たってもう一つ注意事項を・・・。

この小説に登場するしんちゃんを初めとするクレしんキャラは成長後の姿となっております。

それでもいい方は・・・ゆっくりしていってね! 

 
 どんなに街の灯りが夜を照らしても、どんなに科学が迷信の闇を暴いても、人が神様を捨てることなんて出来やしないゾ。
 何でかって?科学の光ってのは人の心の空洞まで曝してしまうからだゾ。
 カラッポな自分を何とか埋め合わそうと、人は宗教をその空洞に詰め込もうとする。何とも調子のいい話ですな。
 人は神様の潔癖を疎んじて、それから逃げようとこの傲慢の塊みたいな街を築いたけれど、それでもやっぱり駄目だったから、また神様に縋る。尽きることの無い神様の愛に漬け込んでね。
 そういう、オラ・・・野原神之介(のはら しんのすけ)とて人のことを言えた義理じゃない。・・・というか、むしろその典型的だゾ。不敬で不遜で自堕落で・・・それでも困ったときはここぞとばかりに神様に縋る。
 はっきり言おう、ここん所一週間何にも食べてないです。家賃と光熱費を支払うのに精一杯で食費に回すお金が無いのだ。んでもって、ここ一週間のうち口にしたのは塩と水と砂糖のみ。・・・つーか、そこらへんにいる犬の方がよっぽどいい食生活してんじゃね?
 そして、ついに塩の備蓄も昨日で在庫0。・・・マジで洒落になんないゾ。
「・・・と言うわけで、知り合いの住む教会にやってきたのだ」
「しんのすけー、誰と話してるんだー?」
「はらへり過ぎて幻覚見てる~」
「・・・(おろおろ)」
「違うんだよ~、これはホラ、アレだよ。今オラが何処に居るかって言う、現状説明をね。読者の方々に・・・っと、メタ発言はそこまでにしといて・・・シスター居る?」
 いつの間にか居て、オラに突っ込みを入れているがきんちょに言いつつ、この教会に住んでいるシスターが居るか聞いてみた。
「姉ちゃんは今、居ないよ。もうすぐ帰ってくると思うけど・・・、そんな事よりあそぼーぜ」
「ケツだけ星人やってやってー」
「・・・(じー)」
「ンな事よりオラ、飯喰いたいんだけどな・・・はぁ、しゃあないちょっとだけだゾ」
 がきんちょ達のリクエストに答えて、ケツだけ星人をやろうとズボンをずらして半ケツ状態になった次の瞬間・・・、
「あらあら、誰かと思えば一週間ぶりの迷える子羊の神之介ちゃんじゃない。半ケツで何を・・・はっ!まさか、ケツを突き出して『お前、俺のケツの中で小便しろ』と言ってケツの中で小便させた後、『次は俺の番だろ?』と言いながら猛々しいその欲望を子供達に・・・」
「しねェェェェェェェェェェェェェェェェェよ!!オラ、ノンケだから!ってか年上好きだから!それありえねーから!!!それよりも、メシ出して!!!腹が減った!!!」
 知り合いと言うか、オラがあてにしてた人が来た・・・のはいいが、来て早々オラの人格を社会的に陥れる事をほざきやがったのでツッコミを入れつつ、メシを催促したのであった。

-シスター、調理中・・・。

「美味い美味い、ライカさんの料理は最高だゾ」
「褒めてくれてありがと。作った甲斐があったわー」
 作ってくれた料理をかっ込みながらオラは、ライカさんに感想を述べる。
 改めて説明しておこう、彼女の名はライカ・クルセイド。シスターで、オラがこの街『アーカムシティ』にやってきてからの知り合いだ。彼女は、この教会で身寄りの無い子供達を引き取って育てているんだゾ。
 ちょっと変な妄想をしてそれが基で暴走しちゃうこともあるけど、基本はおっとりとして優しい性格なんだゾ。美人な上に、ボンキュッボンなダイナマイトボディ・・・あ~、ここに来て良かったな~えへへへへ~。
「神之介ちゃん、顔がにやけてるけどどうしたの?」
「いや~、ライカさんの美しさに見惚れてるだけだゾ」
 首をかしげながら聞いてくるライカさんにオラはそういうと、彼女はもう、からかわないの!と顔を真っ赤にして反論した。・・・恥らう姿もかわええなぁ。
「っと、そうこうしてる内に食った食った・・・」
「お粗末様でした~♪さて、神之介ちゃんお話があるんだけどいいかしら?」
「お?何々~?」
 改まって、オラにそういうライカさん。・・・こりゃアレですか?告白ですか?プロポーズですか?・・・いやぁ、オラにも春が来ましたなぁ~。なんて事を考えていると。
「単刀直入に言います。・・・働けよ」
「またそれですかコノヤロー」
 これほど単刀直入なのってあった?嫌、ないわ~。
「またそれって何ですか!大体、仕事って言ったってボランティアに近いものじゃないですか!ごみ拾いやら、掃除やらなんやら!」
「あのねぇ、ライカさん。それが万事屋の、オラがやってる仕事なの!これで金貰ってんの!んで、これで光熱費やら水道代やら払ってるの。OK?」
 ライカさんの言葉に、オラは反論する。またもや説明となるが、オラがやってる仕事・・・それが何でも屋だ。先ほどライカさんが言ったように、ごみ拾いや掃除は勿論、浮気調査や人探し等など、探偵みたいな事まで『何でもやる』・・・ってのがオラの仕事。あ、幾らなんでもやるとは言え、殺しとかそういった物騒なのはやらないよ。
 だけど、最近後者の方はまったくと言っていいほど無く、前者の依頼だけがオラの所にやってくるのみ・・・まぁ、金とかは入ってくるが、額は少なく、光熱費やら電気代やら家賃やらに消えてしまうのである・・・。ヤンナルネ。
「そんなのお仕事とは言いませんー!いいですか、仕事と言うのは一生懸命コツコツコツコツやってこそ仕事と呼べるんです!第一・・・(長くなりそうなのでカット」
 そういって、オラにくどくどくどくど説教。流石のオラも我慢が出来なくなって、叫ぶ。
「だァァァァァァァァァァァァァァ!もう、うっせーなァ!いいもーんだ、み○もーんた!これからもずーっと未来永劫メシをたかりに来てやるもーんだ!」
「何でそう変な方向に全力なのかなァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!?」
 そんなオラに、呆れ顔でツッコむライカさん。・・・だが、オラは気にしないッ!
「じゃ、もう帰る時間だからそういうことでー」
「あっ、神之介ちゃん!話は終わってませんよ!」
 華麗にスルーして、席を立ち、ドアノブに触れようとする。その時だ、
「ねぇ・・・神之介ちゃん。大学生の頃はちゃんとしてたのに・・・。どうして大学を辞めちゃったの?」
「ッ!」
 ライカさんの真剣な声音にオラは顔をこわばらせその場で動けなくなってしまう。
「・・・オラ・・・は・・・」
 脳裏に浮かんだあの事件の事を振り払いつつ必死に声を振り絞る。ライカさんの視線が痛い・・・。
「・・・ただ単に落ちこぼれただけだゾ。・・・大したことじゃない、良くある事さ。・・・じゃ、おやすみライカさん」
 オラはライカさんの方を振り向き、おちゃらけた表情で答え、逃げるように部屋を出た。・・・ばれてるかもしれないけど・・・。

「ふぅ・・・やっぱりライカさんには頭が上がんないや」
 帰り道歩きながらそう呟く。まぁ、あんな風に言われるだけの心配をしているオラも悪いと言えば悪い・・・。
「だけど、今更真面目に会社員やれるような性格でもないんだよねー。・・・オラも大学を中退してから気が抜けまくってますな」
 そう言って、いつもの角を曲がると、壊れた建物と周囲を調査する警察官の姿があった。
「やれやれ、またブラックロッジの破壊ロボが現れたのか・・・忙しいもんだゾ」
 さしたる興味もなく、そう呟くオラ。・・・まぁ、アーカムじゃあ日常茶飯事。いちいち気にしたらきりがないゾ。
 警察官達の横を通り、オラは自宅であり仕事場である『万事屋しんちゃん』への帰路を急いだ。店の名前がどっかの万事屋と似てるって?こまけぇこたぁいいんだよ。
「おかえリンゴジュースは100%~。・・・っと、お?留守電?」
 自宅に帰り、ふと電話を見てみると留守電が入っていた。母ちゃんからだ。とりあえず再生を。
『神之介、元気にしてるかしら?そっちは上手くいってる?たまには連絡をよこしなさいよね』
 母ちゃん達はこうやってオラの家に定期的に電話を掛けてくる。オラが春日部を飛び出して、アーカムシティのこのアパートに自宅を構えてから3年間・・・ずっとだ。
「・・・こんな体たらくじゃあわせる顔がないゾ」
 ため息をつきながらオラはゴロリとベッド代わりのソファーに横になる。視線を横に向ければ、アーカムの夜景が窓一面に広がっていた。夜空を貫くように聳える摩天楼。眠ることを知らない街。此処、アーカムシティは繁栄の絶頂にある。
 科学の進歩と錬金術の復古は人々の生活を格段に向上させ、様々な分野にビジネスチャンスが生まれ、経済は未だかってないほど潤っているんだゾ。
 それが吉にせよ凶にせよ、有り余るほどの活気がこの街にはある。アーカムシティは紛れもなく現在の世界の中心だゾ。
 人が集まれば賑わいを見せるのは当然だが、治安の悪化というものも当然付いて回る。増え続ける浮浪者にスラム、暴力と新興宗教が道徳を追いやり、幅を利かせている。取り分け最悪と言われるのが『ブラックロッジ』と名乗る過激派カルト教団だゾ。
 魔術師を教祖とする彼らは、実戦こそ魔術の本質と説き、その欲望赴くまま、犯罪に及んでいるんだゾ。この街の凶悪犯罪に分類されるほぼ全てが、何らかの形で彼らに繋がっているのであろうことは間違いない。
 ・・・何にせよ、この街は激動の時を迎えている。大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代。それがこの街、アーカムシティだゾ。富豪も貧民も賢者も愚者も聖人も悪人も老いも若いも子供も大人も男も女も分け隔てなく受け入れ、生かし殺す。
 そんな街だからこそ、オラもこうやって生きることが出来るんだが・・・足りない。何かが致命的なまでに足りない。むなしい、空虚だ。オラが5歳の頃はこんなむなしさは感じていなかった。
 あの時は、本当に色々あった。平行世界の地球に行ったり、戦国時代にタイムスリップしたり、スパイになったり、B級グルメの命運を託されたりと・・・、冒険、冒険、大冒険な出来事がいっぱいあった。そんな出来事も今は過去の事。
「・・・きっと、あの冒険の日々が忘れられないんだろうな。オラって。・・・さてと、もう寝よっと」
 オラは、このむなしさを過去の冒険の日々が忘れられないことだと結論付け、眠りに着いた。

-翌日・・・。

ピンポーン。
「・・・ん?」
 不意にチャイムの音で鳴らされたオラ。一体誰だろうか・・・?家賃とかは払ったし・・・、ひょっとして依頼かな?まあ、どうせ掃除とかそんな依頼だろう。そう思いながら、玄関に向かい、ドアを開ける。
「失礼します。こちらが、万事屋しんちゃんですね?」
 ドアを開けて現れたのは近所のおばちゃんとかじゃない燕尾服姿の男性。上品で優雅なスマートな痩せ型。それでいてひ弱そうではなく、全身から放たれる研ぎ澄まされた空気と、眼鏡の奥に光る鋭い眼光から日本刀のような印象を受ける。
「あ~、はい。そうですが。どういったご用件で?」
「仕事の依頼です」
 聞こえてきたのは男性のではなく、女性の声。それと同時に男性が前を譲るかのように静かに身を引く。
 そこにいたのは、少女だ。男性よりも上品なイメージの少女。整った顔にバランスの良いスタイル、長く纏まった綺麗な黒髪。映画でしか見れなさそうな豪華なドレスはまるで、お姫様を思わせる。・・・年齢は14~15位だろうな。もう少し、年齢が1~2歳ほど上だったら、ナンパしてたかも。
「貴方にこそ相応しい・・・いえ、貴方にしか出来ない事なのですよ?野原神之介さん」
「・・・えーっと、とりあえず立ち話でもなんですし・・・狭い部屋ですけど中に入って話しましょうか」
 2人の男女を部屋に案内し、座らせる。お茶がないので、とりあえず水道水を3つテーブルに置いた。
「自己紹介がまだでしたね、私は覇道瑠璃。そしてこちらは執事のウィンフィールドです」
「どうぞお見知りおきを」
「・・・へ?」
 自己紹介をし、軽く会釈する二人にオラは目をパチクリさせて間の抜けた声を出した。・・・今なんていいました?
 はどう・・・瑠璃?
 はどう・・・?
 覇道!?
「覇道ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!?覇道ってあの覇道!?覇道財閥ぅ!?」
「え、ええ。野原さんの言うとおりです」
 シャウトしながら問いかけるオラに彼女は名刺を手渡す。そこに書かれていたのは・・・、
「覇道財閥総帥 覇道瑠璃」
 と書かれていた。
 ま、ま、ま、マジでかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?あの覇道財閥がオラの所に!?この貧乏万事屋のオラの所に!!!?コレは夢なのか?現実なのか?それを確かめるにはこれしかない。
「ふんぬぅ!!!!」
「え!?ええええええええええええええええええええ!!!?何をやってるんですのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!?」
 机の角に思いっきり頭をぶつける。その際に、女性がツッコミのシャウトをしたが気にしないでおこう。・・・だが、一つ誤算が・・・小さい頃に母ちゃんにゲンコツされまくって、超絶なほどに石頭だったということだ。当然、痛みはやってくる筈もなく、テーブルの角が逆にへこんだ。コレじゃダメだ。
「すんません、そこのひつじさん。オラを思いっきり殴ってください」
「オイィィィィィィィィィィィィィィィ!?何言ってますのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!?後、それを言うならひつじではなく執事ですわッ!!!」
 ひつじさんにオラを殴ってくれるように頼む。再び女性のシャウトが。だが、一向に聞かない。
「分かりました。私でよければ・・・ぬん!」
「ぶげら!?」
 衝撃、激痛。良かった夢じゃないや。あれ?何か首が180度回って・・・あれ?意識が遠のくゾ・・・。
「ウィンフィールド、貴方やりすぎィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

-暫くお待ちください・・・。

「先ほどは取り乱してすんません。・・・でオラの様な万事屋に依頼って?」
 あの後、危うく『野原神之介』としての人生にカーテンコールを下ろしかけたが何とか一命を取りとめ現在に至る。
 あ、あと覇道財閥について説明をしておこうと思う。
 覇道財閥。アーカムシティに暮らしている人たちなら誰でも知っている。世界中のあらゆる分野・業界に通じ、その名を轟かせる正真正銘の大財閥。また、そのすべてに強い発言力を持つ絶対的な支配者。
 そしてこのアーカムシティは、まだ地方の片田舎でしかなかった頃に、財閥の創始者である覇道鋼造による、当時において無謀としか言えない巨額の投資によって、世界でも類を見ないほどの経済発展を遂げたのである。
 つまるところ覇道財閥こそ、この街の実質的な支配者と言っても過言ではないのだゾ。
 ・・・にしても、本当に何で覇道財閥がオラなんかに依頼をしに来たんだろうか?ひょっとして、覇道系列の会社の掃除とかかな?何て事を考えていると。
「先ほど申しましたよね?この依頼は貴方にしか頼めないと。・・・貴方にはあるものを探していただきたいのです」
「ある物?」
 おお、どうやら掃除とかそういったの以外の仕事のようだゾ。何なのかなぁ・・・、期待にドキがむねむねだゾ。
「・・・魔導書です」
「・・・えっ?」
 久々の掃除以外の依頼に炎のごとく燃え上がっていた、やる気が女性の一言で一気にクールダウン。
「貴方に探していただきたいのは本物の魔術師が使うような本物の魔導書なのです!」
 ・・・うん、いったん落ち着こう。クールだ、クールになるんだゾ野原神之介。コレは係わっちゃダメだ・・・キッパリと断るんだ・・・。
「何の事かさっぱり分からないゾ。そんなのはオラに探せっこないでしょ、それにオラにしか探せないって理由にもならない」
 肩をすくめながら白を切ってみると、ひつじさんが、ファイルを開き、割ってはいる。
「野原神之介、春日部高校に卒業後、アメリカにわたりミスカトニック大学に入学するも、2年で中退、記録上の専攻は考古学となっておりますが、事実ではありません」
「ッ!?」
 何故それを!?と言いたげな、オラを見て続ける。
「誠に恐縮ではございますが、失礼を承知で少々調べさせていただきました」
「それと、貴方が学んでいたのは陰秘学。即ち、魔術理論についてですね?」
 ひつじさんから引き継ぐように、女性が言う。
「・・・アンタら、何処まで知ってやがるッ!!!」
 立ち上がり警戒心をむき出しに2人を睨む。
「ミスカトニック大学は陰秘学の存在を公にはしておりません。・・・故に、貴方のような方を探すのは一苦労でした」
 ひつじさんの言うとおり、ミスカトニック大学は、外部の人間には勿論、大学の関係者にすら存在を隠されている学科である。それからオラを割り出すとは・・・覇道財閥恐ろしい・・・。
「魔術を識る者にしか、魔導書は探せない。だから普通の探偵や何でも屋では無理なのです。・・・そう、貴方でなければならない」
「・・・そうは言うけどさ。オラは落ちこぼれだゾ、初歩的な魔術も出来やしないし。・・・第一、オラじゃなくても良いじゃん。オラなんかよりも優秀な人がいっぱいいるゾ。なんならアーミッティジの爺ちゃんに聞いたほうが良いんじゃない?」
 頭をかきながらオラは女性に言い、再び座る。そこへ、ひつじさんが口を挟んだ。
「野原様は、魔導書を閲覧できるクラスになっていた筈ですが」
「おいィ、それ軽くプライバシーの侵害じゃね?」
 汚い、さすが金持ち汚い。・・・と、そんな事はさておき、オラは気になったことを聞いてみた。
「・・・ところで、何で魔導書なんか?あんなのド素人が手を出していいモンじゃないゾ」
 全くもって、覇道財閥と魔導書の接点が分からないからね。女性は顔を伏せ、うつむいた後・・・。
「・・・デモンベイン」
「永遠亭の妖怪兎がどうかしたのか?」
「それ優曇華院んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!私が言ったのはデモンベインですわッ!!!!」
 オラのボケにツッコむ女性。・・・結構ツッコミ上手いな。漫才やったら受けんじゃね?女性は、少し苛立たしげにため息をつくと、デモンベインとやらについて話し出した。
「・・・デモンベインわたくしの祖父が遺した、『ブラックロッジ』に対抗するための手段です。『ブラックロッジ』については詳しく説明する必要はありませんね?」
「まあね」
 頷く。ブラックロッジのやり方は、はっきり言ってテロリストのそれに近いゾ。
「ブラックロッジが破壊活動のために用いる巨大ロボット・・・破壊ロボは、科学と錬金術が生み出した脅威といえます。これだけでも既に、治安警察の対応能力を超えており。加えて彼らブラックロッジの頂点に立つマスターテリオンとその幹部達・・・彼らは魔術師であると言われていますわ。魔術師の恐ろしさについては、野原さんが良く知っているのでは?」
「実際に見たことは無いけど、大体想像はつくゾ」
 事実、破壊ロボより恐ろしいのは魔術師だったりする。先ほど話題に出た、破壊ロボも、治安警察では歯が立たず住民の生活を脅かす存在なのだが・・・。
 それを遥かに凌駕してやばいのが魔術師だ。・・・彼らは表立った行動は全くしておらず謎に包まれているが・・・、彼らに関わって生きて帰ってきたのは誰一人としていない。オラも魔術を齧った身だから理解できる。本物の魔術師は一軍隊に匹敵する力を持っている。
 そんな奴等がもし街で暴れだしたら・・・?というのがアーカムに住む人たちの不安だったりする。
「魔術に勝てるのは魔術のみ・・・、そこでわたくしの祖父であり、覇道財閥創始者でもある覇道鋼造は、彼らへの対抗手段に魔術理論を導入したのです」
「それがデモンベインって訳ですな」
「はい、デモンベインは覇道が持つ技術の粋の結晶。しかし、デモンベインを起動するには魔導書が必要なのです。魔術師が魔導書を用いて魔術を行使するように、魔術理論を組み込んだデモンベインの起動には魔導書が必要なのですよ」
 なるほど、大体分かった。・・・はっきり言って、スケールでけぇ!!!分かったのは良いが、問題はここからだ。オラとて、一市民として協力してあげたい。
 ・・・だけど、オラが大学で落ちこぼれたのは魔導書の内容についていけなかったからだ。・・・難しいとかそうではなく、おぞましかったから。
 魔術の知識を恐れ、逃げてしまったオラに再びその魔術の世界に足を踏み入れるのははっきり言って拷問だゾ・・・。むしろ魔導書に関わりたくない。
「・・・デモンベインは祖父の形見であり、希望なのです。それを私は無駄にはしたくない・・・」
 女性の真摯な瞳がオラを見据える。・・・どないしよ・・・。そう思っていると、
「大変な仕事だとは理解しているつもりです。無論、報酬はそれに見合った額とさせていただきます」
 彼女の言葉と共に、ひつじさんがジュラルミンケースをテーブルに置く。
「依頼料と必要経費です。どうぞお納めください」
 開くとそこにはケース一杯の札束が・・・。思わず、フリーズする。
「もちろん、魔導書を見つけてくださった暁には、さらに成功報酬をお支払いします。引き受けてくださいますか?野原さん」
「・・・ぶっはははははははは!当ったり前だのクラッカーだゾ!オラにまっかせなさい!!!」
 即快諾。彼女と硬い握手を交わし、契約成立。
「ありがとうございます!・・・頑張ってくださいね野原さん」

-そして、彼女等が去ってから・・・。

「ああああああああああああああああああ!!!何で引き受けちゃったのォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!オラってばホント馬鹿ァ!!!」
 引き受けたことを激しく後悔。最後のセリフ言った時に・・・一瞬、青い髪の不幸そうな女の子が一瞬見えたような気がしたが別にそんな事は無かったぜ。
「はぁ~・・・今更、依頼を取り消す訳にはいかねーしなぁ・・・ブツブツ」
-お前、逃げるのか!逃げるなんて許さないゾ!!
 ため息をつきながら、呟くオラの耳に聞き覚えのある声・・・。それは過去の自分が言った言葉。
「・・・また・・・聞こえてきやがる・・・」
 大学を中退してからずっと聞こえるこの声、ある種の呪いのようなものだ。
「・・・ま、とりあえずさっさとこんな事を終わらせよう」
 それを振り払うように、オラは自宅を出るのだった・・・。

 そして、運命は動き出し・・・オラはある魔導書に出会うことになる。

To Be Countenude・・・。 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。とりあえずヒロインの獣の咆哮さんは次回からの登場となります。・・・それとキ○○イのお方も・・・。乞うご期待ッ!
それでは~(0w0)ノシ 
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