少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第91話 大人の話
紘汰はパトロールの空き時間が重なった咲と一緒に、食事のために“ドルーパーズ”に来ていた。
咲はサンドイッチセット、紘汰はナポリタンを注文した。
だが、阪東が運んできたナポリタンを見ても、ちっとも食欲が湧かなかった。
横で、うとうとしつつもサンドイッチにかぶりつく咲を、窺う。
(咲ちゃんの手前、食べないと変に思われるだろうし。でも、本当に何も食べたくない……)
紘汰は困って視線を泳がせた。視線が店の出入口に流れた時、意外な人物と目が合った。
立っていたのは、貴虎とヘキサだった。
「ヘキサ!」
咲はぱっと目を覚まし、カウンターチェアを飛び降りて走り、ヘキサに抱きついた。
「よかった。あれからずっとどうしてるか気になってた」
「わたしも。咲はだいじょうぶかな、ってずっと思ってたわ」
再会を喜び合う少女たちは、見ているだけで微笑ましく、紘汰に活力をくれた。
「葛葉」
貴虎が声を上げた。仕草で「外へ出ろ」と示している。
紘汰はフォークを置いて、店から出ていく貴虎を追いかけた。
…
………
……………
貴虎が紘汰に会いに来た、前日のことである。
行方不明だった呉島貴虎・碧沙の兄妹が帰ってきたとの知らせを受け、湊耀子は腹を据えた。
湊は貴虎に、彼が消えてからの全ての出来事を報告した。自分が偽斬月を演じたことも含めて。ガレージの外で。この話はオトナの領域だから、ガレージの中ですべきではないと思った。
ちなみに、紘汰が連れてきた貴虎は、ガレージのメンバーに紹介されて少しばかり萎縮していた。そして、自然に輪の中に入る碧沙に驚いていた。
「そうか……ユグドラシルは、凌馬に潰されたのか」
「プロフェッサーにとっては、全てが研究のために使い捨てるための駒でしかなかったのでしょう。あなたも――私も」
湊は俯けていた顔を上げ、貴虎をまっすぐ見た。
「恨んでいないのですか。あなたの最愛の妹を取り上げた一人である、私を」
恨まれることを恐れてではなく、ただの確認として、口にした。
「過去の経緯はどうあれ、今は人間同士で争っている場合ではない。力を合わせてオーバーロードに立ち向かうというなら、君もまた、貴重な味方だ。妹がここにいても、同じことを言うだろう」
この兄妹はどこまで己を省みないのだろうか。自ら湊の矢に当たりに行った光実はもちろん、傀儡にされた貴虎も、実験動物扱いした碧沙も。
呉島兄妹の誰も、湊耀子が「見届けたい者」ではない。だが彼ら兄妹が持つのは、きっと紛れもない「強さ」なのだろう。湊は諦念と共にそれを心中で認めた。
「では、オーバーロードに手を貸している人間は……?」
表面上とはいえ、光実はレデュエという翠のオーバーロードと手を組んで事を進めている。それは時に湊らを、人類を、苦しめるほうにも向かわせる。
「――湊。その問いに答える前に、一つ確認したい。お前が私のドライバーとロックシードで変身して葛葉を襲ったというのは、一度だけなんだな?」
「それは……はい。その後すぐ、オーバーロード捕獲に向かいましたから」
貴虎は難しい顔で(いつも難しい顔だったが)考え込むそぶりを見せた。
その思案をあえて聞き出すことを、湊はしなかった。
後書き
我が家の光実は正確に述べると湊と通じているわけではないので、湊も光実の真意は知りません。
ですが貴虎は、自分の偽物を演じたのが湊と光実で1回ずつという点に疑問を持ちました。お兄ちゃんパワーです。
さて、その疑問から貴虎はどんな真実に辿り着くのか?
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