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クピドの贈り物

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1部分:第一章


第一章

                   クピドの贈り物
 アフロディーテーの息子にクピドという神がいた。黄色くふわふわとした神に涼しげな青い目を持つ奇麗な顔の少年の姿をした神であり人の恋を取り持つのがその仕事だった。
 それが仕事であるがいつも他人の恋のことばかり受け持って自分のことは何もなしだった。それに自分でも気付くと急にやりきれない気持ちになったのだった。
 そのことを彼の母親であり主でもあるアフロディーテーに話をしてみた。誰かに話さずにはいられずその相手が他ならぬ母でありしかも愛の女神であったからだ。至極当然の流れであった。
 彼はアフロディーテーの神殿で話をしていた。その奥の女神の部屋において。
「貴方も恋がしたいのね」
 アフロディーテーは波うつ黄金色の髪に琥珀の奥二重の瞳、そしてうっとりするようなまだ幼さの残る顔立ちに服の上からでもはっきりとわかるスタイルを持つ長身の美女であった。白く雪のような肌と薔薇色の唇も持っている。目は少し垂れ気味だが左の目元の泣き黒子が彼女の匂い立つような色香を際立たせていた。
「はい」
 クピドはそのアフロディーテーの問いに答えた。
「僕だって心があります。だから」
「人との恋の取り持ちだけではなく自分も」
「そうです。それは駄目なんですか?」
 じっと母を見詰めて問う。
「僕が恋をしたら」
「いえ」
 女神はその言葉を受け止めた。そのうえでにこりと笑ってきたのであった。
「誰にでも恋をする資格はあります。神であれ人であれ」
「それじゃあ僕も」
「そうです。ですから」
 女神は彼に述べる。優しい声で。
「貴方は一度地上に降りてみるといいです」
「地上に?」
「そうです。そこで恋を探してみなさい」
 そう我が子にアドバイスをするのだった。
「その間は私が貴方のかわりに仕事をしておきますから」
「けれどそれは」
「それから先は言う必要はありませんよ」
 アフロディーテーはまた優しい笑みを浮かべて彼に言うのだった。
「私は愛の女神なのですから。こうしたことなら」
「そうなのですか」
「そうです。ですから安心して」
「わかりました」
 母の言葉にこくりと頷いた。
「じゃあ地上にですね」
「そうです。そこで出会いがあります」
「出会いが」
 クピドはその言葉に顔を上げた。何か希望の言葉を聞いたと思った。
「わかりました。それじゃあ今から」
「お行きなさい。運命に」
 にこりと笑って述べる。そうして彼は地上に降りることになったのであった。恋を取り持つのが仕事であるから地上にも何度も降りていることは降りている。だが今はそれ以上に何か特別な気持ちでその地上を見ていたのである。
「さてと」
 彼は期待に震える顔でその地上の世界を見回す。そこで恋を探していたのだ。
「きっとある筈だ」
 彼はそう言いながら辺りを見回す。
「出会いが」
 その出会いを探して地上を歩き回る。母の言葉を信じてあちらこちらを歩き回るうちにある牧場に辿り着いたのであった。
 そこで一輪の花を見つけた。それは小さな黄色い花であった。
「これは」
「ひなげしよ」
 前から女の子の声がした。
「そのお花はひなげしっていうの」
「そうなんだ」
 クピドはその言葉を聞いてあらためてその花を見た。
「この花が。小さな花だね」
「けれど奇麗な花でしょ」
「うん」
 その声に頷く。
「何て花なのかな」
「ひなぎくっていうの」
「ひなぎく!?」
「ええ。いい名前でしょ」
 ここで女の子が出て来た。見れば紫がかってすら見える奇麗な黒髪に白く透き通った肌、青い湖のような目に紅の唇と整った容姿の少女だった。彼の母親であるアフロディーテーにも比べられる程の美しさを持った少女であった。
「えっ・・・・・・」
 クピドは彼女の姿を見て思わず息を飲んだ。淡い色の服も実に似合っていた。
「君は」
「プシュケーっていうの」
 にこりと笑って澄んだ声で答えてきた。
「ここの牧場の娘だったの」
「そうだったんだ」
 クピドはそれを聞いて何故彼女がここにいるのかわかった。プシュケーはそんな彼にまた尋ねてきた。
 
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