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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第一節 離叛 第四話 (通算第44話)

 シャアとアポリーは機体を《ガンダム》の墜落地点に降下させた。機体は落下地点を中心に対角を保ち、いつでも挟撃できるようにしている。ロベルトを上空に残し、二人を警護させていた。
「所詮は実戦を知らないエリートだな」
「特にティターンズは戦後世代が主流ですからね」
 アポリーは肩を竣ませて答える。
 戦後世代が主流にならざるを得なかったのは、一年戦争による被害――中高年層の激減にあった。それは連邦軍の組織構造を著しく損なわせた。そもそも地球三軍は被災規模が大きかった分、人的被害も甚大であった。壊滅後、再建された宇宙軍も最終決戦で大きく数を減らした上に、戦後の軍縮政策と戦後退役で戦争経験を積んだ俄ベテランさえも減ってしまった。
 地上軍は地球全体を防備するには足りないほどになっており、宇宙軍の防衛ラインに依存し、宇宙軍主導の軍政体質の遠因にもなっている。陸軍は拠点防衛が精一杯であり、海軍もシーレーン防衛はハードウェア頼りで、湾岸警備に留まり、空軍にいたっては拠点防空以外に何もできないほどに縮小してしまっていた。
 地上三軍に比べ宇宙軍は比較的組織の補強がなされたが、中堅層が薄くなった分、若年層や士官学校卒業生の佐官昇進が目立つようになっていた。戦場経験者が中隊の一割以下という新兵部隊などざらである。
 どの軍も、戦後世代は親や親戚のコネクションによる配属や昇進が多く、能力よりも血統や派閥人事による任官が横行していた。叩き上げの多いジオン共和国軍からすると、歪な組織である。
 シャアがセンサーの示す二機の《ガンダム》と三機の《クゥエル》の光点を確認する。狙うのは墜落した機体の方と決めて、二人に指示を出した。
「〈フォレスト〉は増援の牽制を。〈スターシャーク〉は回り込んで《ガンダム》を追い詰めるぞ!」
「諒解」
「精々派手に遊んでやりますよ」
 シャアが呼んだ二人のタックネームは昔のものだ。実は共和国軍に復帰した際に新しいタックネームを付けたのだが、シャアが馴染まなかったのである。その内に、旧いタックネームに皆が馴染んでしまった。
 圧倒的不利な状況にもかかわらず、二人には余裕さえ感じられた。いざとなれば逃げ切る自信があるのだ。今はその余裕が頼もしかった。ベテランパイロットである二人となら、この任務を果たせると睨んだシャアの慧眼とも言える。
 三対五。
 絶対数の差は増える可能性の方が大きく、減らすのは骨の折れることであった。だが絶望的数字ではない。だがこれ以上のハンデがつかぬ内に、早く任務を果たしてしまう必要があった。
 眼下にあるのは瓦礫にまみれた庁舎である。半壊した建物に黒い《ガンダム》が仰向けに倒れていた。かなり埋もれており、無理に引きずり出せば、大破とはいわないが、中破しそうな程である。
「大尉、どうします?」
 アポリーがシャアに訊ねた時、《ガンダム》が視界に入った。さすがに発砲はしてこないものの、牽制していることは明らかだ。肩には《03》のナンバリングが施されていた。
「それ以上近づくな!近づけば撃破するぞ!」
 拡声器を使ったのだろう。まるでMSが喋ったようであった。《03》が、シャアに狙いを定めてビームライフルを構えている。
「ちっ!」
 シャアが短く舌打ちした。虚を突かれたことは事実である。アポリーにはシャアの苛立ちが解った。このパイロットは本気だ。目の前で新型を滷獲されないためには仲間の命さえ必要な犠牲だと思っているのだ。
「では、君は我々が撤退するのを追撃しないと約束できるか?」
 シャアは動こうとするアポリーを制して無線で語り掛けた。《リックディアス》には拡声器などという地上用の装備はない。このことからも《ガンダム》が再び汎用機として新世代の総ての機体の祖となるべく設計されたことが解る。ジオンは必要な機体を必要に応じて設計していくのに対して、連邦は次の世代を睨んで試作を行う。
――国家の体制の違いと言えばそれまでだが、学ぶべき点ではあるな……。
 シャアの問いに対して敵は返答を躊躇している。上官と連絡をつけているのかも知れない。そう考えたその時――もう一機の黒い《ガンダム》が《03》にタックルした。
「そこの赤いモビルスーツ!」
 派手な砂煙を挙げて二機のMSが縺れ合う。下敷きになったのは新たに出現した《ガンダム》の方だった。予想外の展開にシャアもアポリーもティターンズのパイロットさえも呆気にとられていた。唯一、黒い《ガンダム》のパイロットだけが正気を保っていた。
 起き上がった機体には《01》と描かれている。その《01》が僚機である《03》にビームライフルの銃口を突きつけていた。
「エゥーゴなら味方する!」
 若い、まだ青年になりきっていない若者の声だ。シャアはここで明かしていいかどうかの許可を得てはいなかったが、エゥーゴの仕業であるという事実の証をつくるのは悪くないと考えた。
「助かる。では、《03》のパイロットには降りていただこう」
「エマ・シーン?何の冗談だ」
 シャアにビームライフルを突き付けられた《02》のパイロットが《03》のパイロットに語り掛けた。
「カクリコン中尉、申し訳ありませんが、自分はエマ・シーン少尉ではありません」
「貴様っ!エマをどうしたっ!」
《03》のパイロットは、銃口をコクピットに寄せる仕草で降りろと促した。 
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