雲は遠くて
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17章 世田谷区たまがわ花火大会 (7)
17章 世田谷区たまがわ花火大会 (7)
5時30分になった。天気も、夏らしく、暑い。
都立の深沢高校の、
和太鼓部の演奏が、
大空や、会場の芝生の運動場に
「ドドドドーン!ダダダダダッ!」と
大反響する。
オープニング・セレモニー(式典)は、
開始された。
森川純の兄の、森川良と、
ポップス・シンガーの白石愛美が、
定員4人の、まるいテーブルで、
オープニング・セレモニーに、すっかり、見入っている。
白石愛美は、今年の4月で、20歳。
雑誌やテレビなどのマスコミで、日本の、マライア・キャリー
といわれているほど、
知名度も、急上昇中だった。
その、抜群の、歌唱力や、歌声を持つ、
白石愛美を
見つけて、育ててきたのは、
モリカワ・ミュージック・課長をしている、
森川良といえるかもしれない。
モリカワ・ミュージックでは、デモテープや、ライブハウスなどで、
日々、新人の発掘に、力を入れている。
ポップス・シンガーの白石愛美や、
ピアニスト・松下陽斗は、
モリカワの全店と、モリカワ・ミュージックが、
全面的支援している、
有望な、新人・アーチストだった。
森川良に、はじめて、会ったときは、
髪も、
ぼさぼさで、あまり、ぱっとしない、第一印象
だけしか、
頭の中に残らない、白石愛美であった。
白石愛美が、森川良に、
頼もしさや、男らしさや、
特別な愛情を抱くようになるまでは、
時間はかからなかった。
いまでは、ふたりは、同じ目標に向かって、
燃えている、同志であり、
仕事にも、恋にも、激しく、燃えている、
最愛の、
恋人同士であった。
「花火って、一瞬だから、儚くって、
考えていると、哀しくなるくらいだわ。
でも、儚くって、一瞬だから、
美しいのかしら?」
白石愛美は、キラキラと、
瞳を、輝かせて、
微笑むと、
森川良に、
そんな問いかけをする。
「美しいものは、一瞬だろうし、永遠なんだろう、きっと。
こういう、深遠なことは、
論理的に考えてたりするのは、バカな話さ。
詩的に、感覚的に、
解決する問題さ。
空があるように、地面があるように。
夜があるように、朝が来るように。
だから、一瞬もあるし、永遠もあるってね。
愛美ちゃんの、美しい歌声を、
何度も、永遠のように、
再現できて、楽しめるなんていうのは、
よく考えたら、
奇跡的なことなんじゃないかな!?
おれ、そんなことに、すっげえ、幸福、感じるよ。
あっはっはは」
森川良は、そういいながら、
やさしい声で、わらった。
そして、白石愛美の手を、握った。
「ありがとう。良ちゃん。わたし、いまの言葉、
とても、うれしい・・・」
言葉に詰まった、
白石愛美の頬に、
きれいな、涙が、ひかった。
夜の7時。
グランドオープン・・・の、開始だった。
ドーン、ドーン、ドーン!
バチ、バチ、バチ!
花火の、オープニングを飾る、
連発仕掛花火の、
スター・マインが打ち上がった。
何十発もの、花火玉が、
テンポもよく、つぎつぎと、
打ち上げられて、夜空に、色あざやかに、
花が咲いては、消えていく。
夜の7時55分。
グランド・フィナーレ(最後の幕)の、
クライマックス、最高潮。
都内でも、屈指の規模を誇る、
8号の花火玉の、100連発が、
次々と、打ち上げられる。
時が、止まったように、夜空が、
大輪の花たちで、明るく染まる。
連発仕掛花火の、
スターマインが、打ち上がって、
金色や銀色に、キラキラと、光輝く。
滝の流れのような、空中の、
ナイアガラが、
夜空に、出現する。
夜の8時には、およそ、6500発の花火が、すべて全部、
打ち上げられて、全プログラムは終了した。
≪つづく≫
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