歳の差なんて
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第二章
第二章
「あの人もね」
「ええ、だから観ているんです」
「私はあのドラマはね」
煙草をまた咥えて左手はテーブルに肘をついてその手の平を頬にかけて話している。
「録画なのよ」
「あのドラマをですか」
「あれもいいけれどね。やっぱりまず観るのは」
「あの韓流ドラマですか」
「主役がいいのよ」
ここで濃いアイシャドーの目を細めさせてみせる。
「主役がね。あの子が」
「あの子が」
「うちの旦那の若い頃そっくりなのよ」
こう言って微笑むのだった。
「これがね。だからなのよ」
「そんなにそっくりなんですか」
「若い頃よ」
一応はこう言って否定はしていた。
「今なんてね。髪の毛は薄くなって太っちゃって」
「はあ」
「それでも。心は若い時のままのところがあるのよ」
おのろけも入っていた。
「だからまだ許せるけれどね。それでもまあ」
「あの子がそんなにそっくりなんですか」
「もう完全にね。最初思わず自分の横にいる旦那と見比べたわよ」
言葉は完全に本気のものだった。
「何で韓国のドラマにいるのかしらってね」
「そんなに」
「けれど。まああれね」
おばさんはここで冷静な顔を見せてきた。
「ほら、韓国のドラマって」
「ええ」
美香のおばさんのその話を聞く。
「あれじゃない?話が有り得ないわよね」
「まあ何か常識外れなところが多いですよね」
「それに韓流スターのファッションだけれど」
おばさんはそこにもチェックを入れているのだった。丁度机の下にあった韓流雑誌を取り出して開いてみせてきた。そこに映っていたのは。
「この人なんかねえ」
「この人ですか」
「昔のジャニーズのタレントにそっくりなのよ」
こう美香に言うのだった。見ればシャツを一応粋に着こなし髪はオールバックにしている。少し面長で涼しげな微笑みをこちらに見せてきている。
「もう完全にね」
「そうなんですか」
「この人なんかは」
別の俳優を指差す。ワイルドに黒い皮ジャンを着ている。髪は立たせている。
「子供と一緒に観た特撮スターにそっくりね」
「今度は特撮スターですか」
「もう瓜二つなのよ」
こうまで言う。
「最初正義の味方から韓国に移住したのかって思った位でね」
「この人もなんですね」
「皆本当にあれじゃない」
女優のページもめくりながら話を続ける。
「日本の俳優とファッションが同じよね」
「見れば皆確かにそうですね」
美香から見てもそうとしか思えない程度であった。そこまで似ているのであった。もうそれは否定できないレベルにまで達していた。
「どの人を見ても」
「完全にね。真似てるわよね」
「はい」
写真を覗き込むようにしながら見つつおばさんに答える。
「やっぱり」
「それがまた面白いのよ」
「面白いですか」
「ええ、何かね」
くすりと笑って美香に話すおばさんだった。
「日本と同じなんだって思ってね」
「そうですか」
「美香ちゃんはどうして韓流ドラマ観るの?」
おばさんはここで美香の顔を見て彼女に尋ねてきた。
「それはどうしてなの?」
「どうしてって言われると」
返答に少し困る美香だった。大きな目を二、三回しばたかせる。
「まああれです」
「あれって?」
「昔の大映ドラマとかあったじゃないですか」
「また随分と懐かしいもの出して来たわね」
おばさんにとっては意外な展開だった。
「昔随分観たけれどね」
「あれ、レンタルで借りて観ていたんです」
美香もかなりコアなところがある。
「色々と」
「色々とねえ」
「はい、だから知ってるんですけれど」
「それでもよく借りたわね」
ある意味感心しているといったふうのおばさんだった。
「あんな風変わりなの」
「まあ凄い展開なのは確かですね」
「昔は特にそうは思わなかったけれどね」
あくまでその時は、である。今は違うと言外で言っている。
「それでも今考えるとやっぱりね」
「そうなりますか」
「なるわ。まあ似ているって言えば似ているね」
ここまで話したうえで美香の意見に頷くおばさんだった。
「韓流ドラマと大映ドラマってね。破天荒なところが」
「そうですよね、やっぱり」
「あの破天荒もそれを考えると」
また煙草を口に含んで述べる。
「そんなに悪いものじゃないわね」
「そうですよね。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「会社終わったら本屋さん行って来ます」
「本屋さんに?」
「この雑誌ですけれど」
指差したのは丁度今おばさんが開いていたその韓流雑誌である。
「面白そうですね。買ってみたくなりました」
「あら、そうなの」
「テレビ雑誌は一応チェックしていますけれど」
ドラマファンとして実にまめであった。
「それでも韓流は雑誌ではノーチェックだったんで」
「そうだったの」
「ネットではしていますよ」
そこではしているのだった。やはり細かい。
「それでも雑誌ではまだでしたから」
「そうね。買って損はないわ」
「はい、それじゃあ早速」
「それにしても美香ちゃんが韓流ドラマも観てるなんてね」
「意外でした?」
「別に意外ではないわ」
それは否定しなかった。
「けれど。それよりもね」
「それよりも?」
「他にも色々なテレビ雑誌買ってない?」
こう彼女に言うのだった。
「前見たけれど」
「特撮雑誌なんかも買ってます」
このこともおばさんに話す美香だった。
「実は」
「特撮雑誌もなのね」
「はい。さっきお話しましたけれど」
笑顔でおばさんに話す。
「あれでいいんですよ。これが結構」
「特撮の俳優さんも皆格好いいからね」
「あっ、やっぱりチェックされていますか」
「勿論よ」
楽しげに笑って美香に答える。もう煙草はなくなっており雑誌を開いたままで美香と話をしている。ごくくつろいだ休み時間を過ごしていると言えた。
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