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歳の差なんて

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第一章


第一章

                   歳の差なんて
「やっと高校卒業したわね」
 新川美香は親友と言ってもいい別府奈緒の言葉に笑顔で応えていた。ブレザー姿の二人はそれぞれの手に卒業証書を入れた黒い筒を持っている。
「長いようで短い高校生活だったけれどね」
「ええ」
 美香は小柄な身体で茶色い髪をポニーテールにさせていた。目はぱっちりとしていて童顔だ。そのうえ声も高く高校生というよりは中学生に見えた。奈緒は割かし背が高く美香と比べると十五センチは違っていた。黒のショートヘアでアーモンド型の吊り目である。何処か狐に似ているが顔は丸い方だ。
「それでも。終わったのね」
「ねえ美香」
 奈緒は笑顔で美香に声をかけてきた。
「あんた就職だったわね」
「ええ、そうよ」
 奈緒の問いにすぐに答えた。
「地元の会社のね。事務よ」
「そうだったわね、確か」
「私は進学だけれどね」
「大学だったわよね」
「ええ、八条大学」
 大学の名前も述べた。
「地元って言えば地元ね」
「そうね。通えるし」
「教育学部よ」
 笑顔で学科についても述べるのだった。
「そこで四年間みっちりね」
「お酒飲むのね」
「ちょっと、それは今でもじゃない」
「ふふふ、そうね」
 酒の話が出たところで笑顔になる。しかも二人共だった。
「じゃあこれが終わったら皆でね」
「カラオケで打ち上げね」
 奈緒は美香の言葉にその笑顔で応えた。
「そこでカルーアミルクもなのね」
「そうね。あれ飲み易いし」
「お店は何処にするの?」
「スタープラチナがいいんじゃないの?」
 美香は少し考えてから奈緒に答えた。
「あそこが一番機種も揃ってるしお酒も食べ物も美味しいし」
「そうね。ただ店員さんが」
 しかしここで美香は少し難しい顔になるのだった。
「あの女の子。時々不機嫌になってたわよね」
「時々っていうか不機嫌の方が多いわよ」
 奈緒はこう美香に返す。
「特に大体?一学期から二学期の中頃までね」
「そうね。何でかしら」
「九時から十時辺りになったら特に」
「あとあのお店前から思っていたけれど」
 美香はその店についても言う。
「あれじゃない?野球グッズ置いてあるし」
「星やらそんなので飾ってるしね」
「変って言えば変よね」
「居酒屋の名前もね。何か」
「大魔神ねえ」
 美香はどうもこの名前が好きになれないのだった。今度は眉を顰めさせている。
「特撮みたいな名前よね」
「あそこのお店って特撮マニアなのかしら」
「さあ」
 二人は大魔神が誰なのかよく知らない。
「どうなのかしらね、そこは」
「意味不明ね」
「そうよね、全く」
「何が何だか」
「まあそれでも」
 美香はここで笑顔になって述べた。
「あそこ美味しいのよね」
「そうそう、特に」
 食べ物の話になると奈緒も乗ってきた。彼女も美香と同じ笑顔になっている。
「夏はお刺身に冷奴、冬はお鍋」
「まだお鍋いけるわよね」
「ええ、まだまだね」
 どうやら鍋物が好きらしくさらに明るい笑顔になる奈緒だった。
「いけるわよ。じゃあ大魔神に行く?」
「そうね。何頼もうかしら」
「飲み放題でそれで鴨鍋」
 奈緒の提案はこれであった。
「これでどうかしら」
「悪くないわね。いえ、むしろ」 
 笑みで考える顔と声であった。
「かなりいいわね。それで締めは」
「決まってるじゃない。雑炊」
「そうね。じゃあ早速」
「大魔神ね。着替えて行きましょう」
「ええ」
 こうして二人は笑顔で卒業祝いの御馳走と美酒を楽しんだ。二人して日本酒をこれでもかという程度しこたまに飲み次の日は二日酔いだった。その二日酔いも心地よい思い出として美香は就職、奈緒は大学だった。美香が就職したのは地元の企業の事務だった。彼女の言葉通りだった。
 地味なOLの制服に身を包み。時間通りに出社して机で書類の整理や計算をしてお昼御飯を食べて休んでからまた仕事だ。時々残業がある。そうしたごく普通のOLとしての生活を可もなく不可もなく過ごしていた。本当に何事も可もなく不可もなくだった。 
 人間関係においてもそれは同じだった。明るく要領のいいところのある彼女はこれといって嫌われてはいなかった。皆の中にも自然に溶け込んでいた。
「昨日のドラマだけれどね」
「あっ、あの韓国のやつですよね」
「そう、それそれ」
 化粧の濃い中年のパートのおばさんが美香の言葉に笑顔になる。
「あれ面白いでしょ」
「はい、いつも録画で観ています」
「録画なの」
「まずは同じ時間のフジのドラマ観て」
「フジ!?ああ、あれね」
 おばさんは美香の言葉からあることを思い出して納得した顔になる。白く半分プレハブみたいな造りの休憩室で皆それぞれ休んでいる。自動販売機の紙コップのコーヒーや紅茶を飲んだり煙草を吸っていたりする。おばさんは煙草を吸い彼女の向かい側にいる美香は紙コップの紅茶を両手に持っていた。そうした状況で話をしているのだった。
「あの人が出ている」
「そう、あの人です」
 あの人だけで話をするのがおばさんだが美香はそれに見事に合わせていた。その辺りの要領が実に見事であると言えるのだった。
「あの人好きで」
「格好いいわよね」
 おばさんは目の前の灰皿に煙草の灰を落としながら笑顔で述べる。
 
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