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SAO Regain the days where we lost

作者:マインド
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――Encounter――

 ソードアート・オンライン。

 それが、世界初のVRMMOの名を冠した、デスゲームの名前だった。

 舞台は鋼鉄の浮遊城アインクラッド。全百層からなるそれの最上階を突破するその時まで、SAOにとらわれたプレイヤーが脱出することはできない。

 ゲーム内でHPがゼロになったプレイヤーは、現実世界でも等しく死亡する。現実世界で、ゲームハードであると同時に茨の冠でもある《ナーヴギア》を取り外そうとすれば、その場合も装着者は死亡する。

 クリア条件はたった一つだけ。前述のとおり、アインクラッド最上階たる第百層に待つ最終ボスを撃破することのみ。

 絶望的な未来を前に、とらわれた一万近くのプレイヤーたちは大きく四つのグループに分かれた。

 一つ目は、外界から何らかの救助策がもたらされると信じて疑わなかったものたち。

 二つ目は、皆で協力し合って攻略を進めようとした者たち。

 三つ目は、自分自身の強化のためだけに、たった一人で戦う者たち。

 そして四つ目は―――――

 現実に目をそむけ、悪の道へと堕落した者たち―――――。


 ***


 アインクラッドのどの層にも、大体スラム街と呼ばれるエリアが存在する。

 SAOにおいて、犯罪を犯したプレイヤーのカーソルは、本来の緑からオレンジへと変更される。これをとって、犯罪者のことを『オレンジプレイヤー』と呼ぶのだ。

 オレンジプレイヤーにはいろいろな束縛が課せられる。安全圏たる《圏内》には入ることができない(入ろうとすると鬼のように強いガーディアンNPCが大挙して押し寄せ、すぐにプレイヤーを《圏外》へと押し返してしまう)し、犯罪者プレイヤーを取り締まるギルドなどには目をつけられてしまう。

 そんな犯罪者たちにも、SAOシステムは公平を貫いている。

 さまざまな枷を与えつつも、犯罪者プレイヤーが生きていけるように《準圏内》とでもいうべきエリアがきちんとSAOには存在するのだ。

 それが《圏外村》。《圏内》と違って、《犯罪防止(アンチクリミナル)コード》はないため、内部で攻撃をしかければカーソルの色は変わるし、相手のHPにダメージを与えてしまう。

 だがそれでも、この《圏外村》のエリア内にはよほどのことがない限りモンスターも入ってこないし、NPCも住んでいる。アイテムの売買すら可能だ。

 
 そんな《圏外村》の一つが、ここ、アインクラッド二十七層にある。


 アインクラッド二十七層は夜の精霊の町という設定だ。そのため、階層中が暗い夜のとばりに覆われている。

 夜の気配にまぎれ、今日もオレンジプレイヤーたちがその圏外村に集まる。

 その村は、オレンジプレイヤーたちの闇オークションのためのたまり場として重宝されていた。

 今日も略奪した商品をもって、犯罪者たちが集う。

「回復結晶三つ!二千コルからだ!!」
「ドロップアイテムのナイフ!!五千コルからで譲ってやるよ!」

 いくつもの闇市場でオレンジプレイヤーたちがにぎわっている。そんな中を、一人のプレイヤーが進んでいた。

 フードをかぶったプレイヤーだった。体つきからして男性プレイヤーだろう。目深にかぶったフードから、時折のぞく目には、鋭い光が宿っている。

 彼の名はジーク。《龍殺し》の名で呼ばれる強力なPK……プレイヤーキラー、SAOで言うところのレッドプレイヤーだ。

 大規模なギルドパーティーをねらって惨殺し、アイテムを稼ぐ。SAOには殺人によって経験値を得るシステムはないが、ごくまれに《エクストラボーナス》として経験値を得ることができる場合がある。

 血祭りに上げたプレイヤーの数は単身では最高クラスの八十超。これほどまでの大量虐殺の経験があるのは、レッドギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》リーダー、Pohくらいだろう。事実、ジークの犯した殺人の多くは、ラフコフによる仕業だと思われている。


 さて、そんなジークがこの圏外村に立ち寄った理由は、突き詰めて言えば「何もない」だろう。彼は本当にただの気まぐれでこの圏外村にやってきた。煩雑な町の雰囲気は、時折張りつめた心に癒しを与えてくれる。

 にぎわう闇市を歩いていくと、ひときわ人々が集まっているところがあった。

 見物客の一人に馴染みの顔を見つけ、声をかける。

「これは……なんだ?」
「おう、《龍殺し》のか。……《魔女裁判》だとよ。『不当なチートを使ってる』って言われた女性プレイヤーを、時折こうして暴行して、ストレスを発散する奴らがいるんだよ。見てる方もストレス発散になるらしくてよ。なかなか消えない」

 むっと眉をひそめる。

 今のSAOで『チートを使用する』ことは不可能に近い。ならばこれはただの一方的な暴行ではないか?

「……この《魔女裁判》のせいで気が狂っちまった奴もいるぜ。今の奴もかれこれ一時間はヤられ続けてるんじゃねぇか……」
「――――助けようとは、思わないのか」
「よせよ。俺たちゃ非常なオレンジプレイヤーだぜ?」
「……」

 密集した野次馬の間から、《刑場》を見る。

 ジークと大して年も変わらないだろう少女が、オレンジカーソルのプレイヤー達数人に犯されていた。少女の眼からはすでに光が消え去っている。

「……なぁ、《龍殺し》」
「なんだ」
「……お前、助けようとか思ってるんじゃないだろうな」
「なぜそう思った」

 すると馴染みのオレンジプレイヤーは苦笑して、

「お前の顔だよ。その表情をしてる時のお前は、《龍殺し》のジークじゃなくて、在りし日の《竜騎士》ジークにしか見えねぇんだよ」
「――――!」

 ジークは息を詰める。

「――――っその名を呼ぶな!!」

 踵を返して去って行くジークを、オレンジプレイヤーはただ見つめるのみだった。 
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