計画的偶然
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第一章
第一章
計画的偶然
会ったのは偶然だった。それはとりあえず偶然であった。
「嘘・・・・・・」
「どうしたの?」
「あの人、凄く奇麗」
遠山知美はまずこうクラスメイトに述べた。
「あの人って?」
「ほら、あの人」
また言う。
「あの人いいわよね」
「そうね」
クラスメイトもその言葉に頷く。とはいっても往来の真ん中だったのでそれは大人し目にしてある。しかし知美は今にもはしゃぎそうな感じだ。その垂れ気味で大きな目にふっくらとした頬を思い切りにこにことさせている。黒く長い髪が後ろで彼女の動きと共に飛び跳ねそうだ。
「それはいいとして知美」
「何?」
「ここは道の真ん中よ」
そこを彼女に告げる。しかも二人は制服だ。高校のセーラー服姿だ。今では少数派になったセーラー服である。少なくとも高校ではあまり見られなくなった服だ。
「そこで騒いだら」
「あっ、御免なさい」
知美の方もクラスメイトの波江に言われて大人しくなった。波江は垂れ目の知美とは違いはっきりとした目で肌が日焼けして髪の毛も茶色だ。かなり前に多かった所謂ガングロに似ているがこれは元々なのでそうではない。しかしそれでも知美の白い肌とはかなり対象的ではあった。
「それじゃあ」
「あの学校の制服は見たことがあるわ」
波江は知美が静かになったところで言ってみせた。
「あるの」
「あれは樫葉高校の制服ね」
「樫葉高校なの」
「青い詰襟」
しかもコバルトブルーだ。嫌でも目立つ。
「そんな制服の学校ってそこしかないじゃない」
「そうなんだ」
「そうなんだって知ってるでしょ!?」
呆れた顔で知美を見て問う。だがここでまた往来なのを思い出してそっと囁くのだった。
「場所、変えましょう」
「じゃあマグドで」
「いいわ、じゃあそこでね」
丁度すぐ側にマクドナルドがあったのでそこに入った。マクドナルドの窓際の席で二人共同じマックシェイクを飲みながら向かい合って座って話をするのであった。
「あんた、絶対見てる筈よ」
まずは波江が話の口火を切ってきた。
「そうかなあ」
「そうかなあって」
首を傾げる知美に対して顔を顰めさせてまた言った。
「この前合コンしたじゃない。忘れたの?」
「ええと」
「忘れたことにしてるのね」
実は知美は天然である。しかしだ。ここにその天然に大きな問題がある。波江はそれを察知しているのであえて言ったのである。
「あっきれた。いつもいつも」
「それで何なの?」
「それでね」
呆れながらも知美の話に乗るのであった。何だかんだで波江も人がいいと言えた。
「この前の合コンで。ああ」
ここで波江はあることを思い出した。それを思い出して自分で納得して頷いてから述べた。
「よく考えたら仕方ないわね」
「合コンって普通は」
「そうよ、制服ではしないわ」
それはまず有り得ない。私服を決めて参加するのが常識である。言った側から気付いた波江が迂闊であった。
「御免なさい。そうだったわね」
「ところでさっきの人だけれど」
知美は少し強引に話を戻してきた。波江もそれに乗る。
「樫葉高校なのよね」
「そうよ」
波江は知美のその言葉に頷いてみせた。それは間違いなのだ。
「確実よ。今あたし達が飲んでいるのがマックシェイクなのと同じ位確実よ」
「わかったわ。それじゃあ」
おっとりとした感じでその言葉に頷いてみせた。
「話はわかったわ」
「わかったってあんた」
怪訝な顔で知美を見てから彼女に問うた。
「一体何考えてるのよ」
「何も」
垂れ目がさらに垂れる。それだけを見ればあどけなく見えた。
「わかったわ。とにかくね」
「そうなの。とにかくわかったのね」
「うん」
今度の返事は少ししっかりとしたものであった。
「そういうことだから。確か樫葉高校だったら」
「ええと。そういえばね」
波江も頭の中で己の頭の中のデータを検索しだした。その結果頭の中からあるものが幾つか弾き出されたのであった。
「あたし達の中学校からは」
「通ってる子がかなりいるわよね」
「そうだったわよね」
実はこの二人は小学校から一緒なのだ。所謂幼馴染みであり親友同士というわけだ。だからお互いのことが非常によくわかっているのである。だから波江も知美が今何を考えているのかはわかっている。わかっていて一緒にいるのだ。
「それだけよ」
「それだけなのね」
「あの人の顔はもうわかったから」
また言うのだった。
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