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ミッション=トラップ

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第二章


第二章

「第一俺は声をかけるなんて言ってないだろ。彼女だってな」
「度胸がないな。見ていて少しイライラしてきたぞ」
「御前は、だろ。俺はだな」
 ちらりと後ろを振り向く。それはたまたまだった。そこへ偶然突風が吹いた。すると。
「きゃっ」
 それで後ろの女の子達のスカートがめくれた。ボブの女の子の中は見えはしなかったがチ小柄な女の子のそれは見えた。スカートの中は意外だった。
「きゃっ」
「瑠璃、大丈夫!?」
 その小柄な女の子がスカートを押さえたのを見てボブの女の子が声をかけていた。
「え、ええ」
 瑠璃と呼ばれた少女はボブの女の子に応える。
「何とか」
「おい」
 その会話を見て彰は信次に声をかけてきた。
「前向け。何気なく前を歩け」
「あ、ああ」
 彼はそれに頷く。頷いて言われた通りにする。言われた通り何気なく前を歩く。彰もそれに合わせてきた。そのまま一旦二人から離れる。
「おい浜崎」
 信次が彼に声をかけてきた。
「黒だったぞ」
「黒?」
「だからスカートの中がだよ」
 彼はそう答える。
「あんな清純な顔してよ。嘘だろ」
「そういえばそうだったな」
 彰はその言葉を聞いて思い出したような顔になった。そして実際に何かを思い出していた。
「あの学校キリスト教の学校だろ?」
「ああ、そうだったな」
 その言葉に答える。あまり意識はしていなかったがそれは信次も聞いたことがある。
「それでだ。校則が半端じゃなく厳しくてな」
「下着もかよ」
「そう、下着もだ」
 彰は言う。
「どんな下着かも細かく決められているらしいな」
「またそりゃ徹底してるな」
 今時珍しい話だ。なお信次達は殆ど全員銘々派手な柄のトランクスである。信次のお気に入りは赤いトランクスである。
「それも黒か茶色だ」
「黒をか!?」
「そうだ、黒だ」
 彰は言う。
「黒い下着って。高校生だろ!?それでどうして」
「それは決めた奴に聞け。俺もその理由はわからん」
「ああ。しかしなあ」
 信次は首を傾げながら述べる。
「あんな可愛い娘がねえ」
「意外みたいだな」
「意外なんてもんじゃねえよ」
 そう言葉を返す。
「あんなこと有り得るかよ」
「しかし実際に見たんだろ?じゃあ本当のことだ」
「有り得ねえよ」
 首を少し横に振って述べる。しかしそれがやけに心に残った。
 それからあの娘のことがやけに気になりはじめた。顔もそうだがショーツが特にだった。寝ても醒めても考えるようになり自分でも困りはじめた。思い詰めた顔になってきたので友人達にもそれを言われるようになった。
「おい、最近おかしいな」
 最初にそれを言ってきたのは聯であった。教室で彼の席にやって来て言う。
「どうしたんだ?」
「ああ、ちょっとな」
「彼女でもできたか?」
 修一もやって来て彼に声をかける。生樹も来ていた。
「何なら占ってみるか?」
「いや、別にいいけれどよ」
 そう皆に返す。しかしどうにも浮かない顔をしたままであった。
「それは」
「そうか。しかしな」
 生樹は彼の顔を見て言う。
「面白いことになりそうだぞ」
「面白い?」
「そうだ、顔を見ているとな」
「顔相か」
 聯はそれを聞いて述べる。
「そうだ。御前は一つのことに捉われている」
「うっ」
「女の子の下着姿でも見たんじゃないのか?」
「な、何言うんだよ」
「図星か」
 修一はヤマをかけたがそれが図星だったと知ってニヤリと笑ってきた。
「これはまた」
「それで相手は誰なんだ?」
 聯が彼に問う。信次の後ろに立っている。
「それはちょっと」
「よかったら言ってみろ」
「いや、それでもよ」
「清心だ」
 ここで彰がやって来て言った。
「おい、浜崎」
「いいだろ?隠しても何にもならない」
「けれどよ」
「清心かよ。これはまた」
 修一はそれを聞いて目を丸くさせていた。見れば聯も生樹も同じ顔をしている。
「あのお嬢様学校に。それに御前が」
「誰か好きになって駄目なのかよ。っていうかよ」
 信次は修一のその言葉に対して言い返す。口が少し尖っていた。
「どうすりゃいいんだ」
「簡単な話だな」
 聯がまた後ろから言ってきた。
「言うしかないだろ」
「言うしかないっていうと」
「アタックしかないな」
 彰がそう述べてきた。
「俺だったらそうするな」
「御前とは違うよ」
 信次は彼に言葉を返す。
「そんなことできるかよ」
「いや、悪くはないな」
 しかし生樹は彰のその言葉に賛成してきた。
「見たところ御前恋愛運開けてるからな、最近」
「俺の顔にそう描いてあるのか?」
「そうだ」
 はっきりと答える。淡々とした口調だがそこには確固たる自信があった。
「前に進めばいい。それも一直線にな」
「そうだな。浜崎の言う通りだ」
「いいんじゃねえの?それで」
 聯と修一も賛成してきた。
「やってみろよ」
「ふられたらその時はその時だ」
 二人はまた言う。これは結構無責任な言葉であった。
「やってみろ。駄目で元々だと思ってな」
「勝手なこと言ってくれるなよな、御前等」
 仲間達のそれぞれの言葉にそうは言っても実は悪い気はしていない。彼はかなり単純明快な男なのでそれに乗ってきたのだ。しかしそれをすぐに実行に移すとはさしもの聯達も想像してはいなかった。
「なあ」
 修一は今清心女子学園の正門の前にいた。正門の前の喫茶店の壁に隠れて正門を覗き見ている。他の三人も一緒だ。壁から顔を出して四人縦に並んでいた。
「本当にすぐに動くとはな」
「あの直情的な馬鹿は凄いよな」
 修一は彼のすぐ下にいる。そこから述べる。
「だが運勢は確かだ」
「後はあいつ次第ってわけだな」
 生樹と彰も縦に並んでいる。それはまるで団子のようであった。周りから結構怪しまれているがそれには気付いていない。
 当然ながら信次本人は彼等のことに気付いてはいない。正門の前で制服をかなりきれいにして髪をムースで綺麗にまとめて花束まで持って立っていた。彼もまたかなり怪しい様子であり皆から不審がられている。
「ところでだ」
 聯が彼を見ながら言う。
「あいつその娘の名前知ってるのか?」
「確か瑠璃とか言ったな」
 彰がそれに答える。
「上の名前はわからないな」
「それでわかるのかよ」
 修一がその言葉を聞いて呆れた声をあげる。
「何か目立つ名前だけれどよ」
「大丈夫だ」
 しかし生樹は断言する。
「俺の占いは当たる」
 信次はそのまま立っている。だがあの女の子は現われない。彼は一人清心の女の子達から不審な目で見られながら立っているだけであった。
「あれ?」
 馬鹿だ何だと散々言われている彼ですらいい加減おかしいと思いだした。
「あのさ」
「はい」
 ここで彼は馬鹿げた行動に出た。いきなり目の前を歩いている清心の生徒の一人に声をかけたのだ。聯達はそれを見て我が目を疑った。声をあげそうになるがそれは止めた。

 
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