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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§59 叛旗の理由

「あ、やっぱ一応」

 何かを呟いた黎斗の頭の影から、八匹の龍が顕現する。八匹は丁寧に黎斗の義妹の身体を持ち上げ、黎斗の影に押し込んで入れる。これを学生の数分繰り返す。万が一、不測の事態があってもこれで大丈夫だ。下手に魔術結社達と関わらせるよりは、このまま自分たちでなんとかする方が問題ないだろう。念のため全員数か月程度は護衛させてもらうけど。

「これでよし」

 この方法の問題は幽世で一般人が生きられないことだが、ジュワユーズが向こうに居るから多分なんとかしてくれるだろう。若干だけど、送った全員に八雷龍を通して呪力の加護を譲渡してるし即死は無い筈だ、多分。

「で、れーとさん。組織って? なんかすごーくヤな予感しかしないんだけど」

 作業の終わりを見計らったのか、恵那が恐る恐る聞いてくる。

「んと、ホラ。みんなカンピオーネって自前の組織あるじゃん? いつまでもスサノオ達に頼ってるのも悪いし」

 羅濠教主を筆頭にアレクもスミスも組織を持っているらしい。ヴォバン侯爵がどうだかは知らないが、持ってないと思われるのはアイーシャ夫人と護堂、ドニ位のものだ。ドニはなんだかんだ言って欧州の盟主的なポジションっぽいし、盟主ならなんか組織の長っぽいニュアンスがある。護堂も沙耶之宮とエリカが何か暗躍している、と甘粕が苦笑しながら話してくれているし、組織|(っぽいの)を作るつもりなのだろう。つまりアイーシャ以外持っているようなものだ。

「……で。その心は?」

 だが恵那もさるもの。その意見が建前に過ぎないことを確信し一蹴する。そしてそれは正しかった。

「傘下の組織って名前の響きが格好良い。あとなんか持ってないとカンピオーネの中で仲間はずれっぽくて嫌」

「……想像以上にくだらない理由だった」

 くだらない理由であることは黎斗も認める。だから”パシリ組織”と表現しているのだ。

「まぁ、反抗勢力をこうして重用すると似たようなことする輩出てきそうだけど、今回だけ特別。ゴーレム作りの技量がそれなりに悪くなかったからさ」

 なんどもこんなことを繰り返せば「反抗すれば重臣にしてもらえるぜ!」などと曲解する輩が絶対に出てくる。だから、今回が最初で最後だ。

「ゴーレム?」

「うん。対神獣迎撃システム構築したいのさ」

 いつだったか考えていたこと。権能を全活用して作り上げた重火器集団で神獣を屠る。これで格段に術者の生存率は上がるだろう。

「これが完成すれば僕が引きこもっても神獣程度なんとかなるっしょ」

「そう上手くいくかなぁ……」

 懐疑的な恵那だが、黎斗は上手くいくと思っている。試作三号機をはじめとした兵器の類、今まで貯蔵した呪器の類をゴーレムに搭載するのだ。人間よりも耐久性能があるだろうゴーレムなら浪漫兵器を実現できるはず。

「とりあえずは荷電粒子砲やレールガンを実現するために物理勉強しなきゃ」

「そこはきっちり勉強するんだ……」

「で。貴方はなんという名前なのですか?」

 恵那の呆れ声を背景に、リーダーっぽい人に聞いてみる。仕立ての良いスーツを着たイケメンだ。コイツも敵なんじゃなかろうか、などと思って苦笑。存外自分は重傷だ。しかし滅茶苦茶そわそわしているのだが、何か言いたいことでもあるのだろうか。

「はっ。ダヴィド・ビアンキと申します。若輩の身ではありますが、地相術師として修練を積んでおります。遅くなりまして申し訳ありませんが、神殺しの御身に我が畏怖と敬意を捧げさせていただきたい」

 取り込んでいたから今まで言わなかっただけで、目の前のイケメンは今の言葉を言いたくてたまらなかったらしい。

「聞いてたかどうかわかんないんですが、上司います? いなかったら、パシ――――いえ、今後協力してもらえないでしょうか」

「…………」

 流石に「パシリになれ」とは言えない。部下になれ、とも言えない。協力機関でいいや、などと即考えを変える辺り黎斗のメンタルの弱さが浮き彫りになる。恵那の視線が微妙なものになったのもしょうがない。大方「ヘタレ」だとでも思っているのだろう。まったくもって反論できない。

「協力など。歯向かった我々をお許しくださるばかりか使っていただけると。貴方様に従う者の末席に咥えて頂ければ恐悦至極にございます。我らの命は御身の思うように使い潰して頂ければ、これに勝る幸せなどありません」

「なにこれこわい」

 いくらなんでも心酔しすぎじゃなかろうか。カンピオーネに対する一般のイメージは今の時代こんななのか?

「……なんでそんなに下手なんです?」

 思わず聞いた黎斗は多分悪くない。

「いえ。昔、といいますか少し前に恐れ多くも神殺しの魔王陛下に楯突いたことがありまして」

 なんとまぁ勇敢な。

「当然、相手になりませんでした。当時、あの方は魔王になられたばかりで、その前はただの一般人。なれば私でも勝てるやも、などと思い上がっていたのです」

 なんとなくオチが読めた気がする。ボコられて心酔パターンか。

「あの時、私は自らの愚かさと共に神殺しの方々の偉大さを実感したのです。たとえどんな人間でも、神殺しの方々は他の人間とは違うのだと」

 やっぱりか。そしてそれが、今回の件に繋がると。

「故に御身が詐称している、という噂を鵜呑みにしてしまい今回のような凶行に走ってしまったのです。本当に、申し訳ありません」

 過激なファンみたいなものだろうか、などと若干ピント外れに思考が移る。そうしている間に土下座してしまったビアンキを見て慌ててしまい。

「あぁ、別にいいですって気にしてませんし!!」

 嘘です。義妹人質にとった事超気にしてます。

(でもまぁ、あんなに言われたら責められないんだよなぁ……そこまで考えてあんな平身低頭、とかでなく素でやっているのが手に負えない)

 つまり毒気を抜かれてしまったのだ。

「れーとさんの負け、だね」

 それを悟ったような恵那の笑い声に、黎斗は同意の言葉しか出せなかった。

「全くだ。なんかもう、敵わんね」



―――



「れーとさん、広く作りすぎ……」

「うん。正直ゴメン」

 大迷宮を抜けると、そこは夜でした。どれだけ大迷宮に時間をとられていたのだろう。少しげんなりしたが、突破できたから良しとしよう。終わりよければすべてよしだ。あとは自分を直すだけ。

「さてそろっと大丈夫かな。恵那、僕の首を投げて」

「え?」

 理解できないよなそりゃあ、と苦笑しながら黎斗は付け加える言葉を述べる。

「これから僕の身体を再構築するからさ。今のままだと恵那の手の上に僕が正座する羽目になるし」

「首から全身再生できるってアメーバじゃないんだからさ……」

 その言葉に異論を挟みたいが、冷静に考えればもっともだと、黎斗は溜息一つで諦めた。喋る生首とかどう考えてもホラーだし。

「投げるよー」

 恵那が高くに頭を投げる。目まぐるしく変わる景色。自分の頭が回転しているのが実感できる。

「……乗り物酔いしそうだなコレ」

 多用するのはやめておこう、と密かに誓って身体を構築。正直今回は再生というよりは生える、という表現の方が正しいであろう復活方法だ。

「じゃーん、と」

 軽く砂利を踏みしめて。身体の調子を確認。

「うん。異常ないかな」

「一応気にするんだ」

「まーねぇ。これだけ長い間身体がサヨナラしてたの久しぶりだし」

「……前もあったのね」

 呆れ顔の恵那に言い訳をしようとして、磯の香りに気をとられる。なんだろう、この嫌な予感は。

「……ここから海は遠い筈。一体何が」

「れーとさん、どしたの?」

 途端に動作不良になったように周囲をみやる黎斗に、恵那のみならず魔導師たちも困惑の様子を隠せない。

「なんだ、この気配は……」

 さっきまでとは違う気配。すごい嫌な予感がする。これが意味するところはただ一つ。

「まだ終わってない!!」

 刹那、狂気が夜の闇に浸透する――――!!

「……惜しかったな。もう少し早く起きれれば、もう一人敵が居たのだが。今生の神殺しはなかなかやる」

 唸るようなしわがれた声。聞くものを不快にさせるような、声。眼前の山、だろうか。そこから聞こえる歪な音。

「っ!!」

 気持ち悪い、嫌悪感を呼び覚ます声。

「「う、ぐぁああああ!!!」」

「っ、お願い蛍火!!」

「何が――!?」

 背後の悲鳴に振り向き、絶句。皆が、倒れ伏している。

「恵那!?」

 唯一恵那だけが意識を保っているようだが、既に立つことすらおぼつかない状況だ。

「大丈夫。だけど、ちょっとキツいかな……」

 そういう彼女の顔は蒼白。額から汗が伝い落ちて。恵那ほどの実力者が最大限に呪力抵抗してこれならば、他の魔術師は無理だろう。

「この声か。悪趣味な」

 即座に元凶を看破する黎斗だが、対抗手段が無いことに歯噛みする。音を媒介とする敵の攻撃から人間を全員守ることは不可能に近い。耳栓があればマシだっただろうか。

「……いや、あっても変わんないな」

「くっ、くっ、くっ」

 闇夜から声だけが聞こえる。周囲を見渡しても、人影一つ見当たらず、建物の残骸が辺りに散らばり果てるのみ。

「「「く、るアアアアア」」」

 周囲を警戒する黎斗の耳に、唸るような声が聞こえる。一つでは無く、複数。しかも周りから聞こえてくる。自分たちの後ろから。

「皆さん大丈――!?」

 魔術師達の安否確認をしようと振り向いて、絶句。彼らの口が音源だったのだから。魔術師の口から、不快な唸り声が輪唱を始める。立ち上がった彼らの瞳は既に光無く、両手で胸をかきむしる。胸にあるのは――――小さな鱗。

「――――!!」

 ぎょっと目を見開く黎斗の前で、更に怪異は繰り広げられる。まず、彼らの顔が膨らんだ。瞼は閉じることが出来ない程に膨らんで。男女問わず湿っぽい灰緑色の肌に。

「な、何が……」

「あっちゃー。恵那も拙いかな……」

 そういう恵那の様子を見れば、鱗が身体に現れ始め。肌の色も冷たい色に変わり始めて。

「分断せよ」

 迦具土の力を緊急発動し瞬時に切断。”恵那”と”得体のしれない力”を一気に分断する。

「……ごめん、ありがと」

「気味悪いだろうけどコレ持ってな。ないよりマシだから」

 左目を抉りだし、恵那に渡す。視界内に恵那を収めるわけでは無いから、サリエルの効果を十全に発揮できるわけではないけれど。持っていればある程度は相手の能力を防げるだろう。再び変貌するより早く、元を断つ。

「で。この魚人軍団、任せても良い?」

 そんな会話をしている最中に、瓦礫を押しのけて、地面から植物の蔓が、蔦が、大量に飛び出て得物を求めてのた打ち回る。

「農耕神系統か?」

 少名毘古那神と同系統の能力を久々に見た気がする。こちらも植物に干渉しようとするが――――失敗。全く影響を及ぼせないまま、植物の更なる増殖を許すだけに終わる。

「敵の方が干渉力が強いな」

 少名毘古那神の権能は複数型だからある程度性能は落ちる。が、それにしてもここまで一方的なのは珍しい。この分野は相手も得意なのだろう。

「発狂させる農耕神とな。なんじゃそら。……まぁいい。僕はコイツをなんとかする。恵那、ごめん任せる」

「うん。大丈夫だと思うけど、気を付けて」

 恵那の言葉に返答はせず、軽く首肯。

「片目だからって、舐めないでよ?」

「神殺し、貴様の力を見せてみろ――!!」

 聳え立つ巨神が、鳴動した。 
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